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それ行け一般人。1〜5
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それ行け一般人。――1
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右手にリードを持っていた。 左手にビニールに包まれた犬の糞を持っていた。 良く晴れた空に足元の大地はアスファルトではなく土。 剥き出しの土。 舗装されていない土の上を歩くのなんて何ヶ月ぶりだろう、とかおもって、自分で突っ込んだ。 犬はどこよ。 私の可愛い斑ブチのポチはどこへいったのさ。 かんかんと降り注ぐ太陽光線に乾いた風。 初冬に入りかけの季節に寒々と腕を抱えて着込んだダッフルコートは、とんでもなく不似合いだった。 ――あつい。 犬もいなくなってしまって、片手に下がる糞がとてもむなしかった。 捨ててしまいたくなったけど、犬を飼うものの良識と私の小さな良心が邪魔をして仕方なくポケットに突っ込んだ。 やった後で罪悪感に苛まされるくらいなら、やらないほうがいい。 迷子になったときはそこを動くな、だったっけ? 悪かったね、散歩に携帯なんて持ってきてないよ。 動くなは遭難だったような気がする。 迷子なら人を見つけて訪ねればいい。けど人がいないならどうすればいいのさ。 まさに見渡す限り何にもない。 こんな見事な地平線見たのは初めてだ。 生まれも育ちも島国育ち。 小さいときは太陽は山から登って山に沈むものだと思っていたし、都会に引っ越してからはビルの上を昇り降りするものに変身した。 地平線より水平線の方が馴染みが深いんだ。 ぐるっと一周あたりを見て、中途半端なアウトドア、と言うかサバイバル知識を引っ張り出す。 手をかざして太陽を見て。 よかった。とりあえず空に太陽は一つだ。 なんか変なものが浮かんでるけど、今は見ない振りしとこう。――例え現実逃避でも。 後はちゃんと私が知る太陽と同じように東から上って西に沈んでくれればいいんだけど。 拉致でも誘拐でもありえなさそうな、回収したばかりの糞の暖かさまで残しているごく短時間の長距離移動。 常識の半分はもう捨てたさ。 私は太陽の方角に歩いてみることにした。南西とか、東南とかとにかく南の字がつく方角にはなるだろうと。 中途半端に草原で、私の少なすぎるサバイバル知識ではこの場所に何か目印を残していけるとは思えなかった。 とりあえず真っ先に実感したのは、砂漠では薄着になるよりも何か外套の一枚でもかぶっていたほうが涼しい、と言う話だった。 ここは砂漠じゃないけれど、蜂に刺されそうな真っ黒なインナーウェアで歩くより、例え分厚いダッフルコートでも前を空けて風通しをよくして、肩に引っ掛けて歩いている方が涼しかった。 さてここで問題です。 ここは何処でしょうか? A;知るかってんだ。 一ヶ月ギプスつけて生活したら、限りなく体力は低下する。 そして取り戻すのは難しい。 そして私は今、その体力のなさをもっとも実感したくない形で実感していた。 私は今怪生物に追われている。 生物のテレビ番組とかでこれホントに生物かよ!! 見たいなのは時々見かけるが、そのどれとも違う、まさに怪生物だ。 語彙が少ないし余裕もないので表現は控えよう。 とにかく私はそれに追われていた。 幸い足はあまり速くないようだが、それから逃げられるほど私の足も速くなかった。 命がけって言うのを本能で感じてしまっているから、必死になって走っているけど今にも足はもつれて転びそうだった。 けど、ただではこの身、くれてやる物か。 肩にかけていたダッフルコートを両手に持って、後ろに視線をやる。 そのせいで更に怪生物との距離が縮まったけど、今は好都合だ。 その怪生物の目の前に、私はコートをぶちまけた。 視界を奪われた怪生物がそれを取り戻す前に、私は死に物狂いで特攻をかける。 既存の生物に例えれば腹に当たるのだろう柔らかそうな部分に膝で全体重をかけてのしかかり、右手に握りっぱなしだった犬の散歩用リードで頭らしき場所を懇親の力を篭めて殴りつけた。 殴り続けた。 気が付いた時には、怪生物は息絶えていて、殴り続けていた犬の散歩用リードは砕け散っていた。 リードを握っていた指はすっかり固まって、なかなか引き剥がすことが出来なかった。 引きつるような息を何度も繰り返して、私は助かったんだと、思い込んだ。 私の体重によって内臓破裂で死んだのか、殴られてしんだのかわからない怪生物の死体を見て、食べようって気にはなれなかった。 と言うか生だよ生。 体力的に、というか、このまま人里が見つからなかったら貴重な食料なのだろうけど。 人里にいっても言葉が通じるかどうかすら分らないし、やっぱり貴重な食料なのだろうけど。 けどけどけど。 死にたくなくて殺したのに、この生き物を殺すより、この生き物を口にすることに躊躇っている。 食べること、なにより水分がなければ死ぬのだけど。 生きるためなら生き血も飲む、私は十三番目の狙撃者にはなれません。 安堵したせいか腰が抜けて座り込んだら、ぱらぱらとなぜか背後から拍手が聞こえてきた。 今の命がけを黙ってみていられたのかと思うとすんげームカついた。 振り返ると赤い眼。 「なかなか勇壮な戦いぶりでしたね」 「みてたんなら助けてよ。あんたそれでも男でしょ? その筋肉は飾り物?」 金茶の髪。 実際に筋肉が見えているわけじゃないけど、私より体格のいい一般男性なら少なくとも私よりは筋肉があるだろうという理論。 「ええ、見せ筋です」 「……そう」 どうやって切り返せばいいんだろう。 「手出し無用とみましたので」 整った容貌。 そして立つ口。 ああ、わたし、こいつ嫌いかも。 とか思ったはずなのに、なぜかその男に保護されていた。 いや、むしろ拘束? されたのかもしれない。 いや確実にそうだろう。 男の名前はジェイド・カーティス。 聞いたことがあるようなないようなその名前、見たことがあるようなないようなその顔。 小さいころはOLくらいにしかなれなさそうで先が見えなくて、まあでかくなって見れば学歴とやらが足りない上に求人不足でOLとやらにすらなれなさそうだなぁ、とか思ったりして。 確かに日々は退屈だった。 けど、刺激がほしいとか望んだりはしなかった。 まして居場所奪われるなど。 世界からすら弾かれたなど!! いっそ知らない方が幸せだったかもしれない。 |
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それ行け一般人。――2
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ジェイド・カーティス。 マルクト帝国。 ピオニー・ウパラ・マルクト9世。 私がいるのは試験陸艦ガイア。 その窓の無い一室だ。 後継機か、あるいは改良機であるはずであるタルタロスより、よっぽどいいネーミングだ。 そうまで聞けば、なんで言葉が通じるのだろうと不思議に思った。 そしてすぐにその疑問を放棄した。 通じるならいいじゃないか。 通じないよりよっぽどマシだ。 ご都合主義万歳だ。 でもきっと、読み書きは出来なかったりするんだろう。 テレビ画面越しに見たこの世界の文字は、私には読めなかった。 とりあえず、打ちのめした打ち身だらけの怪生物の肉を食べなくてもよくなった、と言うことだけは喜ぼうと思う。 例え牢屋の臭い飯でも、あれよりはマシだろう。 免疫力の低い一般人なのだ私は。 寄生虫の心配も、感染症の心配も、ついでに怪生物が毒を持っているかどうか否かまで心配して何かを口にするなどしたことがない。 せいぜいでも、常温三日放置したカレーの安否を心配して味見する程度のことしかない身の上なのだから。 保護責任者がこの赤目であることを喜ぶべきか否か。 悩ましいねぇ。 どうせならフリングス将軍にでも保護してもらいたかった。 真面目な軍人だ。 不審者に対して容赦があるとは思えないけど、少なくとも武器も持っていない女一人が死に物狂いで魔物と戦っているのを眺めるような趣味は持っていないだろう。 作中も人の死が分らない、と豪語するおっさんであったが。 怪しい人物=死んでも面倒が無いとでも思っていたのだろうか? 確かに、取調室に運んで尋問する手間は省けただろうよ。死んでいればね。 ところで年齢詐称のおっさんよ。 私に口は軽いから、お願いだから水を頂戴。 干からびて死にそうです。 「おや、これは気がつきませんで」 赤目が背後の兵に目配せすると、すぐに水が運ばれてくる。 けど、この眼鏡、絶対気がついていたはずだ。 あの大草原もどきを一人ふらふらしていた女。しかも不本意なバトル後。 自分でも自覚するくらい頭がふらついていた。 要求されるまで出さないあたりが憎らしい。 少しは恩を売っておこうとか……思うわけ無いか。私不審人物だし、あいてジェイドだし。 「ありがと」 ジェイドには目もくれず、私は水を運んできてくれた兵士の人に声をかけた。 行動には言葉を。 私の基本行動だ。 不審人物の私の言葉にも、軽く会釈をして立ち去る兵士の人。 頑張って真面目にしていればいずれ出世できるさ!! 戦争さえなければヘタな中間管理職に収まるよりも、一平卒の方がいいかもね、といっておく。 だって今のとこ、直属の上司ってあれでしょ? と私は楽しくなさそうに笑うピジョンブラッドに目線を移した。 目をそらさないままコップに手を伸ばし、水を飲む。 「おやおや。随分と警戒されてますねぇ」 本当。 目を離したら飲む前に水を水質にとられそうな気がしたし。 さあどうしてくれようこのやろう。 私は力いっぱい帰りたい。 けど、地球の裏側からだって帰る自信の無い私に、どうやってい異世界にまでなってしまった我が家に辿り着けるのかなど、分らなかった。 まあ、こうもご都合主義に腹黒陰険眼鏡との異名をとる人間に捕まったら、こんどはおずおずと自分は異世界の人間で、なんていうものだろうが、癪だ。 それ以上に言いたくない。 なんと言ってもこちらのカーティスさん。 まだ少佐でした!! 本編初期の時だって危ういのに、何処まで人間丸くなってるか分ったもんじゃない。 いせかい〜、とか、へいこうせかい〜、とか。言ったらモルモットになるかもしれないじゃないか。 実際には私の思い込みの可能性も捨てないけど、どうしても私は話す気にはなれなかった。 「ところで、まだ何も話す気にはなれませんか? こちらから名乗ったのですし、貴方も名前ぐらい名乗ったらどうです」 いや、尋問とか、そういう割には生ぬるいような気がするけど。 なんか都合のいい予言でも詠まれているんだろうか。 まさかね。 単純にだんまりならだんまりでも構わないと、思っているだけだろう。 適当に放り出して、私は牢屋行きか。 とにかく、この陸艦が目的地に着くまでに決着しなければ、彼の手から私は離れるだろう。 デッド・オア・アライブ。 不気味な二者択一だが、少しでも好待遇を得るために、ゲームに犯された皺のない脳みそを揺すってみようではないか!!! 「私の名前は」 えーっと、とりあえず横文字にしとこう。 「ルーアッシュ。よろしく? バルフォア博士」 やべ。空気が凍った。間違えた? |
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それ行け一般人。――3
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ルーアッシュ。 目の前のジェイドなる人物を見ていたら、とっさに偽名が思い浮かばず、脳裏に過ぎるのはこの物語の登場人物の名前のみ。 なんとも名乗ることが出来ず、とっさに二人の名前を組み合わせた。 二人には謝罪すべきか感謝すべきか。 こちらの世界で意味がつくのかどうか知らないが、私の世界での知識で無理やり意味をつければ、ルーが光でアッシュが灰。 光の灰。 まあ、意訳ならいかようにも出来そうだ。 再生の灰、とか。 不死鳥は自らの灰の中からよみがえる。 光は不死鳥で、まあ、灰は灰だな。 あはは、現実逃避だ。 眼差しに温度なんて無いって、今まで信じていたけど、今私、氷付けにされそうだ。 死霊使いの名は伊達じゃないって? こんな所で知りたかなかったよ。 どうしようどうしようどうしよう、って、つるつるの脳みその上を言葉が滑っていく。 やくにたたねぇ〜。 テンパッた私は、とっさに彼の気を引くものは無いかと口走っていた。 「ND2000 ローレライの力を継ぐもの、キムラスカに誕生す 其は王族に連なる赤い髪の男児なり 名を聖なる焔の光と称す 彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くであろう」 「予言、ですか? まさか貴方がスコアラーだとでも?」 「いいから黙って聞きな。あんたに損はさせないさ」 一度口から出てしまったのだから後はもう完遂させるしかしょうがない。 丸暗記した脳みそに感謝だ。 英単語は一つとして覚えられないくせに、ゲームのオープニングとか、気に入った詠唱とか、そういうのだけは丸覚えできる。 大譜歌が歌えないことがこの際惜しい。 「ND2002 栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす 名をホドと称す この後季節が一巡りするまで キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう」 にやりと笑いかけて、問いかける。 「私が何を詠んでいるのか、あんたなら分ったんじゃないの?」 ジェイドのすました顔に、苦々しさが走る。 内心いっぱいいっぱいだけど、なんとかごまかしとおせそうだ。 うん。 少佐のころの彼は、まだ腹黒陰険眼鏡というには狐度合いが足りない。 私にとってはこんな事態にあって数少ない救いの一つだが。 僅かに寄せられる眉根とため息。 そしてジェイドは控える兵士に退室を命じた。 「いい判断だよ。私の言っていることは、やすやす人に聞かせられるものじゃない」 「本当かどうか分りませんが。貴方が虚偽を告げている可能性もある」 言葉と共に現れる槍。 いつでも風穴開けられる、と、私は脅されているんだろうか。 これが噂のコンタミネーション。 使いこなそうとしているうちにおっさんになってしまった、とか言っていたような気もするが、どうなんだろう。 このジェイドって、何歳? 「嘘か本当か、これから調べればいい。そう警戒しなさんな。私が戦えないことぐらい、見ていたあんたが一番良く知っているだろう?」 そうだ。こいつは私が死にそうになっている所をきっとめんどくさそうに見ていたに違いないのだ!! 「私が詠むのはクローズドスコア。第六譜石の内容だ。とりあえず、続きいくよ」 「ND2018 ローレライの力を継ぐ若者 人々を引き連れ鉱山の街へと向かう そこで若者は力を災いとし キムラスカの武器となって街とともに消滅す しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ マルクトは領土を失うだろう 結果キムラスカ・ランバルディアは栄え それが未曾有の繁栄の第一歩となる」 ゲーム脳化している私の脳は、幾度も人目を忍んでは口にしていた秘預言をしっかりと思い出してくれた。 上がり症でなくてよかった。 緊張してるね、って言われたことないもん。 外見的にはそう見えないってだけで、内面では結構てんぱってる事もあるんだけど。 「気に喰わない? そりゃそうだろう。預言はマルクトの敗北を詠む。けどこれには続きがあるんだ」 「やがてそれが オールドラントの死滅を招くことになる」 「これが、第六譜石の内容だ。ねぇ、気に喰わないね。私も。――はい黙って。次が隠された第七譜石の内容だ。心して聞きな」 何か言いかけたジェイドの言葉をさえぎって、さっさと次をはじめてしまう。 「ND2019 キムラスカ・ランバルディアの陣営は ルグニカ平野を北上するだろう 軍は近隣の村を蹂躙し要塞の都市を進む やがて半月を要してこれを陥落したキムラスカ軍は 玉座を最後の皇帝の血で汚し 高々と勝利の雄叫びをあげるだろう」 ひたり、と首に切っ先が突きつけられた。 さすがのあたしもドッキドキ。 緊張に喉がなるのを、喉を潤すのだと自分にごまかす。 飲まれたら、だめだ。 あの赤い目を、にらみ返せ。 「貴様、それを正気で言っているのか」 言葉遣いが代わっている。 命がけのたくらみは成功したと言えるだろうか。 私の言葉はジェイドの思考を飲み込んだ。 「変えたいと、思わなかった? 許せないでしょう。今はまだ彼は皇帝ではない。けど、遠くない将来、この預言の年号のころには、きっとあのピオニーが皇帝陛下になっている」 反論なんて出来まい。 幼馴染ピオニーの事を思えば、いっそのこと早く帝位に就けてしまいたいだろう。 少なくとも今までそう思っていたはずだ。 沈黙を受け止めてやるほど優しくない私は、さっさっと続きを口にした。 「ND2020 要塞の町はうずたかく死体が積まれ 死臭と疫病に包まれる ここで発生する病は新たな毒を生み 人々はことごとく死に至るだろう これこそがマルクトの最後なり 以後数十年に渡り 栄光に包まれるキムラスカであるが マルクトの病は勢いを増し やがて、一人の男によって 国内に持ち込まれるであろう」 「結局たかだか数年の繁栄を得て、キムラスカも滅びるだろうね。いや、キムラスカだけじゃない。これが第七譜石、最後の預言だ」 「かくしてオールドラントは 障気によって破壊され 塵と化すであろう これがオールドラントの最期である」 秘預言は、ゲーム本編とか攻略本参照です。 でも、ネットでも結構出回っているかな。 |
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それ行け一般人。――4
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「ユリアの預言の恐ろしいところは、多少の歪みなんてものともしないところだ。たとえこの預言の中で詠まれる戦乱でマルクトが勝利を収めても、やはり死体は山のように詰まれるだろう。新たな病と毒はそこから生まれる。キムラスカの名前をマルクトに入れ替えただけで、預言の大筋は変わっていない」 私は目の前の男がこんな腹に据えかねる預言を諾々と受け入れる男ではないと知っている。 まあ、もしモースだったりしたら、この預言を知っても滅びこそユリアの意思!! とかいってしまいそうで怖いが。 まあ、この世界からすれば異世界である太陽系第三惑星地球出身の一般的な日本人としては、こうまで言われて黙っているなんてそれこそ信じられないが。 「その預言を、何処で知ったのですか」 「秘密だ。ここまで言わせたってすぐに信じるわけじゃないんだろう? あんたは必ず裏を取ろうとする」 「ええ、そうですね。確実性の無い情報に惑わされるわけにはいかない」 「けど残念な事に、この第七譜石、崩落したホド島に隠されていたんだ」 「……」 「ユリアによって詠まれた惑星預言。いや、消滅預言かな。これをユリアは空に打ち上げずにホドに隠した。まあ、沈んでしまったけどね」 首に突きつけられた槍に手を添える。 そうして再び険しい光を宿す赤い瞳を見た。 「あんたの意思が聞きたい。あんたが世の常に倣って、どんな預言にも従うというなら、今の話は聞かなかったことにしてこの槍で私の喉を突けばいい。いずれ皇帝となったピオニーの最後を玉座の隣で見届けるのもいいさ」 私なら絶対やだ。 ヴァンほど極端思考に走るつもりは無いが、知っていて回避しようとする意思もないことが信じられない。 もし、私が保護されたのがジェイドでなかったら。 その上で、作中ヴァンデスデルカが、レプリカの存在を嘲りながらレプリカ世界を作るなんて自己撞着さえしていなければ、今世界で預言を覆そうともっとも熱心なのは彼だ。 何とかして彼の元へ行っていたかもしれない。 この世界と私の中では時間の流れが違う。 元の世界に帰れない限り、いつか誰よりも早く老いて死んでしまうだろう。 けど、預言の年号を見る限り、普通に私の寿命を生きていてもどう頑張ってもその破滅に巻き込まれる。 帰れるあてが無い限り、ここは私の世界でも在る。 「変える意思のない者に私はこれ以上しゃべらない。取れるかどうかはともかくとして、裏を取ろうとした後でも構わない。協力してくれると言うなら、私はもっと多くの情報をもたらそう。たとえば、今すぐにでも、ピオニーを皇帝の座につけることが出来る情報とか、もね」 嫌味を言うでも無く噤まれた口。 じっと見つめてくるピジョンブラッドの瞳。 あんな色素の無い、血の色がそのまま出ている瞳で紫外線に当たって大丈夫なのだろうかと、場違いなことを考えた。 でもあの眼鏡、譜眼を制御する譜業ではあっても、UVカットはされてなさそうだ。 白内障になるぞーっと。 「いいでしょう」 そう呟くのを見て、そういえば私、画面越しにはこの人を見てきたつもりになっていたけど、結局のところなんだかかんだといえるほど知らないんだと思い至った。 首筋から外される槍。 音素の粒子になって消えてしまった。 「貴方の身柄は私預かりとし、裏が取れるまで保留とします。二十四時間体制で監視をつけます。逃走などなさらないように。よろしいですね?」 「とりあえず衣食住の保障があれば。あと、私フォニック文字の読み書きできないから」 「貴方は……読み書きも出来ずにそれだけの預言をどうやって手に入れたのですか」 なんていうか、今自分で自分の発言の信憑性を落としたような気がする。 つかジェイド、あんたはきっともう少し自分の行動を省みたほうがいいって。 きっとピオニーがいなかったらラスボスはジェイドだ。 ヴァンに引き込まれたはずがいつの間にかヴァンすらこき使っていたりとかするんだよ。 物語が進むたびに明かされるジェイドと言う人物の過去と現在。 その思考に彼等は驚愕する!! 駄目だ、絶対にそんなことさせてはいけないんだ!! 俺達が、止めて見せる!! ってなぐあいに。 となると、ヴァンは中ボス? なのかな。 妄想しすぎか。 でもジェイドの沈黙のせいでどれだけの犠牲が生まれたか分らないあの世界。 もしかしたらこれから生まれるかもしれないこの世界。 「読み書きが出来ないからこそ、私はこの預言を手に入れた」 嘘じゃないよね。 フォニック文字を普通に読み書きが出来る環境にいたら、この予言の事なんて絶対に知るはずが無い。 調べようとしても失敗して処刑されるのがオチだろう。 鍛えていないって言うのもあるけど、この体の性能は大して良くないと思っている。 典型的な運動音痴、とは言わないが、子供のころは活発で、他の子供達に負けないくらい良く走りよくはしゃぎよく遊んでいたが、気がつけば運動面では遅れをとるようになっていた。 そのせいでなおさら運動嫌いになったんだけど。 「ねえジェイド。ちなみに貴方何歳かしら」 「私ですか? さて、今年で二十九歳になると思いましたがそれがどうかしましたか」 本編開始がたしかジェイドカーティス三十五歳。 なら、レプリカルークはすでに生まれているか。 けどイオンはまだオリジナルイオン、かな。 やべ、わかんねぇ。 「わりとどうにも。もう一つ、貴方の目に私何歳ぐらいに見える?」 結構重要なことだよね? 「そうですね。二十前後といったところでしょうか。それがどうかしましたか」 どうにかするする。 日本人は外国人には若く見えるって嘘じゃねぇ? まあ、このさい正確には外国人、じゃなくて異星人か異世界人ってことになるのかもしれないけど。 「見事大当たり、私の肉体的な年齢は、二十前後」 それこそどうしたと言う目で見られる。 赤い瞳で白い眼差し。 つまらない話はやめろって? 私にとっては重要なんだ。 「けど私は、この体の外見年齢の半分の時間しか生きていない」 この星の時間に換算すれば、だけど。 このままこの星の時間の上で、私の星の時間を引きずって生きていくなら、大問題だ。 「どういうことです」 「分ってるのに聞かないでよ。私は、人の二倍早く歳を取るって事。人より早く成長して、人より早く老いて、人より早く死ぬ。まあ、生まれた時からそうなわけだけど、預言を知る代償と言えば、そうなのかもしれない」 ただで手に入れたんじゃなくて、きちんと? 犠牲とかがあって私はそれを知った、って事をアピールしたかったんだけど、通じただろうか? |
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それ行け一般人。――5
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そういえば、あれだけ啖呵きったけど、私の知識がここでそのまま通じるとは限らないんだよなぁ、と今更思った。 可能性をあげるなら、私の知るアビス世界の更に平行世界、とか、そういう可能性もあった。 それこそラスボスジェイド氏の世界とか、消滅預言を知ったピオニー陛下がボスっぽい世界とか。 外に出たがるあまりとんでもないことにルークが脱走しでかした世界とか、アッシュがファブレ邸にいたりする世界とか。 ルーク六神将は二次じゃ結構メジャーだよなぁとか。 もう少し情報を得てからしゃべった方がよかったかも。 と、今更ヒヤヒヤしてきた。 けど、あれは私の知識がそのまま通用する世界であったなら、ある意味で最高のタイミングだったと思う。 しかも反応を見る限り、通じたっぽいし。 いやよかった。 憂えることばかりだけど、これに関しては過ぎてしまったことだ。 しょうがないから諦める。 それより問題は。 私にとって切実な問題は。 やはり時間か。 私にとってはこの時間の流れ、体の老いと成長はごく当たり前の時間の流れなのだが、この世界で暮らすならそれこそ当たり前に周囲とは違う時間の流れの中を生きることになる。 いまはまだ二十歳。 けれど、オールドランドの時間で五年後、ジェイドが三十四、五歳になるころには、私は三十歳超過と言うことになる。 むなしぃ。 もう五年経つころにはジェイドは四十歳ぐらいで、私も四十。 更にもう五年たてば、ジェイドは四十五歳で、私は五十だ。 気がつけばジェイドより年上じゃん!! 最初に会った十歳差は何処いったの!! っと。 年の差がどうのこうのというより、周囲が若い? 姿を保つ中、一人老いていくのが寂しい。 年齢と言う、普遍であるはずのものを覆してしまうのが怖い。 親しくなった人と、同じ時間生きられないのが悲しい。 そして何より、何の理由も無く、恐ろしい。 ジェイド、老化を遅らせる薬とか、開発して無いだろうか? あの若い外見はその薬のせいだとか。 だったらいいなぁ。 けど現実には無いのだろう。 だから私は、この思いを封印しよう。 この恐怖に蓋をしよう。 今私はジェイドの軍部の執務室のそばの部屋で監視付きで生活している。 カーティス邸があるらしいが、そちらにはほとんど帰らないかららしい。 手元に置いて監視しておこうと言うのが彼らしいと言うか。 武力も持たない読み書きも出来ないけどちょっと一般人ではない程度の女一人の監視ぐらい部下に任せればいいものを。 私は武術を使えない、だけでなく、フォニムも使えないのだ。 たまに間違って変な事を口走る以外はなんら危ないことなんて無いのに。 といいつつ、もしかしたらその時々の発言が最も警戒されているのかも、と思う。 彼は裏が取れるまで、と言っていたけど、取れてもせいぜい第六譜石、アグゼリュス崩落までぐらいだろう。 そのとき彼がどう決断するのか。 とりあえず、だ。 この暖かなスープとパンと、時々ライスが取り上げられないように祈りたい。 与えられた部屋には紙とペンがあったから、私は忘れないうちにそれに日本語で、アビスの内容を書いていった。 なんといっても、再びプレイして思い出す、とか、ネットでデータサイトを巡り歩くとか、もう出来ないのだ。 私の頭の中身だけが命綱なのに、それすら月日と共に薄らいでゆく恐怖。 メモが見つかって、ジェイドに「これは何処の文字でしょうね」と言われるのと、忘れていくのと、どちらがマシかと悩んだが。 しょっぱなからあれだけのことをしでかしたのだ。 今更正体不明の筆記など一つ二つ増えたところで私の妖しさが変わるわけでもない。 ただひとつ、ここ数日の生活で不満があるとすれば、せっかくグランコクマにいるというのにまだピオニーに出会っていないことだろうか。 立太子はすでにされているだろうが、一体何処にすんでいるのか。 そもそもジェイドの執務室に抜け穴があると言う話は良く聞くが、あれも即位してからの話。 将来的に腹黒陰険ロン毛眼鏡との異名を得るジェイド・カーティス氏だが、今彼の執務室に穴はあるのか! 気にはなるが自由の無い身。 もし、しょっぱなで突きつけた私の戯言を信じてもらえたのなら、ぜひぜひ本編発生時までには将官ぐらいにはなっていてほしい。 いくら皇帝の懐刀と言われている、とはいえ和平の使者、陛下の名代に軍人の上に佐官は無いでしょう、とはなんとなく思っていた。 これから和平を結びましょ、って話し合いに行くのに、その使者の二つ名は『死霊使い』。不吉だ。 とんでもなく。 ピオニーもあの時点では即位二年。 民衆の心をがっちり掴んで、元老院や貴族院にも手を伸ばして味方を得てはいたんだろけど、まだ二年だ。 信頼している文官、として印象深いのはやはりゼーゼマンだけど、軍部よりもどろどろとした派閥争いのあるそのばしょから、その大事な変革のときに重要なポストを持つ者を抜けさせることは出来なかっただろう。 決断としては、ピオニーも痛かっただろうとは思うけど。 あの人、身のうちに取り込んだら甘いからね。 国が二つしかない上に、常に戦争やってたんだし、外交と言うものについて詳しくなれるはずも無い。 王にとっても部下にとっても、何者にとっても決定的に経験が足りない。 育む場もない。 その上であの性格のひねまがったジェイド。 人格的にはアスラン氏でも送ったほうがいいんじゃないかとは思うけど、将官だもんね。 左官が一人抜けるより、大変ちゃあ大変か。 つーかジェイドよ。 昇進をそのまま受けていたら、ゲーム本編時点で大将にもなれるとかいう話が出ていたような? どれだけのことをすればそうなるんですかねぇ、死霊使いよ。 もんもんと思考は脇道にそれながら深淵世界の記憶を掘り起こす。 これから上手くいけば壊す予定だけど、まるでスコアのようだと思う。 だからちょっといたずら書きをした。 《数日の後、汝の願いは叶うだろう》 なんだか預言めいているなぁ、とおもって思いついたいたずら書きは、数日後現実になった。 わぁお。 |