在り得ざる幻想



 私がこの世界に来たのは今からおよそ今から五年前。
 深くは語らないが、初めのころはとても生活に苦心した。

 幸運でも偶然でもなく、私は私の努力によって、この世界特有の能力である念の師匠を見つけ、それを身に着けたのは一年後、ハンター試験に挑んだのはその次の次の年だった。
 ちょっと遅らせてゴンたちの時と同じ年に試験を受けたいなー、とか思ったりもしたが、ヒソカとゾルディックを忌避して私はやめた。
 彼らの旅は危険すぎる。
 私のような脇役では生き残れまい。

 キメラアント編に突入する時期になる前に、クジラ島へ疎開しようと思っていた。
 いくら富樫さんの作品でも、ゴンの母親代わりであったあの女性が死ねば、ページを割くだろう。
 23巻を読破した時点でその描写は一切なし。
 あまりに過疎地な島ゆえに、まだ被害がないのだろうと勝手に思っている。

 まあそんな、へたれで臆病な私だが、これでも一端の念使い。
 ついでにハンターだ。
 幻影旅団の旅団長に盗まれたりしてもさして使い勝手が良いとは思えないが、それなりに珍しい念だろうと思う。

 特にその概念が。

 私は幻想がほしかった。
 でたらめを現実に呼び起こしたかった。
 ここに来る前に、親しみ、一人没頭したゲーム。
 あそこにある虚実を現実の世界に持ち込みたかった。
 幸いここは、願えばそれがかなうかもしれない世界だった。
 そして、それをかなえた私は系統知らずの愚か者。

 私はこれからも生涯において水見式をすることはないだろう。



それは私の制約の一つ。



 幻想を幻想のままにするために。
 系統を知ることは自分を知ることだけど、それを知ってしまえば幻想を世界に持ち込めない。

 もし強化系だったらどうなるのだろう?
 放出系で、私の幻想は呼べるのか?

 恐らく否。

 知れば私は弱くなる。
 知らずに私は呼び起こす。
 私の究極の幻想を。







私は 複製の錬金術師。(コピー・アルケミスト)






 あらゆる幻想を複製し、現実に持ち込む。
 私は今日も夢を見るのだ。
































『キリエ・エレイソン』



「この魂に哀れみを?」
「聖歌の一句ですね。主よ、哀れみたまえ」

 探しに探して探しだした店は、あまり階層の高くない人間の住む住宅街にあった。
 その中の一軒の、築二十年は見込めそうな壁のひび割れが妙に目に付く家。
 聖書の一句から取られた名前を冠する店。

 この場所を探すのに使用したキーワードは、FF――ファイナルファンタジー、とハンターハンター。
 この世界にはゲームファイナルファンタジーが存在しなかった。

 ハンターを狩るハンターは存在するかもしれないが、異なる世界からやってきた者たち、なかでもある程度この世界について知識があるも者がその言葉で真っ先に思い浮かぶのは、漫画ハンターハンターだろう。
 そしてFFはプレイしたことのない人でも一度は耳にしたことがある有名ブランドだ。
 この世界に住むものと、スコールたちのように事故でこちらに来てしまった者とを分けるキーワード。

 他にデリング、エスタ、月の涙など、あちらの世界の固有名詞で探してみたが、当たったのはこれだけだった。

 ファイナルファンタジー。
 そしてハンターハンター。
 これを示した者は、ゲームとしての意味で入れたのではないのかもしれない。
 それこそハンターを狩るハンターについての情報だったのかも、しれない。
 だが、それでも手を出してみる価値はあるだろう。
 意味深に、符丁が合致する。

「でさ、入る?」

 キリエ・エレイソンの文字は扉の表札程度であり、そのまま個人の名前のようですらある。
 ショップ、といわれると、むしろ入りづらい個人の家。
 呼び鈴なし。

 自分たち三人のように、例えもともと知己だったとしても、こうもたやすく異世界トリッパーが三人も集まったのだ。
 もしやこの世界にほかにトリッパーがいないとは限らず、ひっそりと暮らすトリッパーは、どこかにいると、興味半分でもって探してみた彼ら。
 まあ、キーはふざけたものだったが、それにヒットしたのだ。
 自らが異世界から来たことを宣伝する者は多くはないだろう。
 だから、ここで出会えたなら、それは稀有なる出会いのはずなのだ。
 ここで帰るには惜しい。

 同じトリッパーだとすれば、開く店にも興味はある。
 金銭に関してはそれこそ有り余るほどにあったし、ハンター証も手に入れていた。
 それこそ、あの時点で手に入る限りの手段を使って調べた場所ではあったのだが。

 電話もなし、メールもなし。
 故にもちろんアポもなし。
 そしてこういうときに、はじめに行動を起こすのは。
 やはりスコールになるわけだ。

 一応ノック。
 返事はない。ただの――ゴホンゴホン。
 十秒まって、傷だらけの真鍮のノブに手を伸ばした。
 


「信じ……られない」

 目の前に現れたスコールを見たとたんに、彼女はそうつぶやいた。
 口元に手をやって、絶句する女性の姿に、スコールたちとしては戸惑うばかりだ。
 幾度か声をかけたが、目を見開くばかりで反応しない。
 信じられないもの――幽霊でも見たかのように、驚愕する。

「ほん、もの、なの?」

 やっと答えが返ったかと思ったそれも、独白だった。

 ダークブラウンの瞳に同じ色合いの髪。
 色白ではあるがイエローカラー。
 彼女の祖世界では典型的なアジア系と呼ばれる人種だ。
 外見的な年齢は、20を一つ二つ過ぎたくらいに見えるが、念使いの年齢はあまりあてにならない。
 身長も160は超えているが、あまり大きいとはいえないと本人は思っている。こちらの世界に来てからはなおさら。

 何が信じられない? スコールは外面を険しくし、内心で首をかしげる。

 大きく見開かれた目、呟いたまま閉じることを忘れた唇、わなわなと振るえる手、こわばる指先は何かを掴もうとするかのようだった。
 フィールの上を一瞬で視線は通過し――不満げにフィールは眉根を寄せる――アーヴァインを見、スコールを見、彼女の瞳の奥の光は確信を深め、理解を得て呟いた。

「スコール・レオンハート?」

 多少成長していても、その特徴的な姿は良くわかる。
 しかも横には、彼女の知る物と多少デザインは変わっていたが、相変わらずのロングコートにテンガロンハットの軽薄を装う男がいた。

「アーヴァイン・キニアス」

 驚愕は誰のものか。

 こちらで散々名を売ったスコールはともかく、この世界の人間が、一度も名乗ったことのない、アーヴァインのフルネームを、知るはずがないのに。







 興奮とパニックに陥った彼女をなだめるのに少しばかり時間が必要だった。
 濃い目の紅茶と少量のブランデー。
 多芸、小器用、器用貧乏。
 仲間達にそう言われることのあるスコールが勝手に台所を拝借して入れた紅茶はなんとかその女性の正気を取り戻したが、女性は自分の飲んでいる紅茶を信じられないようなまなざしで見つめていた。

 気分は、『だってあれフィクションでしょ?』
 自分の身の上を棚に上げてよく言うものだ。
 何のことはない。

 彼女はゲーマーだった。
 ファイナルファンタジーシリーズはファンだがドラクエは未プレイ、FFにしたところでハードがPSに移行してからのシリーズしか知らないし、ネット環境の問題でFF11をプレイできなかった。
 PSポータブルに、任天堂DS、今度はプレステ3。
 そろそろ金銭的な事情によりハードの入手が出来なくなり、それに付随してソフトのプレイも泣く泣く諦めざるを得ない状況下にあったごくふつーの一般人だ。



これ以上綺麗な絵なんていらないからお願いだからハードを統一してよ!!



 と本気で泣いていた、ただそれだけの。
 こちらの世界に来て、苦労してそれなりの収入を得られるようになって。
 そうして見れば今度はFF自体がなかったという悲劇の人だ。
 そして、FF以外のキーワードに引っかからなかった理由は――

「私もね、違う世界から来たのよ。FFの八番台がある世界」

 ただそれだけのことだった。

「私の世界にあるFFの8番台では、スコール、貴方が主人公、だったわ。そして、デリングは魔女により殺された。そして最後の魔女の名はリノア。どう、違うかしら」

 適応性が高いのか、単なる慣れか。
 自分が商業誌の世界に来ている衝撃も大きかったが、似たような衝撃も二度目ならたえる手段はある。
 一度目のときのようにやすやす転んだりはしない。

「あの物語がどこまで本当か知らないわ。でも、貴方達の名前は本当だった。で、こっちが一方的に知っているというのは不公平だから、私も名乗るわね」

 さっと身だしなみを整えて、彼女は一度まぶたを閉じる。
 そして再び開いたときには、先ほどまでの同様や興奮は全て、瞳の奥に隠していた。

「私は御堂霧枝。こちら風に言えば、キリエ=ミドウかしら」
「店の名前は、あんたの名前から取ったのか?」
「音は同じだけど、意味は違うわよ。私の霧枝はmistyとbranch。まあ、ちょっと遊んだのもあるけど。基本的に私、無宗教の生まれだから、あんなに宗教っぽい名前をつけていても、特に意味なんてないのよね」

 あははと景気よく笑うキリエ。
 スコールたちと違って、ここに突然放り出さされたときは間違いなく一般人か、それ以下だったのであろうころの苦労を、少しもにじませない胆力。

「それで、異なる世界のお客様、本日はどういったご用件で」

 唐突に接客用の笑みに切り替えると、キリエは言った。







「わざわざ、探したんでしょう? こっちも情報発信していたけど、探そうと思わなきゃ見つかるものじゃないわ」

 確かにそうなのだ。
 この世界の人間ではわからないキーワードをいくつも発信していたが、だからといって異世界を肯定する発言は、その情報の上においても一度もされていない。
 もしこの場に至っても、スコールとアーヴァインという存在を霧枝が知らなければ、今しばらく腹の探りあいをしていただろう。

「同じような体験をした人間を探していた」
「どうしてかしら」
「どういう状況でこちらの世界にやってきたのか、あるいは共通点はないのか。俺達は、自分たちの世界に帰ることを諦めていない」
「そう。帰りたいのね」
「あんたに隠しても、意味ないんだろう」

 彼女の語ったことが真実なら、彼女はスコールたちの激転の瞬間を知っていることになる。
 そして、話を聞けば聞くほどにそれを否定する要素はない。

「リノアをあちらに置いて来ている。彼女をおいたままではいられない。あんたも、俺達のことを知っているなら、わかるだろ? あの魔女戦争は、問題の先送りでしかない」
「確かにね。アルティミシアが未来に生まれるということを、彼女の存在を過去が認識することで決定させてしまっている。それに――」

 続けようとした言葉を、キリエは飲み込んだ。
 それは、まだ彼女が言ってもいい言葉ではないと思ったから。
 どんな生き方であろうとも、短くないその人生を否定されるようなことを言われて気分がいいはずはない。
 だが、キリエが口をつぐんだことで、かえってスコールは彼女がどういったことを言いたかったのか、理解できてしまったようだった。

「気にするな」
「そう? そういうなら。もうその手のことで気を使うのはやめるわ」
「それに、異世界に来てまである程度の共通認識を持って話すことが出来るのは、幸運だ」
「そう」
 言ってキリエは冷めた紅茶を一息に喉に流し込んで、ほうっと息をついた。

「じゃあ、本題に入りましょうか。先に聞くけど、貴方達はどういった状況でこちらの世界に来たのかしら」

 僅かに身を乗り出すようにするキリエ。

「俺達、俺とフィールは二年前、エスタ大平原の調査中に霧に包まれて、気がついたらヨークシンのそばの林の中にいた」
「僕はそのあと。向こうの時間でスコールたちと連絡が取れなくなってから、二日には満たないよ。行方異不明になったスコールたちの探索中に同じように霧に包まれて、今回のハンター試験の四次試験の会場にいたんだ」
「ええっと、今回の四次試験は、ゼビル島だっけ? ゴンたちには会いたかったけど、ヒソカがいるからやめたのよね」
「そうだ」
「二人は二年前、て……」

 言葉を切って、キリエはスコールとアーヴァインを見比べた。

「スコールたちがこっちに来たのはあの戦争が終わってから何年後?」
「約二年だ」
「で、それからこの世界で二年? なんだか、容姿に二年の経年劣化が見受けられないんだけど。……ああ、そういえば念使いの年齢ってあてにならないんだっけ? れ? でもアーヴァインも、人種が違うから年齢を図りづらくなるにしても、どう見ても二十歳超えているようには見えないんだけど。アーヴァインはまだ、念を覚えていないわよね」
「その通りだ」

 フィールがスコールにまなざしを送る。
 それにスコールがうなずくと、フィールはキリエに向き直った。

「貴方を信用して話をします」
「あら、いいの? まだ私達、会ったばかりよ。一時間もたっていない。そうやって改めるっていうことは、少なくとも念の内容に値するんじゃない? 世界のことは隠してもしょうがないもの」
「あたりです。よくわかりましたね」
「多少の理解はあるつもりよ。まして、この世界で5年も過ごしていれば、他人に念の内容を話すことがどういうことかもわかるつもり」

 何せ念を盗んだり奪ったりもできる世界。

「ならなおさら、これから話すことを信用の証と受け取ってくれれば幸いです」

 キリエは片目をつぶって思わせぶりに間を取った。

「いいわ。あけすけに話しましょう。私も、出来る限りの協力は惜しまないわ。私の念能力も含めてね」




 横にずれたり脇にずれたりしながらの話し合いは、気が付けば日が暮れるまで行われていた。
 誰も一度も立たなかったので、もちろんカーテンは開きっぱなし、その向こうから迫る闇に部屋も同じく侵食されている。

 スコールたちは魔女戦争後の二年を話し、こちらに来てからの二年を話し、アーヴァインと合流後のことも話し、念能力のことも話した。
 これから行おうとすることも。
 キリエもこちらに来たときの状況を話し、自らの念能力を話した。

 これから彼らが行おうとすることに、多少なりとも役に立つとも思ったから、でもあるし、自分のためにも。
 ふと気がついたように窓の外に一瞬だけ視線を走らせ、キリエはまたスコールたちに眼差しを戻す。

「いいの? 成功すればいいわ。でも、失敗すれば最悪、あるいはそれは、人間の歴史、世界が一つ幕を閉じることになる」

 世界の懐がどれほどのものかは知らないが、彼らの行う過去改変を世界が認めなければ。あるいは待ち受けるのはもっと最悪の結末だ。

「それでも、俺はこのチャンスを捨てられない。そして絶対にものにする」

 迷いのないその言葉を受けて、キリエは笑んだ。

「いい答えね。残念ながら、私のこちらに来た状況では重なる点はないし、そちらでは役に立てそうにないけど」

 スコールたちが霧に包まれてやってきたというのなら、キリエはそれこそ眩暈がして目を閉じて、気がついたら、というものだ。
 変転の瞬間を目撃していない、ということは共通の認識ではあるが、知らないということはこの場合なんの役にも立たない。

「それ以外でなら、全面的に協力するわ。その代わり、手段が見つかったそのときには、私も連れて行きなさい!!」

 尚笑みを深めると、キリエはスコールたちにそう、宣言した。

「どこへ?」
「愚問よ。貴方達のいずれ帰る場所」
「あんたは――」

 なんと言って良いのか言葉を捜しているうちに続きを取られる。

「私はもっとずっと平和なところの生まれよ。この世界ほど死は近くなく、あんた達の世界のように魔法もなければこの世界のように念なんてものもない。鎖国していたわけじゃないけど、まるで鎖国中のエスタのように、何も知らずに居ようと思えばそう生きられる場所に居たわ。つまり、この世界から出たいのよ」
「それが、俺達の世界でもか。外には魔物が闊歩する。俺達みたいな庸兵が公然と養育され、世界を駆け回っている」
「私が知らないだけで、私の世界にも庸兵はいた。近代科学が発達してもまだ海賊もいたし、近くに居ないだけで世界では紛争も戦争も自爆テロも起きている。幸か不幸か、この世界に来て、戦うすべも、身に着けた」
「あんたも、この世界に五年もいれば、何かしら思うところはあるんじゃないのか?」
「あろうがなかろうがかまうもんか。私は生きることを諦めなかったけど、この世界を愛せない」
「ここを愛せないなら、どこへ行っても同じじゃないのか」
「死んだ愛を取り戻そうとはおもわないんでね」

 それはつまりそういうこと。

「……わかった」

 しぶしぶうなずいたスコールに、キリエは勝ち誇った笑みを浮かべたのだった。

「そうと決まれば、もっと詳しく話し合いましょ。とりあえずは、腹ごしらえよ」







 キリエのおごりで日本食の店に入りアルコール込みでたらふく食べた後、四人は再びキリエの家に戻っていた。
 すでにある程度の同盟関係を築いたとはいえ、夜遅く、女性の一人暮らしの家に男が三人押しかけるのはどうかと言った者も居たが、新しいおもちゃをみつけたキリエの口舌にはかなわななかった。

 アルコールに犯された脳が理性を半ばで放棄しつつあることもあった。

 そして今度は、カーテンを締め切り、室内灯を煌々とつけて、互いの目の前には大きなマグカップに並々と注がれたコーヒー。
 一人で三杯も飲むころには酔いもどこかへ行っていた。
 さあ、作戦会議の始まりだ。



「私にはやってみたいことがあったのよ」

 口火を切ったのはキリエだった。

「それで、気がついたら自分の系統を知る前にそれを為していたわ」
「念能力の話しか」
「そう。私は貴方達の協力者になる。貴方達にも私の協力者になってもらうわ。都合がいいし」

 空になたカップをもてあそびながら、キリエはソファーにふんぞり返る。

「かるーく話したわよね、私は念具を作る能力者だと」

 それ以外にももう一つ能力はあるのだが、そちらは念能力を戦いの方向へと向けなかったキリエの逃走手段だ。
 確実に逃げ切ること、死なないことを彼女は己の勝利とする。

「反則の世界を作りたかったの。あきれるくらいにご都合主義な、笑っちゃうしかないようなものを。それが、私の念能力」

 打ってかわって凄みすら感じさせる声音でキリエは言う。









「複製の錬金術師」(コピー・アルケミスト)









「既存の無機物に、念をかけることで念具にするのよ。RPGやってるとさ、これが現実だったら反則だよな、って思うことが結構あるじゃない。毒は砒素もサリンも、青酸カリも、一まとめで毒消し、ポーションで体力回復、魔法を使って、エスナをかければあらゆる状態異常を回復し、デスペルで相手の補助を解除する。リボンを装着すればあらゆる状態異常を無効化して、大気圏に突入するような必殺技を使う!」

 今にも立ち上がってテーブルに足をかけんばかりの勢いだ。
 一ゲーマーであるフィールは、得心がいってうんうんとうなずいた。
 スコールは訳がわからず唖然としている。
 アーヴァインはひたすらに苦笑していた。

「何なっとくしてるのよ!! あんたらも同類じゃない!!」

 怒られた。

「魔物は自分達のレベルに合わせて強弱が変わるし、なによあれ、GFぅ? ジャンクションすれば魔法を使えて、いじれば無敵!! 炎に巻かれても回復しやがるし、魔法跳ね返すし、石化できるし!!」

 なんだか支離滅裂だ。

「しかもなによあれは! 魔物をカードにしたりカードをアイテムにしたり!!」

 理不尽だ!! と叫んで、拳をテーブルにたたきつけた。
 がちゃんとカップが踊るが、それなりに手加減はしたようでテーブルは無事だ。
 念使いがぶん殴れば、木製、一枚板のテーブルくらい本気でなくても二つに裂ける。

 一番に反応を返したのはアーヴァインだ。
 彼も多少はゲームをたしなむから言いたいことはなんとなくわかる。
 彼女の世界において、彼らの住む世界を描いたゲームがそのように描かれているのだろうということも。

「魔物の強さや種類は地域ごとの特色はあるけど、人間に合わせるほど都合はよくないし、GFは精神や概念の存在だから、文句はそれを実用化したオダインに言ってほしいよ。カードは一般流通用と、SeedがGFを使ってカードに魔物を封じ込めたものとがあるんだ。強い魔物のカードを持つことは、学園生の誇りでもあるし、そんなに怒鳴んないでよ。ゲームとして遊ぶために、システム上都合よくいじっただけだろ?」

 やれやれ、といった具合に肩をすくめる。

「この世界だって、グリードアイランドみたいに、物体までカード化してるんだ。あんまり気にしない方がいいよ」

 確かにそうなんだろーなー、とは思うものの、そういった不思議なことは、全てテレビの画面だったり、漫画のページだったり、何かの一枚向こう側であったキリエ。
 五年たってもその感覚はなかなか捨てられないし、この世界、不思議な人たちは不思議だが、不思議を知らない人たちは限りなくキリエの知る一般人の生活をしている。
 危険を避けて、その中で埋もれて暮らしていれば、時々は自らすら不思議生物であることを忘れてしまいそうだ。

「毒消しもポーションも金の針も、GFを装備していなければ使えない。ガーデンの専売品だしね」
「そうなの? 私の知るゲームじゃ、駅の売店とかで気軽に売られていたけど」

 現実を知らされて、やっと落ち着きを取り戻したようだ。
 そうそう、そうよね、と一人納得の言葉を呟く。

「その件はあとでいいわ。私が貴方達の世界に行けば、この身で実感することになるもの」

 にやりと笑った彼女の笑みは、必ず帰りつくことに奇妙な確信を与えるような笑みだった。

「私はでたらめを現実にしたいと思った。そして私は作り出す。系統知らずのばか者よ。そして私はこれからも水見式を行わない。デタラメを幻想に、幻想を現実に。科学の及ばない概念を私の幻想を介して現実に付与する。――で」

 次の彼女は商売人の顔だった。

「聞いた話じゃG.Iを入手したらしいじゃない。それに伴ってそれを手に入れるために集めていた資金は宙に浮いた。さらに、フィールに至ってはそれを投資してさらに資金を増やしていた。が、使い道は無い。はずよね? 元の世界へ帰れば、こちらのお金なんて唯の紙くずよ。なら、有効に使わない?」

 キリエは、冷めたとはいえ多少アルコールで頭の鈍くなっているスコールたちに、にっこりと笑いかけた。
 念というものはかなりむちゃくちゃで、法則性があるようである意味皆無だ。
 それは念具というものにも現れる。

 念で形作られた道具達。
 あるいは念を刻み込まれた道具達。
 それを作り出すことを自らの能力としたキリエ。
 だが、キリエはジレンマを抱えていた。

「元の世界で見た、数々の漫画やゲームや小説に出てくる凄い道具を作りたいと思いこの能力を得たというのに、能力の発動条件に金銭を組み込んでしまったがために、それを思うように発動できなくなっていた。痛恨の極みね」

 ちっ、とあからさまな舌打ちをする。

「たまに来るお客さんも、自分の望む能力を持つ念具を自らの資金に合わせて作らせるだけで、私の望むようなものなどまったく持って作れて居ない。そこで、貴方達と貴方達の資金の登場というわけ」
「思わず浮いた、グリードアイランド購入のための資金をか。まあ、他に使いきれるような使い道も思い浮かばなかったが……」
「私の能力は、自身の才能で足りない部分を、多額の金銭の授受を制約とすることでまかなっているの。まあ他にもこまごまあるけどそれはこの際省くわ。貴方達には有り余るお金、そして私には能力が。元の世界に帰っても、必ず役に立つと約束するわ。どうかしら」

 値は張るが、意味はある。
 そして今彼らは有り余るジェニーを持て余している。
 彼らの頭脳は、常にもとの世界に帰る事を前提に思考する。

 ここで求めた念具を向うの世界へ持ち帰れば。
 具体的にどのようなものを作成できるのかは聞いていないが、ゲームやアニメの中のようなでたらめを具現化したいというような女性だ。
役に立たないことはないだろう。いや、必ず役に立つ。
 Seedとしての任務について、生還率をあげる事ができれば、願ったり適ったりである。

 既存の物体に念をかけるというのなら、髪飾りから服、靴の先まで身につけるものなら何でもそろうということだ。
 それは、Seedとしての活動だけでなく、イデアたちスコールの人生を形作った者たちの思惑を外れて暗躍するうえでも、恐らくは役に立つ。

「いいだろう」

 いってスコールはフィールに手を差し出す。
 フィールはその手のひらに厳かに通帳を載せた。
 その最後のページを開いてキリエの前に差し出す。
 受け取り、その帳面を確認したキリエ。
 にやりと笑う。

「面白いことが出来そうね」

 ニヤニヤとした笑いを抑え切れない頬と唇。
 内心は高笑いだ。
「さあ、寝るわよ!! 明日からは、念具にするものを見繕いにいきましょう!!」








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