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日が暮れても連絡一つよこさないフィールに、こちらから連絡を入れようかと思ったスコールだったが、思い立ってその前にまた試験会場となったホテルに戻った。 すでにハンター証を手に入れた今、会場となったホテルにそのまま泊まるものも多く居たが、スコールたちは別口にホテルを取ってある。 明日の朝には、もう移動する予定だ。 実はスコール、電話というものがあまり好きではなかった。 例え相手がフィールでも、電話をかけることを少しでも先延ばしにしたい心理が働いている。 目指すのは多少の明かりがあれどもそれでもやはり圧倒的に暗い中庭だ。 宿泊客でもないというのにそこに居る後ろめたさからか、なんとなく絶をして気配を絶ってしまう。 いつかの潜入任務を思い出しているのかもしれない。 ホテルの影から顔を出そうとしたそのとき、ふとスコールの鋭敏化した聴覚に声が入った。 目を凝らせば、全ての明かりの届かない位置に居る人間に、一人、歩み寄るものが居る。 言葉はその二人の間で交わされていた。 「スコールさん、強いね。フィールもとっても強いね。オレは――」 ぼうっと目の前に居る人物を見上げる座り込んだ少年、ゴン。 静かな言葉には、けれども求める力がある。 昼間の幻覚は、少しばかりきつかったようだ。 彼は折れても立ち上がる。 そして今が、立ち上がるときなのだろう。 折れるだけなら、夢の中で終わっている。 「僕は、弱いですよ」 ゴンの目の前に立つ少年、フィールが言う。 僅かな月明かりしか届かない場所。 中庭を朧に照らす科学の光からは完全に逆光で、ゴンにもスコールにもその表情は伺えない。 ただ分るのは、その声音の心のみ。 「僕は弱い。ずっとずっと弱い。十年経つか否かで、いや、それよりきっと、もっと早くゴンにも抜かされるでしょう。ましてスコール先輩達には、きっと生涯かなわない」 (弱い? いいや違う。確かに俺よりは弱い。だが、それはむしろ俺が――) スコールの、スコールたち伝説を冠する者達の強さこそが、規格外なのだ。 そして精神面における強さは、スコールこそが到底及ばない。 異世界に行ってしまうなどという経験を、一人ではなくて良かったと、共に来てしまったのがフィールでよかったと、彼は心底思う。 フィールがいたからこそ、リノアの元へと帰ることを、良い形で諦めない自分がいる。 自棄になるでもなく、がむしゃらになるでもなく。 他の仲間との再会はともかく、例え何年たとうとも、リノアとの再会事体は可能だろうと考える事ができる自分を、スコールは嬉しく感じる。 日暮れから昼間にトリップしたことで、向うとの時間の不一致を考える。 ママ先生の姿を見て、魔女の老化について考える。 そして、リノアにとっての最後の手段。 最後までスコールを待っていてくれるのなら、エスタに渡り、その科学力にて眠る事ができる。 おそらくは、パッキングという形になるだろうが。 リノアには寂しい思いをさせるだろう。 リノアは、そうして物理的に長い時をわたることができる。その可能性が、残されている。 そう、考えることができる。 スコールは、ネガティブに陥りやすい自分と、陥ったら自分だけではなかなか這い上がれない自分を知っている。 確かに。 フィールは元の世界に帰っても、こちらの世界でも、絶対的な強者にはなれないだろう。 だが、人に希望を持たせることは誰よりもうまい。 いまも。 世界に散らばる幾多の言葉で、ゴンの精神を折れた心を打ち直す。 「望む強さへ到るために、僕達は階段を登ります。望む限り足は止めない。それでも、僕の階段は短く、嫌がおうにも止まらざるを得なくなる。階段の名前は才能だ。登ることは努力だ。僕の才能が尽きても、隣の先輩の階段はまだまだ先を見せる。ずっと同じ歩調で、強く望んだときには駆け足で、その階段を登る先輩達を僕は見ているしかない。僕の階段は尽きてしまった」 淡々と語る口調。 けれどそこには静かだからこそさまざまな感情が渦巻く。 いつものように芝居染みた例え話で、心を語る。 「嘘だ。見上げているだけの人が、そんなに強い目をしているはずない」 「ええ、嘘です。でも本当です」 矛盾を認め、笑う。 「確かに僕が才能で登れる階段は尽きた。でも、僕は努力で階段を作ります。資材を運び込んで、つたない段を作って、上を目指します。才能の助けがあったころとは登れる速さが格段に違う。あるものを登るのではなく、作ることから始めなければなりませんから。例え今この時、先輩の才能の階段が尽きて、先輩が自分で階段を作り始めても、その差は大きくもう追いつかないでしょう。ですが、僕は階段を作ることを、作った階段を登ることをやめません。作って、登って、届かない高みを見上げて。そしてまた作って登ります」 理論のすり替えにも近い弁舌だと思ったが、立ち直ったのならいいだろう。 ゴンなら一人でも立ち直れるだろうとは思ったが、そばに人が居てくれるというのは案外いいものだ。 立ち上がり、光の中に出たゴンはにっこりと笑った。 「うん、やっぱり凄いや。それにやっぱりフィールはとっても強いよ! ありがとうフィール!!」 かけてゆく背中を、フィールは年長者の眼差しで見送る。 ゴンの資質は目を見張るものがある。 純粋に強さというものを極めてゆけば、ゴンとフィールには最終的に膨大な差が開くことになるだろう。 決して力で同じ場所に立つ事はできないできないもの同士だ。 だが、それでも心を伝えることはできるだろう。 ここでも一つ、人から人へのすばらしい継承が行われた。 照れたようにはにかむフィールに気が付かれる前に、スコールは地を蹴った。 先にホテルに帰り、遅く帰ってきたフィールを何食わぬ顔で迎える。 「ただいま帰りました、先輩」 「おかえりフィール。頑張ったな」 何のことかと首をかしげるフィール。 少し考えて思い至ったようで、怒鳴ろうか吼えようか迷ったように言葉を詰まらせた。 「な……なな、な、先輩!!」 このあわてよう、芝居よりも本心の割合の方が高いようだ。 これは思わぬ本音が聞けたとスコールは表情に小さな笑いを載せる。 いい後輩を持ったものだ、と。 フィールが居たから、スコールは希望を捨てなかった。 そして、今はアーヴァインも居て、三人で同じ場所を目指している。 これで叶わぬはずがない。 スコールはそう、信じられる自分を喜んだ。 |