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キユ思い
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エスタに、視察に行く事になった。 魔女と共に有るガーデンとして、パッキング装置のあるエスタ、魔女記念館への視察だった。 俺が壊したパッキング装置も、すでに修理され、壊されたのをいいことにバージョンアップされ ていた。 ここにもまた、オダインの無駄に回転する脳みその知識が使われたのだろう。 いつか、ここにリノアが封じられるのかもしれない。 そうじゃないのかもしれない。 どんな未来を辿って、そして魔女がアルティミシアにたどり着くのか。 知っているのはアルティミシアだけ――いや、アルティミシアももはや覚えているのだろうか。 最後の戦いのときのアルティミシアは、一言ごとに言う事が違ってくる事があった。 もしやあれも、一秒ごとに次々と記憶を失っていたのかもしれない。 それを知っているのは、アルティミシア本人よりも、アルティミシアから未来の情報を読み取った魔女達の方なのかも知れない。 尋ねるつもりは、無かったが。 繰り返す過去と未来の中で増え続ける、魔女の力。 俺たちの過去に干渉していたアルティミシアは、一体どれほど繰り返した末にいる魔女だったのだろうか。 リノアは、ずっと笑っていた。 そして笑い続けていたい、と願っていた。 その言葉を俺は聞いたことがある。 魔女、と言うのがなんなのか。 歴史学者テムの推測に寄れば、それは人間の創造主であるハインの半身、粗野な腕力という肉体を取り払った魔法のハインだ。 魔女がその魔法のハインの子孫なのか、あるいはただ力の――魔法のハインの継承者なのか、それとも魔法のハイン自身なのかは、テム自身も結論を出して居らず、現在でもそれは結論付けられていない。 魔法のハインは守られるべき存在であった女になり、その中で魔女として生き続けて生きた。 死に瀕して力を継承し、次の魔女へと身を潜ませて。 魔女の力は魔女の記憶を浸食する。 過去も、今も失って、魔女は孤独のなか身を震わせる。 それ自体なら、ただのGFのジャンクションと変わらない。 なのに、何故魔女が特別となるのか。 魔法のハインが何処へ行ったのか、今も神学者達は議論を交わす。 魔女の力の継承は、継承の後も魔女が自分の意思を持っているために、単純に力の継承だと思われている。 だが、本当にそうなのだろうか。 ただ力のみを繋げていくなら、なぜ魔法のハインは己の体を粗野な腕力と魔法の力とに分けたのだろうか。 それではただ人に屈したに過ぎない。 魔法のハイン。 高慢なる神が、己の作った道具に反逆されて、ただ黙って力を明け渡すと? 魔女の歴史は多くの悲劇があったが、魔女が人の意思を持つ限り、結局のところ魔法の力すらハインは人に明け渡した事になる。 ハインにとって人は従順ではない道具、牙を剥いてくるならモンスターと変わらない。 そんなものに全てを許して置けるほど、矜持が低いとは思えなかった。 その意思はどこに行ったのだろうか。 GFと同じ、似たようなものだとするのなら、力には意思が付随する。 GFも、人の中にはいれば外部に意思を示す事はなくなるが、その中には確実に個を確立した意思がある。 それはハインの力、魔女の力も同じなのではないだろうか。 GFをジャンクションすれば、人は記憶を失ってゆく。 GFは人の記憶を侵食するが、人の全てをまっさらにするほどの力は無い。 だが、魔女の力なら? 魔女の力、ハインに記憶を浸食されてまっさらになっていく魔女。 消えていくその場所に、ハインは現れるのではないだろうか。 消えていく魔女の記憶の中にハインは現れる。 魔女も無意識に、ハインは現れ己の道具である人を使う。 道具は道具らしくあれと、ハインは魔法の力を使いそして人は魔女と対立する。 過去、子供たちを燃やし尽くしたハインに人が反逆したように。 ハインと人との対立は、魔女と人とに置き換えられて続いていく。 ハインにとって人は道具に過ぎない。 器が死に掛けたなら、死なないように力を尽くし、新しい新鮮な器を見つけたら壊れかけた器を放棄する。 そうしてハインと人との物語は次の世代に続いていく。 心優しき魔女は喪失に、ハインの意思の現れに抵抗する。 自分を自分たらしめてくれる記憶を抱いて。 少しずつ、だが確実に記憶を蝕んでくるハインに抵抗する。 だが喪失に抵抗するための記憶すらハインに喰らい尽くされて、魔女は何を思って己を保てばいいのだろうか。 自分が誰だかわからない。 その時、ハインは現れる。 魔女は魔法のハインの力の継承者であり、あるいは魔女となりえる人間と言うのは魔法のハインが始めになった女の子孫なのかもしれない。 そして後天的には魔法のハインそのものになるのだろう。 記憶を食い尽くされて、浮かび上がってくるハインに魔女の――魔女と呼ばれる一人の女の自我が呑まれる時、ハインはこの世に復活する。 時間圧縮は、リノアの意識の願いだと思っていた。 だがもしかしたら、それは魔法のハインの願いでも有るのかもしれない。 魔法のハインが本当に人を作り出したものであり、そして幾度も自分に反逆の牙を向ける人を捨てようと思った意思なのかもしれない。 全てを一つにして、また新にハインに、魔女に逆らわない人類を作り出す。 時間圧縮と過去の魔女へのジャンクション――継承を繰り返し、影響力を増やしいずれ魔女はハインになるのか。 時間圧縮が成功したなら、世界の全てと一つになることで魔女はハインが捨てた野蛮な腕力だけの力も取り戻す事になるだろう。 魔女はハインに――唯一絶対の存在に舞い戻ることになる。 時間圧縮が失敗したなら、魔女はリノアの思いに従って過去へと行き、俺を導く。 過去に力を継承し、ハインの力はなお強くなるだろう。 時間圧縮は成功しても失敗しても、ハインにとって損は無い。 一つ繰り返すごとに魔女の中のハインは強くなる。 ハインはそれをじっと、待てばいいのだ。 幾度繰り返すのか。 魔女の自己犠牲は何時になれば終わるのか。 待ってなど居られない。 俺たちはチャンスを手に入れた。 絶対であるはずの時の流れ、それを狂わせる事になるのだとしても、この果ての見えない輪転をとめてみせる。 小さな余暇が出来たので、一人で石の家へやって来た。 約束の場所だ。 俺は、リノアが魔女である事は構わないと思っている。 だが、リノアがアルティミシアでなければいいのに、とも思っていた。 リノアがアルティミシアであるのではないか、と言うのは全てが推測に過ぎなくて、その中にはもちろん否定できる要素もあった。 だけど、真実を知る人間達は口を噤んだままだ。 エルオーネの躊躇い、イデアの計略、リノアの沈黙。 異世界に行って妙な力を手に入れはしたが、エルオーネのようにジャンクションできる能力も持っているわけじゃない。 他人の心が読めるわけじゃない。 エルオーネも、イデアも、リノアも。 アルティミシアの内面に触れることのあった彼女達は未来に口をつぐんだ。 悪いことを言葉にすれば真実になる。 言ったのは、ラグナだったか? そんな些細な事でも恐れているようだった。 リノアにも、俺たちがあったことを明かしている。 これからの目標、リノアの魔女からの解放と将来にアルティミシアを生まない為の方策も伝えてある。 嬉しそうに笑った。 とても、大げさなくらいに喜んで、けど一人になったときに泣いていたのを知っている。 だがいつかは忘れてしまうんだろう。 そのことも。 いっそ全ての記憶を攫ってしまえばいいのに、GFも魔女も半端に記憶を、情報を残して奪っていく。 忘れた事さえ忘れてしまえば楽なのに、欠片が有るから無くなったピースが気になってしょうがない。 俺は自分が孤児院に居たことは知っていた。 なのに誰と過ごしたのかを全く忘れていたように。 姉がいたことを覚えていたのに、その姉の事をずっと忘れていたように。 自分の名前すら忘れて、アルティミシアは約束の地を覚えていた。 誰と約束したのかも忘れたのに。 約束の内容すら忘れたのに自分を鎖で約束の場所に繋いでいる。 俺はそんなリノアが、哀れで愛しくてならなかった。 リノアは閉ざされていた俺を開いてくれた。 そのリノアを、俺はこの場所で、約束の地に繋がれた場所で、一体後幾度殺せばいいのだろうか。 心に、体に、あと幾度このガンブレードをつきたてるのだろうか。 その時を思うことは疎ましく、だが魔女リノアにそれを許されているのが俺一人だと思うと、誇らしくもあった。 他の誰にも渡さない。 リノアを殺していいのは俺だけだ。 だが叶うなら、力に翻弄される事なく穏やかに、過ごしてみたいとそう――心から思う。 この花の枯れた約束の場所で、変わり果てた景色を示す約束の地で、俺はらしくもなく何かに願った――。 |