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つかの間の英雄達? ネタ庫
どれも話としては繋がっていない別個の時間軸であり設定であり、どれもが一つの物語に対するIFです。それぞれの話に関連性はありません。 |
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つかの間の英雄達? 1
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星満ちる夜空を見上げて、片手で帽子を抑えて落下しながら彼は横を振り返った。 白くて黒くて赤い男が驚愕五割、呆然二割、その他色々三割で構成されたような表情で、隣を落ちる彼を見る。 その男をみて、彼は多少自嘲気味に唇を吊り上げた。 凍りついたように表情をこわばらせる男に向かって気障に二本の指を振る。 こうして落ちていることは想定外だったけど、まあ目的は果たせたようだね、と、彼は意外と暢気だ。 この高さを落下してまったく無事であるかは彼をして謎だったが、死ぬことだけはない確信はあった。 だが隣の男はどうなんだろうな、と。 だが、そうだ。 自分は、この男がこの程度では傷一つなく瓦礫の上にふんぞり返ることを知っている。 うん。問題なし、だよね? 体にオーラを張り巡らせ、墜落に備える。 それでも、このままでは首から落ちる。 痛そうだなぁ、と、そう思い彼は重心をずらした。 とたんに腰から落ちることになる。 これ以上重心移動をしている余裕はない。 どちらにしても痛そうだな、と。 彼はともに落ちる男の変わりに再び空を見上げて―― 轟音とともに墜落した。 パラパラと、残骸と塵が体の上に降り積もる。 年経た洋館は、そのさまざまなところに秘めた埃という歳月を、容赦なくばら撒いて、視界を煙に巻く。 むくりと起きて、異物感に下を見ればそこには白くて黒くて赤い男が。 とっさにかばわれたのだろう。 あの距離を落下して、今更人体の一つや二つ、何の代わりになるかとも思ったが、あれだけ落ちて屋根を破壊して、それでも無傷で居られる人間が相手なら別の話かもしれないと彼は思考した。 どんなにねじくれても、やっぱり根っこはエミヤシロウなのかな〜、と。 「ノーロープバンジーは、勘弁願いたいね〜、よっと」 声を上がると、彼は下に居る人物を刺激しないように立ち退いた。 錘の無くなった下敷きになった男がゆっくりと起き上がる。 「あの高さから落ちて普通、共倒れにしかならないと思うけど、一応ありがとう。緩衝材になろうとしてくれたんだよね」 「ふん。……とんだ無駄骨だったようだがな」 起き上がった男は、まさにふんぞり返るという表現がふさわしく瓦礫の上に座った。 まるで瓦礫の玉座に座る王のように。 これが噂の登場シーンか〜、と、原作を見ていない彼は思う。 彼は知っているが自分でプレイしていたわけではなく、キリエが持ち込んだ述べるゲームを愛しの彼女がのめりこむようにプレイしているその隣に居ただけだった。 描かれた赤主従はかっこよかったなぁ〜、とは思うが、三次元の彼はまた一つ、なんと言うか迫力がある。 スコールとキリエと異世界渡りをしたから二人も何処かにいると思うけど、はぐれたのだろう。あまり心配はしていない。自分が誰かの召喚に巻き込まれているのなら、おそらく二人も何処かで召喚に巻き込まれている、のだと思う。だとしたら、何処かにいるだろう。 自分がこの世界に対して持つ知識はものすごく中途半端であるが、それを言うならスコールにはそも知識が無いし、どうしたものかなと考えた。来る時間帯によってはまったく役に立たないこともあるし、自分の場合むしろ知識が中途半端な先入観となって行動の邪魔をする恐れもある。 そして、誰かが知った物語は、多くの平行世界の一部のみ。 たどり着いた世界が、その通りであるいわれはないのだ。多く同じ流れをたどるにしても。 のんきに彼も近くの瓦礫の上に座る。 共に居るすらりとした筋肉を見せ付けるような鎧をまとったがたいのいい白髪の男、彼の知識によればアーチャーが座っている瓦礫は、寄せれば二人座れなくもないような大きな物だったが微妙に生暖かそうなそんな趣味はない。 隣に座るなら同性より異性、もっと言えばセルフィが最高だ。 それに、自分は脇に座っているほうが性に合っているだろう。 ここの主役は自分じゃない。 手を出してかき混ぜて、望む結果を得る気ではあるが、そもそもまだ何を望むのかも決まっていない。 仲間が見つかったらまずは相談してみよう、とそう思う。 「ねえキミ、僕はアーヴァイン。アーヴァイン・キニアスって言うんだ。キミの名前は何て言うんだい〜?」 問いに帰ってくる僅かな沈黙。 相手は自分を諮りかねているのだろう。これが聖杯戦争であるならば、アーヴァインはイレギュラーだ。呼ばれるはずの無い異物である。 そして彼が答える前に響き渡る叫び声。続いて足音が近づいてくる。 その音にアーヴァインは常のようにキザに肩をすくめて見せた。 尋ねずとも知っている。答えないのならそれでもいい。わざわざ告げて警戒を煽る事もない。 「まあいいや。もうすぐマスターが来るみたいだからね」 魔力を知らないアーヴァインからしてみれば、ラインが繋がっているのかどうかも知らぬ話だが。 「――ああもう、邪魔だこのおっ……!」 叫びと共に扉が一蹴される。 そうして現れたのは名前の如く凛とした赤い少女。 アーヴァインは懐かしく思い出していた。 この赤い主従から、物語は始まっていたと。 世界はエミヤシロウで出来ている――と。 結構冗談抜きにして、二人のエミヤシロウがこの時、世界を回す。 |
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つかの間の英雄達? 2
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何してるんだ、俺。 とそう、空とも言えない空を見上げて彼は思った。 空が死を生み出している。 彼にとって、その光景を表す言葉はそれ一つで十分だった。 地獄というにふさわしい場所ではあったが、そうであるがゆえに、それ以上知る必要はなかった。 ここは地獄。 ただそれさえ知っていれば、生きられる。 死が散らばる。 骸が砕ける。 吸う息からも、死が体の中に進入して来る。 大きく息を吸って、その全てを吐き出した。 満ちる死の意味を理解して、呼吸するその先から、体の中に入れない。 入れ替わるのは、酸素と二酸化炭素だけで十分だ。 稀有なる大災害に、命の姿などかけらも見えず、けれど彼は命を探すべく力を使った。 身の内で練り上げる気。 それを学んだ世界では、オーラと呼ぶそれを自分の周囲に広げていく。 髪がこげる。 肌が焼ける。 レザー製のジャケットが変質して異臭を放ち、彼の身を締め付ける。 耐火耐熱は完璧なはずなのに、だ。 答えはすでに知っている。 この熱が、炎ではなく呪いだからだ。 地を這うように、そしてドームのように広がってゆく力が、周囲の情景を緻密に伝える。 絶望してしまいそうだ。 それでも彼は歩きながら力の範囲を広げ続け、世界を感知し続けた。 物体ではなく、生命、心臓の鼓動と、僅かに漏れ出る生命の息吹を探して。 広げる。 広げる。 十メートル、二十メートル。 百メートル、二百メートル。 長い時間を生きて、その時間だけ己を鍛えて、万能でないからこそ限りなく万能を目指してきた。 二百五十メートル、三百。 四百メートル、四百五十、五百メートル。 限界を超える。 少し集中すればやすやすと伸びていた円が、じりじりと広がらなくなる。 逐一脳裏に展開されるマップ、些細な凹凸すら伝えるそれが、邪魔だ。 生命を感知することのみを目的とし、それ以外の情報をカットする。 カット。 カットカットカット。 目に見える地獄のほかに、意識の中に、広げた力のドームが教える真白の空間が出来る。 そこには命の姿は何もない。 探索範囲が一キロを超えて、それでもまだ何もなく、過剰放出する力がチリチリと神経を焼く。 死ばかりが満ちるその場所で、けれど諦めきれずに彼はそれを引きずったまま歩いた。 気に入りだったコートは脱ぎ捨てた。 靴のゴムが溶け出している。 靴としての役目を果たせなくなるのも遠くないだろう。 歩いて、歩いて、歩いて。 意識の中に展開される、探知の白いドームの中に、ぼんやりと今にも消えそうに弱った命の気配が入り込んだのは、そのときだった。 探していたはずなのに、まさかあるとは思っていなかったその気配に、彼は一瞬立ち尽くす。 その間にも、その消えそうな命は、おぼつかない足取りでゆっくりと、進んでいた。 今にも自分を飲み込もうとする死を見ながら、それでも一秒でも先の生を求めていた。 今、彼には手段があった。 そして彼には力もあった。 だから、その命の火を消すことは出来ない。 そして何より。 誰とも知らないその命の火に、彼の心も救われていた。 この地獄で、生きていてくれたことが、途方もなく嬉しかった。 瓦礫と屍の間を縫って、彼はその命のところまで走った。 全力で、風のように。最後の力を振り絞り。 見えてくる幼い少年の姿。 抱き寄せて、うつろな目を覗き込む。 「大丈夫か」 声をかけると、僅かに瞳に焦点が戻る。 ほぅ、と喉からあふれ出る、安堵の吐息。 「生きていてくれていて、本当に良かった」 それしか、言うことが思いつかなかった。 ぐったりと、少年は目を閉じる。 けれど、死んだわけではない。 助ける手段を探して、腰に結わえ付けたポーチに手を伸ばす。 魔法にも等しいほどの回復力を持つ薬が一瓶手元に転がりでた。 ただの火ではない呪いの火に、その力を欲していたのは彼自身でもあったが、彼は躊躇わずにその力を少年に使った。 例え意識を失っていても、胃袋さえあるのなら服用させるすべはある。 口元から流し込んだ薬が嚥下されるのを確認すると、見る間に癒され、呼吸を整える少年の姿に、彼は僅かに微笑んだ。 安堵と、厳しさの混じる微笑みが浮かび上がる。 「……平穏であることに安穏としないできちんと準備をしとくんだったな」 今更言っても遅いことは重々承知。 そもそもが、こうして訳もわからぬうちに異なる世界を体験するのもこれで二度目だ。 二度あることは三度ある。 もし今ここを無事に生き延びられたら。 今度こそはいつも油断なくしてみるかと彼は笑った。 立ち止まり、持つ力を整理して、自分の身も癒したが焼け石に水に等しい。 体から搾り取られるオーラは異常な量である。そして魔法も、効き目が悪い。 立ち止りたくなる。だが立ち止まることは死であると世界が、空が、語っていた。 ゆえに彼は、まるで先ほどまでの少年のように、おぼつかない足取りで、歩き続けた。 災厄の淵へ向かって。 意識の中に検索をかける。 見つかった生きる手段のひとつ。 リジュネ。 自動回復の魔法を己の身にかけるが、どうみても回復量より損傷する割合の方が多い。 そうして腕に抱いた小さな命には、片っ端から回復魔法――ケアルをかける。 体が小さく体力も少なく、大型の魔法は使っても意味がない。 かといって少しでも放っておくと、意識をなくして自我という防御を失った体はすぐにでも死に至るだろう。 止まることは命取り。だから彼は歩まねばなあらない。 帰る場所がある。帰りたい場所がある。帰らねば為らない場所がある。 待っていてくれる人が居る。待たせている人が居る。 少年を抱えて進む彼の視界の隅っこに、うごめく影が映りこんだ。 オーラの限界を迎えているので既に円は展開できないが、だんだんと大きくなってくるその影に、それを人だと認識する。 その人間がわったのろいの海の向こうに、正しい世界が垣間見えた。出口は近い。 人間は、男はまるで懇願するような表情で駆けて来る。 かれはこの少年を救えるのだろう。スコールは無意識にそう思った。 駆けつけてくるその男を見て、彼は理解した。 繋がる符丁。 はるか昔に与えられた知識が、かろうじてよみがえる。 今ここは、一人の人間の物語の始まり。 それを知り、彼は呟いた。 「悪いなキリツグ。お前の役目は、俺がもらってしまったぞ」 空っぽの心に、綺麗な綺麗なものを植えつけた男。 だが、今この子を託しても、その生を喜んでも、完全に意識のないこの少年の中にその瞬間が何かを残すことはないのだろう。 キリツグではない自分が彼を助けて、何かを残せたのか彼にはわからない。 だがそれもどうでもいい。 自分は少年の生存を望み、それを喜んだ。 だからこの少年は生きなければならないのだ。 その未来に何があれども。 例え後悔しようとも。 彼――異世界の英雄、スコール・レオンハートが見つけた一つの命なのだから。 スコールは気が付けば見知らぬ白い天井を眺めていた。 呪いの海を抜けたところまでは覚えている。 消防車や救急車のサイレンが煩いとは思ったような気もする。助かった安堵と極度の体力の消耗から意識を喪失したのだろうと予測を立てた。 ナースコールを押し医師の検診を受けた後でキリツグという男が尋ねて来てスコールの名を尋ねた。尋ねられた彼は一瞬躊躇した。 この世界に、自分達を物語ったものがあるのか否か、まだ確認できていない。 年を経て多少印象も変わっただろうし、額の傷ももうほとんどわからないほどにうすれたが、本名を名乗っていいのか否か、まだわからない。 下手をすれば生涯、ゲームオタクの称号を貼られかねない。 ゲーム内の人物になりきる変人のレッテルもだ。 ゆえにスコールは悩んだ。 そしてとっさに口をついて出たのは、 「フィール」 自分を慕う後輩の名前だった。 フィールが効いたら落ち込むかもしれないが、彼の立ち位置は、名前のない通行人A。 世界を超えれば、誰も知るものはいない、はずだ。 だがそれでも、もし自分たちの世界のことを作品にした媒体が見つからなかったときには自分の名を名乗りたいと、ちょっとした悪あがきをした。 「フィール・S・R・エヴァーグリーン」 |
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つかの間の英雄達? 3
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「体は剣で出来ている」 「血潮は鉄で、心はガラス」 「幾たびの戦場を経て不敗」 ハンターハンターの世界で、ユラナスの名で天空闘技場で戦っていたときの衣装。 ローブにフード。ただし、マスクなし。 それをまとって、二人が展望しているビルの背後から現れる。 絶をして。 フィール仕込の演技でアーチャーの呪文を呟いて、彼の気を引く。 そして、言うのだ。 「答えは見つけたか、錬鉄の英雄よ」 アーチャーが驚愕するのを見届けて、スコールはビルの上から寒空に身を躍らせた。 ぶっちゃけ彼の、赤の弓兵の企みを悉く失敗に終わらせる前章。 自分殺しを命題とする弟の違う姿に対する宣戦布告だ。 シロウを弟としたからには、彼もまたスコールにとっては弟なわけで。 別の歴史をたどったスコールを知らない英霊エミヤだとしても、かわらない。 自分の目の前に現れた今まで出会うことの無かった身内。 その程度の認識。 家族に、家族を殺されるのは切ない。 追って来る英霊エミヤを振り切って、スコールは衛宮の家にたどり着いた。 急いでローブを脱いで普段着になるとそれをポーチにしまいこむ。 一息ついて見上げた先には、霧枝が居た。 スコールは顔をしかめて楽しそうにニヤニヤとしている霧枝を見る。 霧枝はそんなスコールの様子を見てなおの事笑みを深めた。 「……約束は果たしたぞ」 「代償は高かったでしょう?」 したくも無いこっぱずかしい演技をやらされたのは、以前穴を空けた仕事を変わってもらった時に、急いでいたために何でもやると口にしたためのことだった。 これだけはやめてくれとスコールは懇願したが、代わりの条件もまた酷いものだった。 スコールに宴会芸で腹踊りを披露しろと言っているようなものだ。 いっそこの方がまだましだと言える。 ほかの代価がほとんど意味も無い事であるのに対して今回の仮装は少なくとも意味がある。 家族となった者のために。 「目的には賛同する。が、これはもうやめてくれ」 「いいよ。一度やってくれたから。ユラナスだったスコールを見てみたいって、思っただけだから」 その言葉にスコールは、心底安堵の吐息をついた。 日没を控えて、スコールはまた、悩んでいた。 生来の気質として、スコールはネガティブな感情に陥りやすい。 今日も今日とて、考え出したら全てがマイナスに作用するような気がして、どうにも行動できずに居た。 シロウから連絡は無い。 日は暮れかけている。 そして冬だ。 二月だ。 いったいシロウが何歳のとき、生まれがわからないので正確を期すなら何年生のときにそれはおこるのか。 わからない。 が、こういう日は不安になる。 一度、死というものを身代わりになってくれるキリエ作の念具、リバースドールは常に持たせてある。 あの子は危なっかしいから。 だが、青い槍兵によって与えられるらしき死が、キリエの想像の範疇外だったら? ゲイボルグの概念をキリエの念具は飲み込めるか? いや、因果の逆転は心臓を貫く、であり、絶対的な死ではなったような気がする。なら大丈夫だろうか。 リバースドールは、身代わりによってなかったことにする念具だ。 すぐに生き返ったら、槍兵に気が付かれるかもしれない。 槍兵に気が付かれなくても、シロウが居なくなる前には赤の主従が来るだろう。 そもそも持たせたリバースドールのせいでより悪い状況になってしまったら? ハンターハンターの世界では帰る事こそが第一事項であり、自分達に関してであればそれなりに実力もあり、ここまで気をもむ必要は無かった。 帰るための能力さえ開発できれば、先を知るか否かなんて関係なかった。 ナルトの世界に行ったときも、そもそも本編に入る前の時代にたどり着き、本編に入る前に帰ってきた。 先を知る意味は無かった。 だが今は、先を知らない事が確実に惜しい。 ともに来ているキリエの記憶は、赤い弓兵に関してのものにだけ偏っている。 いわく、順番が逆だ、ということらしい。 『私はFATEを先に見たんじゃなくて、赤い弓兵の背中に惚れて、それから赤い弓兵のことを調べて、この世界のことはその延長線上にたまたまあったに過ぎないんだもの』 らしい。 この世界の本質の大切なことは知識に無い。 あっても、キリエがこの世界のことを観測したものを読んでから、随分な月日が経っている。 それこそ、忘却には十分なほど。 十年、こつこつと思い出してはさまざまなものを狂わせてきたが、さて、今回はどうなるのか。 縁側に座り込んでうんうんと考え込んでいると、いきなり背後から頚椎を蹴られた。 ものすごく危ない。 一般人が一般人の力で蹴っても、相手が一般人なら場合によっては捻挫じゃすまないだろう。 が、スコールは良くも悪くも人間離れしていて、同じく人間を離れつつある相手は、スコールを縁側から突き落とす程度の力は篭めてもそれなりに手加減していた。 「そんなところでうんうん唸ってないで、心配ならさっさと迎えにいきなさいよ。運命とか、必定とか、スコールは元の世界でそういうのを全部ぶっちゃけるために頑張ったんでしょ? 定まった未来とか、運命とか、大嫌いなんでしょう? だったら、壊せばいいじゃない。どっちにせよ、私も結末なんて知らないんだから、がんがんやっちゃえばいいわよ。運命なんてくそ食らえ!! 運命より、士郎の方が、大切でしょう? だったら、悩むだけ馬鹿よ」 たしかに、そうだ。 いま、スコールたちの第一事項は、シロウが無事であること。 リバースドールがちゃんと働くか、赤い弓兵に殺されないか、なんて不安に思っているくらいなら、行動したほうがいい。 不安を抱えて座り込むぐらいなら、行動を起こした方がいい。 「何も無かったら、遅くなったことを少し怒って、一緒に、帰ってらっしゃい。何かあったら、危険に首を突っ込んだことを怒って、襟首掴んでつれてらっしゃい。赤い弟も居たら、ついで怒っておきなさい」 どちらにしても、怒られるのかあいつは、と。 少し苦笑して、スコールは立ち上がった。 「そうだな。俺は、運命を壊すために、走ったんだ。今更ここで、生き方なんて変えられない」 「そうよ。スコールはそうほいほい生き方を変えられうほど小器用じゃないんだから」 「ああ。忘れていた。すまなかったなキリエ。手間をかけさせた」 「いいよ。たったこれっぽっちの言葉で、縁側のキノコがなくなるならね。それと、そこはすまない、じゃなくて、ありがとう、よ」 それを聞いてスコールは言葉を繰り返そうとして、やめた。 その代わりに、顔には嫌味のない苦笑が浮かぶ。 「行ってくる、キリエ」 「はーい、いってらっしゃい。あんまり遅いようだと、迎えに行くからね」 「ああ」 僅かな言葉を信頼の証とし、彼は家に背を向けた。 冬。 日暮れ。 高校生。 遅くなる日。 新都で多発するガス漏れ事故。 殺人事件。 知っている符丁と、そこはかと無く合致する。 そして昨日は、新都のビル街で、赤の弓兵に布告した。 民家の屋根を踏み台にしながら士郎の通う高校へと向かう。 はやく、早く。 急く気にあわせて、足の篭められる力も増える。 決して無力では在らないと誓ったのに、キリエに蹴りだされてようやく決心が付くとは、我ながら情けなくなったものだ。 行き際に投げつけられた、対魔術効果のある外套の裾をなびかせて、スコールは走る。 見えた。 闇に沈む校庭。 そこにある、合い争う二つの影。 対照的な、赤と青。 それを見つめる、二つの人影。 間に合った。 剣戟の音が聞こえる。 ランサーらしき青が見得を切り、アーチャーらしき赤が応と答える。 赤いや槍に集まる魔力は、只者ではない。 スコールに此方で言う魔術回路はない。むしろ魔術、魔力には嫌われている。 だからこそ理解できた。 果たしてそれを、赤い弓兵が受け切れるのか。 キリエの話しによれば、弓兵は投擲攻撃に強い方具を投影できるらしいが――絶対ではないなら、阻止するまで。 ましてそこで呆然と成り行きを見守ってしまっている弟に、意識を向けさせるわけには行かない。 戦いの邪魔をする。 そして、意識をこちらに向けさせる。 決意は一瞬、スコールはキリエの念具である無限の収納を誇るポーチに手を伸ばし、状況に手を入れる一手を選んだ。 念を纏わせ、赤と青の中間地点を狙って投擲する。 すぐに広範囲に広げた円が伝えてくる情報を頼りに目をつぶり、きつく耳を閉ざした。 湧き上がる閃光、聴覚を麻痺させる音。 現代兵器をなめるな。 誰もが足を止めざるを得ないなか、多少おぼろげながらも感覚を頼りに二人のサーヴァントの間に割ってはいる。 スタングレネードが炸裂した瞬間に、とっさに跳び退っていた為に、二人の間にはやたらと余裕があった。 片方にガンブレード、もう片方にはキリエの作った念具の剣を突きつけた。 口上を切ろうとして、気が付いた。 耳をふさげたのは恐らく自分だけ。他に誰も聞こえないんじゃないかと。 もしかして状況を混乱させただけじゃなかろうか? スコールは間抜けにも真剣に悩んだ。 どうする。 まあそれでも、五秒十秒とそうしていれば、さすがは英霊の回復力だ。 人間二人は狂った三半規管の聖でにっちもさっちも大変そうだが、赤と青のサーヴァントはすでに視力を取り戻し、聴覚も復活したらしい。 きちんと焦点の合った紅と鋼色の鋭い眼光がスコールをねめつける。 いわく。 お前は何者だ、と。 英霊同士の戦いに身を割って入るなんて、人間正気の沙汰じゃない。 だというのに、スコールは肉体を持ち、体に魔力は通っているようだがたいしたことはなく、間違いなくサーヴァントではない。 サーヴァントはサーヴァントを、マスターはマスターを知る。 だから、それは間違いない。 スコールはマスターでもなく、サーヴァントでもない。 それは、この場に居るマスターの凛と、サーヴァントたちが証明してしまう。 状況を正確に把握しているのは、つまり一人だけではあったが。 彼も彼とてこの状況、どう収めたものかと戸惑っていた。 弟の危機にとっさに飛び出しては見たものの、タイミングをはずした口上はどこかへ言ってしまった。 とりあえず、この膠着した時間を有効に使うべく、片っ端からアナライズをかけて情報を集める。 弓兵、槍兵、そしてそばに居る赤い少女。 少女は間違いなく遠坂凛であり、弓兵のマスターであると確認された。 弓兵は衛宮士郎のたどり着く先だとも。 槍兵の真名はクー・フーリン。 マスターは不明。 中途半端に役に立たないアナライズめ。 この魔法がどういう基準で情報を提示しているのかいいまだに良く分らない。 だが、いい。 これで槍兵の弱点も分った。 使うか使わないかはかなり微妙だが、知らないよりは知ったほうがいい。 無知は無力につながる。 スコールはそれを許せない。 「双方武器を収めろ」 「あん? 誰だテェメ、いいところで横槍入れやがって」 「横槍は君の専売特許だろう? クー・フーリン」 人の神経を逆撫ですることにかけては見事だ赤の弓兵よ。 ギシリ、と空気が鳴る錯覚。 「魔術師が隠匿すべき戦いで遮音結界も張らないとは無用心もすぎるぞ、遠坂の娘」 遠坂凛の様子が変わったのを察して声をかける。 まだ少し早いはずだが、強引な魔術でも使ったのだろうか、視力、聴力共に回復したとその微細な行動が伝える。 完全に回復したかどうかは知らないが、こちらを認識するぐらいには戻っているだろう。 ちらりと弟の様子を伺えば、こちらはまだ呆然としていた。 むしろこの場合、突然の兄とする人物の乱入に驚愕していると見るべきか。 シロウのほうが視力と聴力を取り戻していたのは妥当だ。 そうなる念具を渡してある。 呆然と音一つ立てることなく突っ立ったまま、ゆえに気が付かれていないかと思ったが、緊迫した状況が拡散してしまったが為に、逆に英霊達の鋭敏な感覚器官に引っかかってしまったようだった。 っち、民間人か、というランサーの舌打ち。 状況を見て目撃者の消去を実行しようとしている。 凛も、アーチャーを通じて士郎の存在に気が付いたようだった。 眼差しが一瞬アーチャーへぶれ、そして士郎へ固定され驚愕に見開かれる。 行動前の一瞬の硬直を彼女は上から見下ろしていた。 とっさに二丁拳銃を構えると、青い人影に引き金を引いた。 響き渡る銃声、飛び退る青い人影、地面に穴を穿つ六つの光の弾丸。 振り向くシロウ、赤い主従。 校庭にそびえるフェンスの支柱の上で、キリエは銃を構えたまま声を上げた。 「私の弟に手を出すな。そこの変態青タイツに怪人赤マント」 スコールの目は、槍兵らしき青髪の男の表情が見事に引きつるのを、確かに捕らえた。 「ンだとこのやろーっ!!」 「由良兄、霧姉」 「誰よ、あれ」 驚愕に目を見開くシロウの声と遠坂の娘の呟き。 それに、赤い弓兵がさあなと答えて肩をすくめる。 「この、大馬鹿者!! あんたほど運の無いのが因果逆転の槍なんか受けてまともに避けられるはずが無いでしょう!! 見栄を張るのもいいけど、場所をわきまえなさい。消えてしまえばその小さなマスターも守れなくなるのよ」 肩をすくめる動きが、不自然に固まった。 出会いがしらに怒鳴られる、というのもそう多くは無い経験だろう。 突然怒鳴られた弓兵には悪いが、まだ無事な弟の姿を見て、スコールは誰にも聞こえない吐息をもらす。 どちらの弟も、無事だった。 語られた物語では、シロウは遠坂の娘の魔術によって、槍兵に殺されたあと蘇生されるらしいが、それは可能性の一つに過ぎず絶対ではない。 そもそもこの世界では、シロウという存在の根本に、スコールが関わっている。 関わり、癒してしまったがために、シロウの体の中にいま聖剣の鞘は無いのだ。 変わりにリジュネのかかったお守りを持たせているが、リジュネは死を覆さない。 絶対ではないことは、阻止するべきであり、スコールの中途半端に役に立たない知識でも今はそれが可能だった。 始まりの時間を知っていたわけではない。 曖昧漠然とした、時期しか知らなかった。 それでも、気を張り、情報を集め、結果としていま弟の危機に間に合ったのは僥倖。 ならば。 決して無駄にはすまい。 青い襲撃者から視線をそらすことなく地面に降り立つキリエ。 稀に見る優雅さは、第三者の視線を気にしている。 「遠坂の娘よ。そこの愚か者の保護を頼みたい」 危ないことには首を突っ込むなと口を酸っぱくしていっていたと言うのに、やはり実力も無く首を突っ込んでしまった愚か者。 「見られたからには、始末するのが魔術師の掟よ? それに、保護する理由が無いわ」 魔術師として答える遠坂凛。 「それなら、秘匿せし戦いにおいて遮音結界を張らなかった不始末の代価、でどうかしら」 遠まわしに遠坂のうっかりを指摘されれば、さすがに黙った。 沈黙の数秒は膠着状態。 「いいわ、けど、どうするのかしら。私のアーチャーが負ければ、結局は死ぬわよ? 貴方の銃も凄いみたいだけど、どこまであいつの相手になるのかしら」 ふっ、と喉の奥で笑う。 その眼差しはスコールへ。絶対の信頼を寄せて。 「銃使いとして相手をすれば、負けるかもしれないわね。何せ相手は矢避けの加護の持ち主だもの。でも」 そもそも霧枝は銃使いではないし、戦うことができるだけで戦う者ではない。 「戦うのは私じゃないわ」 「ガーデンのSeedとして、魔女の騎士として。そこにいる衛宮士郎の兄として俺が相手をしよう」 眠れる獅子。 それは、常に大切な者を守るために目を覚ます。 いまが、目覚めるときだ。 「シロウ、遠坂の後継者のところへ行け。最低でもこの戦いの間は彼女の矜持にかけて、保護してくれる」 「でも兄貴、いくら兄貴でもあいつには――」 神代の戦いを目にしてしまったから、そう思うのだろう。 たしかに、多少身体強化したところで、ただの人間ではその動きについていけない。 だが。 「いいから行きましょう。相手を待たせているわ。今まで待っていてくれたんですもの、戦士としての矜持も無いわけじゃないでしょうし」 言いながら、キリエは士郎の腕を引き、後ろへ下がる。 「なら、俺も応えるまでだ」 切っ先こそこちらに向けなかったが、いつでも繰り出せるように槍を構えたままニヤニヤと笑っていた青い槍兵。 やっと出番かとばかりにまがまがしい真紅の槍を一振りし、対象をスコールに定めた。 「で、兄さん、あんたがそこの赤いのに変わって相手してくれるのかい?」 「そうだ。俺の弟に手を出したつけは、きっちり払ってもらうぞ」 「いいぜ、面白くなりそうだ。さっさと獲物を出せよ。それくらいは待ってやるぜ?」 「なら、その言葉に甘えようか」 両手に持った念具の剣がふっと消える。 ポーチの中に収められたのだ。 そして己の体を走査する。 待つと言っていたのだ。それならありがたく時間はもらう。 ジャンクションのチェック。 いつ何事が起きてもいいように構えていた甲斐はあったというものだ。 オールOK。 オートへイスト、オートプロテス。 速さのジャンクション、回避のジャンクション、力のジャンクション、状態異常系は放置、一撃死に耐性をつける。 胸に手を当て、装備品の確認。 そして、やっと己の獲物を両手に握った。 英霊が己の生涯にわたって握った武器のように、スコールの生涯のそばにはこれがあった。 青い刀身、握りなれたグリップ。 火を噴く剣の名は。 ライオンハート。 そろえて差し出した両手の中に、青い刀身が納まる。 両の手に握られて、ライオンハートもまた輝きが増したように見えた。 深く息を吸って、スコールは青い槍兵に向き直った。 「待たせたな」 ヒュ〜ィ、とランサーの口笛が響く。 「珍しい武器だな」 面白そうな、闘争心と好奇心にあふれた野生的な笑みがランサーの顔を覆い尽くす。 「宿命が、始まるわ」 楽しくなさそうに誰かがそう呟いた。 ガーデンは、一度身内と定めたものには寛容だ。そして、一度家族と認めれば、いかな脅威の前にとて立ち上がり、守る。 それが組織の結束を硬くすることでもあり、立場が微妙な庸兵未満のような庸兵家業を支える掟でもあった。 そして今、ガーデン所属、Seed部隊である彼、スコール・レオンハートの前で、血のつながりが無くとも家族、弟と定めたものが殺されようとしている。 眠れる獅子が牙を剥くのに、これ以上の理由は要るまい。 ライオンハートを握り神経を研ぎ澄ませるスコールに代わりキリエが声を張り上げる。 「やすやす勝てると思うな。私たちは世界に見捨てられた異物、世界の毒。矛盾を嫌う世界の殺せない矛盾」 スコールも、槍使いと相対する機会は多くない。 なんと言っても、槍ははやらない。 古き時代のような戦場は無くなり、家々の間を縫う狭い路地ではあの長物は使いづらい。 運搬の手段だとて限られてしまう。 故に槍使いと相対することは異世界に渡った時にほぼ限られ、その数は少ない。 だが、無ではない。 スコールは槍がどういった戦いをするものかも知っている。 負けない。 勝つ。 二人はただその思いを胸に立つ。 力を持ったからこそ、守るためにあれ。 ガーデンは、Seedは、彼ら異世界の存在を知るサウザンド・シードは、そう己を定義づけた。 「うおぉぉぉおおお!!」 「はあぁぁぁぁああ!!」 神代の闘いが、いま人の手の中に転がり落ちる。 |
| つかの間の英雄達、読みはつかの間のヒーローズでよろしく。 |