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三次試験 トリックタワー天辺。 ゴンたちがロッククライマーと怪鳥を見て騒いでいる丁度反対側の辺りに二人は立っていた。 タワーの天辺から見下ろす地面は遠く霞んでいる。 ちなみに怪鳥は数匹打ち落としてロッククライマーは無事である。 これも最終的な受験者の増加を狙うものである。 銃はメインウェポンに選ぶかどうかは別として、簡単な扱い程度ならSeed育成のカリキュラムに取り込まれているから、誰でも扱う事ができた。 「これ、天空闘技場とどっちが高いでしょうか」 「さてな。比較対照がないからな」 天空闘技場周辺はビルばかりが建っているし、逆にここの一帯は平地と木しかない。 「落ちるか……」 「トリックタワーは、試験が終わるまで出入り口はあいてなかったように記憶してますが……どうします? レビテト辺りを使えば、ここから降りても平気な気がしますけど」 「……トリックタワー、初めの合格者はヒソカじゃなかったか?」 「あ」 「あまり早く行くとヒソカとソロで対面するぞ。……俺は、ごめんだ」 互いの実質的な被害は、ヒソカがカレーを被っただけでヒソカ側からの物理的被害は無い。 それだけなのにこの嫌われよう、中々できる事ではない。 それだけメンタルでの被害が大きいという事だろう。 「先輩」 呼びかけに、スコールは小さく頷いた。 背後からこそこそと近寄ってくる気配。 あのヒソカに対してできない事を、なぜ自分達にしようとするのか。 分らない。 強さの本質を見抜けないものの哀れなのか。 とん、と軽く踏み込む音。 キルアならこの足音も完璧に消すんだろうな、とそんな事を思いながらフィールは右によけた。 ついさっきまでフィールがいたところに小汚い親父が飛び出してくる。 「ほわっ、とわ」 「サイレス」 「レビテト」 サイレスで叫びを封じて、レビテトで一応助けてやる。 まあこの高さだ。 落ちきるまでに意識をなくして、気が付いた時にはレビテトの効果は切れているだろう。 サイレスは治療しない限りかけた魔法の魔力が切れるまでずっと続くが、まあ魔法効果なんて良しに付け悪しきに付け、一晩もたてば治るような代物だ。 この世界の人間の魔法耐性が低いのが少々気になるが。 彼の不興などいくら買ったところでなんとも思わないが、下剤入りジュースなどのもろもろの新人潰しの仕掛けを、新人である自分達に仕掛けられなかった事が余程気に触ったのだろう。 あげくこの様では。 フィールなどはやすやすかかるどころか逆に遊び倒してやるくらいのつもりでいたのだが。 「あんたも容赦が無いな」 「まあ、あの手の手合いって、気に触るんですよ」 サイレスで叫びを封じたのはフィールだった。消え行く者の、叫びまで封じるやり方にスコールはフィールを見る眼を僅かに変える。 「……落ちていきましたね。ものすごいベタな展開で」 いちおう下を覗き込みながら、フィールが感心したように言う。 「死にはしないだろう。ここでは貴重なレビテトをサービスしてやった。それより、これでゴンたちの所は人数足りないんじゃないのか?」 言われてはっと気が付く。 「彼らには、汗と涙と苦労と、まあイロイロかさねて合格してもらうのがいいと思ったんですけど」 あそこでは、トンパがいたからなお彼ら四人の信頼は深まり、強い絆を得たように思う。 「けど、このまま待ちぼうけで不合格というのも……」 ある意味自分達のせいでもあるわけだ。 スコールが無言で【魔法の箱】から携帯食料の入ったバックパックを取り出すと、それを相方に押し付けた。 ちなみに医療関係はレオリオ任せの予定である。 「やっぱり僕が行くんですか?」 「関わるつもりなんだろう? だったら、傍にいなくてどうする」 といいつつ、体よく面倒事を押し付けられた気がするフィール。 スコールはさっさと周囲を見渡して、マッドピエロとハリセンボンがいないことを確認する。 むこうから、スコールたちを誘おうとゴンが駆けてくる。 時間がない。 「先に下りて適当な時間まで外で待機している。入り口は、無ければ作るさ。またな」 スコールは背中からまっさかさまに塔から落ちていった。 「えっ! スコールさん!!」 ゴンの叫びが辛うじて耳に届き、驚くゴンを宥めるフィールの姿が小さく視界の端に映る。 実際の自由引力以上のスピードでかっとぶように落ちてゆく。 あまり飛ぶのが上手くない怪鳥ではその動きを捉えきれない。 やった者勝ち。 直後、フィールはゴンとキルアにとっつかまり、五人仲良く同じ部屋に落ちていった。 地面に辿り着いたスコールは即座にデスペルでレビテトを解くと、ふと思案げに目を閉じた。 無ければ作る、と言ったが、へたな所を打ち抜けば塔が崩れる。 とりあえず円をしながら一周するかと思ったところで人の気配がした。 目を開ければ近付いて来る黒スーツにサングラスの男。 この組み合わせはどう見てもヤクザ者だ。 「まさか二人も落ちてくるとは思わなかった」 「いかなる方法を用いても、下まで辿り着けば良いんだろう?」 「ああ。間違いない。君は合格だ。そこに居るそいつと違って」 言いながら試験官らしき男は気絶して浮かんでいるトンパを指差す。 随分と風で流されたが、そう言えば飛び降りの基礎地点はほぼ同じだったなと顎をなぞる。 今まで気がつかなかったのは見たくなかったらだろう。 白目をむいて泡を吹く小汚い中年男。 「自分で降りてきたみたいだからな。それにしても――なんだ?これは」 それは浮かんでいるトンパの様子を指している言葉のようだった。 デスペル、と口中で呟くとどさっと無様にトンパは落ちた。 その襟首を捕まえるスコール。 「あんたはなかなかの実力者みたいだからな。短気を起こして壁を破られては堪らないと迎えにきたのだが……連れて行くのか? それを」 遠まわしに置いて行ったらどうだと言う試験官。 3日も気絶したままとは思えないが、もしそうであるなら失格にもできるだろう。 むしろそうなって欲しいと願っているような口調だ。 「まあ、本意ではないが……」 次の試験でクラピカとレオリオの得点になる、と言うわけにはいかないだろう。 スコール自身原作を知らないのでさしたる思い入れは無いが、フィールは心の熱いファンだった。 それに、彼らのどちらかの得点になるプレートとはならなくても、一枚分のプレートには違いない。 「ではいくか」 「できればもう少しここに居たいんだが……」 「ん? なんだ、訳でも有るのか?」 まさかヒソカが一番に来るから、とは今の時点ではいえない。 いくらなんでも未来予知じみてくる。 「いや、なんでもないんだ」 ゆるゆるといつものように首を振り、いっそ諦めて試験官についていく。 特例的に開かれた出口から入ったとたんに放送が声高にスコールの三次試験合格とナンバーを読み上げる。 見渡したそこにはやはり誰もおらず、誰もいないということは、外から来た事を知るものもいないということだ。試験官を除いて。 マッドピエロに関しては諦めたスコールだ。 それほど興奮していなければ、おそらくハンター証の獲得を優先してくれるだろうと思いたい。 希望的観測ではあるが。 六時間後。 ようようと下に下りてきたヒソカは、放送にかかる自分の順番、3の音に、きょと、と周囲を見やる。 そして、退屈そうに壁に背を預けて立つスコールの姿を見つけると、にんまりと笑った。 浮ついた足取りで近づくと声をかける。 「ねえスコール」 バトルでも申し込まれるのかと僅かに身構えるスコール。 が、直後拍子抜けした。 「僕とトランプでもしないかい?」 フィールがいてなお、彼らが塔を攻略したのは五十時間が過ぎた頃だった。 五人中五人がある程度気心の知れた相手と言う、とんでもない好条件において、それほどの時間がかかったのは――ひとえにレオリオがバカだったからだろう。 直情豪快、短気で大雑把、人情に脆く騙されやすい。 思わせぶりにされると、赤とわかっている事にも青と答えてしまう。 人がいいのは間違いないが、時としてうざったい。 とにかく。 出てきたゴンとフィール達五人組は、その視線の先に真っ先にスコールを探した。 が。 フィールに至っては見つけてコンマで眼差しをそらす。 「さあみんな、あっちには変態がいるからそっちにいこう?」 「え、でもフィール、あそこにスコールさんがいるよ? 呼ばなくていいの?」 「うん、いいのいいの。気にしちゃ駄目さ、ゴン。僕たちの身の安全のためにも」 フィールの視線の先には、くるりと半円に開けた異空間が映っていた。 二人でババ抜きをしてもしょうがなかったのだろう。 もはや人外の速さでカードゲーム、スピードを繰り広げるマッドピエロと憧れの先輩。 わりと近くにハリセンボンの姿もあった。 もしかしたら、彼らが三人きりだった頃には彼も一緒にゲームに興じていたのかも知れない。 間違って想像してしまったフィール。 ファンフィクションを読んでいるうちは笑えた。 だが。 もし自分の身に降りかかったらと思うと、間違いなく胃に穴が開く。 とりあえず、フィールは内心で両手を合わせた。 ごめんなさい、先輩。尊い生贄になってください、と。 三次試験トリックタワー、合格者二九名。 四次試験。 クジを引く。 ガーデン出向組みの二人は、歩きながら互いのそれを見せ合った。 「これ、どちらか一人落ちろって言ってますよね」 スコールの番号は101。 まったくマークしていなかった事から、おそらくはイレギュラー。 三次試験会場に辿り着くまでの飛行船の中で助けた人間が起こしたものだろう。 だが、直接的には彼らではない。 ざっと見渡しても、スコールの眼に飛行船で気絶させたに人の顔は映らない。 彼らが増えた事により道を違えて、生きて降りて来た人間だろう。 対するフィールの番号は、298。 何処のバーゲンだと言いたくなるが、安売りは出来ない男のものだ。 「あ、ねえ、スコールさんとフィールは何番引いたの?」 後ろを通り過ぎようとした所でゴンに声をかけられる。 「安心しろ。おまえ達の番号とは違う」 言ってひらりと101。 「僕も違いますよ。なんていったって、ねぇ」 こちらもひらりと298。 「298て、だれ?」 「え? あ、そうか」 そこでスコールがポケットから自分のナンバーの書かれたプレートをとりだした。 フィールのナンバーは三次試験の合格時に高々と放送されていたが、スコールの到着は一番。 その上、彼もプレートは初めからポケットにしまってある。 覗きこんでいた三人が仲良く声をあげた。 「「「あ」」」 そして気まずそうに身じろぐ。 「適当に三枚集めれば問題ないでしょ」 バッチリあてもあるし、いざとなればハンゾーだろうがポックルだろうが奪う気満々である。 キメラアント編を潰そうとは決めているが、それ以外の未来の改変などは興味が無いのだ。 「それより、あんた達は何番を引いたんだ」 気を取り直してスコールが尋ねる。 「俺は44番」 「おおヒソカか」 「まあがんばれ。何も真正面から勝負を仕掛ける必要は無いんだ。頭を使えば、プレートを奪うくらいはできるだろう」 言いながらもやっぱりなぁ、という気がするフィール。 これだけイレギュラーが増えて、それでもやはり彼は44を引く。 「オレは199番」 「あれか。あの蜥蜴っぽいの」 「トカゲ?」 「いつも三人組で行動してるやつらだよ。確かその内の一人のターゲットがキルアだったような気がする。黙ってても近付いて来ると思うよ」 「へえ。あんた、よくあんな弱そうなのまで覚えてるね」 「Seed筆記試験一位通過の記憶力、なめないで下さいよ? 記憶力には自信があります。一度見たことは大体忘れないからね」 えへんと胸を張るフィール。 「それにしても、お前よくそんな事知ってるな。プレートの覗き見なんて出来なかったぞ」 「Seedスキルです」 レオリオが感心半分奇異半分という目で言うと、フィールはおどけて言い返す。 「ということで先輩、僕はキルアに張り付きます」 「はぁ?」 怪訝そうな声に胡散臭そうな眼差しを上乗せして下からフィールを覗き込むキルア。 「三人セットという事は、二枚はプレートが余るって事。残りは僕に譲って下さい、キルア」 「……まあ、いいけど。情報も貰ったし」 「これでプレート二枚は確保完了。お二人は何番ですか?」 「私は16番だ」 「俺は246番。誰だかわかるか?」 「クラピカはトンパ。レオリオはポンズさんだね。帽子を被った女性だよ。あと残ってる女性といえば、サングラスをかけたスナイパーの人ぐらいだから、わかるよね」 「ああ。助かった。礼を言う」 「役に立つなら良かったよ。じゃあ、がんばって合格してね」 手を振りながらスコールを連れ去ってゆくフィールに、レオリオは豪快に笑った。 「おう、任せとけって! わははははははははは」 短慮であり、なかなか実力の伴わない男であるが、人としての好感はあった。 |
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ゼビル島。 一番で島内に潜入してから1日。 探すのに手間取ったが、早々にスコールは101のプレートを既に入手した。 マルタのような腕の筋肉、野性的なモミアゲ、飛び跳ねた黒髪。 見かけだけなら十分強そうだったのだが、いかんせん、見掛け倒しだった。 もちろんの事念能力者でもなく、単純に力だけならかなりあるようだったが、技巧の点に於いて森の梟に派遣された新人Seedだった頃のスコールにも敵わない。 男はもう一枚、イレギュラーのプレートを持っていた。 398番。 スコールに負けず劣らずバーゲンのような男のものだった。 だがこれで、いざとなったらフィールに譲る事ができる。 トカゲ三兄弟のうちプレート二枚の獲得はおそらく確定だろうから、これを譲れば確実に三枚になるだろう。 あの後輩は、今回ずっとキルアに張り付いているつもりらしいので、特にスコールとして関わりに行くつもりは無かった。 あとは、自分を狙っている誰かを撒くか、倒してしまえばいい。 理想はプレートの奪取だが。 マッドピエロとハリセンボンから距離を取るつもりだったスコール。 そうなれば、ある程度は相手の移動にあわせて逃げる事になる。 ハリセンボンに関しては、プレートの点数が揃えば狩猟時間まで地中で潜伏するらしいので、気にするべきはほぼマッドピエロのみ。 既に六点分のプレートを手にし、マッドピエロとハリセンボンにさえ気をつけていれば後はほぼプレートを奪われる心配もする必要のないスコールは、余った時間を念の開発にあてる事にした。 監視員はいるが、スコールの移動についてこられる時点である程度の念能力者である事には間違いない。 能力を見られることをよしとするわけではないが、見られて問題のある能力でもない。 一見移動用の念に見えるそれの本当の目的は、何とかして世界の壁を越える事なのだ。 が。 用心には用心を重ねて、スコールは監視員に夢を見てもらうことにした。 元の世界で睡眠を引き起こすスリプルの魔法と、【魔女の創造】のもつ力のひとつ、精神操作を組み合わせて作り出した念だ。 そういう効果が起こると設定して作り出した念であって、まだ使った事は無かったのだが、これで検証も出来そうである。 「スリプル」 唱えると眠気を誘う特殊な音波が対象に向かう。 音を手段とする魔法なのに、指向性を持たせられるのが不思議な魔法だ。 音は対象以外にも聞こえているのに、効果は指定した対象にしか現れない。 魔法に耐性の無い監視員はすぐに睡眠状態に陥った。 木の上で。 危うげなバランスを保ちながら規則正しい呼吸を繰返す。 その睡眠状態に、精神操作系の【魔女の創造】を重ねてかける。 これで、彼にとって都合のいい夢をみるはずだ。 試験番号298番、スコール・レオンハートを監視しているという夢を。 立ち去っていなくなっても、気が付かない。 彼の記憶には、目の前にいるスコール・レオンハートが映し出される。 目覚めた時の揺らぎも、きっと、何時の間にか眠ってしまった。 気が付いたら監視対象がいなかった。 その程度で終わるだろう。 そういう風に作った能力だ。 元の世界に帰れない限り、スプリルの魔法の数限り、限定百回というしょぼい念だが。 ふだん、【開門の審判者】を発動させる条件となるエデンとディアボロスはフィールがジャンクションしている。 一度使うたびに一月エデンを召喚できなくなる念だ。 どちらかがエデンを召喚できる状況を維持した方が良いとの判断から、【開門の審判者】はフィールしか使わない。 実力の点から言っても、いざという時の逃走手段としても、フィールが持つほうがいいと判断した。 その二体のGFを、今スコールが預かっている。 このハンター試験中は、さしあたって、マッドピエロとハリセンボンくらいしか脅威が無い事と、周囲のほぼ全て念を知らない者で囲まれる中で使用する機会は無いと判断しての事だ。 そしてフィールはキルアと共にいる。 念を知らない者の前で【開門の審判者】を使うつもりは無い。 だから、フィールがキルアに付くといった時からこの時間でも開発に当てるつもりはあった。 はっきり言って、スコールは焦っていた。 こちらに来てから二年。 元の世界と一切の連絡がつかない。 通信機が使えないのは仕方がないことだとしても、エルオーネの異能をもってしても、だ。 時にすら干渉する彼女の能力が、たかだか世界の壁を越えられないのか、それともそれほど世界の壁は強固なのか。 自分たちをあっさりと通り抜けさせるくせに。 二年という時において、エルオーネが一度もその異能を発揮していないとは思っていない。 最も今に近い過去。 それに接続できる彼女の能力は、今までもスコールたちが必要とすれば使われてきた。 それが二年、何の接触も無い。 こちらの時と向うの時が等価かどうか、わからないが。 スコールは焦れていた。 何もかもが気になる。 リノアはどうした。 エルオーネはどうした? ガーデンは? Seedは? 魔女問題は? エスタは? 親父は? 自分の、進退は? 死体も見つからない行方不明という現状において、二年如きで鬼籍に入れられるとは思わないが、それでも不安だ。 二年、魔女の騎士を失った魔女の進退は? 魔女の騎士、その映画がリバイバルされて好評を博すように、世界にとって魔女はすべからく悪だったわけではない。 アデルとて、魔女だから封印されたわけはなく、その暴政に民衆が耐えられなくなっただけだ。 その後のエスタの民に対して、魔女は敬意を払いつつもいい印象を得なかったようだが、少なくともアデルは魔女だから封印された訳ではなく、暴君ゆえに排除されたのだ。 だが。 エスタのアデル、ガルバディアのイデア、イデア亡き後サイファーの背後にあったアルティミシア。 魔女はその力を見せ付けすぎ、魔女は世界に悪名を売りすぎた。 この短期間、それこそアデルの時からここ数十年で魔女のイメージは恐怖に変わりつつある。 その一方で、魔女の騎士の映画を放映する、アンバランスな世界。 世界に拒絶されても、自分だけは受け止めると、そう思っていたのに、傍にいてやる事もできない。 だからきっとそれは、焦りが生み出した奇跡――いや、悪意か。 わざわざ遭難者を一人、増やしてくれたのだから。 「あれ〜? 僕なんでここにいるんだろう。ていうかさ〜、ここ、どこ?」 「ア、アーヴァイン!」 「わ、スコ〜ル〜!! いったい何処に行っていたのさ!」 銃を片手にきょろきょろと、いつものようにのんきな口調で何処からともなく現れたのは、かつての仲間、アーヴァイン・キニアスだった。 スコールたちの持つ発信機が反応しなくなってから一日半。 発信機が反応しなくなった直後にラグナロクによる付近の上空探査が行われ、その後、何の異変も見つけられず、アーヴァイン・キニアス――僕をを筆頭とした探索隊が編成され派遣される。 伝説のSeedの仲間は忙しいからね。 そこから出たのは僕だけだけど。 で、Seed一人に候補生二人のスリーマンセルで、スコールたちの探索開始。 正直、行方不明がスコールじゃなかったらここまで早く探索隊が派遣される事もなかったと思うよ。 で、なんだか霧が立ち込めてきたなー、と思って、はぐれないようにって他の二人に声をかけようと思ったらもういなくて、気が付いたらここ。 どこ? ここ。 どう見ても探索部隊として派遣されていたエスタの大地じゃない瑞々しい森林、森深く、なのにどこか潮風の香るような空気。 「あれ〜? 僕なんでここにいるんだろう。ていうかさ〜、ここ、どこ?」 「ア、アーヴァイン!」 「わ、スコ〜ル〜!!」 心持寂しくなって呟くと、捜し求めていた声によく似た声で名前を呼ばれた。 振り返ると本人だった。 まったく、何してるんだろうね? 君も、僕もさ。 やっぱりここ、どこさ? 唐突にやってきたアーヴァインと、木の上で器用に寝こける監視員をちらりと視界の隅に納めながらこちらとあちらの事情を交換し、わかった事がある。 あちらでは、無線の電波を喪失してからまだほんの二日程度しか時間が立っていないということだ。 二年と二日。 とんでもない時間差だ。 世界の壁を越えてしまえば時の流れすら等価ではないのだろうが、これでフィールが【固定の概念】を用いて老化という概念を停止させていなければ、向うの世界で十日後に戻ってきた自分たちは下手をすれば三十才に近いか過ぎている。 さらにこちらの事情を説明し、彼が理解した時、とんでもない表情をした。 「うわ、まさか、本物! クラピカにレオリオも! あっちはへ……」 “ヘンタイピエロ” 探して見つけ出したのは、ちょう連れ立ったクラピカとレオリオが、ヒソカと対峙してプレートの交渉をしているところだった。 ヒソカを見て、思わず出かかった言葉を最後まで言い切らなかったアーヴァインに内心で拍手喝采の気分になるスコール。 「……もしかしてここって」 「理解したならとっとと逃げるぞ」 ヒソカなら、おそらくアーヴァインの気配に気がついているはずだ。 スコールは絶を覚えたが、念を使えないアーヴァインにゴン並みの気配断ちを強いる事は出来ない。 この世界と自分たちの世界では、ボディの基本スペックが違う。 「アーヴァインは知っているのか、この世界の事を」 駆け足で逃げながら問い掛けると、アーヴィンは少し考えるそぶりをしてから答えた。 「うん、だってねぇ、ガーデンの図書館に陳列されているし。僕は暇が出来ればああいうのとりあえず一通り読むからさ」 「アーヴァインももしかしてあいつの同士か?」 「なんの?」 「ネットでドリショウとあいつは言った。意味はよくわからない」 「……ごめん、僕もわかんないや」 「そうか」 むしろ安心したようにスコールは息をついた。 残りの時間を、二人はひたすらに話し合った。 その話し合いのメインは、口裏を合わせだったが。 こちらでの二年の生活を通して作り上げたガーデンやSeedという存在のあり方、魔女という名に寄せた方便など。 少なくともスコールより原作を知るアーヴァインの理解は早かった。 そして少なくともスコールより早く現状を受け入れていた。 場所を変えてしまったせいで、一時期眠らせてしまった監視員を置いてきてしまったが、プレートにつけられているという発信機で居場所を知ったのだろう、何時の間にか監視員は復活していた。 人員が変わっていたが。 少なくとも受験生ではないアーヴァインは不審者だろうが、今はスコールともども監視するのみに止めているようだ。 接触してくる気配は無い。 アーヴァインはスコールが【魔法の箱】から取り出すフィール特製握り飯を食べてご機嫌だ。 スコールたちの世界から見て理不尽の塊のような念を見て、納得行くと同時に高揚しているらしい。 原作を読んだということは、これ以降のある程度の流れがわかるという事だ。 スコールは、フィールがこの後もゴンとキルアに付いていく事を望んでいる事、それを自分が了承した事を伝えてある。 ついでに自分も念をおぼえる気でいるのだろう。 元の世界へ戻るための念を開発している事と、フィールと合流すれば早々、アーヴァインにも【固定の概念】をかけることも伝えてある。 こちらとあちらの時間の価値を知り、彼も納得した。 彼もあちらに愛しい人を残している。 セルフィとアーヴァインの仲は、彼のひたすらな努力により確実に結実していた。 常に明るく振舞ってはいるが、微妙に不幸体質なセルフィ。 自分に対する好意にとことん鈍い。 鈍い上に受け取らない。 彼女は己で自己完結してしまう人間だ。 何もかもを一人で抱え込んで、一人で解決してしまう。 それを不自然とも思っていない。 そもそも他人からそういう好意をむけられると思っていない。 自発的に向けることも無いからだ。 傍から見ていてスコールは、アーヴァインには荷が重いと思ったが、それこそ時間と努力とみなぎる思いで壁を切り崩していったアーヴァイン。 頭が下がる。 それは、どこか彼の諦めからもあるのだろう。 石の家から出て、セフィに幻想を重ねてきたアービン。 繰返される時は、幻想ではないセルフィをアーヴァインに知らせた。 彼が望んだ『元気なセフィ』の幻想。 仲間として戦いながら、仲間など必要としない自己完結する人格。 トラビアでも多くの人に慕われ、バラムでもあっという間に人の心に入り込み、それでなお、自らに他人を必要としない人間。 病的なまでのそれを知ることが、アーヴァインの諦め。 ちょろまかしたクモワシの卵や、握り飯、現地で採取した食物をのんびりと食べながら、おそらくは念の暴走で唐突に現れた頼もしい仲間と共にスコールの四次試験は恐ろしく平和に過ぎていった。 なによりも、最後の方の、興奮したマッドピエロとの遭遇を回避できた辺りが。 試験終了の放送が流れ、受験者達がスタート地点に集ってくる。 そのなか、プレートを持たない受験者でもないアーヴァインの姿に集った受験者の視線が集る。 首を振って視線を確認し、彼は気障に肩を竦めた。 その視線は、さりげなさを装いゴンとキルアを凝視する。 「ねえスコール」 「なんだ?」 「絶対に帰ろうね」 「もちろんだ」 力強く、意思を交わす。 未来を望む彼らの眼光は鋭く、意思を秘めて輝く。 先に到着していたマッドピエロがそれに興奮するのを無視して、彼らは後方へ下がった。 僅かに遅れてキルアと喋りながら戻ってくるフィール。 この一週間で随分と馴染めたようだった。 かれもまたぐるりとあたりの人間の顔を見て、わざとらしいほど大仰に瞬きをした。 それを不審そうにキルアが見上げる。 「どうしたんだよ」 「いや、ねぇ。幻覚?」 「はあ?」 「いるはずの無い人がいえるんだよね」 「居るはずの無いって、ここは試験会場だぞ。しかも孤島。誰がもぐりこんでくるってんだよ」 言いながら、キルアもぐるりと周囲を見る。 そこに見つける、見た事の無い顔。 「いる……」 「ああ、じゃあやっぱり幻覚じゃないんだ」 「だれだよ。しってんの?」 「アーヴァイン先輩?」 「やっほ〜、フィール」 ひらひらと、実にのんきに手を振るのは。 フィールにとっては実に二年ぶりの再会となる憧れの一人。 敬愛するスコールと肩を並べ、互いに背を預けあい戦う戦士の一人。 伝説を冠する仲間。 いるはずの無い男。 アーヴァイン・キニアス、その人だった。 合格者11名 アーヴァイン、不審者にもかかわらず、堂々と移動の飛行船に乗り込む。 咎めない協会側もどうかと思うのだが。 |