欲望
 それは、ほんの偶然だった。
 貴重品の収集家、というわりには人相のいい六十前後の依頼人。
 オルソ氏。男性。

 仕事の内容は警備。
 数日間、その蒐集品を展示したあと転売するとの話だった。

 天空闘技場での資金稼ぎは打ち切り、山に引き篭もったりもしていたが、現在は以前にもまして仕事に精を出している二人。
 協力者のいる隠蔽工作は、今まで以上にバッチリだ。
 億単位からの仕事しか受けない。
 こちらが金を欲しがっている事は分っているのだろう。
 値切りのないいい依頼人だ。

 十日で二人、三十億。

 金額的にもなかなかいい。
 まあ、こんな若いのが二人やってきたことには驚いていたが、そこはそれ、過去の実績は作ってきている。
 文句を言うようなら依頼は蹴ろうと思っていたが、二人のつける仮面を見てそれが噂の、と呟いている時のスコールの顔は見ものだろう。

 今日のスコールは以前の仕事で脱色した髪のまま、ほかは特に変装らしき事もしていない。
 得意のガンブレードは、ほぼそのために作ったと言っていい念能力に収納中だ。まあ、途中から利便性を追求していたが。





【魔法の箱】
スコールの具現化系能力。
能力
ウエストポーチのような縦長の黒い箱。
生物以外、スコールが持ち上げられる重さだと能力に判断されればいかなる物も収納できる。
体積にかかわらない。
食品も腐らない。

ルール
生物(動物)をいれる事は出来ない。(有精卵はOK。ただし、一度入れると孵化しない)
入れようとすると、3日、使えなくなる。
スコールが持ち上げられる重量であれば、実際に持ち上げなくてもいい(たとえば、表面が滑らか過ぎて持ち上げられない、など)




 対するフィールは少し熱が入っている。装飾を限り無く少なくし、髪も撫で付け少し硬い雰囲気を出している。服装も、板が入っているんじゃないかと言うほどパリッとしていた。

 スコールは眼差しは動かさず、気配だけでフィールを責めた。
 依頼人は警備の名目で十日、彼らを雇っておきながら、その半分はなぜか彼らは依頼人と共に蒐集品の展示部屋にいた。
 公衆に展示する場所ではなく、依頼人のプライベートだ。
 二人が警備する目玉の品を、まだ決めかねていて、あれでもないこれでもないと、五日間スコールとフィールと討論した。
 それすらも目的だったようだった。

 呪われていそうな念のかかったルビーの指輪や、親指ほどもあるファイアオパールのペア、そして見つけたのは、彼らが売り払った命の指輪と復活の指輪。
 思わず凝視し、沈黙した。

「おお、これかい? 気になるかな」

 今更ノーと言うのもわざとらしい。フィールは二つの指輪を見たまま言った。

「ポジティブ(肯定)」

 今回の演技はフィールにしてもまれに見て気合が入っている。

「確かに、きになるな」

 指輪二つに弾丸二種をまとめて質入れして15万ジェニーの品物が、行くところへいけば彼ら二人の雇用費など霞のように消え去る値段が付くものばかりが集るここに一緒になって並べられているのか。

「これはねぇ、ちょっと前にオークションで手に入れたんだけど、なんなのかは結局わからないんだよねぇ。でも一つに二億を出した価値はあると思うんだ。なんだか雰囲気のいい指輪だしねぇ」

 のんびりと語る。

 二億。
 一つ二億。
 指輪ひとつ五万だとして四千倍以上、だ。
 巡り巡ってとんでもない値段になったものである。

「欲しい?」

 ふざけている、と言うよりは、本当に望むかどうかを尋ねる口調に戸惑う。

「ネガティブ(否定)。私達はそれを必要としていない」

 答えるフィール。
 復活の指輪はもう無理でも、命の指輪ならもう一つは作り出せる。
 手に入るアレイズはジャンクション上も有効でこちらでは何処の魔物を相手にしても手に入らない魔法だ。
 だが、消費しなければ増やす必要もない。

 ここにくる以前のSeed任務の折にフィールはスコールと同輩のSeed、ずばり伝説のSeedの仲間達から魔法を譲り受けている。
 それはフィールだけではなく、スコール及び伝説のSeedの仲間と任務に当たるSeedは必ずそうなっているのだが。
 ただのSeedとスコールたち伝説のSeedでは身体能力の基本が違う。
 得意とする能力が違う事は互いをカバーする事からも好ましいが、身体能力の極度の差異は作戦に支障をきたす。
 根本の違いを、極度に高度なジャンクションでカバーするのだ。

 伝説のSeed組みとセルを組むSeedは、かならず組む以外の伝説のSeed組みから魔法を預かる。
 若輩のSeedはスコール及び伝説のSeedとの任務に憧れながらも、実際についてみれば戦々恐々だ。
 自分達ではめったに扱えない高度魔法のオンパレードで怖気づくのだ。
 上クラス魔法や禁断魔法とすら呼ばれる魔法たち。
 それは名前に相応しいだけ入手も難しいと言う事である。
 憧れと畏怖の存在から預けられた魔法と言う事もあって、なかなか使えるSeedはいない。

 シュウやニーダ辺りは結構普通に使ってけろりとしていたが。

 興味を無くしたスコールは、奥の方へ進んで依頼人が興味を引きそうな品を探している。
 聞いてみればよくある話だったというのもある。

「そお? なら、これは売り出すのはやめて僕がつけていようかな。君たちが二人そろって気になるって言うし、やっぱり何かあるよね」

 いい事だといいよねぇ、と実にのんきだ。
 白いあごひげを扱いては嬉しそうに笑う。
 そんなときだった。

 奥のほうを探索していたスコールが、古書の間に挟まれているそれを見つけたのは。
 何かを見つけたらしい気配を敏感に感じ取って、依頼人がうきうきとスコールの所へ行く。

「これは……」

 本棚に並ぶ本よりは遥かに背が短い、プラスチックのケース。
 じーっと、老眼が始まっているのだろう目で、依頼人がそれを見つめるからぐいっとスコールはそれを突き出した。

「グリードアイランド……欲望の島」

 それの名を呟く。

 じーっとそれを見ていた依頼人は、それから目を離すと疲れたようにため息をついた。
 目をシパシパと瞬かせている。
 疲れ目だ。

「欲しい?」

 また、尋ねる。

「そうだな。プレイするにも特別な条件がいると言う、限定百本のゲーム」

 しかも、まだソフトのままだ。
 ジョイステーションにセットされてすらおらず、マルチタップを使えばフルで八人分、メモリーカードがさせる。
 正直、手に入るなら欲しいと彼らは思う。
 この機を逃せばこれは、おそらくバッテラのところに流れてゆくのだろう。
 そろそろハンター試験も近い。
 来年の九月には、また大きなオークションが開催され、そこにも多くのグリードアイランドが出品されていた。

「じゃああげる」

 あっさりと依頼人は言った。

「いや、だが」

 オークションにかければ彼らに支払われる報酬より遥かに高値が付く代物だ。
 譲渡すると言われても、受け取っていいものかどうかすら戸惑う。
 断りの言葉を言いかけたスコールの言葉も、依頼人の言葉にかき消された。

「うーん、よし。じゃあ、成功報酬に上乗せするってことでどうだろう? 今回の警備の仕事で、ここから選んだ特別展示室の物達を護りきれたら、これあげる」

 子供のようにキラキラとした目で、これはいい提案だと自分を誉めている。
 何かを、誰かにあげる事に執着しているようにも見える。
 あるいは、彼らのことが孫子のように見えているのかもしれない。
 年代的にはおかしな事はないのだが。

 蒐集しているわりには、驚くほど蒐集品に対する執着がない。
 のんびりと楽しそうに、けれど何を考えているのか分らない。
 何も考えていない、の可能性も候補へ入れておく。

 この屋敷、家人がやたらぴりぴりした眼差しで二人を見るのだ。
 殆どが一般人なのだが、その眼差しは今までになく二人を警戒する。
 仮面を被っている怪しさは認めるが、ここまで警戒されたのは初めてだ。
 しかし依頼人が現れると誰もが柔和に微笑む。
 裏は感じられない。
 それはそれだけ、この屋敷の主、今回の依頼人が愛されていると言う事なのだろう。
 見るからに怪しい二人組みを、主を騙す者ではないのかと警戒している、おそらくそうなのだろう。
 まあそんなこんなで報酬が上乗せされ、彼らの五日間の警備が始まった。





   仮眠室を隣接させた特別展示室。
 そこで二十四時間、六時間交替で警備に当たる。

 カメラの死角の隅っこで絶をしていると、大抵の観客はこちらを振り返らないまま通り過ぎていくのでありがたい二人。
 ときどき気が付く人間は、展示品と共に彼らを鑑賞して帰っていく。
 興味と言うよりはちらちらと、なにあれ〜、見たいな視線が痛い。
 だが、暇と屈辱を重ねる警備の四日目。

 それらを吹飛ばすものが現れた。
 いままで眠っていた珍しいものが展示されている上に、ここの依頼人が警備にSeedを雇ったと言うのも知るところでは知れた事だろう。
 あの時は随分と興味を引いたようだったから、くるかも知れない可能性は、思っていたが。

「フィール、起きろ」

 夜、訓練も兼ねて円を広げていたスコールが、突然フィールを起こした。

「ん……、なんですか、先輩」

 眠い目を擦りながらも素直に起きるフィール。

「賊が来た」

 ぴんと、フィールの背筋がのびて眠気がとんだ。

「どんなやつらですか」
「強いな。オーラを隠そうとする気配がまるでない。数は――八人」
「なんだか嫌な予感がするんですけど。でも、違いますよね? 彼らだったら、きっともっと派手にくるでしょうし」
「そうだといいな」

 たしかに、念使いとしての気配は隠していないが、その他の進入のやり方は彼らにしてはおとなしい。
 人の警備は外周だけで、館内の警備はSeedの二人だけなのだが。
 警報はいちいちきっているし、連絡が来ないと言う事はカメラも避けているのだろう。
 機械は念使いの力を関知しない。



 本当に来やがった。
 フィールは内心そう呟いて、こんな事体にもまったく揺れないスコールを見た。

 強がりでも張ったりでも、こういう時にしゃんとした姿を見せられると、不思議とつられるように自分も冷静になれる。
 フィールはスコールの姿を見て、心が静まっていくのが分った。
「ふっ、久しぶりだな」

 オールバック、団長スタイルのクロロが背後に七人の旅団員を従え言った。
 パクノダ、シャルナーク、マチ、コルトピ、ヒソカ、フェイタン、ノブナガ、そしてクロロ。
 ウヴォーギンはいない。
 パクノダをつれて来たのは、改めてどちらかの記憶を読ませるつもりなのだろう。

「天下の幻影旅団が、随分とおとなしい登場だな」
「今回は、おまえ達と話す時間が欲しかったんでな。外野がうるさいのは好ましくない」
「残念だな。俺たちに話す事は無い」
「そういうな。今回、ウヴォーギンを宥めるのは大変だったんだぞ。正体不明のSeedを、やっと見つけたのに、粉々にされては堪らない。それに、ここの蒐集品は、中々のものだ。全て、掻っ攫わせてもらう」

 にやりと、楽しそうにクロロは笑った。

「そう易々とやられてはSeedの名折れだ」
「Seedランクが下がると生活に関わりますし」

 フィールが半ば悪乗りしてスコールの言葉に追随する。

「明日の閉館時間まで警備すれば仕事は終わりだ。それまで、排除させてもらう」
「できるか?」
「できるさ。フィール、後は任せた」
「了解しました」

 旅団員のオーラが高まる。

「そう言えば、俺の念能力を見せた事は無かったな」

 敵対意思よりも、興味が勝ったのが雰囲気で判る。
 展示会場を破壊される事があっては元も子もないので興味を、自分の念に移させたのだが、乗ってくれたようだった。
 特にクロロなどは、使えそうならば盗む気もあるのだろう。
 まあ、狙われても、この世界に残る気は無いので、元の場所へ帰るまで逃げ切れば勝ちだ。
 悪い勝負じゃない。

 一歩踏み出したスコールの背後で、フィールが楽しそうに叫んだ。

「OK, it is show time!!」




「【異界創造】コレクションコード【ペルソナ】」




 その時。
 旅団のメンバーは、スコールの背後に純白の翼を持つ蒼い衣の女を見た。



 シャリン、と涼やかに彼方から飛来したガンブレードが床に突き刺さる。

 その無改造の黒いガンブレードを基点に景色が――変わった。

 雷鳴轟く黒い空に、乾きひび割れた地面。
 先にも後にも道は無く、四方を断崖に囲まれた小島。
 それは、かつて魔女アルティミシアを倒した時に訪れた、スコールの心象世界。
 己を形成する全ての過去――記憶を失って、乾き、ひび割れた消滅間近のスコールの心。
 何処にでも生まれ、そして何処にでも開く広く無限の――小さな閉じた世界。





【魔女の創造】

分岐【異界創造】
スコールの特質系念能力


能力――特異空間。概念世界の創造。
       能力者の円の範囲内にある、任意の存在を招く事ができる。
       自分自身の内面世界だけでなく、自身が見た印象深い景色、場所なども“コレクションコード”をつけて能力に記憶させることで異界として作り出せる。




全ての創造異世界に以下のルールが共通する。
ルール――リノアの騎士を止めたとき、能力を失う。
    発動には、短い詠唱が必要。
    一度使うと、対象を排出した時間時間と、内部で使用した能力を時間換算した分、次の使用までの時間に加算される。
    実質内部の存在を送り出すことができる時間は七日先まで。
    内部の存在は過ぎた時間を体感できないが、外界で過ぎた時間は彼らの上からも失われている。
    敵対存在の時間も喰い荒らし、能力は発動する。
    断じて瞬間移動の類ではない。
    この空間の内部で、スコール自身、あるいはスコールの能力による呼びこんだものの殺害はできない。
    スコールが脱出して後、人間以外であれば内部に閉じ込めたものを空間ごと消滅させることはできる。殺害とは判定されない。
    が、一年、スコールのための絶対空間は封印される。
    カードゲームのカードコレクションのうち、レベル8以上のレアカードを全て所持している状態でのみ発動が可能。




“コレクションコード”【ペルソナ】
     魔女という存在に対して、スコールの認識、想像するすべてを制限無く再現できる、かつてから今の、全ての心象を再現する空間。

 この空間は、能力者に対して絶対の味方である。

物質透過
精神操作
時間圧縮
念獣の創造
存在の消滅
エトセトラ




 その多様性、万能性に対して、制約はあまりにも緩い。
 だが、念が心、精神に起因する要素が強いものならば、決して不可ではない。
 それはそれほどまでに深く、自らの魔女を思うスコールの心。
 それをリスクととったのか、能力は驚くほど安定した。

 一途に思う心が裏返してどれほど危険なものであるのか、と。

 この能力を創ったとき、能力に改めて問われた気がしたスコールだった。




「ほう」

 クロロが唸る。
 その手には、スキルハンター。

「残念だが、あんたが盗んでもこの念は使えない」

 空間から声が響く。

「やはり、能力の事も知っていたか。……何処にいる?」
「ここだ」

 霞が凝るように、旅団の前にスコールが現れる。
 その手には、ガンブレード。

「俺たち八人を相手にたった一人か?」

 それは強さを自覚する者の台詞。
 実働、戦闘タイプではないのも二人ほど居るが、それでも変わらないだろう。
 実に好戦的なのが二人いる。

「ボクとしては、一対一でヤりあいたいけど◇」
「フィールは仕事の時間だ。二人いれば分担は当り前だろう」

 挑発とも取れる余裕の言葉に、キチリと空気が軋む。

「なにも、戦うだけが能じゃない。最優先項目は、展示会の警備だ」

 一人先走ったフェイタンの仕込み刀がスコールを切り裂く。
 が、スコールは傷ひとつ無くその場に立つ。

「……なんね、切れなかたよ」
「面白い能力だな。実体ではないのか?」
「説明してやる義理はないだろう」
「それもそうか」
「で、どうするんだ、団長」

 ノブナガが刀に手を添えながら言った。

「ここがどういう特徴を持つ空間かわからないが、パクノダ、隙を見て記憶を読め。やれ」

 答えて、高まるオーラが、弾けた。

「悪いが俺も警備に戻らないとならないからな。相手をしている時間は無い」

 するりとスコールは行ってしまう。断崖の向う、足場の無い中空へ。

「悪いが、帰ってくれ。【時間圧縮】」


 発動の直前に、スコールは世界から消える。
 あとには、小さな世界に取り残された八人の人間。
 だが彼らの体感時間でものの数秒としないうちに、彼らは世界から放り出された。



 閉じた世界が開いた場所はヨークシン、繁華街のビルの上。

「っち。どこだここは」
「……ヨークシン」

 警戒を解かないまま呟いたノブナガに、クロロが答えた。
 街頭テレビがニュースを流す。


『二日前、強盗に進入されたオルソ氏は、盗賊の追跡を断念する事を発表しました。幸いにも盗まれた物は無く、被害は――』


   ありえないはずのニュースが流れたそのあと、時報が鳴った。


『午後九時をお知らせいたします』


「9時、だとよ」

 彼らが侵入したのは午前二時。

「どういうことね」
「あのたった数秒で、もう二日もたったって言うのかい!」
「してやられたな」
「ここからじゃ、どんなに急いでも3日はかかるしね◇」

 口々に言い募る。

「いったいどういう念能力なのかしら」
「さあな、だが興味深い」
「盗んでも使えないって言ってたよ?」

 コルトピが長い髪の下から楽しそうに笑うクロロを見上げる。

「手に入らないオモチャは、壊したくなるものだろ☆」

 ヒソカが怪しく笑った。




 一方、自分の作り出した閉鎖空間を抜け出したスコールは、そのまま展示会場に戻っていた。
 座標はそのまま、引き続き警備をしていたフィールの前に現れる。
 念能力を発動し、旅団と共にこの場を離れてから一分とたっていない。

「お疲れ様です、先輩」
「ああ」

 実際スコールは疲れていた。
 一時間も堅をやったような気分だ。

 【魔女の創造】の能力、それを三つも一度に使ったのだ。
 オーラの消費も激しい。

「明日まで警備を変わります。今は休んでいてください」
「たのむ。それと、侵入者の報告をしといてくれ」
「了解しました」

 既に緊張感の欠片も無く、スコールは仮眠室に引き上げた。
 そして、残り時間もつつがなく警備終了する。

 翌日の展示会終了後、彼らは報酬の振込みを確認し、追加報酬のグリードアイランドを手に入れた。
 依頼人は最後まで読めないとぼけた老人だった。









 夜道を、ひらひらと手に入れたグリードアイランドのソフトを玩びながら歩くフィール。
 仕事の後始末も済ましてから出ると、時間は深夜を回っていた。さすがに時間帯のせいか、周囲に人はいない。

「これ、本物ですねー先輩。原価でも僕たち二人の報酬の二倍以上ありますよ?」

 ぽん、と上に放り投げると、くるくる回って落ちてくる。
 それを横から捕まえて、スコールは【魔法の箱】にしまい込んだ。
 原作の主人公達はあれほど入手に苦労し、バッテラに至ってはそれこそ血眼になっていたのにこの扱い。ありがたみが薄い。

「入ってみます?」
「楽しみは後に取っておくものだろう。それよりフィール。お前はこれからどうしたい」

 そう言えば。
 近付いて来るハンター試験を前に、あまり詰めた話はしていなかったな、と思い出すフィール。





 彼はまだ、自らの心の矛盾に気が付かない。










閑話
「レオリオとクラピカは何処にいるかわからないから仕方ないとして、接触できそうなメインキャラとは大体接触できましたね! 先輩」

 空気を詰めすぎた風船の如く――

「まあキルアはまだゾル家にいるんでしょうけど、あれはあの家が会わせる気は無いようでしたし。イルミは間違って口を滑らしちゃった時、知り合いだと言い訳が聞きそうで会ってみたかったんですが、それほど気にしているわけでもありませんし」

 伸ばしすぎたゴムのように微妙に白々しく喜ぶフィール。

「幻影旅団にあっちゃったのは厄介ですけど。ヒソカはいいとしても、マチさん、もしかしたらこの先の時間軸の天空闘技場で見つかるかも知れませんし」

 興奮気味なのは、本編――ゴンたちの受けるハンター試験が間近に迫ってきているからだろう。

 幻影旅団のアジトを崩壊させたり、小遣い稼ぎの気分で天空闘技場に舞い戻ったフィールがウィングさんと男の友情を築きあえるような熱い戦いをしてみたり。
 それがきっかけで仲良くなってみたり、仕事中のイルミとニアミスして追いかけられたりと、まあ騒々しい月日だったりしたが。

 結局のところ、イルミからは逃げ切っただけであり、相手はまだこちらの事を知らないだろうと思われる。
 ふたりはボチボチとザバン市を歩いていた。
 それはもうすぐ訪れる。
 ほんの七日と経たない内に。

「じゃ、先輩、僕はここで」
「ああ」

 飯所、ごはんと書かれた定食屋の前で二人は分かれた。
 今日はまだ下見の段階だ。

 フィールはこれから鯨島を経由する船ヘ。
 あの港で船に乗り、嵐を通ってやってくる。
 そしてスコールはこの町で時を待つ。

 駆けてゆくフィールの背を見送って、スコールもまた踵を返した。

 まだここに用はない。







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