今じゃないどこか



スコールの独白

 昔、だれかがぽつりともらしたその話を聞いて驚いたことがあった。
 俺たちのように孤児院から来たようなやつ等は別として、両親や兄弟が揃っていた一般的な家庭、というもののある場所から来た奴らからきいた話だ。

 いつか、どこかから、今の家族じゃない誰かが今の生活の外の世界にはいて、自分をこの日常から連れ出してくれるんだ、と夢想したことがあるらしい。
 信じられなかった。
 母親や父親、兄弟や祖父母。血の繋がった家族が居て、それなのにここではない何処かに本当の家族が居るんだ、って思った事があるらしい。
 俺たちのような人間ならわかる。
 孤児院と言う場所柄、血縁者を望むのなら今居る場所の外にしかありえないからだ。
 だが、家族全てが俺たちみたいな人間からすれば幸福な形で揃っていて、それでもそういう夢想をすると聞いて、俺は驚いた。

 それも一人や二人じゃないらしい。
 事あるごとにおまえは川から流れてきたんだ、橋の下で拾った子だよ、と言われて家出したことがあるやつもいた。
 本人たちにしてみれば今じゃ笑い話だろうが、俺は内心で愕然としていた。

 自分は本当は子の家の子ではない。このつまらない日常から連れ出してくれる本当の家族が自分にはいるんだ。
 少なく無い人間が一度はそう思ったと言う。

 驚いて、そのずっと後まで考えてそして僅かな納得が浮かび上がった。
 おそらくそれが、平穏なのだろう。
 平穏が壊された世界を知る人間は平穏を尊ぶ。
 だが平穏しか知らない人間は、それをつまらない退屈なものと捉えがちだ。
 そしてエスタが沈黙してからの十七年は、ガルバディアが野心を燃やしティンバーやドールに度々勢力を伸ばしていたが、それ以外の場所に置いては概ね穏やかと言えただろう。

 理論立てての理解は出来た。だが、感情での理解まで及ぶ事は無かった。
 それを知ることには大きな驚愕が伴っていたが、結局俺にとってはただそう言う人間も多いのだと、ただそれを知っただけだった。

 家族、なんて昔は考えたことも無かった。
 思い出した家族であるエルオーネは忘れてしまうまでは何処かにいることを知っていて、それは外から迎えに来てくれて俺を今から連れ出してくれる存在ではなかったように思う。
 俺が、強くなったら。一人で生きられるようになったら。Seedになったら。
 外の世界から俺のところに戻ってくるのだとしてもつれてゆく場所は新たなる場所ではなくエルオーネが消える以前の世界だった。
 エルオーネが居る世界。それは過去の俺にとってもっとも平穏である世界。
 それが、俺の認識だった。

 父親や母親と言う存在が、そもそも俺の認識の中には、無かったんだ。




アーヴァインの認識

 スコールからちょっとした話を聞いた。
 スコールはその話を聞いてとっても驚いたらしい。驚いたままどこか上の空のような状態で僕にその話を聞かせていた。

 それは幼い子供の夢想だった。
 今じゃない場所へ連れて行ってくれる誰か。
 僕は実際よくある話だと思う。

 例えば家族と喧嘩した時に、今の両親は本当の両親じゃないんだ、と思う。
 おまえは家族の誰にも似てないな、とからかわれたり、スコールがいった事じゃないけど、それこそ木の又に捨てられていたんだって話を信じたり。
 毎日を退屈だと感じたとき。
 父親や母親に不満を募らせたりしたとき。
 子供は良く――まあ頻繁じゃなくても人生に一度くらいはきっと、そういう夢想をしたことがあると思う。

 もっと単純な話、現状に対する不満、ってやつだと思う。

 けれど僕達は今が大好きだったんだ。
 ママ先生がいてエルお姉ちゃんがいて、一緒に遊ぶ子供たちもいて、僕達はなに不自由なかった。
 セントラと言う場所柄そこそこ危ない事もあって、毎日退屈なんて無かった。
 それに僕はスコールを羨んだり妬んだりセフィにあわ〜〜い恋心を寄せてみたり、サイファーに苛められていたり色々忙しかったと思う。

 けれど何よりの違いは、多分僕が本当の家族って言うやつの事を知っていたことだと思う。

 僕は両親を知らない。
 家族を知らない。
 けどそれはスコールのように隠されていたわけじゃなくて、本当に居ないからだ。
 僕は自分に親や兄弟どころか引き取ることを申し出てくるような親戚の類が全くいないことを知っていた。
 僕の場合、外の世界からやってくる誰か、と言うのは既に死滅していたんだ。

 GFの記憶障害のせいで思い出せないわけでもないほど僕の両親は僕が幼い時に死んだらしい。
 ぼくはすぐにイデアの所に行ったと言う話だけを知っていて、両親が何で死んだのかとか、そういうことは全く知らない。
 知らなくても、居ないことだけは知っていた。
 スコールとは違う意味で僕には夢想の余地は無かった。

 アデルの女の子狩りの被害にあったんじゃないかな〜って、ちょっと思っているけどそれが真実なのかどうかも分からない。
 イデアに聞いてみたこともなかった。
 ふつうは興味を持つのかもしれないけど、とにかく結果として僕は今でも聞いていない。
 いつかイデアかシドが死んだら、永遠に時間の波に呑まれて消えるんだと思う。
 それでもエルオーネの能力が残るけど……。

 いつか聞くのかもしれないし、知りたくなる時が来るのかもしれない。もしかしたら知る手段が全部失われてから後悔することになるのかもしれない。どれにしたって今は分からない事だ。
 僕は今、聞こうと思えない。

 僕は両親が居なくて、昔から両親のことについて知りたいとあまり思った事が無かった。
 スコールじゃないけど、親って物があまりわかっていなかったと思う。
 イデアの孤児院はセントラの突端にあって、住む人も訪れる人もほとんど居ない場所だった。
 だから、僕達は家族っていうものを見たことが無かったんだ。
 養子にもらわれるまで僕も血の繋がった家族って言うやつを知らなかった。

 知らないものを羨む事は出来ないからね。
 僕自身はやっぱりスコールと同じでそういった夢想は無かったように思うけど、養子にもらわれた先の僕の弟がそれを思っていたことは知っている。
 何でか知らないけど、僕に話してくれたし。

 きっとこの世界のどこかには、自分をこの家から連れ出してくれる本当の家族がいるんだ。
 だってさ。
 ビックリした。
 その頃はまだ彼は小さくて、僕がもらわれっこだって事を理解しきれていなかったみたいだけど、そういう発想ってあるんだなぁって。思った。

 いい人たちだったよ。だから彼も、大きくなって事情を理解したときには僕にそういった話をしたことをとても申し訳なさそうにしていた。
 けど、僕はそれほどショックじゃなかったんだ。たぶん、相手が思う以上にその人たちが僕にとって身近じゃなかったからだと思う。
 僕が彼らに感じていた距離感と、彼等が僕に感じていた距離感は随分違ったと思う。

 エルおねぇちゃんとか、ママ先生とか、僕はスコールと違って覚えていたから、スコールが彼女達にしていた認識と僕が彼女たちにしていた認識、まあ距離感、かな。それも随分と違うと思う。

 なんか色々思うところはあるけど、結局ボクは良くわからないんだ。
 スコールの驚きも分かる。けど多分ぼくはボクの弟だった少年の気持ちも理解できる。
 スコールよりはずっと長い間そういうものを知っていたから。
 ならボク自身はどうかって、そういうやつが僕は良く分からなくなっちゃった。

 けど、いまはどうでもいいんじゃないかっておもってる。
 すべての疑問に答えが用意されているわけもないし、理論的なことならともかくこれって感情論じゃん。答えなんてそもそも無いんだよね〜。




セルフィの結論

 アーヴィンとスコールが話し込んでいるのをちょこっとだけ聞いていた。
 といっても、立ち聞きとかじゃなくて、食堂で私の後ろのいただけだけど。
 私のほうが後からきたから話の全貌はぜーんぜん分からなかったけど、今じゃない場所へ連れて行ってくれる誰かの話、らしい。
 あれ? 迎えに来てくれる誰かだったかな〜〜。
 まあいいや。

 とにかくそういった話をしていたような気がするんだ。すぐにいなくなっちゃったけど。
 スコールはどこか上の空で〜、あたしに気付いたのはアーヴィンだけだったけどね。

 ごはん食べながらちょっとだけ考えてみた。
 いつか自分を迎えに来てくれて、今から連れ出してくれる誰か、か〜。
 いたらいいな〜って、思ったことあるかもしれない。
 いつごろだったか忘れたけど。

 ママ先生や他の孤児院の子供たちやエルお姉ちゃんは確かに家族だったかもしれないけど、ママ先生は絶対にママから先生をとって呼ばせてくれなかった。
 自分以外に本当に生んでくれた人間が居るんだって知っていてほしいって言っていた事をかすかに覚えているけど、だけどそのせいで絶対にある一定以上の距離感はあったと思う。

 ママ先生は優しくて穏やかで、自己犠牲的なところも持っていて、けどとても強かった。
 魔女として強かっただけじゃなくて、子供たちを守るためならどんなことにも折れなかった。
 大切なママ先生だったことは確かだけど、何かが違うような気はしていたし、ママ先生もそう仕向けるところがあったと思う。
 いま聞いても、きっと答えてくれないんだろうな〜。

 トラビアに行ってから、笑わなあかんて思ってた頃があった気がするから、多分その頃にはもうそんなこと考えなくなっとったような、そうでもないような?
 笑わなあかん、なんてそんなこと考えとったのも少しの間だけだったし。
 そのうちに考えなくても笑うようになってたし。
 今なら、ちょ〜っとだけ、ちょっとだけ、無理して笑ってたのが分かるかな〜、って気がするけど、あの頃は無理を無理ともおもってへんかったからな〜。
 そういえば、あたしはあのころ何をおもっとったんやろ。

 フォークを加えながらうーん、って唸ってたらマナー違反よ、ってキスティスに怒られた。
 考えたって仕方ないとおもうんや。
 だって、あたし今がと〜〜っても! 幸せだから!
 無理して笑わんでも、毎日笑えるって、幸せやとおもわへん?




キスティスの断言

 食堂に行ったらセルフィがいたから、丁度いいから一緒に食事を取ろうと思ってランチをのせたプレートをもってセルフィのいるテーブルにいったら、なんだかあの子、フォークをくわえて唸っていたわ。
 マナー違反であることももちろんだけど、危ないからって取り上げてちょっと怒ったら、セルフィったら、怒られたのに凄くうれしそうににっこり笑ったの。
 まったく、反省しなさい、と言って席に着いたら、藪からに質問をされたわ。

 曰く、
「ねえ〜、キスティスは小さい頃に『自分をここから連れ出してくれる誰か』がいたらいいな〜、って思ったことある?」
 だそうだったわ。

 さっきまでそのことについて唸っていたのかしら。
 だったら、私には一つだけ言えることがあった。
 だから全霊を以って断言しておいたわ。

「バカね。そんなこと、覚えているわけ無いじゃない」  









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