ワールド




「ウィングさん。念は危険な技術だ。誰にでも手にできる可能性がある。だからこそ教える者は相手を選ばなければならない。それには確かに賛同します。ですが今回方便を説くのはいいですが、それこそ相手は選んだ方がいいです」
「どういう意味ですか、フィール君」

 わざわざ突然窓から顔を出してみたというのに、特に驚いた様子もなく彼は答えた。
 それが少し面白くなさそうにフィールは唇を突き出す。

「あフィール!! 何でここにいるの?」
「実は僕達も居るんだよー」
「……ああ」

 窓から現れたフィールとは対照的に扉を開いて紳士的に現れた二人。

「アーヴァインさんにスコールさんも!!」

 キラキラが光って見えそうなくらいにゴンの眼差しがまぶしい。
 内心でたじろぐスコール。
 憧れ、というものを含んだ眼差しはガーデンに居たころから受けていたが(自覚したのはガーデン衝突戦の時)何時までたっても慣れるものじゃない。

「フィール……なんでそんなとこから」

 突然の登場に唯一反応を返してくれたキルア。
 ズシも反応しているといえばしているのだが、何故だかカチコチに固まってしまっていて、返すどころじゃないようだった。

「すまない。訪ねるのにいい時間じゃないことは自覚している」

 まずスコールがこれは社会人として。
 すでに時間は非常識な夜更けだ。
 子供は寝る時間。
 さっさと初対面であるアーヴァインの紹介も済ませてしまう。
 もったいぶることもなし。
 今回アーヴァインは顔見せに来ただけだった。

「突然どうしたんですか? と言いたいところですが、このタイミング。はかっていたんでしょう?」
「まあそういうことになります」

 はぁ。
 とため息一つでウィングのため息が部屋の空気を支配した。

「あんた達もその、ネン、ってヤツを知ってるのか?」
「知っていますよ? 僕達はそれを使う者ですから」
「フィール君」

 とっさに出てしまったのだろうとがめるような響きを持つ呼びかけは、裏があると読んでいたキルアに確信を与えるには十分な響きを持っていた。

「今日はこの子達を知る者として、ウィングさんにお願いがあってきました。こんな不躾な訪問をしたことにはお詫びします。ちょっとふざけ過ぎた事は否めませんし」
「ここまで来てしまったからにはとがめだてしてもしょうがないでしょう。私は個人としてのあなた達も、ガーデンとしてのあなた達も信用しています。こういう行動に出ると言うことは、それなりの意味があるのでしょう」
「感謝する」
「いえ」

 こういう小さいやり取りを、大人だなーと見守るフィール。
 実際フィールとスコールに年齢の差などあったもんじゃない。

「それで、話とは? まあ、大体言いたいことはわかりますが」
「ああ。この子供達に念を教えてやってほしい。もちろん方便ではない方をだ」
「……」
「って、やっぱり嘘だったのかよ!!」
「うそじゃありませんよ」

 この問答、ちょっとすればエンドレスループ。

「確かに嘘じゃないよキルア。って、なんでそこで先輩を見るかな」

 たしなめられて、スコールを見るキルアの目は、確かにスコールに真偽を問う。
 やたらとスコールに懐いている、というより、スコールを認めたといったほうがいいのだろうか。

「確かに嘘じゃない」
「ちぇ」
「この子供達は、すぐにでも二百階に到達するでしょう。並々ならぬ才能を秘めた子達です。順当に勝ち進んでいけば、いまが正道を教える最後のチャンスです」
「別に私が教えなくてもいいのではないのですか。あなた達も基礎を踏まえたりっぱな念能力者です。あなたたちが目を掛ける子供に邪道を教えるとは思えない」
「確かに邪道を教えるつもりはないが」
「僕達は師範代の資格を持っていません。正道を教えるのなら、それこそウィングさんのような人のほうがいい。あなたのような気質は好ましい。そして僕達はいずれ居なくなります。いつでも相談できる人としては不適格です」
「ふぅ。……ガーデンのアドレスも削除されていましたし、いずれ帰るといっていたのは、本当だったんですね」
「はい」
「ならば、仕方がないでしょう」

 言うと彼はただ状況においていかれるだけだった子供達を向き直った。

「明日から試合の後に私の部屋へおいでなさい。やるからにはきっちりと、責任を持ってお教えしましょう」

 最後の言葉はスコールへ向けて。

「ああ、頼む」

 ここに見たり、男の友情!!

「ちがうか。どっちかと言うと拳で語り合ったのは僕の方なんだけど」

 ポツリと呟く言葉に取り合うものはなく、ただ相変わらず扉に寄りかかったままのアーヴァインが、小さく肩をすくめただけあった。

「ありがとうございました!!」

 ゴンが元気に叫んだ。
 フィールが先陣を切り、今度はみんなそろってきちんと扉から出て行く。





Mission in Complete?





 まだ気が早いか。
 いざとなれば二百階に登る前に無理やり念を起こすのかもしれないが、まだヒソカに会う前に纏が出来るようになるか否かは確定していない。
 逆に知識を得ることで、準備期間の間に念を起こそうとする可能性もある。が。
 去り際、スコールはウィングにささやいた。

「ゴンは二百階でヒソカと戦うことになるだろう」

 息を呑む音が聞こえた。

「……あの、ヒソカとですか」

 すでに呟きは遠く。




 去りつつスコールは内心思う。
 返事までの間を。
 そしてヒソカと言う闘士の戦いに思いをはせたであろうウィングに、深く共感するのだった。




ミッションコンプリート?





















 変態の鼻はあかしてやりたいが、近づきたくは無いと言うのが彼らの実に正直なところだった。
 物語の中で読む分には、ヒソカと言う人物は物語を面白く盛り上げるのに欠かせない立ち位置にいる。
 その変態性まで含めて、紙の向こうの世界として捕らえている分には、ある意味で申し分ない役者だ。
 だが、近くにいれば必ずしも歓迎できる人間ではない。
 どちらかと言えば多くの人間に嫌悪を誘うだろう。

 そして彼等も相違なく、ヒソカと言う人物には嫌悪を感じていた。

 ヒソカが狙うのは、狩るに値する力有る者たち。
 幸か不幸か、スコールたちはその判断基準にしっかり認識されていた。

 塵芥のように殺されることは無いが、事有るごとに殺し合いを持ちかけられるのは正直たまったものではない。
 相手はなんと言っても真性の変態だ。
 人間誰でも多少変態の気はあるとは言うが、あそこまでなれば理解不能だ。
 なんだあの生き物、と言うのが正直なところ。

 その変態の鼻を明かしてやりたいと意気込んでいた彼らだったが、自分たちの行動に相手の変態性を試算、考慮しているうちに、大体満足してしまったのだ。



 ここまでやればもういいかなぁ、と。



 あれから七日も経っていないが、ゴンとキルアの精孔は急速に解放へと向かっている。
 そして着々と闘技場の階位も上がっている。

 一緒に入るズシが憐れになるほどだった。

 だいたい、この方法で時間をかけて精孔を開くなら、傍から観察していれば判る者には判る。
 自分の欲望のためなら努力を惜しまないヒソカだ。
 十分力が付かないうちに壊れてしまうことを惜しんだだけで、ヒソカの登場は優しさでもなんでもない。
 ま、それでも二百階の先達として一言くらい言いに現れるかもしれないが。

 そもそもスコールにはフィール達の様な意図はないし、フィールたちにせよ、日に日に変態がうっとおしくなって来るにつれて、本来であればヒソカが担ったであろう念の世界への先導者としての役割を丸ごと横取りしたことに満足してしまったのだ。
 というよりは、満足してしまうべきだろうと本能が言う。

 自分たちが手出ししたことには最後まで責任を持つべきだ、と言う声も良心のどこかから聞こえたような気もしたが、ゴンとキルアの二人には、立派な志を持つ師匠がついた。
 頑固で融通の聞かないところもあるが、彼は二百階の新人潰しなど三人で寄ってたかっても勝てるだけの実力を持つ。
 人質などをとられることが無ければ勝てるだろう。
 人質など取った所で彼らの要求などたかが知れているが、どうしようもないときは呼ぶ様にとも言付けてある。
 彼らの実力はウィングとて知っているところでは有るし、ガーデンはそれこそ人質の奪還などの特殊任務を旨とする。

 だんだんと、なんら問題がないような気分になってくる。





 キリエの意識も昏睡したままもどらない。
 キリエ自身が昏睡する以前に作り置きしておいた念具を使用することによって、衰弱は免れているが、こんな物騒な場所に自衛も出来ない人間を何時までも置いておきたくは無かった。

 此方からはまったく持って接触したくなんて無いのに、スコール――ユラナスのほかにもフィールにもアーヴァインにも食指が動いたようでしきりに接触を図ってくるヒソカ。
 じりじりとユラナスとの試合の日までこんな調子ではやっていられないと、本来ならゴンたちにもスコールと、変態では有るが実力者であるヒソカとの戦いを見せようと思っていたフィールも切れた。
 それはあるとき、何の脈絡もなく。

 当番制で、アーヴァインのまだ拙いカレーライスを食べているときだった。
 ガーデンに入れば基本的に食堂で栄養バランスのいい食事が出来るために、料理とはあまり縁が無かった彼ら。
 それでも此方の世界に来てそれなりにはなるスコールとフィールはそこそこ料理も上達したが、アーヴァインの腕はまだまだだ。

 それでも切って剥いて刻んで煮込んで市販のルーを突っ込めば、それなりに見栄えがするのがカレーライスのいいところ。
 談笑しながら辛口の山盛りカレーを制覇している途中でいきなり止まったかと思うと、その後怒涛の勢いでカレーを平らげるときびきびとした動作で立ち上がり部屋を出て行った。
 他の二人をまったく状況から置いてけぼりにして。

 しばらく経って、スコールたちがフィールの行動をいぶかしみながらも普通にカレーを平らげる頃に戻ってくると、スコールにその事実を突きつけた。

「先輩、明日ヒソカと試合です」

 と。





 辛口カレーを気管に流し込んだスコールはその日一日喉のいずさ――痛痒い異物感に苛まされた。





 戦いを先延ばしにしたい気持ちも確かにあったが、ここ最近のヒソカの煩さには辟易していたスコール。
 まあ気持ちもわからなくはなかったので特に問いただしもせずに了承したのだが。
 とりあえず自分に害がないものだから一人笑っていたアーヴァインを睨みつけておくことだけは忘れない。

 いきなり翌日に試合を組まれてしまったわけだが、昏睡しているキリエをこの物騒な町に置いておくことを躊躇う気持ちがあった今となっては好都合だった。
 さっさとヒソカとの試合を終わらせて闘技場にサヨナラを告げるために。











 時間は残酷な程に平等で、思い悩んでいても笑い続けていてもきちんと夜になって朝が来る。
 二百階には到達していなかったが、ゴンとキルアもウィングの斡旋でスコール対ヒソカのチケットを買って、一応応援の言葉らしきものを言って去って行った。
 二人に念を秘匿する意味もないし、なにより、ゴンがこれからヒソカと戦うだろうと聞いたのが効いたのかもしれない。
 敵情視察は基本だ。

 とりあえず彼はいつものようにユラナススタイルで全身を覆い隠してパーティマスクを腕に装備する。
 今はまだただの――変な白い仮面だが、いつかこれを何かしらの効果をつけた念具にしようとキリエが企んでいたことをスコールは知っている。
 ヘタに便利な効果が付かないことを祈るだけだ。
 どうでもいいような効果ならつかわないでも置けるが、それが効果の高いものだったなら、もしかしたら使わざるを得ない時と言うのも来る可能性が無いわけじゃない。

 闘技場に出れば一面の観客。
 観客席からはみ出しそうなほどの人数と、熱気。
 それを更に煽るようなアナウンスが入る。

 リングの上でヒソカと対面することになり、改めて見ると改めて目をそらしたくなる。
 変態だからといって初めはこれほど嫌ってはいなかったように思うのだが、やはり嫌うようになった原因があるとすればそれは、ふれあいとでも言うべきか。
 とりあえず、一撃必殺クリーンヒットでご退場願おうとスコールは決意した。

 スリプルやサイレスによる奇襲はSeedとして活動する中では常日頃のものだ。
 GFをジャンクションしていなければほとんど効果をもたらす事のないそれ。
 だからこそ、ガーデンのSeedの特殊性ともいえる。
 厳しく規制しなければ、犯罪者をのさばらせることにもなるし、GFによる記憶喪失者も生まれるだろう。
 そもそもGFを使って犯罪を犯した挙句、犯罪を犯した記憶を失ったりしたのなら、被害者はどこまでいっても救われない。

 魔女戦争からこちら、一時期はガーデンもGFの使用をやめようかと言う話も出ていたのだが、決着が付く前にオダインが特殊なバンクルを製作し、GFの副作用を無いものにした。
 その希少性と特殊性から、現役のSeedが持ち出しでもしない限り外部に出回ることはないし、一つ一つ構造の最深部に発信機が取り付けられている。
 これで居場所がすぐに判る上に、電波が発信されなくなったとしても、発信機からの電波を遮断できるような場所にある、と言うことでやはりある程度の場所の特定は出来る。

 いま相手は一般人ではなく、念使いとはいえ魔法に対する耐性はほとんどないはずだ。
 と、とりあえずは希望的観測かもしれないがスコールは思う。
 とりあえずペインとスリプルをかけて、気が付いたなら壊されるだろうがブレイクで動きを封じてしまおう。
 地中から突き出した岩が対象を閉じ込める魔法であるブレイクは、一般的な人間にはよく効くが、それを壊せるだけの力や体格を持つ人間や魔物には効果がない。
 だが、そもそも先に五感を封じてしまえばなんと言うことも――恐らく無いはずだ。
 ブレイクが効かなくてもサイレスの一つでも効けば少なくとも変態的な口は封じられる。
 ジャンクションによって魔力の値も跳ね上がっているし、ケルベロスを呼んでトリプルを掛けた上でそれぞれの魔法を三度ずつもかければどれかは掛かるだろう。

 もう既に、まともに試合する気を放棄しているスコールだった。

 懸念があるとすれば、この手段で勝ったとしても、力と技のぶつかり相ではないためにヒソカが満足しない可能性があることだが、それに関してはとにかく闘技場で一試合、という既成事実を言い訳に出来る。
 それでも絡んでくるようなら逃げればいい。
 ヒソカはここ最近は青い果実を探しながらも旅団の団長であるクロロとの戦いを強く望んでいるらしいので、そちらがチャンスと見れが此方からは離れるだろう。

 希望的観測ではないことを祈るのみだが。









「始め!」



 と、スピーカーから吐き出された声が一度だけリングの上に反響した。












 どちらもすぐに飛び出すようなまねはしない。

 ヒソカはこの試合を楽しむために。
 少しでもスコールから手数を引き出し、戦いを引き延ばし興奮を得るために。

 スコールは己の中のGFに接触し、引き出すために。
 この試合に一秒でも早く幕を引くために。



 先に動いたのはスコールだった。

 満ちるGFの力。
 溢れ、出ようとするのを素直に外界に解放する。

 三つ首の、力持つ獰猛な灰色の獣の登場に場内が沸き立った。
 こんなところに観戦に来るような人間だ。
 これがヒソカの試合であり、ヒソカの試合の意味を判った上でこのチケットを買った人間も多いだろう。
 ならば想像するのはこの獣により行われる残虐な殺戮ショーか。

 だが、ケルベロスは冥界の門を潜るものには友好的なのだ。
 現世に戻らんとするもの以外には、牙を剥くこともない。

 ケルベロスとスコールを見比べて、スコールに狙いを定めたらしいヒソカが床を蹴った。
 スコールを襲って獣がどう反応するのかも見るつもりだったんだろう。

 それを横っ飛びに避けるスコール。
 スコールを守るわけでもなく咆哮を響き渡らせるケルベロス。

 轟く雷鳴のごとき咆哮に沸き立つ観客共。

 咆哮と共に淡い光がスコールに降り注ぎ、だが傍目には何の変化も見受けられない。
 ヒソカの追撃も凄まじいものだが、まだ観客の望む惨劇はこの場に訪れない。
 まともに受けたならば、その全てに一撃必殺の威力があるヒソカの攻撃。
 着慣れない物である上に気を払わないのでマントはずたずたになっていくが、ただそれだけだ。
 交わすことに専念する限り一筋の傷だって作らせない。

 スコールは感じる。
 自分の中に有る力の存在を。

 この力を理解し、どんな形で解放させるのか。
 それを幼い時からずっと学んできた。
 それしか知らぬままに、それしか与えられずに、捨てられないように必死になって。
 何故そんな恐怖を持つのかもわからないままに。




 そうなるように、仕向けられて。




 守りたいものも無いままに、気が付けばガーデンでも屈指の力をつけるようになっていた。
 ガンブレードを使うものがいないから、とか、そういう理由ではなく倒すためでもなく、ただ戦うために、力をぶつけ合うことの出来る相手など、あの頃はサイファーしかいなかった。
 ガンブレード使いはただ二人でも、ソードの使い手ならガーデンには幾らでもいたのに。
 負けるのは悔しかった。
 けど、まだ負かされているうちは、何か安心していた。

 知らないうちにどこかで感じていたんだろう。
 弱い自分に、まだ運命は来ないと。
 スコールは思う。
 考えることを放棄していただけで、ただ記憶を失っていただけで、全ては最初から目の前におかれていたような気もする。

 だがそれも、どうでもいいことだ。
 今はもう、決めている。
 多くの人間が己を孤独に追いやって、己からも他人からも愛を剥奪して過去をなぞる行動を取ってきた。
 未来は過去になってしまった。
 過去を覆すことは世界の根幹を揺るがすことだ。
 それでも、例え世界が壊れても、たどった歴史が消えてしまっても、未来を変えると。

 既に定められた未来など、あってはならない。

 何一つ覆しようも無くそれが過去にも等しく絶対だというのなら、奪われた愛にも与えられた孤独にも仲間にも、何もかもに意味が無くなる。

 スコールが、アーヴァインが、そしてリノアが。
 辿り着いた今さえも。

 それだけは許せないことだった。

 例え世界を殺して世界と共に死ぬのだとしても。
 全ての果てに死は定められている。
 死に向かい、人が選べるのは過程のみ。
 ならばこそ、それを無にすることなど許せはしない。


 溢れる力に一つの魔法を乗せて。


 観客の期待にはこたえないままにケルベロスが消えたとき、スコールは叫んだ。

「トリプル・ペイン!」

 力ある言葉に導かれ、スコールの中から蓄えられていた力が一つ消失する。

 ヒソカはこれをすぐには避けないだろうとスコールは思っている。
 戦いによる興奮を好み、多少のハンディならむしろ喜ぶくらいであるし、望んだわけではないが短いともいえないような付き合いのために此方がどういう思考の元で戦いを行なうのかも理解されているだろう。
 その思考を戦いの中で突き崩すことをすらヒソカは楽しみにしているのだ。

 一度目はやはり受けた。
 驚愕に顔をゆがめ、続く二度目を避けようとする足取りを見る限り、視力は奪えなかったようだと見る。
 だが、力は通路を作って導いてしまえば後はなるようにしかならない。
 制御する気があるのならまた別だが、その三度の力をすべて対象をヒソカに絞り、流れ出るままに設定してある。
 ヒソカほどの身体能力を誇るなら、常なら避けることも可能だろう。
 実際過去に、追撃する魔法を避けて見せるという非常識をなした人もいた。

 だがそれも、魔法が魔法だけであったなら、だ。

 ただ見守るつもりも無い。

 袖から引き抜いたスローイングダガーを習ったままの流麗な動作で念を纏わせ投げつける。
 オーラを纏い速さと切れ味を増したそれを受ければ、ただではすまない。
 避けるか、あるいは迎え撃つか。
 隙はたったのコンマ一秒で構わない。

 ヒソカは追撃を選んだ。

 軌道を変えながらバンジーガムを放ち、トランプを投げてナイフを絡めとり、叩き落す。
 だが、それで十分。
 一度目でたいした効果がなかったことからの侮りも、有っただろう。

 残りの二度は、たがわずヒソカを直撃した。





 さすがのヒソカも膝をつく。

「勝ちは貰うぞ」

 何か言い返そうとしたのか、声が出ないのに気が付いて喉をさすっている。
 すぐに現状に納得したのか、立ち上がったが、目が見えていないことは既に曝してしまっていた。
 念とオーラ。
 通常であれば自分の立ち居地と相手の立ち位置をそれで探るのは簡単なのだろう。
 目が見えないなどハンディキャップとして楽しむくらいかもしれないが、相手だって優秀な念使いだ。
 絶だって上手い。
 そして、目が見えなければ、円を広げたところで襲い掛かる次の魔法を避けることはできないだろう。

 声も、眼差しも失って、毒にも侵されているだろうになんでもないことのように立つヒソカに、スコールは告げた。

「眠れ」

 まだGFの残した力は身の内にある。
 その力にストックした魔法を乗せて、体の中から外へ押しやる。

「トリプル・スリプル。ブレイク!」

 それでもかわそうと跳躍するヒソカの足元に、スコールはここに来る前に外で切り集めた木の枝を数だけを頼りにろくに狙いもつけずに投げつけた。

 念能力者に対しての殺傷力は無いに等しいが、一応オーラは纏わせてある。
 盲者の行動を阻害するくらいなら訳もない。
 そして実際その木の枝は、過たずヒソカの行動を妨げ魔法はヒソカに降り注ぎ、くらりとしながらも耐えたヒソカを三度目には睡魔に引き摺らせ、地面から伸びる岩たちが牢獄のように眠るヒソカをその中に閉じ込めた。



 しん、と。

 会場は静まっていた。

「審判」
「な、なんだ」
「こいつはもう戦えないようだが? 判定は出ないのか」
「あ、ああ……カウントする。ワン、ツー……」

 マイクを通し、テンカウントする声が大きく場内に響き渡るが、岩の牢獄が壊れる様子は無い。
 そのままテンカウントは続けられ、ユラナス・レオンハートの勝利が声高に告げられるにいたって、ようやく観客は動き出したのだった。











 その後、試合を終えたスコールたちはさっさと登録を解除して天空闘技場を後にした。
 夜逃げもかくや、と言う早さである。
 ゴンたちが出口の付近で彼らのことを待っていたが、「あ!」と言って歓迎に手を振り上げたときには既に横を風のように通り過ぎていた。
 紙の向こう側ではない、本物のヒソカや旅団を知ったフィールも熱が冷め始めていて、めんどくさいことは全てとばしてしまおうと言い出すに至っている。
 命の危機ではなく、精神汚染の危機だ。

 ヨークシン?
 めんどー、ってなものである。

 結論として彼らは、キリエが目覚めたらさっさとグリード・アイランドに入ってしまおうと言うことで話をつけた。
 後はひたすらキリエの目覚めを待つのみとなった彼らは、大きなキャンピングカーを一台買って、キリエが目覚めるまで各地を彷徨うことにした。

 最近、十老頭がガーデンを探していると噂に入ってきていた。
 常にだれかがキリエの側に居るつもりではあるが、世の中絶対などというものはありえない。
 ホテルに泊まるより、車一台買って走りまわっている方が安全だともいえるし、何かあったときに周囲を巻き込まずに済む、ともいえる。

 どちらにせよグリードアイランドにまで入ってこれる追っ手などそうはいない。
 少しの辛抱であるともいえるだろう。








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 例え世界を殺して世界と共に死ぬのだとしても。
 全ての果てに死は定められている。
 死に向かい、人が選べるのは過程のみ。
 ならばこそ、それを無にすることなど許せはしない。

 書きながら、なんだか魔導物語っぽいな〜、とか、思ったりして。



 あれを読んだときは、死んだら元も子もないじゃん、って思ったんですけど、運命に反逆するってことは世界に反逆するにも等しくて、世界に反逆するということは世界を敵にするということ。
 世界が敵なら、敵は倒さなければならないもの。

 結局、そうなるんでしょうかね〜。