欲望





 帰り道。
 すぐにでも天空闘技場へ行ったほうがいいというのに、四人は走るでもなく、能力を使うでもなく、少しばかり重たい足取りで歩いていた。
 スコールの手には、渡された小箱。
 まったくの他人事でも、こういう話はどこかやりきれない気分にさせる。

「スコール、それしまって、はやく闘技場に行こうよ。面倒なことに、なる前にさ」

 アーヴァインが努めて明るくそう言った。

「そうだな」

 一言答えてスコールは【魔法の箱】に預けられたものを放り込む。

「フィール」

 と声をかけると、「分りました」と一言返して彼は【開門の審判者】を開く。
 こちらから、出現場所の様子を伺えないのは能力として大きなハンデだ。
 かつてのように、いきなり幻影旅団が集結している場所に放り出されても、出てみるまで分らない。
 あまり厳しい感じはしないが、それでも一応念能力とは、その習得方法とは秘匿するものに分類されている。

 一般大衆にさらされることを良しとしないものだ。

 そのためもあり、行くことにおいては今回のように指定された場所から離れたところ、そして確実に人が居ないだろう場所を指定して移動したあと、自分の足によって移動する。
 だが帰りなら、確実に人の居ない場所を用意することもできる。
 それは、仕事として世界各所を回った時に用意したホーム。
 あちこちの都市に、総合で十件以上、賃貸物件を借りっぱなしにしている。
 そこに出る分には、人が居ないことなど間違いはなく、まかり間違っていた時には、不法侵入者だ。
 遠慮なくシバキ倒してど突き倒して悪夢を見せて、ついでに多少の記憶操作もして警察に突き出せる。

 小さく、フィールが呟く声が聞こえる。
 声に出した上で厳密な位置指定を行っているのだ。
 これも、ある程度目的を果たせるだけの能力を得たあとで改良を続けた一つの結果だ。

“声に出して位置を指定する”という制約。

 何時でもどこでも、ぱっと出して敵前逃亡するという俊敏性は失われたが、これにより能力の負担を減らしている。
 ルームナンバーまで指定できればホテルの一室にの庸に細かい移動のできた能力である一方で、己の記憶一つでも移動することのできた能力だった。

 今は、類稀なる記憶力を持つフィールが使っているのですらすらと目的地を読み上げているが、GFをジャンクションしなおし、他の者がその能力を使えるようになってもフィールのようには行かないだろう。
 記憶にある場所でも、声に出してその逐一をあげなければならない。
 ジャンクション、GFを入れ替えて共通して念能力を使うとう事実が、互いの間の、能力の平均化を呼んでいる。

 《開門の審判者》を例に挙げるなら、それは誰がその能力を使っても必ずエデンが一ヶ月召喚できなくなるし、記憶力の優れたフィールが“言葉に出して目的地を告げなければならない”という、フィール自身にとってはハンデとも言えない様な制約を付け加えても、きちんと能力はそれをハンデだと判断している。

 能力使用時の負荷が軽くなったことは、ためしにその能力を使った全員が実感しているし、負荷が減ったということは、能力に効果を足すための余裕が出来たという事だ。
 実際、スコールたちは年に一度か二度か、使うか使わないかも分らないようなホームの詳しい所在地など覚えていない。
 一応メモを所持してはいるが、それこそなくしてしまったら目的の場所にやすやす行けなくなってしまう。
 ふぅ、とため息が聞こえた。

「これでもう三年三ヶ月。この調子では僕はもう生涯エデンの召喚を諦めた方がいいのかもしれません」
「わるかったな」

 黒い穴を広げたフィールに、すでに周囲には口癖と認識された言葉を返してしまう。
 だが、投げやりにただ口から出ただけの言葉ではなく、感情が伴うものだということは、聞く者が聞けば分った。
 能力を必要と思ったときに使うことを躊躇いはしなかったが、日常から使うことは控えてきてもこれだけ増えた。
 人生何時まで続くか分らないが、この調子では何時まで続けても召喚することのできる日はこないような気がする。

「いいです。分っていますから。全員がエデンを呼べなくなるよりは、一人が呼べないほうがいい。それに、記憶力のいい僕には見合った能力です」

 ただちょっと愚痴ってみたくなっただけです。
 いう背中は、多少芝居がかった仕種ですすけて見える。
 あはは、とアーヴァインが笑った。

「道は天空闘技場のそばに借りたアパートにつながっています」
「何時借りた場所だったか」
「え、そんな場所にもあったのかい? 僕は知らないよ?」
「闘技場でお金を稼ぐようになってすぐですから。まだアーヴァイン先輩達は行った事がないと思いますよ。それより心配なのは、今でも人間が住む場所であるかどうかですが」
「どういう意味よ、それ」

 いぶかしげに眉根をよせ、キリエがフィールに詰め寄る。
 彼女こそが最も新参者のはずなのだが、ヒエラルキーの最下層は今ここに決定したようだ。
 単純に年齢だけを問うのなら、もとより彼女が一番年上であろうが。

「家を手入れする人間が居ず、ついでに言えば、周囲の柄も悪い」
「ああ、荒くれ者が住まう町はそれなりに進化するって訳だね」

 集う者に合わせて町が進化するのは当たり前のこと。

「決して治安が悪いって言うわけじゃないんだが……」

 大雑把な人間が多い。

「まあ、行って見れば分るよ〜。中継地にするだけで、住むわけじゃないんだろう? それこそ闘技場にいって、百階以上に上がれば個室は確保できるんだしさ〜」

 あっけらかんというアーヴァイン。
 その言い分はもっともで、もっともらしくもっともなのだが。

「二百階以上がどうだかは知りませんけど、百階超えた程度じゃあの部屋って、案外居心地悪いですよ?」

 神経質な人間なら、慣れる前にノイローゼです。
 言う彼に向けられる眼差しは無言で語る。
 お前が言うか、ナイロンザイル。

「昼でも夜でも四六時中人の歩く音が聞こえますし、負けた人なら罵り声が、勝った人なら勝利の雄たけびがって感じで。壁を殴ったり蹴ったり、そこかしこで喧嘩を始めてはスタッフに仲裁されてますし。水漏れ事故も多いですから。基本的に低階層の人たちは短気で粗野で、単純ですしね」

 うわぁ、とアーヴァインが口を開いた。
 片足一歩分が心持引き気味だ。
 キリエも似た様なものか。
 ヒエラルキーの階段を登れなくても、やはり彼はナイロンザイルだ。
 フィールはいま、彼らに正しくそう認識させた。

「部屋は度重なる苦行にもまれてぼろいですし、ベッドのスプリングもいかれていますし。シーツの交換も三日に一度。下手なタイミングで入ったら前の人が使った部屋のまま放り込まれますし。汗と血痕ぐらいは常識、らしいですよ?」
「もういい、フィール」

 思わずスコールが止めに入る。

「っていうかさ、何でそんなに詳しいんだい?」
「俺もそう思う、アーヴァイン」

 なんだかんだといって、あまり闘技場の部屋には住んでいなかった。
 なぜ、シーツの交換日や、水漏れ事故が多いことまでしっているのか。
 フィールに対する疑問は尽きない。

「でもまあ、今回はいいじゃない、住んでも住まなくても。どうせヒソカと戦うために二百階に登るんでしょ? 詳しく知らないけど、二百階の生活って、ファイトマネーは手に入らなくてもとても手放したくないような生活らしいし」
「そうですキリエさん!! 二百階=ヒソカの図式!! 先輩は一人ハンター世界の構築式に乗っているんです」
「構築式か。別名ありきたり?」
「いいけどさ。結局それ以外に解決策なんてないようなものだろう?」

 勝手にしゃべる三人の横で、スコールが一人、深々とため息を付いた。
 彼らの話す内容についても、確かに気が重い。
 だが、今はそれよりも、かつてフィールと一人二役で名乗った偽名、ユラナス・レオンハートの存在が彼らに知れることのほうがはるかに気が重い。



“眠れる獅子”



 ユラナス・レオンハートという存在にフィールが己の世界でのスコールの二つ名を付けさせようと企んでいたと知れたのは、すでにその目論見が成功してからのことだった。
 正直たまらない。
 たまらなく恥ずかしい。
 いつの間にか呼ばれるようになった二つ名については、仲間内で徹底的に喧嘩したこともある。


“眠れる獅子”対“魔弾の射手”あるいは“神速の狙撃者”から始まって、“学生寮の鬼神”もとい“金色蠍”を巻き込み、“焔の拳”を口撃をもって叩き潰し、“魔女のレプリカ”の乱入を持って終結した。


 スロット魔法の選別にも長けるようになった“魔女のレプリカ”は、騒ぎの中心に等しく一撃ずつメテオを突き落としてくれた。
 痛い記憶だ。
 まさにいつの間にか呼ばれるようになったそのれらの名を、自分から声高に名乗りあげるような神経線維をしている人間であれば問題は無かったのだが、切っ掛けは自らの二つ名を、スコールかアーヴァインのどちらかが、自嘲混じりに嗤ったこと。

 恥ずかしいし居た堪れない。

 もう喧嘩にはならないだろうが、こんなところでも眠れる獅子と呼ばれ、そしてアーヴァインに知られるなど。
 因果だ。

「先輩、ちゃんと名乗りを上げてくださいよ?」

 止めを刺された。
 意味深な言い方に、周囲がなんだなんだと乗ってくる。
 だれか、介錯を頼む。
 見える青い幻に、そう頼んでしまいそうだった。

「そういえば」

 キリエの口から、不吉な言葉が。

「武士は一騎打ちの前には名乗るものよね」
「名乗り上げ、ですか?」
「そう。我こそはドコドコのダレダレなり〜、って言ってから、戦うの」
「へぇ〜。そういえば、昔の騎士もそういう、名乗りっぽいことやっていたそうですね」
「洋の東西問わず? でも、スコールたちはしてないよね。無双シリーズなら名乗り上げで能力値アップとかあった気がするんだけど」
「ああ、それいいですね!! 僕、新しい念能力思いつきましたよ」

 この思いつきは不吉だ。
 分っているのに、止めるすべが思いつかない。
 なにより、フィールは新しい戦力を思いついたといっているのだ。
 今のスコールにそれを、理を以って止められる言葉などあるはずがなかった。
 だからただ、死刑宣告のようにその言葉を聴き続けるしかないのだ。

「僕達がみんなで制約を掛けて、名乗り上げで誰かの能力を借りられるようにするんです。スコール先輩は器用だけど、それでも射撃に関してはやっぱりアーヴァイン先輩には及びません。アーヴァイン先輩は、射撃に関しては神業の腕前を持っていますけど、肉弾戦は得意じゃありません。ゼル先輩は、肉弾戦は得意ですが武器全般の扱いが不得意です」
「そりゃそうでしょ」

 スコールの小器用さは、ここの所とみに実感しているキリエだが、だからといって長年鍛えて来た自分の技に、数日、数ヶ月で追いつかれるようではアーヴァインが自殺する。

「で、せっかく仲間が居るんですから、自分にできないことは仲間にやってもらう、と」
「まあ、それは人間として正しいあり方よね」

 自分ができないから仲間がいる。
 仲間ができないことはきっと自分がやれる。
 一人でできなくても二人ならやれる。
 そんなこと、昔誰よりもその身で実感したとスコールは言いたい。
 だがきっと、言えば墓穴だ。
 ただでさえ留める言葉が思いつかないというのに。
 ああ、目の前にある黒い穴につっこんでしまえば全ては終わるだろうか。
 いや、こちらからあちらは観察できなくても、あちらからこちらは丸見えのはずだ。
 しかも穴の開閉は能力者の任意。
 スコールにはどうにもできない上に、単純に話す場所――舞台が変わるだけだろう。

「……」
「…………ふっ」

 いつの間にかスコールの横に来ていたアーヴァインと、彼は眼差しを交わした。
 肩をすくめて息を吐くアーヴァイン。
 決して理解できるはずのない他人の心。それが今は手に取るように理解できる。
 ああ、なんて異常なんだ。

「二つ名の名乗り上げと、あといくつか制約を付けて、同じ制約を背負う仲間達の能力を一時的に借りられるようにするんです。ゼル先輩が期間限定で射撃のプロフェッショナルになったり、逆にアーヴァイン先輩が徒手空拳で戦ったり。それに、そうすればキリエさんも」
「もういい加減キリエでいいから」

 果たして何度目の懇願か分らないが。
 今更一つや二つや三つや四つの年齢差が何だとは思う。
 言ってしまえば、この世界で生きるうちにフィールはアーヴァインの年齢を超えてしまったわけでも在るし。
 話の腰を折られたことも加えてか、しばらくぶすくれた表情をしていたフィール。

「――そうすればキリエさんも」

 律儀に繰り返した。

「キリエ」
「キリエさんも」
「キーリーエ」
「キリエさんも」
「キ・リ・エ!!」
「キリエさんも戦えるでしょう?」

 折れた。

「……まあ、確かにさ。この先行くなら可及的速やかにもちこっとは強くならないとやばいなぁ、っては思う」
「念使いの戦闘は、遊ぶ気がない限り大方一撃必殺ですから。十分か、二十分、能力を借りられれば、キリエさんだって十分に何とかなりますよ」

 はぁ、とキリエは深くため息をついた。
 それはむしろ、弱い自分を生かすためのような能力だ。
 向こうで黄昏ている男二人には悪いと思う。
 最終的には自分自身の身と心で強さを得たい。が、地道に強くなっている間に死んでしまっては元も子もない。

「スコール先輩なら……『眠れる獅子の、目を覚まさせてみせろ!!』とか!!」
「うわぁ、それマジじゃやってられないくらい恥ずかしいよ? フィール本気? っていうか、私も恥ずかしいって!!」
「こっちだって本気じゃやってられませんよ。僕はこっちに来てからほとんどずっとロールしてますから」
「ロール……ロールプレイング?」
「はい。仮想人格を演じる。こっちって、マジで関わったらすぐに死んでしまいそうな人ばかりじゃないですか。でも、居るからには無関係でも居たくなくて。それなら、キーパーソン? なんだか先を見ているような、全て知られているような、謎の人物っぽいのになりたいなって、思ったんです」
「ああ、私その気持ちなら分るかも。ドラマとかでさ、うごめく人ごみが割れたと思ったら、その中心に立っていたりして、にやりと笑ったり声を掛けたりして、追いかけようと思ったときには人ごみにまぎれて見つからない、ってやつ。画面はモノクロ推奨で」
「まあ、どっちにしても妄想ですけど」
「……きっついなぁ、でも否定できないよ」

 自嘲して嗤う。

「キーマン、鍵を持つ者は、僕の憧れでもありました」
「ああ、大丈夫。あんたは立派にキーマンよ。念の開発にしてもそう。いまスコールがここに居るのも、私たちが出会ったのも、あなたの差し出した鍵が、すっぱり鍵穴にはまったからね」

 言われて嬉しそうに、フィールは目を細め声を上げた。

「じゃあ、僕は“鍵を持つ者”とでも名乗りましょうか」
「いいね、楽しそう」

 眠れる獅子や、学生寮の鬼神よりよっぽどましだし。

「でもさ、ずっとロールしてるのって辛くない? 私の演技なんて三分ではがれるけど」
「かなり本性に近いまんまですから。時々地が出ていても誰も気が付かないような感じですね」
「ああ、じゃあフィールって素で性格悪いんだ」
「本人の前で言う台詞じゃないですよ。まあ、いいですけど」
「悪い」
「それじゃあまるでスコール先輩のようじゃないですか」

 言ってフィールは笑った。
 キリエの軽口が、打ち解けた証だとフィールは分っている。

「本気で別人格を演じようと思ったら、それこそ何か必要ですよ。偽名、違う顔、役割、仮面。ローブでもマントでも帽子でも、顔を隠すアイテムは必須ですね」

 ペルソナ、とはよく言ったもの。
 違う誰かになりきる。というのは、それほど大変なことなのだ。

「ねえ、ところでその新しい念能力って、学園で皆に呼ばれるようなものじゃなくて、仲間内だけでも個人を認識できる呼び名なら構わないんじゃないかしら」

 ごくりと唾を飲み、喉を湿らせてからアーヴァインが言う。
 嘆かわしいとはよく言う事だ。
 嫌だいやだと思いつつも、可能性を示唆されれば頭が勝手に試算する。
 念能力者として目覚めてほぼ一ヶ月。
 まだ自分固有の能力を開発していないアーヴァインは、オーラの総量こそまだフィールに負けているが、一番の成長株だ。能力を覚えるための余裕が仲間内では一番多い。

「誰かが呼んで、認識できればいいんです」

 ああ、それはきっと効くだろう。
【魔女の創造】を行う時の詠唱の比ではない位、恥ずかしい。
 
















 現在制約を結べる人数は四人。
 学園での二つ名持ちは二人。
 眠れる獅子、神速の狙撃者または魔弾の射手。
 個人を特定する呼び名に変更すれば四名。
 名乗りあげも換算する。
 複製の錬金術師、鍵を持つ者。
 複製の錬金術師に関しては、贋作者、器用貧乏の候補もあり。
 この能力が実現されれば、眠れる獅子、神速の狙撃者は早急に新たな呼称を模索。
 ガーデン帰還後には、焔の拳、魔女のレプリカ、金色蠍も制約に加わると思われる。
 基本ルールは、名乗り上げをすること。
 自らの、名ではない呼称を名乗り、同じ制約を交わす仲間、他者の能力を一時的に借用する。
 借用するモノは、技と力。
 鍛錬することすら叶わない完全な個別スキルは除く。
 借用できる技術の基本は、アーヴァインなら銃士として、ゼルなら格闘家としてのスキルなど。
 セルフィのスロットや、キスティスの蒼魔法などの借用は不可能。
 念技も、個人が完成させたものの借用は基本的にできない。
 だが、錬度の借受は出来る。
 操作系、具現化系などは、強化系や放出系を百パーセントで使う事はできないが、名乗り上げの最中に限り、借りる相手の系統の錬度をそのまま使う事ができる。
 力に関しては、借用時に自分のオーラに借用する人間のオーラを上乗せすることができる。
 が、技術、力ともに借りた後は借りた時間の三倍、一切の念能力が封じられる時間ができる。
 借りた対象の方は、借りられている間の時間分、一切の戦闘行為を制約により禁じられる時間ができる。
 が、戦闘の直後に一切の無防備になることも、いつ能力を借り上げられるか分らない状況も、任務や立場を考える上でとてもまずい。
 ので、月に一度、清算日を己で決定する。
 清算日と設定した日から、清算が終わるまでの間に、それらのペナルティはかかってくる。
















「随分形になりましたね。やっぱり考える人が沢山居ると早いですね」

 そりゃそうだ。
 諦めたが最後、頭が回るやつも、機転の効く奴も居るにはいる。
 荒野に立ち続けるのもなんだからと、場所を移して話し合いは続けられた。
 借りてある賃貸物件が、予想通りというか予想以上に結構悲惨だったので、そのまま近場のホテルへ。
 部屋はスイート、盗聴器や隠しカメラの有無は可能な限り確認した。
 無駄に急いで見せたせいもあり、ちびっ子二人組みはまだ闘技場に辿り着いていない。
 スコールたち一行の移動は、公共交通機関を使用していないために記録に残らない。
 もちろん、ネットで細工して飛行船のチケットの記録を閲覧しても意味はない。

 故に。

 ヒソカも恐らくまだ居ない、と思いたい。
 天空闘技場と場所を指定しはしたが、ヒソカのバトル回数が間に合ううちにはいくつもりであるが正確に何時とは指定していない。
 互いの連絡先も、交換していない。
 ガーデンとしての連絡先は、それこそ先の依頼を最後に破棄してある。
 ホテルを取る名義はキリエの名前。
 彼女だけは、ヒソカと関わった試験と一切関わっていないから、もし探られても面が割れていない。
 他にも、ガーデンでならったり実践で身につけてきた穏行術を駆使したり、対面したくない生物から逃れるための手は、徹底的に尽くした。
 だからきっと、いや、絶対に会うことはないだろう。
 会いに行くというのも癪だが、そうならせめてその時までは会いたくない。

 何故こうまでヒソカを嫌うのか、いっそ理解できないほど彼らはヒソカという存在を忌避していた。

「設定、表示はGF召還システムの一部を併用すれば何とかなるだろう」
「となれば、あとはアーヴァインの成長を待つのみってところかしら?」
「え? なんでさ」
「せーんぱーい、今更それはないんじゃないですか?」
「え? え? どうして?」

 詰め寄られて、本気で戸惑いを見せるアーヴァイン。
 ビデオにでもとって、あとでセルフィにでも見せることができれば面白いだろうにと思うスコール。

 薄情者。

「この念は、制約を交わした人間の能力の平均化を図るものです。オーラ量の著しく高い人も、低い人も、同じように戦闘できるようにすることが目的です。ですがまあ、他にも制約を付け足すにしても、この念を技として完成させるためには、総合のオーラ量が足りません」
「それで?」

 続きを促したアーヴァインの表情には、すでに理解が浮かんでいた。

「僕達は二年、キリエさんにいたっては約五年。ここのところキリエさんは意欲が高いためか、割とオーラ量が成長を見せていますが、総合的なオーラ量の成長は、僕達は大体終わってしまっているんです」
「そこでアーヴァイン、足りないオーラの穴を埋める希望の星があんたって訳」
「うん、了解」
「俺達も、一時期から量は落ちたとはいえ成長していないわけじゃない。それでも、今伸びようとしているあんたには負けるだろう、アーヴァイン」
「了解了解〜、僕にまっかせなさい!!」

 顎を反らせ胸を張るしぐさも、おどけて見せる様子も、それでこそアーヴァインであると、どこか彼らを安心させた。

「こっちの世界じゃ裏に属する念使いたちの中で、あんたはまだまだ新米なんだから!!」

 五年のキャリアをそれこそ数ヶ月で埋められそうで戦々恐々、あらゆる意味で才能に涙しているキリエが“新米”の部分を強調して言う。
 強がりと、本人も理解している強がりに、自然と周囲から静かな笑いが漏れた。

「じゃあみんな、今日はそろそろ解散でいい? あのさ、東の部屋、私がもらっていい?」

 スイートだけに、部屋数は異様にあるのだが。
 男女別に部屋を分けるまでもなく、一人一室は当たる。

「ああ、皆も構わないだろう?」

 スコールが確認を取り、そしてその日は自由行動となった。
 アーヴァインは外食をしに行くといい、フィールを連れ立って出て行った。
 スコールはルームサービスをとり、キリエはそれすらも待たずにスコールの【魔法の箱】から適当に食物を強奪すると、ほしいと主張した東向きの部屋に駆け込んでいった。











 それぞれの夜が過ぎていく。








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