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夢の庭の種になる日
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霧枝はこちらの世界に来てから長い間意識を失った状態で病院につながれていたので、その間の動乱を知らない。 いかに素早くスコール達が行動し、どれほどの意思を貫き通して改革を進めたのか、全ては後から聞いた事だった。 ガーデン規則が大幅に改定されたらしい。 らしい、と言うのは霧枝が以前の規則についてそれほど詳しく知らないために、何処がどう変わったのかよく分らないためだった。 しかもさすがに霧枝はまだ部外者であり、その会議には参加していない。 スコールたちの手によって、何処にどう改善を求めるのかは事前に聞かされていた霧枝だったが、申し分けなく思ってはいたものの彼女私自身にとってあまり重要だとは思って居なかった。 ガーデンがダメなら何処かに移ってまた生きるだけの話しだ。 ガーデンが全てではない。 ある程度の水準以上の文化的な生活の確保できる環境だ。娯楽もある。 特に今はガルバディアでデリング政権の下抑圧されていたさまざまな思想や文化が開花しているらしい。 何処であろうと不満は無い。 最悪ガーデンから排斥されてもそれで死ぬわけではないと霧枝は開き直れた。 後は座して待つのみ、と言う状況だった。 まあ、その改定が認められればかなり霧枝にとっていい条件が揃う事は確かだった。 可能であればその恩恵を受けたいとも思っていたが。 まず第一に二十歳になったら強制的にSeedを除隊するというシステムが撤廃されるらしい。 スコールもアーヴァインもフィールもおそらくあちらの世界に行ったときのまま外見年齢は変わっていないとしても、内面的に流れた時間を数えればとっくに二十歳なんて越えてしまっている。 そうでなくてももう間もなく二十歳だ。 Seedを引退する年が来る。 キスティスは教師として復職して、同時にすでにSeedはやめていたが、全てが現役から撤退すれば確実に影響力は少なくなる。 目的のためにも高い影響力を得るためにも黙ってみている事はできないだろう。 そもそもSeedが二十歳まででなければならない必要性が過去の魔女戦争により消滅した。 過去ガーデンは世界の広さを知りガーデンの虚実を知る事になるだろう世界に生徒を送り出すことを躊躇った。 世界を知った後で再びSeedにさせてSeedの虚実に気が付かれることを恐れていた。 だが今ならば、むしろ更なる広い思考を養ってからおいで、と言うことが出来る。 そういえるように体質改善していく兆しはガーデンの中からでていたらしい。 第二にSeed試験受験資格が二十歳までではなくなる事。 実力があれば何時まででも受けられるらしい。ただし、年に一度から数年に一度は継続してSeedで居られるかどうかを判定するための試験も併設されるらしい。 ガーデンに所属していなくてもSeedになった時点でガーデンの所属となるから外部からのいきなりの受験もありにしたいらしい。 だがこれの導入には今決定しても数年掛かるだろうとのことだったが。 それに併せてガーデン入学試験と言うのも更に年齢が上のものにも解放するという話しだ。 スコールや孤児たちのように幼いときからガーデンに居る者たちはエスカレーター式の学校の如く入学試験なんてものは無い。 いままでもガーデン入学には面接の方が重要視されているらしく、実技やペーパー試験はそれほど幅を利かせていなかったらしい。 だが有る程度以上年嵩の――具体的にはいままでSeed資格を持てなかった年齢の人々に対してガーデンのSeedとなるチャンス、門戸を開くための方策らしい。 他にも色々と細かい改定がなされたらしい。 そしてこれからも少しずつガーデンの行く道にあわせて、必要な物を求めて改定はなされていくだろう。 とりあえず、これで霧枝にもSeedになれる資格が発生したのである。 関係者でも有るが完全に内部のものではない中途半端な立ち居地から抜け出す事ができる。 Seedになっても、常に力を衰えさせないために訓練のカリキュラムを組むことが出来る。 正式に任務に付く前にある程度の訓練期間もある。 Seedになれば、霧枝は大量の先生の存在を獲得する事ができるのだ。 すでにスコール達の厚意によって指導者を得る事は叶っていたが、空いた時間や使われていない場所を以ってこそこそと隠れるように指導を受けるのではなく、堂々と指導を得て己を伸ばしてゆく事ができるようになるだろう。 ソードやショートソードの扱いを覚えれば双剣の扱いはもう少し上達するかもしれない。 GFを利用し、魔法を使用するための正式な訓練を受けて使えるようになれば戦闘の幅が広がり生き残る確率も上がるだろう。 取り合えず徹底的に素養の無い射出系以外のあらゆる武器の適正を見たい。 増えてゆく未来の可能性に、霧枝の心は沸き立っていた。 この私、御堂霧枝がらしくもなく弓などを手にしたいきさつなどについて、少し記録を残そうかと思う。 いや、たいした事じゃないんだけど、私もガーディアンフォース使ううちに記憶無くすかもしれないとそう思ったから。 ほら、オダインが記憶喪失を防ぐためのバンクルを作ったって言うけど、オダインも道具も信用しきれない感じがあるからね。 オダインはああいった性格だし、道具はメンテナンスなどで身から離す事もあるし。 そういうときにGFを行使する事態が起きないとも限らないから。 こんな些細な事からでもちょっと記録を残してみようと思った。 読んでいますか? 未来の私。 あなたはこの日のことを、覚えていますか。 そう、切っ掛けは些細な事だった。 いつものように訓練をしていたときだった。 一人で。 双剣の教官が居ないのだからしょうがない。 刀剣類や、腕につける小型の盾――こういうのって、バックラーとか言うんだろうか。 まあとにかくそんな感じの盾と剣を併用した戦い方を教わって、盾を剣に脳内変換する事で右でも左でも使えるように訓練する。 普通の、ガーデンに教官が居るプログラムでも一人でやらなければならない工程は存在するけど、専門の教官が居ない私の双剣はさらにその一人でやるプログラムの時間が長い。 正直な話し、失敗したと思っていた。 奇をてらうんじゃなかった。 双剣は確かに珍しい部類だけどガンブレードよりは多い。 珍しさのランクは確実にガンブレードより下だ。 スコールの活躍以来ガンブレードを使おうという人間は増えたみたいだけど、モノになっている人間は多くないしね。 不器用なのにこんな代物に手を出して、さ。 ちょっとは珍しいんじゃないかと思って手を出したのに本当にちょっとしか珍しくなかった上に、上達しないからには飽きっぽい私は訓練にも身が入っていなかった。 そんなときにアーヴァインに言われたのだ。 「キリエってさ、前から思っていたけどあんまり集中力無いよね〜」 「そ、そうかな?」 「いまだってそうでしょ。もう訓練に身が入ってないんじゃないの〜?」 飽きっぽい。 それは自覚していた。 指導者が居なければサボりがちな事も自覚していた。 それはもしや言い換えれば集中力がないというにも通じるのだろうか、と。 言われてふと考えたのだ。 集中力が足りないから、上達しないんじゃないか、と。 ひとつのことを繰り返す根性がないのか。 野球のピッチャーが延々と投球練習をするように、下っ端料理人が毎日ジャガイモの皮を剥き大根を桂剥きにし、科学者が明日にはきっと成果が出ると信じて何もない顕微鏡を覗き込むように、缶詰の検品の技師が日がな一日缶詰の蓋を叩いて音を聞き分けるように――。 真剣にアーヴァインにそう伝えたら、彼はいつもの仕草にいつもより呆れを二割り増しで多く含めて肩をすくめた。 「もっとさ〜、他にたとえは無かったの?」 と。 微妙、だろうか。 的は外していないと思うけど、鉛玉を撃ったと思ったら万国旗が付いた吸盤が飛び出してきたようなものだろうか。 「ほっといてよ、もう。センス無いのは知ってるから」 「面白くは有るんじゃないの〜? 笑えないけど〜」 「アーヴァイン……。私の訓練を見に来てくれたの? それとも冷やかしに来ただけ? だったら悪いと思わないから帰ってちょうだい」 「一応見に来たんだけどね。キリエには指導の前に必要な物が有るんじゃないのかな〜って。見ていて思ったからさ」 「それが、集中力?」 「そう」 そうして私は考えた。 集中力を養うにはどうすればいいのだろうか、と。 飽きっぽい性格の改善にもなればなおの事好ましい。 そう思って考えた。 ヨガ、瞑想、座禅、蝋燭の火を見つめる、そのほかにも三種ほど試してみた。 残念ながら日本の剣道みたいな物は無かった。 剣道は精神性をより重視する傾向が有るからいいと思ったのだが。 二刀では有るが剣術使いでもあるわけで、それは残念だった。 瞑想ならともかく剣道は相手が居なければしょうがない、というか指導者が居なければ私にはやりようが無かった。 瞑想も座禅も途中から昼寝に変わったし、思い当たるのを片っ端方とりあえず手を付けてみたが眉唾もあっただろう。 結局身につかなかった。 ふとそんな時に、私はとあるゲームをプレイした。 FFシリーズはタクティクス。 そこに出てくる弓士――アーチャーのアビリティにあるのはなんと言う事、精神統一。 そこを見て、洋弓のことは詳しく知らないが和弓ならこれもまた精神性が高い事を思い出した。 同じ物が手に入るとは思えないが、やってみよう、と。 ロングボウはカッコイイ。 FF12のロングボウを構えるフランは凛々しくて格好良かったなぁ、とまた馬鹿なことを考えたのだ。 その時私は忘れていた。 アーヴァインによって徹底的に銃器に才能が無いと示されていた事を。 物は違えど射撃に変わりは無い。 弓は見事なまでに上達しなかった。 ガーデンには弓の教官も居て、まだ正式にガーデンの一員ではないので僅かな時間を得ての訓練だったが、きちんと基礎から教わる事もできた。 教官にここまでやればだれだってとりあえず的に届くようにはなるはずだ、とまで言わせた。 もちろん、届かなかった。 幾度も指摘されて直したつもりでも、私はどうやら射撃のときのブレが治らないらしい。 どうしてぶれているのか何時ぶれているのかやっている本人が全く分らないのだ。 幾度言われても。 いや、上達しない物ってつまらないわ。 ここで諦めなかった人間が将来的に大物になれたりするのだろう。 だが、私には無理だった。 というか、私が諦めるより先に教官にほかに適正ののあるものを専攻しなさいとあきらめられた。 根気強い教官を諦めさせるほど、今回の私は弓を使う事に対して粘り強かったとも言える。 結果が伴わなかった事が寂しいといえば寂しいし虚しくも有るが、必ずしも努力に結果が付いてくるとは限らないのが世の中だ。 だがして努力無しに結果が付いてくる事も無い。 努力をやめた時点で、人は成功の可能性すらも捨てる――。 そう思い、私は今日も弓を手にする。 誰しもに諦めた方がいいといわれたロングボウを。 誰もが捨てた。 私には無理だと。 だからこれは私の意地だった。 未来の私、もしこれを見ていたなら思い出してほしい。 私はそうして弓を手にした。 未来の私、貴方はまだ弓を手にしているだろうか。 私の意地だった。 そして結果の伴わない努力だった。 だが努力を捨てたとき人は手にはいったかもしれない結果も捨てる事になるのだと思う。 結果は未来にしかなく未来は人には覗けない。 いま、これを書く私はもしかしたらの未来を捨てたくないとそう思っている。 「……昔の私って、こっぱずかしやつだったのね〜」 恥しさを誤魔化すように、そう独り言を呟いて日記帳を閉じた。 何が昔の私だ。 書いたのは三日前じゃないか。 これで弓を忘れていたら三日坊主の典型じゃないのか? いや、弓自体はそろそろ三月になる。 練習時間も体力に物を言わせて人の二倍は有るだろう。 けど、こんな決意表明のような日記を書いて三日ではあまりに情けなさ過ぎる。 もうすぐ私にもSeed試験がやってくる。 規約改定、私もSeed! と浮かれていたのも過去の話だ。 Seedの筆記試験に蹴躓いている。 筆記試験対策に追われていて、今は時間を食うだけで成果の無いロングボウを使っている余裕は無い。 ああ、なんだろう。 私の目指した反則キャラが遠ざかってゆく。 最強はまあ無理だとして、それなら反則的な人間に成りたいと思っていたのに。 でもカンペをつくってカンニングするのは私の目指しているカッコイイ反則的な人間じゃないような気がするからやりたくない。 絶対に。 カンペで合格してもどうせ後で我が身に帰って来る。 私の知り合いはカンニングで高校に合格したけど結局学力が追いつかなくて退学した。 金田一三世の漫画では学力が追いつかなくてカンニングした挙句に殺人事件にまで発展しているのだ! ろくなことは無い。 それくらいなら素直に落ちて次にかけるさ。 Seed試験の門戸は確実に広がっている。 少なくとも年齢はハードルではない。 ペーパーテストに合格して実技にまで通ればその時はとりあえず双剣で行こうと思っている。 この決意表明から三日、実は弓に触れていない。 集中力の無さが災いして、勉強の合間に息抜きと目の前にある日記帳をとりあえず手にしたところが運のつき。 これで勉強時間をどれくらい潰しただろうか。 筆記試験は苦手だ。 実技まで行ければ受かる。 だが落ちるとしたら確実に筆記だと言い切れた。 ハンター試験以来の久しぶりの受験者になりながら、ぼんやりと思った。 Seedに合格できたら、時間が出来たら、また弓を手にしようか。 このままではあまりに情けない。 そう、情けなさ過ぎる。 そう、集中力の復活しない私はぼうっと考えていた。 それは後できちんと祟る。 Seed筆記試験、私の点数は合格ボーダープラス一点。 一つあった三角に救われたんだろう。 誰だこんなお茶目な採点をした奴はありがとう心底ありがとう。 テスト用紙返却時にキスティスから言われたお小言は生涯思い出したくない感じだった。 自分の情けなさぐらい分っている。 何とか合格して、ほっと息をつく。 実技なら、もう落ちる要素は無い。 それなら少しは時間が出来るだろうかと、私は手を見た。 一ヶ月の間に弓だこが出来ている。 肉刺が潰れて皮膚が硬くなって、もう弓長い時間弓を引いていても痛みは感じない。 私は弓を捨てない。 キスティスニもアーヴァインにも教官にもスコールにも他にもありとあらゆる人からやめて置けといわれた。 そうまで言われるとむしろこう、反骨精神がわきあがるというか、いつか見返してやろうと思うと言うか。 もしかしたら百年後には当たるようになっているかもしれないじゃないか。 そうして私は訓練所にいく。 ひとつ憂いが晴れたのだ。 Seed筆記試験と言う憂いが。 今こそその時、と言う奴だろう。 たぶん、きっと。 |