ハンターハンター




 離脱のカードや指定ポケットカード『挫折の弓』を使っての現実帰還を引き換えにカードの収集も始めて、今はかなりの数の指定ポケットのカードがそろっている。
 宝籤が手に入るたびにスコールに使用させたところ、宝石シリーズが全て手元に入った。

 山賊のイベントをしなくても奇運アレキサンドライトも手元に転がり込んできた。
 さすがスコール。
 幸運の値も高い。
 だが全てが当たりと言えるようなものを引いたわけでもなく、宝石がシリーズでそろうまでには石ころもざくざくとそろった。
 そちらのほうは片っ端から捨てていたが。

 本当に欲しかったのは一坪の海岸線のカードだったのだが、ランクも高いしカード化限度枚数も少ない。
 今後に期待、と言うところだろう。
 レイザーとのドッジボールバトルは、見ているほうが燃え上がる。
 キリエにいたっては命の保障が全く無い状態になるのでかなり本気で回避したいところだった。




 グリードアイランドの不思議世界を楽しみつつ、ボマー……いや、今はまだ対外的に呼ぶならハメ組み、だろう。
 彼らのアジトの探索も行なっていたスコールたち。
 一つの島を丸ごと使ったこのゲームは、前情報もなく探索するには範囲が広いが、スコールたち、主にフィールとアーヴァイン、そしてキリエには多少なりとも彼等がアジトとする場所について知識があった。
 正確な場所ではなくても、そのアジトがどんな環境に用意されているものかが知れるだけでも探索の範囲はかなり絞れる。

 期間は限られていた。
 それにしたところで発見は難しいかと思われていたが、12月も後半に入る頃、彼らはそれを発見していた。
 常時人は置いているようで、遠くから観察するのみで近づくことは出来なかったがどうやらカードの収集も末期に入ったらしく、浮き足立った雰囲気が伝わってくるようだった。

 彼等がこのアジトを探索していた目的は一つ。
 ボマーによる大量虐殺に介入するためだ。
 ゲンスルーたちを排除しない限りボマーはこのゲーム内に留まるだろうが、それでも一度引っかかった人間が二度かかることは無いだろう。
 そのうちにバッテラからの依頼が取り下げられればボマーもゲームの外に出て行くだろうと推測する。
 脅威と害を外界に撒き散らすことに通じる可能性もあるが――だからといって知りつつ見ない振りと言うのも彼らの良心が咎める。

 何より、止められるかもしれない可能性を持ちながら傍観することは、いずれもとの場所に帰ったときに、ガーデンの仲間たちに堂々と顔向けできない。
 物品の土産ついでにつける土産話としてならば、これくらいは付けたい物だった。

 発見の時期が時期だけあり、本編どおりの時間の流れであれば、もうそれほど日数は残されていないことになる。
 ゲームの探索を一時中断して、スコール達はそのアジトの監視に入った。
 そして月末29日。
 一人、洞窟の中からカードの呪文を使って飛び去るのを確認する。

 そして、気配を殺さずに近づいても気が付かないほど騒然とした洞窟内の空気をも。




「こいつにはリミット以上に時間がない。カードを……渡してくれ!!」

 涙ながらに告げる男が居る。
 スコールもアーヴァインも、フィールもキリエも彼の名前を知っていた。
 ニッケス。
 このグリードアイランドの中でカードを集めていればそのうち耳に入る名前だ。
 多くのプレイヤーとトレードする中で情報の交換もしていけば彼の名前も耳に届いた。

 場合によってはハメ組みからの勧誘でその名前を聞いたこともある。
 ゴンたちが来た時点で最後の勧誘と言っていたような気がしたが――武力が足りない彼らには、戦いのプロであるスコールたちと言う存在はその思惑を振り切って誘いたい有用なカードだっただろう。
 敵とするには恐ろしく、味方であるならそれほど心強いものは無い。

 混乱する場で仲間を思って一人男泣きに泣く男。
 志は高くとも、それに力が伴わない男。
 彼は仲間を思っても、ゲンスルーに立ち向かう力は無い。

 とりあえずゲンスルーに接触を持とうと結論が為されそうになったところに、スコールがあからさまに存在感を示して洞窟に踏み入った。

 嫌でも振り返らざるを得ない。
 そんなオーラだ。

「誰だ、お前は」

 誰かの誰何する声。
 フィールがもったいぶってそれに答えた。

「おや? 無粋な誰何ですね。そこの彼と、あなたたちを助けに来て見たんですが、いらなかったですか? ああ、もちろん無料ではありませんが、命には代えられないでしょう?」

 と。




 ざわりと洞窟の内部がざわめく。

「まずは自己紹介ですか?」

 とフィールが。

「僕はガーデン所属Seedのフィール・エヴァーグリーンと言うものです。こちらはガーデンSeed代表、スコール・レオンハート。あちらが同Seed、アーヴァイン・キニアス。そして彼女が特別技術顧問、キリエ・ミドウ。以後お見知りおきを」

 たちまちの内に架空の役職が出来上がった。
 特別技術顧問。
 キリエは内心の笑いを堪えるのに必死になる。

 ガーデンの名が出たことで、再びあたりはざわついた。
 長くここに留まるものの中にはガーデンの名を知らない者も多いだろう。
 だが、新しくここに来た者達の多くは、ガーデンの名を一度は耳にしたことがあるはずだった。
 ガーデンの彼等がこの世界に来た当初は、どれだけ世界に名を広げるかが命題の一つでもあった。
 その方針が変わったところではじめに広がった名に尾びれや背びれが付き広がり続ける。
 それだけガーデンに関するうわさや事実は人々の心を擽る面白い、そして興味深い内容だったと言える。

「今回、僕たちガーデンはあなた方に取引を持ちかけに来ました。まずは実績をつくって見せましょうか」

 言ったフィールが顔面をゲンスルーに爆破されたジスパーに近づいた。
 芝居がかった悠然とした足取りに、人の波が割れる。
 瀕死のジスパーの前に立ったフィールは、おもむろに魔法を使った。

「ケアルガ」

 と一言。
 そして湧き上がる癒の光。
 暖かな色合いといたわりに満ちた魔力。
 たちまちの内にジスパーの怪我は癒され、呼吸が落ち着く。
 ただ、この魔法では欠損した部分は補われない。

 潰された眼球、失われた歯、弾き飛ばされた唇、頬の肉。
 傷は癒された。
 だがジスパーの顔面は、酷い有様だた。

「無料のサービスはここまでです。これ以上の原状回復は、こちらとしても無料と言うわけには行きません。さて、後残るのはボマーの残した爆弾の処理ですね。こちらが残っていては結局は死んでしまいますから。皆さん黙ってみていてくださいよ?」

 言うなりフィールは短刀を閃かせた。
 ざわめく周囲はスコールとアーヴァインが押さえつける。
 それを見ながらキリエは思う。

 よくもまあ確信の無いことにあれだけ自信たっぷりに張ったりをかませるものだ、と。

 ジスパーの爆弾の真上で、フィールは短刀から手を離した。
 導かれるようにカウントを続ける爆弾の上に落ちてゆく短刀。
 するり、と音もなくそれは爆弾に突き刺さり――

 周囲の音が消える。
 数瞬の間を置いてやっと呼吸の音が戻る。
 彼等が見つめる先には、胸の爆弾の上に短刀を生やした意識の無いジスパー。
 その短刀は、呼吸と共にゆっくりと上下に揺れていた。

「さてさて結果はいかに」
「だ〜いじょうぶ。ちゃんとカウントは止まっているよ?」

 覗きこんだアーヴァインが言う。
 三千ギリギリのところで、ジスパーの命のカウントダウンは止まっていた。

「では……『ルール・ブレイカー』」

 短刀はキリエの作った念具の一つ。
 過去の記憶から作り出したレプリカ。
 【複製の錬金術師】の能力が生み出した、道具の一つ。
 それ自体にも効果はあるが、真名を解放することでより強い効果を得られると言う。

「消え……た」
「爆弾が、消えた――」
「おい、消えたぞ!!」

 次々と上がる興奮の声。

「さて、ここで一つ。……この短刀は除念の能力を持った念具です。こうして能力に刺すだけでも停止状態に持ち込めますが、完全解除するためにはあるキーワードが必要です。ああ、奪おう、何て考えないでくださいね。あなたたちが使っても使えないように設定されてます」

 嫌な感じに殺気立った空気に釘を刺す。

「取引をしましょう皆さん。ゲンスルーたちにこんな方法でカードを奪われるのも癪でしょう? それに、カードを渡したからといって、彼ほど卑怯な手段を惜しまない人間が、その約束を必ず守るとはいえません。決して損な取引ではないと、お約束しましょう」

 にこりと笑って示して見せれば一人二人と取引を申し出る人々が現れる。
 恐らくはまだ獲得金額の少ない人間からだろう。
 命と金とを比べれば、まだ命の方が確実に重い金額の人間だ。

「取引の方法を教えてくれ……」

 一人でも、ここにいる人間にこれを言わせたならしめたもの。
 一人が言えば、必ず周囲にも聞こえている。

「僕たちが望むものはカードです」

 外の世界でならともかく、このグリードアイランドの内部でははっきり言ってカード以外に取引になるようなものは無い。

「あなた方が現在所持しているカードで構いません。いえ、あなた方がこのチームのために獲得したカード、でも、まあ何でもいいんですよ。指定ポケットカードでも、呪文カードでも、あなたたちが僕たちに提供できるカードであれば」

 この辺はかなり複雑だ。
 このチームのカードの管理体制によってもかなり変わるだろう。
 かつてレアカードを所持していたが、チームに提供することで分け前の金額を増やしていた物たちの中には現在そのカードが手元に無いものも多いだろう。
 一体どんな返答が帰ってくるのか。

「結果的にあなた方のカードを僕らが取得することによって、あなた方の集団行動がリセットされることが目的です」
「僕たちは君たちの事をハメ組み、って呼んでいたんだよね〜。あんまりかっこよくないし。まぁ、それはいいんだけど。爆弾の解除が終わったら現実に帰還するか、解散して、あまり大きなチームは作らないで欲しい、かな〜」
「……ゲームの外に出るのも、それからもゲームを続けるのも好きにすればいい。そこまで制限するつもりは無い」
「五百億、出しましょう。ガーデンが総合で五百億を提供します。あなた方が僕たちに提供できるカードによって、金額は代わりますが。ボマーの爆弾を除念した上で、あなた方が欲しがっている五百億も手に入れられる」
「どうかな〜。初期メンバーのゲンスルーが居なくなったから、分け前も増えるんじゃない? それに、僕たちはクリアを遅らせたいだけで君たちにゲームをやめろと言っているわけじゃない。命が惜しくないのなら、除念後も残ってゲームを続けて、最終的にはバッテラからの報酬を受け取ることも止めやしないよ?」
「いい話だと思いませんか?」

 応えの代わりに思考の沈黙。

「……なぜあんたたちはそこまでするんだ」
「ふむ、条件が良すぎてむしろ胡散臭い、と」
「そういうことだ」

 アーヴァインが微かな笑いを洩らして肩をすくめた。
 良い話しすぎてむしろ信じられないと言うのは人の心理としてよく分る。
 裏があるんじゃないかと勘繰りたくなる。
 分るが、漏れ出るのは憐憫の笑いだ。

「単純に言えば、五百億は僕たちにとって価値が無い代物です。必要が無いから代価として提供する、と言うこと。それと、僕たちはこのゲームのクリア者出現をもうしばらく遅らせたいんです」
「それは何故だ」
「僕たちの目的はクリアでは無いし、もう少し、ここに留まって欲しい人間が居るから、ですね。それと、中でも悪質なゲンスルー組みのクリアは、気に食わない」
「まあ? 私たちのことが疑わしいと思うのなら、ボマーの所に行っても別に構わないわ。そもそもあいつらにあなたたちを生かすつもりは無いって言うことは覚えておいたほうがいいわよ?」
「それじゃ、そろそろ時間も無いし、決めちゃってよ。僕これから現実に帰るからさ〜。分け前となる金額に影響を及ぼすくらいだから何のカードを手に入れたのかとかは逐一記録されているだろうとは思うけど、出来れば皆纏めてカードを出してくれて、五百億は代表者に、って言うのがいいかな。その方が楽だしね」







 結果として、ほとんどの人間が彼らの条件を飲んだ。
 だがやはりごく一部の人間は彼らの条件を飲まなかった。
 やはりカードの入手と提供の記録はつけていたらしく、彼等が入手したと言うカードをもって出て行った。

 もっと他にやりようはあったのかもしれないが、婉曲な交渉をしているだけの時間は用意されていなかった。
 彼らは刻一刻と減っていく己の命の時間の音を聞いているのだから。
 正常な判断力を喪失していても可笑しくないし、その正常な判断力とやらを持っていたとしても、確かに彼らの出した条件は好条件であるが故に疑いを引き出すだろう。

 そもそも彼らの提案は取引として正常とは言いがたい。
 五百億をつけたのは、手に入る見込みの金額が高くなった故にためらいを見せる人間を引き込むためだった。

 死にたがりまで助ける義理は無い。
 生きたい人間しか助けられない。
 彼らは万能ではない。

 神や時間や歴史にすら逆らおうとはしているが――現在の自分たちと言うものをよく弁えていた。

 まだ届かない。
 だから努力する。
 実るかどうかなんて知らない。
 手が届かなくても、努力がそのまま結果に反映されることがなくても、頑張った分だけ幸せになれなくても。
 何かすることで昨日の自分とは少しでも変われるはずだと信じる。





 自分がチームに引き渡したカードを再び手にして去った人々を除き、スコール達は除念と五百億とを引き換えにカードの提供を受けた。
 満たすのは、まずはスコールのバインダー。
 彼のバインダーが本人の能力も含めて一番防御が高い。

 宝籤等のカードはすぐに使用し、バインダーを守る呪文カードなども片っ端から使用する。
 独占のために増やされたカードやあまったカードは順次アーヴァイン、フィール、キリエの順に埋められていく。
 キリエが一番狙いやすい人物であるからこその最後だが、敵対の可能性を持つ半数以上の人間がこれでほぼ無力化した事になる。
 そこまで考慮する意味があるのかどうか。

 だが、用心に越したことは無いだろう。
 彼等が敵対者とはならなくても、ゲンスルーたちは恐らく敵対者としてスコール達の、ガーデンの前に立ちはだかろうとするだろう。
 キリエでは、彼らに勝てない。
 三人集まれば、逃げることすら侭なら無いだろう。

 除念のために使用した念具は、五人目の爆弾を除念したときに砕け散った。
 その時には場が騒然としたものだったが――もとよりそれは計算のうち。
 今のキリエの能力では一本でこの場の全員の念を除念出来るほどの念具は作成できない。
 五人除念しただけでもキリエとしては己を褒め称えてもいいと思えるほどだった。
 うまくいって三人。
 キリエ自身はそう踏んでいた。

 故に。

 予備は量産されている。
 オーラ切れを起こしては念具で無理やり回復し、そしてまたオーラ切れを起こしては、と言うことを一本作るたびに繰り返した。
 以前昏睡に陥ったときとは違い、純粋にただのオーラ切れだったので念具による回復が可能だった。
 初期の作品では三人と見込んだが、最後に作った一本であれば、六人はいけるのではないかと見込んでいた。

 もとより見込み違いではあったし、そもそもの数が多くないので大した風には見えないが、見込みだけでも初めと終わりでは二倍になっている。
 これはキリエにとって見れば近年まれに見る大きな成長の一つだった。
 嬉しくないはずが無い。

 ある意味で、以前のように命懸けの賭けをしなくても、あの作りたかった道具を作り出すことが出来る可能性の示唆だった。
 成長の余地が残っている、と言うこと。

 残った全員の除念を終えて、アーヴァインと、この集団の代表としてニッケスが離脱のカードを使って外の世界に出る。
 他にも数人、これを期にゲームをやめると言う物たちには惜しみなく離脱と、挫折の弓による離脱を送った。

 そして解散を告げ――戻ってこなかった人間の事を思う。

 少しだけ。
 けれど背負うことはしない。






 ハンター試験を受けるために居なくなったアーヴァイン。
 ずっと四人で行動していたところから、突然一人居なくなる空虚な感覚にキリエが吐息をついた。
 何かが変だ。
 噛み合わない感覚がする。
 人一人、たった数日居ないだけの筈なのに、物足りない。

 世界が少し寂しくなる。

「ねえ、フィール」
「何ですか? キリエ」

 はぁ、とキリエはまた重たい溜息をつく。
 億劫そうに首を上げて空を見る。

「アーヴァインが居ないと、何か退屈よね……」
「まあ、そうかもしれませんね」

 曖昧に答えたフィールも、キリエの視線を追って空を見上げた。











 一方、グリードアイランドを出たアーヴァインはまず真っ先にハンター試験に登録し、ついで代表者として付いてきたニッケスに五百億の支払いを終わらせた。
 金は人の性格すら変えてしまうというから必ずしもそうとはいえないが、性格的に持ち逃げするような人間では無いと思うし、そもそもこの金を手に入れてグリードアイランドから手を引こうという人間がすでに幾人もぞろぞろと五百億の譲渡を目撃しに付いてきている。
 そもそも戦闘力が足りないから徒党を組んだという彼ら。
 ニッケスも数で責められれば逃げられるほどの実力は持っていないのだろう。
 状況的にも持ち逃げは封じられていた。

 申し込み後、数日してアーヴァインは無事に最初の試験となるのであろう案内を見つけて試験会場に入り込んでいた。
 ヒソカはいないしキルア一人にやられるような雑魚ばかり。
 今年は楽勝だと口笛を吹きながら。




「あれ? あんたも来てたんだ」
「キミもね、キルア」

 トンパやトカゲ三兄弟のような奴等以外に知った顔は居ないかと首をめぐらせるキルアの視界に移ったのが、ノッポのアーヴァインの姿だった。

「あんた今までなにしてたの?」
「グリードアイランド、ってゲーム知ってる? ジョイステのゲームなんだけどさ〜」
「は? あんたまさか」
「ずっとそれをプレイしていたよ、仲間と一緒にね〜?」

 ぱちんとキザにウィンクをして、君たちが居ることも知っていた、と暗に伝える。
 グリードアイランドがいかなるものか、真実を知らない相手に仲間全員で今までずっとゲームをプレイしていたと言ったなら、それはもうものすごい勘違いを生み出すだろう。
 ガーデンは何時からゲームマニアになったのか、と。
 あえてオタクとは言いたくない。

 その時、ビーと音が鳴り響き、質素なつくりの扉から派手な恰好をした髭と眼鏡の男が出てくる。
 アーヴァインは改めてお友達にはないタイプの人間であることを確信した。

「よく来たな、諸君。今年は1490人会場までたどり着いたそうだが……実は二次試験管から多くても300人位に絞ってくれと言われててな。まさか、こんなに集まるとは思わなかったぜ。さ〜〜〜て、テストはどうしたものかな……」

 う〜〜ん、と一人悩む試験管。

「お前ら、殴りあうか?」

 と。




 昼飯までの二時間の間にプレートを持って俺のところに来い。
 言って背を向ける試験管に、試験会場の空気の密度が高まったような緊張感が満ちてくる。
 だがそんなものなどまるで感じていないかのようにアーヴァインはキルアを見下ろした。

「ねえ、賭けをしない?」
「賭けぇ?」

 ギィ……と扉が開かれる。

「そう。どっちがより多くのプレートを集められるのか、さ」
「へっ、いいぜ? なにを賭ける?」

 もともと賭博好きのキルア。
 アーヴァインの提案にすぐに食いついてくる。

「君が勝ったら、僕たちが持っているSSランクのカードを譲るよ? もちろん君たちが持っていない種類のをね。僕が勝ったら――」

 扉の向こうに試験管の姿が飲み込まれ、バタン、とそれは閉じられた。
 静寂は一瞬。
 そして立ち上る雄たけび。

 賭けに勝ったら貰うものが思いつかなかったアーヴァインだった。
 よく考えれば一度は盗賊に身包みはがされている彼ら。
 所持品なんてそのままカードぐらいしか無いだろう。
 さてどうしたものかと逡巡は一瞬。

「ま、いーや。後で考えるよ〜」
「はぁ? ありかよそれ」
「君が勝てれば問題ないと思わない?」
「はっ、そりゃそーだ」

 にやり、と楽しげに瞳を細めて、子どもであることをイコールで弱いと見て取ったのだろう。
 襲い掛かった受験者をまずは吹き飛ばしたキルア。
 その手にはいつの間にか奪い取ったプレートが握られていた。

「負けるつもりはねーぜ?」
「僕だって」

 キリエから借り受けてきた念具の銃をくるりと回して言うアーヴァインの手にも、すでに三枚のプレートが握られていた。

「やるじゃん?」
「キミもね」

 互いに挑発的な笑みを向け合うと――時を等しくして床を蹴る。
 小旋風となったキルア、こまごまと移動しながら念弾をばら撒くアーヴァイン。
 たちまちの内に試験会場に溢れていた人々は意識を失い倒れ伏す。

 立つものが二人しか居なくなった広間で、アーヴァインは肩をすくめた。






「743人」
「745」

 プレートは後で回収すればいい。
 まずは倒した数がイコールとなる。
 得意げな笑みを浮かべたアーヴァインと、つまらなそうに眉根を寄せるキルア。

「ちぇー。負けかよ」
「二人分足りないけど……僕らスタートが遅れたからね」
「で? 結局なんにするんだよ」
「う〜ん、それがね〜? 思いつかないんだよ」
「まあ、俺らあんまり物持って無いしな」
「よし、決めた」

 あん? とアーヴァインを見上げるキルア。

「もう一度グリードアイランドの外で会うまで、預けておくことにするよ」
「なんだよ、それ」
「今の君から手に入るものに僕に価値有るものは無いって事。つまりもっと精進しろってことだね〜」

 いつかいなくなる自分たちを覚えておいて欲しいから。
 かつてフィールがそう語ったことを思い出す。
 だったら、と。
 叶わない約束を残してみようかと思ったアーヴァインなりの小さな意地悪だった。
 小さなことだ。
 けどきっと、忘れられない約束になる。

「けっ」

 のどの奥で悪態をついて、プレートを手に取るキルア。
 その数は、たった五枚だけ。
 アーヴァインもプレートを取ろうと足元に倒れている人間に手を伸ばして、ふと止まる。
 どこか見覚えのあるような濃い顔をした人間だ。
 どこで見た、何で見た?
 ただ太いだけではない特徴的な眉と付属する目鼻立ち。

「ああ、ゼパイル!」

 ヨークシンでゴンたちに骨董について薀蓄していた人物だったな、とポンと手を打つ。
 確か臓器を担保に借金をして、それをハンター証を手に入れて返そうって企んでいたんだっけ? と一気にそこまで記憶を掘り返す。
 借金の返済期限って何時までなんだろう、と考えた彼は、思い立って小切手を切って彼の懐に忍ばせた。
 五百億に比べれば些細な金額である。

 キリエとフィールとスコールと、そしてアーヴァイン。
 四人がそろい、互いの特性を持ち寄ることで元の世界に帰還するための念を作成することのめどは立ちつつある。
 能力が出来て、帰ることが出来たなら、こちらの世界で蓄えた金銭はまるっきりただの紙くず、数字の羅列に成り下がる。
 面白そうな珍品貴重品、貴金属に変えて持ち帰ったとしても、かなりのあまりが出るだろう。
 そもそも買い付けが面倒だった。
 外部委託は情報の漏洩へと繋がる。

 五枚のプレートを持って二人で試験管が居る非常階段の扉を潜った。




 煙草を吸っていた試験管が振り返る。

「お前らが一次試験最初の合格者か」
「最初で、そして最後だよ。規定時間の二時間にここにやってくる人間はもういないね」
「みんな寝てるよ」

 くい、とアーヴァインが指で試験会場を指差して、試験管が覗き込む。
 たちまちの内に絶句した。

「皆半日くらいはおきないと思うよ」

 とキルアが。

「僕のほうは丸一日はオーバーすると思う。やる? 二次試験」

 とアーヴァイン。
 さっと肩をすくめると、カッコつけてくるりと銃を回してホルスターに戻した。





 至急ハンター協会本部、ハンター協会会長であるネテロに連絡がつけられ、協議が為される。
 年によっては一人も合格者が出ないと言われるハンター試験だが、二人にまで絞られればこれ以上を競う意味はもはやあまり無い。
 一人はハンター試験の受験は初めてとは言え以前の試験会場にも顔を出しているし、もう一人は以前に最終試験にまで進出している上に、実力を上げてきた人間だ。
 そのうえ二次試験の試験官は多くても三百人にまで絞ってくれ、と言っていたとの話。
 二次試験を受けたのが半数の百五十人と仮定したとしても、その仲に彼ら二人が入らない道理は無いだろう。

 電話を切った試験管が二人を見て、重く吐息をついた。

「あ〜〜〜〜試験番号1219キルア君」
「ほーい」
「試験番号1158アーヴァイン君」
「は〜い」
「ハンター試験、合格!!」

 びし、っと怪しい決めポーズを作りながら宣言がなされた。
 アーヴァインが手を差し出せば、ぱちんと瞬間重ねられる一回り小さな手のひら。
 にやりとした不敵な笑みを交し合い、ハンター証の交付を受けるため歩をそろえて歩き出した。










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