つかの間のゼロ




「キリエ〜〜、用意できた〜〜?」

 扉を一枚隔てた向こうから、セルフィの元気な声が聞こえてくる。
 それに私も同じように声を張り上げて言葉を返した。

「もう少しだからまっててー」

 7日後、学園祭が開催される。




 主催はもちろん我等がセルフィ。
 私も協賛者の一人だ。
 演目は白雪姫。

 ……白雪姫。
 白雪姫?
 誰が。

 初めはキャストとしてスコールを王子さま、リノアを白雪姫に、って言う事だったらしいが、スコールを引き込むのに私たちは見事失敗した。
 皇子の出番なんてほんの僅かだ。
 だが人前でのキスシーンがある。
 学園行事だがもちろん強制は出来ない。
 強制一歩手前まで引き込むべく頑張ったが――失敗した。

 そうなると人前でのキス、なるイベントにスコール以外の相手をリノアが許容するはずも無く、スコールが皇子なら、といっていたリノアもそうして大きな小人役に収まった。
 皇子と白雪姫のキャストはあえなく変更となった。

 私としても至極残念な事だが、仕方ないとも思う。
 リノアのおねだりなら落ちるかな〜と思っていたけど、甘かったらしい。
 無理かもしれないな、戸も思っていたからあまりダメージは無いが。

 その時すでにそのキャストが廃盤と成った場合のキャストも決められている。
 スコールを皇子役に、ともっとも熱心だったのはなんと言う事シュウだった。
 二年ほどバラム軍に出向……いや、就職? 入隊、かな。していたシュウだけどその後除隊して再びバラムガーデンに舞い戻り再試験を受けてSeedとして活躍している。
 今では私たちの協力者の一人だ。
 そしてセルフィの発案した学園祭劇においてスコールとリノアを皇子と白雪姫に、と発案したのも彼女だった。
 今では恐らく後悔している事だろう。
 面白がっての発言だったと見ていれば分った。シュウがそれを発言した後は企画委員会皆で乗りにのって『じゃあダメだったときには責任持ってシュウとニーダで白雪姫と皇子だ』と言うことに流れで決まってしまった。
 シュウは一人騒ぎの中反対していたがある意味で己の発言に対する責任でもある。
 命を掛けろと言っている訳でもない。

 しぶしぶながら了承した。と言うよりさせた。
 髪も黒いし丁度いい。
 そうして今日に至る。




 といってもまだ当日ではないが。




 皇子と白雪姫のメインキャストが決まり、そのキャストが決まった時点で自動的にリノアが大きな小人役に決まる。
 それにセルフィも大きな小人役だ。
 学内参加を促して、ほかの小人達はガーデンの幼年部の生徒達で決まった。
 実は七人の小人ではなくセルフィ含めて18人の小人だ。

 鏡役は使いまわしでセルフィが。
 他にちょこっとだけ顔を出す王や狩人などはニーダが衣装や声色を変えて使いまわす。
 はっきりいってモブだし、皇子だけじゃ出番が少なすぎるというのもある。
 ゼルは大道具小道具係で、アーヴァインは学内宣伝を担当している。

 これで大体のキャストは決まったわけだが、ここに大きな抜けが一つある。
 この白雪姫と言う物語において重要な役割を持つだろう悪意の一。
 それは白雪姫の継母にして魔女。
 その役こそが、私だった。

 いかにして高飛車に鏡に自分が美しいかと問いかけるか練習した物だったが、はっきり言って噴飯ものだと思った。
 世界で一番美しいのは誰?
 言ってて笑える。私はそこまでうぬぼれていない。素顔で綺麗な人、などといわれたのはそれこそ片手で数えるほど、とか片手であまるほどとか言うやつだ。
 しかも一度セルフィによって施された舞台メイクは濃かった。

 気にしてはいけない。
 舞台の上は現実世界ではないのだから!!

 そもそも白雪姫も突き詰めればかなりグロイ。
 子殺しにカニバリズムまでセットで付いてくる。
 皇子は恐らく死体愛好家だと思うし、心優しい七人の小人は労働条件の悪い炭鉱夫と言う仕事に追いやられた犯罪者か、あるいは身体的特徴により社会に弾かれた人間達だろう。
 都合よくガラスの棺が用意されていた事も気になる要素だ。
 つまり元を辿れば到底子供の寝語りに話して聞かせるような話ではないし、子供も交えてやる演劇の題目にするようなものでもない。

 気にしていたらやってられない。
 と言うことで私は少ない台詞を暗記し終え、一週間後に向けて探し出された衣装を一人で着込んでいた。
 なんでも一人で出来なきゃお姉ちゃんに会えない。
 訳じゃないが、外も忙しいのだ。扉の向こうからはまとまりの無い子供たちの声が聞こえる。
 なれない衣装に楽しそうだが、世話をするセルフィは忙しいだろう。

「キリエ〜〜、もう限界だよ〜〜。まだ〜?」
「もう少し、ご免セルフィ、頑張って!!」

 十七人の小人達と格闘するセルフィ。
 頑張れ。
 もう少ししたらアーヴァインとかシュウとか、増援が到着する筈である。
 私は着たドレスをめちゃくちゃにされないように別室を使う事が出来た。
 ついでに舞台メイクもするからだ。
 確実に子供たちはメイク道具に興味を示すだろう。
 こちらもぐちゃぐちゃにされないための予防線である。




 私の衣装は全てガーデンの中で賄っている。
 新しく作った物は無い。

 悪い継母、魔女には欠かせないマントと言うかローブもどきの代物は初めの段階では視聴覚室の暗幕を被っただけだったのだが、セルフィが昔私が念具として作った飛行機能の付いたビロードのマントを何処からか見つけてきた。
 膝裏まである長さの物と、背中の半ばで終わっているもう一枚との二段構造だ。
 飛行機能の他に汚れや破れを防止するための念をかけてある。
 飛行マントは道具の基本だ。
 スーパーマーン! とか。
 イメージがスーパーマンだったおかげで色は真っ赤だ。
 いいのか? と本気で尋ねたけどセルフィはあっけらかんとしていいのいいのといって聞かない。
 本格思考が何処かずれていると思う。

 今は髪の毛にはなんら手を加えていないが、当日は結わえるそうだ。
 一目で分る程度に目立つ飾り物は乗せるということらしいが、今は不明だ。
 実は怖い。
 どんな発想が飛び出てくる物やら。

 ドレスは社交ダンス用のドレスだ。
 人様のから譲り受けた物なのだが、こちらの皆さんなんとウエストの細い事。
 骨格から規格が違うね。
 私がウエストが入らないといっている物を皆楽々着こなしていく。
 サイズ直しにかなり苦労した。

 ドレスを見て、踊る剣のドレスバージョンと言うか、これを着れば勝手に体が動き出す、と言う念をを思いついたが、その直後にまるでのろいのドレスだと思ってやめた。
 赤い靴みたいに着たが最後、踊り続けるとか……ご免被る。

 靴は自分の持っているパンプスだ。
 そもそもドレスの裾が長いので靴はめったに見えない。
 そして最後が魔法使いの杖だ。

 庭木の手入れをしているときに切り落とされた枝でいい雰囲気のがあったので持ち込んだらセルフィは気に入らなかったみたいだった。

『あかん。あかんで〜〜! それには足りない物が有るー!!』
『な、何が?』
『ふっふっふ〜。な・に・が・足りない? それは!!』

 ピン、と伸ばした指を天井に振り上げセルフィはもったいぶって言った。

『悪の雰囲気や!!』

 と。

 もっと魔女っぽく、もっと魔法使いっぽく、もっと悪っぽく!
 と言う事らしい。
 私としてはドルイドみたいでいいな、とか思っていたんだけど。
 だから昔作った念具のストックの中からそれっぽいのを引っ張り出してきた。

 魔法使いといえば杖だろう。と昔思ったことがある。
 魔法使いは杖から始まり杖に終わる。

 白魔法やケルト的に意味があったような記憶のある身の丈に近いほどのオーク材にどこの神話だったか忘れたけど何かしら魔術的な意味があったような気がしている羽の生えた双頭の蛇を杖の頭の方に施して、その目は一匹は再生と生命の象徴であるルビーであり、もう一匹は知恵の象徴であるサファイアをつけている。
 蛇が大きいのでその目である宝石もそこそこの大きさになる。

 それを引っ張り出してくる。

 舞台的に栄える程度には派手だと思うし、銀は艶を消してあるから舞台照明を反射して眩しい事も恐らく無いと思う。
 あくの雰囲気かどうかは知らないけど、ごちゃ混ぜなオカルトの雰囲気はあると思う。

 かけた念の能力としてはもちろんオーラ認証タイプで呼べば持ち主のところに帰って来る!
 登録人数は六人まで。
 杖を振れば相手を一時的に浮かせる事もできて、振り下ろせば威嚇程度のサンダーもでる。
 マッチ程度の火も点せるし、『光よ』といえば先端に蛍光灯みたいな光も灯る。
 ものすごく中途半端にごちゃ混ぜだが、これが私の魔法使いの杖に対するイメージでもあった。

 なぜ魔法使いのイメージで念具を作ろうとしたか。
 今となっては思い出せもしないが、当時は恐らくかなり真剣だった。
 私が忘れても本が覚えている。正直にいえば、多分見たくもない記憶の中に分類されているだろう。
 黒歴史、恥しくて悶絶できるタイプの。

 私の思考に反応したのか、傍らにおいてあった全ての念具を管理している念具の本ががたりと動いてページを開く。
 見開き二ページを使って大きく記される《魔女っ子に――》

 見ない振りをして本を閉じ、ビニールテープで括りつけた。
 ガタガタとポルターガイストのように騒いでいるが見ないふり。

 とにかく、その装備を一通り身につけて、メイクの練習をする。
 日常には役に立たない完璧なまでの舞台メイクだ。
 付けまつげ二重なんてやった事が無い。
 引っ張ったら本物のまつげも外れそうで非常に戦々恐々としている。

 そうして鏡の前で一回転した。

 滑らかなビロードがドレスの上を流れる。
 念まで上乗せしたが、正直使い道は思いつかない。
 肌触りだけは天下一品。
 この劇が終わったら、やはりまたお蔵入りだろう。
 子供達には人気になりそうだが危なくて使わせられない。

「キリエ〜〜、準備終わった〜〜?」

 マントの今後を考え終わったときに、丁度企画者であるセルフィがやってきた。
 順調にいっているのかとてもテンションが高い。
 子供たちの声が少し落ち着いているようだ。
 増援もなしに良く纏め上げた物である。

「あ、セルフィ。今終わったところよ」
「入っても大丈夫〜?」
「うん」

 答えたら扉の向こうでセルフィの声がする。
 は〜いみんな〜〜、いいこだからちょ〜っと私の話しを聞くこと〜〜!!
 はーいセルフィセンセー!!

 昔懐かしい子供番組みたいだ。
 自分が居ない間はどうしていればいいのかな〜、って言っている間に増援であるシュウが来て、任せた! と聞こえたのとドアノブが捻られたのがほぼ同時。
 そしてあっという間にするりと部屋に入り込んできた。

「セルフィ、いいお姉さんやってるわね」
「も〜子供たち元気ありすぎてだるだるやわ〜〜」
「疲れた?」
「ん、少しだけ。まだまだ負けへんで〜〜!」

 おー、と気合を入れて天井に拳を振り上げた。
 仕草の一つ一つが本人無自覚にとても可愛らしいセルフィが、気合を入れ終わって私の姿を見聞する。
 うーん、と唸っているがコメントは無い。
 だんだんと不安になってくる。

「……ねえ、変じゃない? このまつげせめて一つにしない? っていうかピンクのリップ役に似合わないよ。悪い魔女ならそれこそ真っ赤とかさ」

 訂正。
 結構私も乗り気のようだ。

「赤いリップか〜。そや!キスティスならもっとるかも!」
「そ、そうかな……」

 言われるとその気になる。
 キスティスはベージュかオレンジ系の人だと思うけどなー。

「っていうか〜、キリエ、まだまだあま〜い!!」
「え?」
「私が教えたメイクより随分控えめじゃん。まだまだもっとこう、くっきりと〜〜」
「まだ濃くするの!」
「舞台の上なんだから、遠くの人からもよ〜く顔の分るようにしとかな〜」
「そりゃそうなんだけどねぇ」

 しっかり顔の細部までわかれ、といっているわけではないが、ぼんやりと何処に目が有るのか口があるのかも分らないようでも引き締まらない。
 うん、わかっているが、なれないんだ。

「小人のセルフィも可愛いよ。その帽子のぽんぽんとか、誰かの手作り?」
「よくわかったね〜〜、学園祭実行委員の一人、今年ガーデンに入ってきた女生徒の引き込みに成功したのだ〜〜! 裁縫がとっても上手やったん。服とか手作りしてらしいよ?」
「自分で作れる人って、なんか凄いよね」
「自分がでけへんことできる人はみんな凄いよ〜」

 本当にそう思う。
 努力の果てに得た物は誇っていい。
 何もせずに技術は手に入らないのだ。

 魔女と小人と言う互いにシュールな恰好で雑談に花を咲かせていたときだった。

「あれ、なんやろ?」

 セルフィが指差す私の背後。
 振り返った先に見える銀色の――鏡っぽい。あれはゲート?
 潜ったら何か楽しそうではある。
 ただし、何処に通じているのか分らないのが世の神秘の常である。
 私の中に居るガーディアンフォースたちもあのゲートについて明確な答えをくれない。
 つまり有る程度危険ともいえた。
 だが、新しい世界への導ともなるのではないだろうか。
 そう期待もする。

 どうしよう。

「どうしよう、セルフィ。あれ、多分ゲートだよね?」
「そやな〜〜。どうしてここにあるんかわからへんけど、きっとどっかに通じとるんやろなぁ〜〜」

 ある意味何処かの世界から迎えが着たとも言えるだろう。
 自分たちから赴く限りではたどり着けない何処かの世界かもしれない。
 だが、今私たちは二人だ。
 GFは揃っているが、二人では帰還することが出来ない。
 せめて三人。
 行ったはいいが帰って来られないのでは本末転倒も甚だしい。

 三人目を呼びに行くか。
 だがゲートは何時消えるか分らない。
 チャンスは今しかないかもしれない。
 だが帰ってこられなければ本末転倒である。

 向こうにはシュウが居たはずだ。
 とりあえず子供たちを避難させるか?
 ここはあまりにも異変に近い。万が一にも子供たちを巻き込むような事態だけは避けたいところだ。

 シュウは私たちの協力者ではあるが、異世界渡りの能力を使うための誓約の仲間ではない。

 ゲートは何時消えるのか。
 消えないのだとしたらこの辺一体の封鎖も考えなければならないだろう。
 としたら体育館が丸ごと閉鎖だ。被害は大きい。何とかできないだろうか。

「とりあえずセルフィどうしようか」
「ん〜〜、とりあえず」

 そこまで言ったとき、いきなりバタンと扉が開かれた。
 駆け込んでくる乾いた土色の大きな塊は転がり込んできたと思ったとたんに大声で最愛の人の名を叫んだ。

「セフィーー!!」
「アーヴァイン! 女性の部屋は最低でもノックしてから入りなさいよ!」
「あ、ごめんよ〜。シュウがもう大丈夫だって言うからさ〜」

 実に幸せそうに恋人の名を呼んだ。
 恥しいやつである。
 屈託なく恋人の名を呼べるのは羨ましくもあるかもしれないが、心の形はそれぞれだ。
 スコールたちなどは大胆につつましいという二律背反、矛盾をしっかり内包した上でまだ円満だ。
 いや、アツい。やってられるか。

「まあいいけど」

 もはやみられてキャー! 何て間柄でもない。
 私と彼等がであった世界では一体何泊野宿した事か。

「それよりセルフィ、これで三人ね。どうする?」
「どうするって、なにが? って、ええ〜! なにこれ!」

 アーヴァインが叫んだ。
 今まで気が付かなかったのか、と言いたいが位置関係的には仕方が無いだろう。
 セルフィ一直線のアーヴァインの視界からは死角になっている。

「三人そろったね〜」
「アーヴァイン、シュウは?」
「子供たち連れて舞台の上に行ったよ? 後でガーデンの中を巡って宣伝だってさ。あ! そういえば伝言があるよ〜。『次の巡回は貴方も一緒よ。せいぜい高笑いの練習でもしておきなさい』……だってさ〜」

 風邪も引いてないし偏頭痛もちでもないのに頭が痛いような気がして思わずこめかみを揉み解した。
 逃げられないフラグだ。
 シュウ――恐ろしい人。

「っていうかー。あれ、なに?」
「ようわからへんのやけど、多分ゲートじゃない?」
「ふーん、ゲートね〜〜」

 ふむふむ、とその鏡らしき物体を覗き込むアーヴァイン。
 というか、ゲートだと知らせたのはGFだったりするんだけどアーヴァインは気が付かないんだろうか。

「アーヴァイン、GFは?」
「え? 今はジャンクションしていないけどどうかした?」
「ジャンクションしてみれば分るわよ。これを見て誰が一発でゲートだって分ると思う? 彼等が教えてくれたの」
「ええ! うちのところは何も言ってこないよ〜?」
「ええ? 何が違うんだろう」

 あるいは転移に関係する能力を行使するのに必須なGFたちだけの感覚なのだろうか。
 異世界渡りに必要なGFは全部私がジャンクションしている。
 そう考えれば有る程度の不自然は消える事になる。

「ねー、これ。消えそうだよ?」

 考え込む私にアーヴァインが言う。
 顔を上げた先には確かに影の薄くなってゆくゲートの姿があった。
 急速な消滅ではないが悠長に選択している暇はなさそうである。
 さて、どうするか。
 やはり今回は見送るべきだろう。
 世界の方から接触してくる事などなかったから稀有なる事では有るが、危険性の高さは否めない。

 一応異世界渡りをするための能力には最低限人の住める環境である事が設定されているが、このゲートの先が必ず人の住める場所かどうかは分らないのだ。
 もしかしたら宇宙人が空気も何も無い宇宙で開いたゲートかもしれないし。

 私の中での結論は降りた。
 あとはそれを周囲に知らせ了承を得る事が重要である。
 まあ話し合っているうちに消えそうだからそれもそれで良し。

「ねえセルフィ」

 と振り返り、私は目を丸くした。

「できたーー! アーヴィン、これで大丈夫かな〜〜」
「だいじょうぶじゃないの〜? うん、きっと平気だよ」
「よ〜し、じゃあテープを張って……できた! これを扉に張っておけば大丈夫だね」
「じゃあいこうか!」
「うん!」

 扉の外側にぺたりとその紙――コピー用紙のメモ書きを貼り付けると二人は朗らかに笑いあった。

『なんか違うところからのゲートっぽいのが開いていたのでちょっといちきます! アーヴァインとキリエもいるから心配しなくていいよ〜〜。とりあえず帰ってくるまでこの部屋は閉鎖ってことにしといてください!   byセルフィ』

 え? ちょっとまってよ。
 私の意見は?

「じゃ、いっくよ〜〜!」
「え?」
「ほら。キリエも」
「ぐずぐずしてたら消えちゃうよ〜〜」

 右をセルフィに。
 左をアーヴァインにそれぞれ手首をつかまれて、振り回されるように私たちはそのゲートを潜り抜けた。
 この先の世界がどんなところかは知るところではない。
 だが。
 ああ、せめて人気の無いところにお願いします。
 この恥しい格好を着替えられるところまで。
 小人の姿のセルフィに場違いなドレスにマントと杖を持った私、アーヴァインだって異世界にいったらコスプレに見えるのかもしれない。

 いっそフィールの前にゲートが現れれば嬉々としてコスプレ姿でいったのだろうに世の中侭ならない物だ。
 しかも連れはアーヴァインとセルフィである。
 ホントに本気でやってられるか。

 そうして三人が突如現れた不可思議なゲートに吸い込まれていった直後、ビニールテープで固く結ばれたキリエの念具の本がガタガタと動き、消える間際のゲートの中に飛び込んだ。
 そしてその部屋には意思持つものは誰も――何も居なくなった。











「来なさい! 私の使い魔!!」

 ピンクの髪をした少女は必死な形相で叫んでいた。
 すでに数えないでほしいほどの失敗を繰り返した後、初めて感じる手ごたえだった。
 この手ごたえを逃したい。けれど逃がしたくないと二つの矛盾する心を抱えて手繰り寄せる。

 その先に何がいるか。
 確実な事はいえなかったが予想はしていた。
 ただそれでも、何が居たとしても何でも構わなかった。
 彼であったなら、あるいは彼でさえなければ。
 ゼロと呼ばれた少女がかつてプライドをかけて行なった召喚の儀式はここにかつてをなぞるように再び行なわれる。
 それは彼女しか知らない事であったが。




 ゼロ。
 そうよばれる少女がここハルケギニアはトリスティン王国の魔法学院に居た。
 あらゆる魔法を失敗する。
 ひとつの魔法も成功しない。
 故にゼロ、と。

 あらゆる魔法が爆発という力に変換されてしまう、魔法の使えないメイジ。
 それが彼女のゼロの由来。

 だが彼女は周囲が思う以上に己の事をよく理解していた。
 己の属性の事も、何故魔法が失敗となるのかも、ただひとつ何故自分がこの場に居るのかと言う事意外であるならば、ほぼすべてのことについて理解をしていた。

 ゼロ、ゼロと、かつて少女を苦しめたその呼び名も、嘲りの声も少女の耳には入らない。
 ただひとつ。
 彼女は己の現状を理解したときからただひとつのことしか心に無かった。

 春の召喚の儀式。
 それを執り行う事ただそれだけだ。

 過去に、今は誰も知らない彼女の彼女だけの使い魔がいた。
 黒目黒髪のただの平民だと思っていた人間だ。
 初めは平民なんかを呼んでしまった事に落胆した。
 貴族の世界しか知らなかった自分は彼を酷い扱いにしただろう。

 初めは反発もした。
 けれど最終的には心を通わせる事が出来たのだと思う。
 その彼と別れてからどれくらい経ったのか。
 そして彼と出会ったこの地に再び――意図せずやってきてからどれほど経っただろうか。

 かつては敬意をこめてゼロと呼ばれた少女は今再び嘲笑の元に曝されて、だがそんな言葉は意識に入ってこなかった。

 ただ一年ずっと悩んできた。
 再び召喚の儀式を執り行う事を。

 喚べるだろうか、彼を。
 喚んでもいいのだろうか、彼を。
 恐らくは自分と違ってまだ何も知らないだろう異界の少年。
 会いたかった。
 心からその存在に焦がれてならない。
 けれど怖かった。
 再びその存在を喚ぶことが。
 彼を知っている自分に対して、自分を知らない少年を喚ぶことが。

 それは許される事なのだろうか。

 だが、迷ううちにも月日は過ぎる。
 いまさら学院の勉強程度手を煩わせるほどの事でもない。
 そうしてとうとうその日は来てしまう。

 来なさい、と。
 言葉ではそう叫びながらも彼女の内心の迷いは消えなかった。
 なにか手ごたえを掴んだ、と思うと同時に――それを掴んでしまった、とも思ってしまう。
 だがそれもいつもの爆発に変わってしまった。
 まるであの時の再現のように。

「ゼロのルイズがまた失敗したぞ!!」

 誰かが叫ぶ。
 彼女を嘲笑ってゼロと呼ぶ。
 無視しているわけでもなく彼女の耳はその音を拾わず、全ての神経を前方、自分の生み出した煙の中へと向けていた。
 なにかが、居る。
 それが彼か否か。
 それだけが今のルイズの関心だった。

 また、失敗か。
 そう囁かれて、すでにゼロと嘲笑されるのもなれたとそう思い込んでいた過去を世界はなぞり、だが彼女の心の中だけが違った。

 慣れたといっても辛くないわけではない。
 貴族としての高いプライドにかけて何時までもその呼び名を許しておく物かと、とんでもない使い間を喚んで見返してやろうと、認めさせてやろうと、そう思っていた過去が有る。

 それを懐かしいと思う余裕も、今の彼女には存在しなかった。

 見たい、見たくない。
 知りたい、知りたくない。
 二律背反に苦悩し、顔をうつむけようとしたそのときだった。
 かすかに薄くなっていく爆煙の向こうに、何か影が見える。

 ごほごほと控えめに咳をしていた。
 重なる音は三つ。



「あにざごれー」

 人の声。けれど違う。

「たしかに、これはちょっと酷いね〜〜」

 もうひとつ。ルイズは顔を上げた。

「うあ〜〜、シャワー浴びたいよ〜〜」

 そして、見た。



 爆塵の中でうごめく三つの影。
 それは今までこの場にはいなかったものだ。
 召喚に、成功した。

 それは彼女が出会いたいと、けれど出会いたくないと思っていた存在とは似ても似つかなかった。
 同じところが有るとするならば、おそらくは同じ人類であると言うだけだ。

 違う。
 あの少年ではない。
 ルイズはそのことに深い安堵を覚えながらも言いようの無い寂しさも感じていた。

「おい、ゼロのルイズが人間を召喚したぞ!!」

 安堵は寂しさは、やっとルイズの耳に入ったその声で、はすぐに違うものへと形を変えた。
 ここにはルイズが過去行なったその前代未聞の一は無い。
 ここではまたしても彼女が人間を呼ぶのが初めてのこと、となるのだ。

 そう。
 メイジが人間を呼ぶなど前代未聞。
 ドラゴンや幻獣なんて贅沢は言わない。

 ふと、現実逃避しかける心に過去の思いが蘇る。

 ウサギでもかえるでもネズミでもいい。
 何でも構わないから呼び出したいと心底願っていたことがあった。
 そのときも結局喚んだのは人間だった。
 人の召喚を願った覚えはこれっぽっちも無かった。
 なんてこと。
 何度繰り返しても自分は人間しか呼べないなんて。
 しかも今度は三人だ。
 一体誰と契約すればいいのやら。

 あは、あははははは、と言葉もなく心の中だけで崩壊した笑いをあげるルイズ。
 そして更に煙が薄くなり、現れた三人の人物達の姿が露になるにつれ、その思いは絶望に近い何かに変わってしまう。
 背の高い男と背の小さい帽子をかぶった少女の間に挟まれるように立っている女性の身なりを見て、彼女の顔から血の気が引いた。

 仕立てのいいビロードのマント。
 ドレス。
 そして何より目を引くのは双頭の蛇のあしらわれた立派な、見事に過ぎる杖だった。

 彼女はメイジだ。
 どこかの国の貴族なのだ。
 何処の国の人間か分らないが、貴族を喚んだ――召喚獣にしたとなれば外交問題である。
 平民を喚んだ以前より悪い結果である。
 ゼロのルイズはゼロであるままよりもなお悪い結果を呼んでしまったのだ。

「ゼロのルイズが貴族を呼んだぞーー!!」

 誰かの叫びも遠くに聞こえた。
 そんな彼女には、ルイズが貴族と思った目の前の女性もまた、ルイズと似たり寄ったりで青い顔をしている事には気が付かなかった。

 いや、化粧が濃すぎて見えなかった。









 キリエはいま、ものすごく厚化粧に感謝していた。
 顔からさーっと血の気が引いていく。

 ここ何処?
 いや、それはいい。来たくてきたわけではないが何処か知らないところへいくだろうこと予想が付いていた。
 何処かを尋ねるのは無粋だろう。

 だがどうした事だろうか。
 思いっきりコスプレじみていると思っていた自分の姿がまるで浮いているようには見えない集団がキリエたちのことを迎えていた。
 マントにドレスに杖をもつ集団だ。
 なにこれ。

 指先や足の先がひんやりしていくのを感じながらセルフィ指導の厚化粧に感謝した。
 ここが何処だか知らないが、人々の中に召喚された、これだけ目撃者が居る場所で召喚されたなら、誰か責任者とか居るだろう。
 みたところ若い人間が多い。
 高そうな服を着ている者ばかりであるところから見て、もしかしたら貴族達の学舎なのかもしれない。

 先手必勝!
 ではなくて、元の世界に帰るまでの間にこの世界の事を少しでも深く知るためには初期の知識は己で獲得するよりも知っている人間に聞いた方が早い。
 相手から少しでも有利な条件を引き出すためにも、ここで青ざめて見せるわけにはいかない。

 ここに来てまだ暢気、というか余裕のある隣の二人を羨ましく思いながらキリエは着ているドレスに負けないように、肩を張った。

 このドレスは百戦錬磨。
 青二才の自分とは違う場数を踏んでいるドレスなのだ。

 キリエは咳をおさえて前を見た。
 そこには顔色をなくしたピンク色の髪をした少女が一人立っている。
 ゼロだのルイズだの聞こえてくるが、ゼロかルイズか恐らくはそのどちらかがこの少女の名前だろう。
 全く聞き覚えがないが。

 隙を作らないように注意を向けたまま左右に目を走らせれば、アーヴァインは肩をすくめて首を振り、セルフィも理解できないと首を傾げた。
 つまりここは、彼らにとって全く未知の世界と言う事になる。

「ミ、ミミミミスタ・コルベール!!」

 その少女が悲鳴のように人を呼んだ。
 近づく気配に視線を向ければ、呼ばれるほうの顔色も悪い。

「ミスタ・コルベール! お願いですからやり直しをお認めください!!」
「ミス・ヴァリエール、神聖なる儀式が正式な手続きの下行われた以上、それはできないのです」
「ですが!」
「……何事にも例外は認められない。のですが、貴族を呼ぶのなんて前代未聞ですこれは場合によっては外交問題にも――」
「ですからミスタ・コルベール。幾ら例外は認められないといっても彼らと契約するわけには」
「――彼ら?」

 と言ってそのコルベールなる頭の薄い……いや、頭頂についての言及はは避けるとして、とにかくコルベールと呼ばれた壮年の男はキリエの左右に立つ二人を見た。
 彼らならどう見ても貴族ではない。
 なら、彼らなら――。

「いやだが、貴族の召使であるならやはり我等に勝手に扱う事はできない」

 メイド一人に戦争を起こす酔狂な貴族がこの世に居ないとも限らないのだ。

 ルイズも、そのコルベールと呼ばれた男も途方にくれた。
 これなら呼ばれないほうがよほど楽だっただろう。
 類図にしたところでこれは周囲の知らない事だったが、いまさら魔法学院卒業ていどのことに目くじらを立てるつもりは無かった。
 出来ないならできないでそれでも構わないくらいに思っていたのがこの結果である。

 コントラクト・サーヴァントはとりあえず見送るしかないだろう。
 とりあえず自身の名においてルイズにその預かりを告げる。
 だが目の前の彼らの処遇については一教師である彼の一存だけで決めるわけにもいかない。
 何とか学院長の元へ連れて行ってまずは事情を話し、理解を得るしかない。

「失礼。あわただしいところ申し訳ないのだけれど、いい加減こちらを蚊帳の外において話を進めるのはやめてくださらないかしら」

 彼らの混乱の時間の間に随分と余裕と血の気を取り戻す事ができたキリエが両隣の二人に眼差しを送り、無言の頷きを得て攻勢に出た。
 この相手の慌てよう。
 うまくすればかなりの好条件を引き出せるだろう。

 この世界がどんな世界かは知らないが、おそらく科学的な文明レベルはあまり高くないと推測する。
 魔法があり、それが発達しているらしい事がその推測のひとつの背景にある。
 魔法が無い、使いにくいから補うために科学が発達した。
 科学より使いやすく大気汚染海洋汚染などのリスクの無い、あるいは少ない魔法が発達していたなら、人の生活を便利にするために有る科学はそれほど発達するとは思えない。
 キリエがはじめて行ったH×Hの世界のような、厳重な戸籍管理は恐らく存在しないだろう。
 最悪なにも引き出せなくても、生きるのには困るまい。

 疲れたようによそおってキリエは僅かに顔をうつむけ、ニヤリ、と会心の笑みを浮かべた。
 うまくいけば。
 うまくいけば!
 これで舞台の上で衆人環視の状態での噴飯モノの台詞と高笑いから逃れられる――と。

 そしてその直後、キリエたちに遅れてゲートを潜った念具の本が、なぜか上空から落下してくる。
 他の障害物や他者のオーラであれば敏感に反応したであろうキリエも、どうして自分のオーラを防ごうなどととっさに思える物だろうか。
 案の定、反応し切れなかったキリエは脳天を本の角にえぐられて、その場で昏倒した。












 学院長室につれられて、オールド・オスマンなる老人と対面した。
 アーヴァインに運ばれてキリエは気がつけばそこにいたのだが。
 動いても喋っても響く瘤はとりあえず魔法で直した。
 魔法、と言うのはどうやらこちらでは貴族達の特権らしく、それがなおさら彼らにキリエを貴族であると誤解させた。

 キリエたちは、自分たちが異界から召喚された事については一切口を割らなかった。
 自分たちを喚んだらしきルイズと言う少女だけがなにやら勘付いた視線を投げていたような気がしたが、それはおいおいの事と置いておく。
 貴族と言う物がどうやらかなり特別な代物であると言う事もかぎつけて、名は名乗ったが姓を隠すことで身元の探索を避ける。
 キリエを貴族と勘違いしているらしいことについては都合がいいので誤解はとかずに利用する事にした。

 なにやらキリエ以外の二人のどちらかと契約させてくれないかと話も出たが、それについては全力で断固断り、ルイズなる少女はどうやらもう一度召喚の機会を与えられる事になったらしい。
 契約の拒否についてはルイズと言う少女も全力で加勢してくれたことが妙に印象的だった。
 彼女も自分のサーヴァントがほしいだろうに、何とかして契約をしない方向で行くことに必死のようだった。

「身元はオールド・オスマン。貴方の預かりで、衣食住。それと、制限の無い行動の自由を保障してくださるのなら、他にはかまいませんわ。たまには見聞の旅もよいと思いますの」

 絞れる。
 と思った割には甘い条件だがこれでいい。
 あまりやりすぎて相手に悪感情まで植えるつもりはない。
 彼らはただ、異世界で世界の探索が出来ればそれで構わないのだ。

「うむ、分った。その程度でよいのであればむしろこちらもありがたいわい。後で客室に案内しましょう」
「ええ、しばらくの間よろしくお願いしますわね」

 表では悠然と微笑みながら、キリエは内心では泣きたい気分であった。
 高笑いの魔女から逃げて、どうしてこんなところまで来てこんな貴族の演技なんかしているのだろうと。

 案内された客室はさすが貴族の学院だけあって広く豪家であった。
 ものが多くごちゃごちゃしていたり、眩しいほどきらびやかと言うわけではない。
 一つ一つの物のしつらえがいいのだ。

 案内人の視線も無くなって、Seedの個室に有るスプリングのくぁれかけたベッドとは比べ物にならないふかふかのベッドのここちをキリエは存分に味わった。

 そして。

 翌日客室に届けられた衣装を見て彼女は昨日の泣きたい気分を更に強くさせていた。
 これ、なんて羞恥プレイ?

「ドレス。ドレス!! 嫌だもう着たくない!」
「文句言わないのーキリエ。とりあえずキリエは貴族で僕達は平民ってことにして置こうってさ〜」
「そうそう。平民と〜、貴族の人たちの行動範囲って結構重ならないみたいだし〜? キリエが貴族で私たちが平民なら、全部そろって何処でもいけるで〜?」

 そのために、アーヴァインとセルフィは魔法が使えることを隠蔽しているのだ。

「わかった。わかった。けどね? なんかデザインが、デザインがなおさらファンタスティーック!! 一体誰の嫌がらせ? 他の二人に用意された服はまともなのに!!」

 部屋の防音がいいことにそう叫んだ。
 けれどアーヴァインに用意された服はキリエが着るには幾らなんでも大きすぎるし、セルフィに用意された服は小さすぎる。

 はっはっは! 胸周りだけは同じだがな!!
 とキリエは内心で血涙を流した。

 ごめんなさい。
 逃げられるなんて思ってごめんなさい。
 ここで毎日のようにこの羞恥プレイに合うくらいであるなら、ガーデンで1日限りで終わらせていたほうが良かったです。
 どうせ恥なんて自意識過剰なだけで、周囲は自分が思っているほどには何も思っていない物だ。

 ……お願い。帰して――

 願いも虚しく帰還の門を開くための三人の意思が重ならないために帰る事もママならない。
 ちなみに機会を与えられたルイズは、再び人間を呼んだという話だった。
 黒目黒髪の――少年を。
 少年は喚ばれた直後、ゼロの少女を見て「ルイズ――?」と呟き、その呟きにルイズは「サイト……なの?」と言葉を返した。
 そして二人は見守る周囲をおいてまるで濃いこうる間柄のように硬く抱きしめあいながら、涙を零したと言う。
















 ルイズがサイトを喚んだ夕方。

 ルイズが己の使い魔であるサイトを連れて彼らの元へやってくる。
 主従であると言うよりも、明らかに恋人同士である雰囲気を隠しきれずに。

 前にカップル、後ろにバカップル。
 キリエはやりきれない気持ちでこっそりと溜息をついた。
 それでも後ろのバカップルはまあいい。
 バカップルでも、傍目に何もしているように見えなくても、彼らは仕事中だ。

 それに一応、主人と言う事になっているキリエの客人との会話に使用人と言うことになっている彼等が出てくることは不自然だ。
 キリエとしては今すぐにでも立場を替わってやりたかったがそうもいかない。

「先日はお騒がせしまして申し訳ありませんでしたわ、ミス・キリエ。私の失敗を寛大にお許しくださったこと、感謝いたします」
「いいえ、構いませんのよ? なかなか貴重な体験ですものね。故郷に帰ったら、聞かせてやりたい人がおりますの。彼らは面白い話が大好きですから」

 フィールとかシュウとかリノアとか、キスティスとか?
 とりあえず笑ってくれると思う。

「本日は私のサモン・サーヴァントが成功しましたのでご挨拶に参りました」
「あら、あなたはどんな使い魔を喚べたのかしら」
「彼です」

 ルイズに道を譲られて、黒目黒髪の少年が前に歩み出た。
 「どーも」と何処か閉まりない口調で歩み出る少年のその面差しに、キリエは何処か懐かしさを覚える。
 それはもっとも古いふるさとの匂いのような――。

「……ふふっ。今度も人間を呼んだのかしら? ルイズ」
「はい。初めまして。ルイズの使い魔のヒラガサイトと言います」
「使い魔と言うよりは、恋人同士のように見えるけど?」

 と少しからかってみればそっと頬を染める二人。
 やぶへびだったキリエ。

「ヒラガサイト……なんだか懐かしい名前ね。ちなみに字はどのように書くのかしら。教えてくださらない?」
「ああ、はい。ええと」
「紙は有るわ」
「ありがとうございます」

 部屋に備え付けの書付に自分の名前を書くサイト。

「こう、こうしてこれで平賀、こっちで才人です。ちなみにサイトがファーストネームでヒラガがファミリーネームの――」
「日本語……」
「え?」
「これは日本語ね。貴方の名前は漢字で書かれている。……あなた、一体どこから来たのかしら」

 それを機に、彼らの間の溝は一度の解消される事になる。
 そして彼らは互いに盟友とも言えるような間柄となったのだった。

 互いの既知と未知を組み合わせ、彼らは世界を凌駕する。
























おまけ。




 子供たちを引き連れて意気揚々と、次こそは悪の継母ルックのキリエをつれてガーデン内を練り歩いてやろうと更衣室に帰ってきたシュウは、その扉に貼り付けられたメモを見て目を瞬かせた。
 ブレイクのステータス異常にでも掛かったように動かないシュウの背後では、大勢の小さな小人達がわらわらと寄り集まって騒いでいる。
 しゅーせんぱーい、キリエ居ないのー? ねえしゅうえんぱーい、などとなにやらごちゃごちゃ聞こえるが耳に入ってきやしない。

「なんか違うところからのゲートっぽいのが開いていたのでちょっといちきます! アーヴァインとキリエもいるから心配しなくていいよ〜〜。とりあえず帰ってくるまでこの部屋は閉鎖ってことにしといてください!   byセルフィ」

 彼女はそのメモの内容を声を出して読み上げた。

 ばぁいセルフィ?
 ふふふ、いい度胸しているじゃない。
 この私から逃げようだなんて!!

 そっと、優しくあでやかに、恋人の頬に触れるようにメモに手を伸ばすとグシャリ、とそれを握りつぶした。
 背後に立ち上る恐ろしく威圧的なオーラに子供たちは立ちすくむ。
 秩序なく騒いでいた子供たちはいまや一人残らず口を噤み、シュウの次なる動向に注目していた。

 自分で撒いた種とはいえ、ニーダと揃って白雪姫と皇子役にされた事でただでさえ気が立っているところだ。
 ただ皇子と白雪姫ならともかく散々からかわれた挙句の白雪姫と言うのが神経を逆撫でる。
 からかいの首班はセルフィだった。

「帰ってきたら覚えてらっしゃい」

 くしゃくしゃになったメモを丁寧に開いて、こんどは復元も困難なほど細かく引き千切るとシュウはふいに優しい微笑を浮かべた。
 背後の恐ろしいオーラも消えている。

「そうね。それがいいわ」

 いいこと思いついた、と彼女は微笑んだ。

「魔女の役はぜひキスティスにやってもらいましょう。仲間の穴を埋めるのは仲間。常識よね」







戻る
TOP