ガイの場合
目の前が眩く光って、星空とセレニアの花畑が消える。
あれは、超振動の光、か?
代わりに現れたのは見覚えのある庭。
どうしてこんなところに居るのか、分らなかった。
ルークが帰ると信じて、俺たちは自然とルークの誕生日にあの渓谷に集まった。
正確にはルークのオリジナルであるアッシュの誕生日なんだが……ルークが生まれた日は誰も知らないし、ルークはアッシュのことを慕っていた、んだろう。
完全同位体だし、七年ずっとルークはその日を誕生日にしてきたんだからまあいいだろうと思う。
俺たちはずっと待っていた。
後から聞いた話だ。
ルークの乖離現象は限界まで差し迫っていて、ルークはアッシュの意識を取り込んで第二超振動を使っていた。
マルクトで暮らすようになって、仲間たちより陛下やジェイドと会うことのほうが多くなり、ふとした時に聞いてしまったことだった。
俺とジェイド以外の仲間には、知らせていない。
俺は、言えなかった。
あの時点でビッグバンが終わっていたら――帰ってきたとしてもそれはルークではないかもしれない。
ルークの中に居たアッシュがオリジナルの性質としてレプリカの体を奪い帰ってくるか、あるいは不完全なビッグバンによりそのどちらでもない者になるか。
酷い話だ。
ルークが一人で帰ってきたら、どんなに割り切った風に見せても、受け入れても、後ろめたいような後味の悪さを味わうだろう。
あいつは、そういう奴だからな。
アッシュが一人で帰ってきたら――それはそれで地獄だろうな。
死んだことを自覚した奴が、後を託した奴の体を奪って一人生きて帰るんだ。
二人の記憶を持っている誰かだったとしたら――俺たちはそいつを、そいつの記憶の中にあるような表情で、気持ちで、素直に迎えられるだろうか。
分らなかった。
帰ってこない可能性のほうが、高かった。
それでも、俺たちは待ち続けていた。
ルークを。
もしかしたらアッシュを。
誰でも無い誰かを、な。
歳月は全てを過去にするには短すぎた。
だけど、昨日の事のように話すには長すぎる。
示し合わせたわけでも無いのに、俺達はこの日にセレニアの咲く花畑にやって来る。
全員がそろうのなんて、この日くらいなものだった。
言葉を交わして、ティアがユリアの譜歌を歌いそして、帰ろうとしたとき――俺たちはセレニアの向こうからやってくる紅い髪を見て――
どう見ても現状と繋がらない。
この見覚えのありすぎる状況。
倒れ伏す白光騎士団。
ルークとアッシュの存在を失って倒したはずのヴァンデスデルカ。
だとすれば、あれはもしかしてルークとティアが起こした超振動の光だったんだろうか。
何の因果が働いてこういう事態になったのか、全く理由は分らない。
だが一つだけ、すぐに分ったことがある。
これが、あの時のまるで再現であるということ。
つまり、丸ごとそのままならこの時点ではルークも、そしてアッシュも生きていると言う――ことだ。
ここに居るのは俺の知るままのあいつらじゃないだろう。
俺の意識、記憶はあのセレニアの花畑からいきなりここに繋がっていて、今までここに居たあいつらのことを、俺は知らない。
俺はここに居た俺のことを、全く上書きしてしまったみたいだった。
例えるならこれはきっと、自分殺しだろうな。
自殺するよりたちが悪い気もするが、悪いと思いつつも感謝してしまう。
ここに、この世界に居るだろうあいつらが、俺の知らないあいつらだとしても――あいつらがあいつらで有ることにはかわりは無い。
俺は、ここであいつらを、ルークとアッシュを救えるチャンスを――手に入れたんだ!!
復讐する気は無い、と言いながら、俺はアッシュに何も言わなかった。
カースロットに操られていたとは言え、俺がルークに剣を向けたことはきっとあいつを傷つけただろう。
あんな目にあったのに、すぐ近くに忍び寄る乖離と言う死を見つめ続けて怖かっただろうに、気が付けばずっと先頭に立って歩いていたルーク。
一途で直情でからかいやすいアッシュ。
現れる形こそ違うけど、アッシュにもルークと根源を同じとする優しさがあったのに気が付いていた。
どうなんだろうな。
この場合、アッシュを根源としてルーク、って事になるのかな。
俺は、お前のことも嫌いじゃ無かったよ。
ルークにしても、アッシュにしても、あの戦いに勝って生きるための世界を手に入れても、後に続く自分たちの存在が無かった。
乖離で消えていったルーク。
アッシュも、結局似たようなもんだったんだろうな。
勝っても負けても、未来を望む事のできなかったあいつら。
今ここが、あの時の再現なら、何一つ変わらないなら、今度こそ――俺はあいつらの幼馴染になりたい。
追いかけるための許可を取るのは、以前にもやったことだ。
手際よく終わらせて、俺はファブレの家を出た。
以前とは違うこの行動が、何かを変えてしまうのかもしれない。
その何かが最悪になる可能性があっても――俺はもう黙って待っていることなんて出来なかった。
順調にマルクト領に入り、ルークの探索をする。
そして見つけたのは、背中に不気味な人形を背負った少女だった。
なんだか近寄りがたい感じに怒っている。
あれはアニスか。
どうやら、俺は以前と比べるとやはり随分早くタルタロスの軌道を追っていたようだった。
確か、アニスはこれからセントビナーによってからカイツールに行って、そこで合流することになるはずだった。
ちょっと早いが、声を掛けてみようと思う。
あっちは俺の事を知らないだろうが、こっちからルークって奴のことを知らないか? って聞けば、まあ話にはなるだろう。
そのあとでなんとなくタルタロスに近づけば、早い段階で合流できる。
「おーい、そこの人」
呼ばれてピクリと反応したアニス。
振り返ってぎょ、っとした風に目を見開いてトクナガを巨大化させた。
なんだ、この過剰反応。
俺なんかしたっけ?
それともこっちのアニスとはすでにあった途端に迎撃体制をとられるような知り合いなんだろうかと考える。
だが疑問は、ある意味ですぐに氷解した。
「あー! ガイラルディア! もう、何しに来たのさー。また邪魔しに来たのー!」
「へ? な、何の話だ?」
「もー、しらばっくれちゃって。六神将ガイラルディア!! このアニスちゃんの邪魔をしようったってそうは行かないんだから!」
「だから、何の話だって!」
本気で驚いてそう叫べば、アニスはトクナガは巨大化させたまま、むぅ、と眉を寄せた。
「もしかして、あんたも?」
お互いに現状を知るために話し合った結果、何人かの人間が逆行、と言うのにも似たような現象を起こしていることを知った。
その中にはジェイドの旦那もルークも含まれるらしい。
あいつと全く新しい関係を築く願いが破れて少し残念なような、そうでないような。
いや、残念か。
どうやらアニスが会った仲間たちは、それぞれみんな違う結末を迎えた世界から、この世界の自分たちを上書きしてやってきているらしい。
アニスの居た世界では、なんと俺が六神将の一人だったらしい。
ありえない話では無いと思うから、笑えなかった。
だからこそのあの過剰反応なんだろうが、俺のいたところじゃ最初から仲間だったからなぁ。
ちょっとショックだった。
だけどまあ六神将、と言ってもこの時点で敵だったと言うだけで、かなり後半の方では結局ヴァンの思想から離反したらしい。
ルークにほだされてもそうでなくても、世界を壊せるだけの何かは無かった、てな事なんだろうな。
いいんだろうが、情け無いな。
「ルークはなんだか変に悟っちゃったような顔してるし、大佐はなんだか前よりひねくれてる感じがするしー。きっとアッシュも馬鹿のままなんでしょ〜。も〜、やんなっちゃう。結局私もタルタロスから突き落とされるし〜」
これだけグチグチいえるなら、以前のよう関係になれるのもすぐだろう。
初めからやり直せなかったのは確かに残念だ。
けど、俺もあいつも違う結末を迎えた違う世界から来たのなら、これもまた一から新しい関係を作っていく、って事になるんだろうか。
知人に似ているそっくりの別人。
ああ、そうか、と今思う。
俺の知るルークですらない歴史を歩んできたルーク。
そのルークに会うのでも、俺はいまわくわくしている。
たとえあの時現れたのが、二人の記憶をもつ誰かだったとしても――こんな気持ちで向かえればよかったんだと。
今更だがそう思った。
ルークのことも、アッシュのことも、いつも手遅れになって後悔する。
今回も。
なら、もうそれに手が届かないなら、せめてこれから会うルークたちとは、いい関係を築きたい。
どんなルークたちであるのか、正直言って不安だけどな。
お帰り、ただいま。
ああ、違うな。
はじめまして、だ。
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