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僕は思うんだ。 キリエは少しリノアに似てるって。 特にとんでもないことをやりだすあたりね。 最もはじめにキリエが製作を開始した念具は、大事な守りとなる防具だった。 サイズに融通を利かせることを前提にして、基本は外套タイプ。 潜入任務や私服任務でも着られるような、TPOに融通の利くタイプと、式典でも着られるように、制服タイプの服も作る事にした。 どちらも基本型が外套タイプだったが、外見に幅は持たせてある。 動きやすいように深いスリットの入った膝丈の外套。 男女の別なく、ウエストには絞りが入っている。 これは単純にキリエの趣味だ。 制服タイプの色調は暗いグレー、ガーデンを象徴する装飾を入れて、男女別でデザインを多少変えてある。 私服タイプのデザインは、普通にショップを回って購入した。 オーダーメイドを出している時間はあまりない。 十着だけ、向こうに帰ってから特別にオーダーメイドを出す外套はキリエが面白がってデザインしていた。 拙い絵はなんとも言えず、近未来的にファンタジックだった。 そんな絵も、向こうに帰ってデザイナーに手渡せばそれなりに見栄えのするものになって帰ってくるのだろう。 正確ではないのかもしれないけど、僕は他にその外套に対する表現法を知らない。 正直着るのは嫌だけど、スコールがキリエと交わした協力を確約する念書、というか、ほとんど契約書に、しっかりと伝説のSeedとその一行が“公式の場で”それを着用することが条件として書かれていた。 これは油断したスコールが悪い。 いつもなら虫眼鏡が必要なような大きさで書かれている契約事項だってもらさず読むのに、同じ異端者の気安さか、さらりと流してサインしてしまった。 にやりと悪魔のような笑みを浮かべたキリエの顔は、多分生涯忘れられないものの一つになるだろう。 『あんたらには悪いけどさ、どんなに実在していても私にとってあんた達のとの最初の出会いはファンタジーなんだよね。それで、これは私の純然たる、野望? かな。あんたたちカッコイイし、日常では絶対に着られない様な服、着せてみたいじゃん。それに、着せただけで誰にも見せないのは勿体無いしね。こうさ、それ着て歩いただけでモーゼの十戒みたいに道が割れたりする景色を所望する。うん』 一度に押し寄せる呆れと困惑と怒りに、スコールの喉は詰まったようだった。 僕もその気持ちはよく分る。 僕だって同じさ。 それでも。 『モーゼって何なんだよ』 突っ込んだスコールは凄い。 垣間見たデザイン書は、間違いなく注目を集める事はできる。 防寒を目的とするには明らかに足りない前身ごろ。 ピシッと固まった上半身には、肩当てに腕章、銀の装飾、大きな襟。 ウエストから下は身頃の前半分がなくなっていて、そもそも薄い生地は、風を含んでよくなびくように設計されている。 無風の場所でも多少早足で歩けば翻る三角形。 後ろの身頃の真ん中には深く切れ込みが入っていて、翻るそれが結果として僅かに割れるのが、いいらしい。 『モデルは?』 と聞いた僕はやはり彼女に対する理解が足りなかったんだろう。 いや、娯楽のメディアに対する歳月かもしれない。 『F.S.S.』 フィールにも聞き覚えはなかったらしい。 ある意味で救いかもしれないと思ったりもしたけど、どうなんだろう。 僕にはもうわかんないよ。 他にもこまごまと、自分で書いたらしい絵について、僕はもう何も言いたくない。 どうあがいたところで、正式な念書を交わしてしまったんだし、結果は実物が嫌というほど教えてくれるだろう。 少なくとももうみたくない。 だから、今は忘れようと思うぼくは、別に軟弱じゃないと思う。 スコールだって似たようなものだしね。 それと、以前ゾルディックの妻、キキョウに押し付けられたと言う服を加えれば、男物はほぼ買い足しなしでいけそうだった。基本がスコールの身長にあわせてあるから、ゼル当たりに合わせる為にはやっぱり買い足さなきゃならなかったけど。 今じゃスコールも僕と身長で競うからね。 かろうじて一、二センチ僕が勝っているけど。 基本色調がブラック、アクセントでシルバー。 色合いだけを見ればどこへ出しても通用する。 センスも、只者じゃないが奇抜に走りすぎることもない。 女性用のスプリングコートなどはなかなかカラフルで、僕なんかは「セフィが喜ぶね」ってずっとにやけっぱなしだ。 スコールにはあきれられているけど。 基本性能は防刃防弾防水加工、夏は涼しく冬暖かく、火にくべても燃え落ちないと言う物だ。 なんと百年保証付き。 ほかにもジェニーを積めば、いろいろな付加価値、付加効果がつく代物だそうだ。 彼女が最高の状態異常対策アクセサリーだと思っているリボンが、いまの彼女の能力で一つ二百億ジェニー。 ファイガがライターの火ほどの脅威もなくなるほど対魔力をあげる装備も、そのやく半額でできる、らしいね。 彼女は、自身で言うとおり、複製の錬金術師。 コピー・アルケミストの名は伊達じゃない。 既存の能力、というか、現実にあるか否かは別として、誰かが描いた物語、その中に存在するデタラメにも等しいような能力。あるいはそれを持つ品々。 彼女は、その夢幻を複製し、現実に引きずり出す。 言い換えれば、すでに誰かが考え出したデタラメしか基本的に作らないし作れない。 できると。 その夢想を現実に持ち出せると、その結果をありありと想像できるものならば、あらゆる病や怪我を癒し、場合によっては死者蘇生すら可能とするキリエの能力。 けど、今のところ彼女はどんなに新鮮な死体でもゾンビのイメージのほうが強すぎて、死者蘇生の念具は作れないそうだ。 ゾンビメーカーなら格安で作るよ? と笑顔で言われたときにはちょっと引いたね。 めったに手に入るものじゃないけど、僕達の世界にはゾンビパウダーなるものがあるから。 あらゆるコピーを作る。 誰かが考え出した前提があり、それを自身のうちで構築し、世に送り出す。 それが彼女の能力。 それはつまり、まだ彼女の知らない、彼女が夢想しなければならないオリジナルこそが、彼女の能力の弱点ということ。 どこかの誰かが、それを考え出していても、彼女が知らないという時点でそれは彼女のオリジナル。 とは言うものの、現実に、オリジナルを作るほど望むことなんてそうありはしないだろう。 無ければ作る、は基本だ。 つまり、彼女の中に能力の基本となる幻想が無ければ、それが見つかるまで、本を読むなり、ゲームをするなりすればいいのだ。 商業誌はもちろん、アニメでもゲームでも、それを題材としたファンフィクションでも、ショート、サイドストーリーでも。 お金さえあれば。 彼女の能力は本当に反則だ。 逆を言えば、お金が無ければ、くその役にもたたない。 そして現在は。 潤沢な資金を使える彼女の作るものは、どれも規格はずれですばらしい。 正直それは、ジャンクションで能力の底上げをする必要がなくなってしまう。 スコールがガンブレードで力いっぱい切りつけてもささくれ一つ出来ない手甲も、同じくらいの値段で出来るらしい。 手甲自体にささくれは出来なくても、その向こう側のマネキンは衝撃に耐え切れなくて壊れたけどね。 一つのものに、二つ以上の能力を持たせると、5パーセントの割引がかかるという。 お得だけど、笑えるね。 リフレクの魔法を見せた後、その効果のある外套、というものを彼女は作ってみせた。見事にフィールの放ったサンダーを跳ね返した服は、すす一つなく、フィールが感電した。 どんな結果を生むのか、明確に想像できないものは創造し得ない。 それも制約らしい。 リフレクは、ゲームをやったのが5年も前で、魔法を跳ね返すということは分ってもどうやって跳ね返すか。想像できなかったらしい。 預金の半分をキリエの口座に移して、好きに作れといったら、キリエは生き生きとさまざまな服や小物に念を創造した。 資金はキリエの口座からまた別の口座に移して半年寝かせるか運用させればまたキリエの依頼料として使えるということだった。 一つの資金をぐるぐる回せばそれこそ無限にキリエの能力は使える。 けど、半年はキリエの念が、自らの能力に使われた金銭に制約をかけるとの事だった。 元の世界へ帰るための能力が出来ても、キメラアントを片付けるまでは元の世界に帰るつもりは無いけど、それが済めば即時撤退するつもりだし。 フィールはまだもやもやとした感じだけど、何かがつかめそうな気はする、って言っていた。 あまり長いこと猶予はなさそうだった。 また、彼女の作るものにはよくわからないものも多かった。 物そのものも、出典のわからないものもね。 あるときキリエの工房を覗きにいったフィールが見せられたのは、燻し銀で出来たような艶消しのナイフだった。 若者がいきがって持ち歩くようなナイフじゃなくて、光を跳ね返さない刀身は、暗殺用みたいで印象が悪い。 何の能力を付与したのかとたずねたところ、彼女は言った。 「ルールブレイカー。ちょっと広域解釈しすぎで、原典からは遠いけど、二次創作ならこれくらいは当たり前だし。これならこの世界での除念もできるはず」 能力はすばらしかった。 けど、原典が僕には分らなかった。 ごめん、さっぱりわからないと首をかしげると、彼女は一瞬絶句し、次には酷く落胆した風に言った。 「あんた達の世界には運命がないのよ、運命が」 これでも一応、運命に噛み付こうとしているんだけどね〜。 またあるときスコールが彼女の工房を覗くと、いきなり縄に襲われた。 安全なはずの場所でいきなり無機物に襲われたスコールはほぼ反射的にその縄にファイアを放ち、消し炭と変えた。彼女は言った。 「せっかく作った生きている縄が……」 「なんだよ、それ」 あまりの落胆振りに、被害者でありながら少しは悪いなぁ、などと思ってしまったスコール。 「アトリエシリーズ、知らないの? あの縄、一本一億……」 ひくり、とスコールの頬が引きつった。 また僕がひょっこりたずねたときには、どこで仕入れたのか、白黒の改造銃二丁を誇らしげに見せ、 「エボニー&アイボリーよ!! どうだ、これならわかるか!!」 と、叫んだ。 銃器を専門とする僕は、その速射性や、頑健さには唸って見せたが、元ネタについて語り明かすことはできなかった。 そもそも、その銃、いったい何の能力を付与したのか? あまりの落胆振りに尋ねる雰囲気ではなかったが、思わぬことでそれは解明された。 残弾ゼロなのは確認していたアーヴァインは、どういう理由か分らないが工房内にあった巻き藁に向けて格好つけて横撃ちで構えたエボニーの引き鉄を引いた。 かんしゃく玉を踏み潰したような軽い音を立てて発射される念弾。 それは巻き藁を粉々に打ち砕いてあげく、壁に突き刺さった。 鉄筋コンクリの壁がガラガラと音を立てて崩れる。 本物の銃なんて目でもない、反則ものの威力だ。 呆然とするアーヴァインに、キリエは言った。 「リロードのいらない銃って反則物だと思わない?」 そのように、概ねのところ、彼女の作るものは有益であった。 アルテナの傷薬、とかいうやつを作ったときには、それこそ貫通した銃創も見る見る治っていった。 見た目はただのヴァセリンなのにね。 力いっぱい採算が取れない値段だけど、能力者の念の技術が向上すれば、対費用は安くなるらしいので、採算が取れるようになるまで期待しようと思う。 何しろ、時間は沢山あるから。 自分の居る場所で金銭としての価値がある、それが条件らしいので、他の世界へ移ったらその世界の金銭を調達しないとキリエは念具を創造できないことになる。 これだけハチャメチャに作りたいものを作れるのも、今だけの可能性もあるのだ。張り切るのもわかる。 彼女は、5年近くも抱えた念願を、やっとかなえているのだ。 オーラを使い尽くして倒れるまで念具を作って、目覚めてはまたぶっ倒れるまでって繰り返している。 意気込みとか気合とか、成長にはそういった要素も関係するんじゃないかと思っている。 倒れるのを繰り返すごとに、次に倒れるまでの時間が長くなっているからね。 それこそ見る間に成長している。 まあ、これも彼女の作ったアイテムで、ダークシール、っていう、成長を促すアイテムを装備している成果もあるのだろうとおもう。 こっちの原典については、キリエとフィールは大いに知識を共有したけど、シリーズ中二人の最も愛するタイトルが違ったらしくて、袂を分かつとまでは行かないけど、微妙だ。 ちなみに僕も、この期間にスコールたちの念の師匠のところへ赴き念を開発していた。操作系だ。 いい感じに系統がばらけている。 ヒソカの性格診断を借りるなら、きっとゼルは強化系だし(単純馬鹿)、セルフィはきっと変化形。 キスティが、具現化系と特質系の微妙なところかな。 学園内のカリスマといえば間違いないんだけどね。 スコールたちは、粛々と、縮小営業していたガーデンを店じまいの準備にかかっている。 歳月の流れるのは早いもの、といったらなんだか年寄り臭いけど、気がつけば二月の十日を回っていた。 本編どおりなら、そろそろゴンとキルアが接触するはずだ。 ならば、ここはぜひともゴトーさんのコイン捌きを見るべきだろう。 実は僕も楽しみだしね。 期日は二月の14日。 おかえりププルンに圧迫されたフィールの記憶のなかで、この日付は意味のあるものとして記憶されていた。 圧迫されているといっても、それほど欠損があるわけじゃない。 やはり、フィールの記憶能力はぬきんでている。 ププルンのせいで忘れた、などといってはいるが、それは周囲から言わせればただ自分の記憶に満足が行かないからに他ならない。 スコールやアーヴァインから見れば、それはすでに十分すぎるほどだ。 その記憶を頼りに、14日の早朝に間に合うようにパドキア、ひいてはククルーマウンテンのゾルディック家を目指した。四人で。 周囲に十分な戦闘力があれば、キリエもゴトーさんのコイン捌きを見たいそうだ。 まだゴンたちが試しの門を超えていないことを電話でゼブロさんに確認だけし、キリエにスコールたちの念を見せる意味合いも篭めて、早朝、あと二時間ほどで日が出る頃合に念能力【開門の審判者】を使ってゾルディック家の試しの門の前に出た。 いつゴンたち一行が出てくるのか分らない。 そのうえ、確実に今日来ると決まっている訳でもない。 それならそれでもかまわないかと思っているが。 市外まで降りればともかく、ククルーマウンテンのそばに宿泊施設はないが、今更ここに野外泊に文句を言うような人間は居なかった。 必要なこともそうでないことも話し合っていればいつの間にか時間は過ぎる。 スコールはゼブロさんと顔見知りでもあるし、管理人小屋で泊めてもらおうというのも手段ではあるが、気分、というより演出的にまだ彼らと顔を合わせるのは早い、と主張するのはやはりフィール。 キリエと妙に気が合うらしく、そろうたびにきめ台詞の重要性だとか、そんなことについて話し合っている。 例え到着が深夜でも、たどり着いたからにはミケに襲われないためにあの重い扉を轟々と音を立てて開かねばならないわけだ。 そうすれば姿は見せなくともゼブロさんたちには気が付かれる。 「やあこんばんは。お久しぶりですね、スコールさん」 にこやかに笑いかけてくるゼブロ。 電話をかけたせいもあるのだろう。 行く、と言った訳ではないが、待ち構えていた節もある。 一晩ミケでも観察しながら樹上泊をしようと思っていた一行は、いつの間にか自己紹介を終え、いつの間にか執事邸へ案内され、そしていつの間にかシルバ=ゾルディックの前に居た。 いつの間にか、というには多少語弊があるが、彼の実物を見たことのなかった一行の無言の興味にスコールが折れたというところか。 敵対しては会いたくない人物であるし、客分として安全に見ておけるなら、という思いもあるだろう。 スコールは小声で毒耐性のジャンクションを念入りにするように声をかける。 ひとり、GFをジャンクションできないキリエをどうしようかと思ったが、これは彼女自身の能力が解決した。 状態異常耐性のリボンだ。 よく見れば、彼女はものすごい重装備だ。 鎧や兜などを現すわけではないが、黒髪に斜めに結わえられたリボンはもちろん、物理ダメージ軽減と、念攻撃無効化のついたコート。 防御に関しては、その上さらに首から提げた、《Oneself is absolute defense.(我が身は絶対の防御)》と刻まれたタングステンのプレートで上げている。 左の中指にはプロテクトリング。常時プロテスの効果あり。 二つで一そろいの黒曜石のピアスは、純粋に体力、この場合持久力がメインだろうか、それを底上げする。 コート下には胸部を強調するかのようなぴったりとしたハーネスと、ガンポーチの中におとなしく納まっている二丁拳銃はエボニー&アイボリーの兄弟型、レイ&ダークネス。 左手首の、付けたら取れなくなたという彼女が前の世界から持ち越して装着している継ぎ目のない刳り貫きのメノウの腕輪にはリジュネ、つまり自動回復の効果が付与されているし、逆の手首の、穿き古したジーパンを切り刻んで自作したという濃紺の名残のあるリストバンドには攻撃力アップ、純粋にぶん殴る威力が上がる効果が付与されている。 黒いジーパンのベルト通しからぶら下がるストラップは黄色い羽飾り。 某食用レグホンの羽を黄色く染色したものだが、名称はチョコボの羽というらしい。すばやさアップだ。 足元のベルトで幾重にも留められたごつい見かけのブーツにはオートヘイスト。 実はこれ、ベルトは締め付けを調整するくらいのもので、内側ファスナーで一気に脱げる。 ここまでで約千億ジェニー。 大事に使えば永久ものの装身具は基本単価が高い。 能力自体の最低価格が十億だ。 それを付与する品物自体の価格は、リストバンドなどは0ジェニーだが。 それに加えて、レイ&ダークネスと同じようにハーネスに結わえられている飴色に日焼けした革ポーチには消耗品である品々が詰め込まれている。 大きさは手のひらサイズ、厚さも三センチ程度のごく小さなものだが、中身は侮れない。 一角を占めるのは影縫いの針。 一本二億ジェニー。 その名の通りに穿つと動きを止める。それが二十本。 針なんてただ投げただけでは地面に刺さるものではないが、ここは念のある世界、そして彼女は念使い。 ヒソカのトランプ然り、少々の念をまとわりつかせれば漆喰もコンクリも関係なく突き刺さる。 念をまとった体に攻撃しようというのではないのだ。無防備な無機物に刺す程度、その程度であれば念の系統なんてものもほとんど関係ない。 体に当たらない、となれば、侮って回避動作すらしない者も居るだろう。 そうなればこちらのものだ。 ピコクラフトという、小指のつめほどの大きさで一撃の威力が大木一本粉みじんにできる出鱈目な爆弾が、ポーチの高さにあわせて作られた四角柱の箱に収められている。 ぶつかって潰れた、間違って踏んだなどといったらしゃれにならない。 一粒ずつ取り出せるように細工されているその箱には、絶対に壊れない、という概念が付与されている。 除念されない限り、木製品なのに溶鉱炉に突っ込まれても原形を保つだろう。 他には三ミリの試験管に詰め替えられた黄色いポピュラーな栄養ドリンクには、エリキシル剤の効果が与えられ、それこそそれを服用できる状態でさえあれば、どんな怪我も病気も物の数秒で完治させる。 ものすごく反則っぽいが、スコールたちのような協力者が居るからこそできる反則のようなもので、とてもじゃないが市販できる金額ではない。 それが五本、コルク栓の頭を見せている。 ゴム栓のほうが密閉性はいいのだが、コルクは彼女のこだわりだそうだ。 アルテナの傷薬は、ストラップサイズになってポーチの装飾品になっていた。 つまり、彼女の全身の装備品は、総額で見ればとんでもないことになっていた。 切羽詰れば、記憶障害を覚悟して一つぐらいGFを回してみようかと思っていたのだが、これでかなりの不安要素が解決された。 戦闘行為の技術の有無はともかく、ただでは倒されてくれない装備であるし、念も自力で開発したのではないのなら、少なくとも師匠が居るはずであり、ハンターたるものの師匠がまったく戦闘行為について教えなかたっとも思えない。 半ばで忘れていたのは、まだ彼女の能力に対して意識が薄いせいだろう。 便利すぎる、と思うが、彼女の語らない制約の部分には今より厳しいものもあるのだろう。 そうおもう。 まあ、支払う金銭に関しても生半じゃないが。 すでにスコールたちの通帳の残高は一度ゼロになった。 フィールがキリエの通帳で投資をし、少しずつガーデンの通帳に回収しているが、それもたちまちのうちにキリエの念具の創造意欲に食い尽くされる。 期間的にどれほど意味があるのか。今では皆、キリエの通帳で生活している。 携帯の支払い機能の登録されている口座を切り替えるまでそれほど時はいらなかった。 総合的に見ればもともと庶民的感覚である四人が豪遊してみたところで通帳のゼロの数に変化をつけられるわけもなく。 フィールの的確な投資のおかげで資産は確実に増えている。 キリエの能力に使ったぶんは丸まるプールされているのだ。 むしろ、フィールの投資により、数字は増え続けている。 抜きん出た記憶力と市場に対する深い造詣、そして計算。 冷めやすいたちのフィールだが、自分の興味を持ったことに対しては徹底的に極める。 Seedなど目指さなければ、中年になるころには間違いなく一流の人間として世界に名を売っていただろう。 が、戦いの世界に身を置く限り底は見えた。 元の世界へ帰る前に、いったい何を買って行くのか、お土産リストは増え続ける。 半ば観光気分、名物ゾルディックの親父を見に来た一行だったが。 現実は甘くないというか。 「ガーデンのご一行様をお連れしました」 バトラー・ゴトーの言葉で客間にて男と対峙する。 敵対しているわけではないのだが、なぜかそんな雰囲気だった。 人を招く態度ではないと思う、とアーヴァインはあとで語った。 キルアのこともあるせいなのか、異様にぴりぴりしている。 今のシルバと戦って、スコールは勝てる気がしなかった。 彼らとシルバとでは年季の入りが違う。 それは命のやり取りの場に身をおいた年数だけでなく、この世界の力の象徴である念というものに触れる時間の長さも含めて。 一人は精孔を開いたばかりだし、スコールたちにしたところで念使いとなって、たかだか二年の若造だ。 この中で一番修行年数の長いキリエにいたっては、念具を作る能力こそはでたらめだが、戦闘スキルが一つもない。 そもそも自分の系統すら知らないときている。 向けられているのは殺気ではないが、肌に刺すようなオーラがすでに痛い。 それでも、ひるむ様子すら見せない。 誰一人として。 例え強がりだとしても、だ。 この中で一番弱いキリエですら、この世界での生き方は心得ている。 虚勢でもいいから強がって見せなければ、喰われる。 まして今ここには自分を偽って見せるための材料はふんだんにそろっている。 念使いとしてもそれなりに戦いを積んだ二人と、スナイパーとしては一流を誇る実力の一人、そして彼女自身も戦いに特化した能力は持ちえずとも、洗練された念は手の内さえ見せなければ実力者然としてみえる。 無言の圧力などないもののように振る舞い、差し出された香気高い紅茶を口元に運ぶキリエ。 「おめぇたちはどう思う?」 唐突な問いだった。誰と指定しては居ないが、スコールに投げかけられた問い。 前後の脈絡もなく、スコール以外に初見の人間が三人も居るのに気にしていない。 ガーデン、と名乗ればある程度は一括りになるだろうが。 「キルアの独立ですか? それとも」 「なんでもいい」 「後継ぎならほかにいるでしょう。才を持つ子が。ましてあの子に殺人に対する忌避感は無い。極度のブラコンと、獲物をいたぶる癖を矯正すれば立派過ぎる後継ぎになるでしょう」 変わりに答えたのはフィールだった。 ぴくりと跳ねるシルバの眉。 だがそれは、不満や不服を表すものではなく、押し隠した好奇心が伺える。 「キルアと友人達に関しては、正直に言って面白いと思っています。表と裏とは言いますが、どちらも善ではなくまた悪ですらないと私は思っています。まあ、その表と裏に代表されるような、フリークスの子とゾルディックの子が共に歩もうとしている。先が楽しみじゃないですか。どちらも未熟ですが」 「そこまで知っているのか。キキョウですらしらねぇのによ」 「見ていればわかりますよ」 「……そうか」 暗殺一家でも、父親は父親なんだなぁ、とスコール以外の三人が思ったことは、思いを抱いた三人は互いの表情を顔を見てさとった。 勘違いの可能性も大いにあるが。 多少なりとも原作を知る三人としては、そっちの可能性のほうが大きいか、とすぐに思い直す。 ただ一人原作を知らないスコールも、一般的に父親というものが分らないからそもそも思考を放棄する。 ラグナは恐らく、この目の前の男より父親に向いていない。 まあ、その子供としては、今更どうでもいい話なのだが。 恨みつらみや、感動の再会、などという以前に、父親より大切なものができただけの話。 「いや、悪かったな。こんな時間に呼びつけちまって」 この短い会話から何か悟れたのかあるいは何もないことが悟れたのか、シルバから発せられていたぴりぴりとした空気は消えうせていた。 隠しているだけなのか、それとも本当になくなったのかは分らないし、今必要なことではない。 その後シルバは、ガーデンの閉鎖についていくつか話を持ちかけてきた。 最近はゾルディックの依頼もまったく受けていなかったし、そうこうしている間に気が付けば完全店じまい宣言だ。 お得意様には一方的に閉鎖の旨を伝えるメールを送ったが、送った直後にはすでに返信を受け付けるメールアドレスも削除していた。 不調法は承知の上。 ゾルディックも、そうして一方的にメールを送りつけた家の一つだった。 ガーデンを完全に閉鎖する旨を口頭で伝え、休んでいくかと提案されたがそれは気持ちだけ受け取ってお断りした。 なぜなら。 ゼブロたちと別れるときに、今日辺りゴンたちが試しの門を超えるだろうと耳打ちされていたからだ。 |