ティアの場合




表ティアの場合の改変以前の代物。
ただ、それだけ。

以下、以前使っていたこのSSのティア設定文。
↓反転をかけると文字が出現!
ゲーム本編より、早くルークと有る意味相思相愛になる。
でもルークの感情と自分の感情の違い、というかずれにも気付いていて、ルークが自然とその心を育てていけるだけの時間があればいいのに、と思っていつつその時間が与えられなかったことを嘆く。

聖女に祭り上げられそうになったりローレライの代わりに教団に取り込まれそうになったり色々大変だったけど、気が付けば逆行。







 彼は自分が帰ってくることを信じられたのかしら。
 それとも信じられなかったからあんなことを言ったのかしら。
 私には分らなかったけど、それは嬉しい言葉だった。

 照れて、顔を真っ赤にしながらルークは私に言ってくれた。
 好きだ、って。

 なんとなく分っていたわ。
 ルークの好きと、私の好きはまだ違う。
 ルークの好きは、まだ私のような恋愛の好きにまでは育っていない。
 でも、他の仲間たちに対する好きとは違う、特別な好きだってことは分った。

 だから、ずっと、待ちたかった。
 時間が欲しかった。
 ルークのまだ理解できない特別な好きと言う感情が、愛していると、恋をしているのだと自覚できるようになるまで。
 悪夢と背負わなくてもいい責任にばかり成長を求められた心が、余暇を知るまで、せめて。

 せめて時間が欲しかった。




 ルークは帰ってこなかった。
 世界は彼ひとりが居なくなってもつつがなく存続し続けた。

 彼は誰もが惜しむ英雄になったわ。
 英雄に。

 アニスなんかはよく言っていたわ。
 ティアは結婚とかしないの? って。
 結婚する気は無いし、ユリアの血筋の役目も終わった。
 ローレライは音譜帯に昇って行ったし、パッセージリンクも役目を終えた今はユリア式封咒を解く必要も無い。
 ユリアの末裔はもうただの遺物で、世界にとっては厄介事の種でしかないから、って返したんだけど。
 ただ私は待つと決めただけだったから。
 それは言い訳ね。

 アニスが私のことを思って言ってくれているのは分っていたから心苦しかったけど、私は待つことをやめられそうに無かった。

 私たちは英雄ルークの五人の仲間たち、って言われて祭り上げられたわ。
 見合い話もたくさん来た。
 地表からの音素の減少で職を失った預言師がでて、それが人々にローレライの喪失を深く知らせたわ。
 預言はもう取り戻せない、って。

 信仰の対象であったローレライを失って、次に教団が掲げようとしたのがユリアだった。
 ユリアの末裔を、教団は新しく信仰の象徴に祭り上げようとしたわ。
 世界を救った英雄の仲間、ユリアの血筋、都合がいいわよね。

 ユリアの末裔なら、その力ならローレライを、第七音素を地上に呼び戻せるんじゃないかって言い出す人たちも居たわ。
 誰がそんなこと。
 出来たとしてもやるわけが無い。
 ルークと、そしてアッシュが命を掛けて成し遂げたことなのに。
 この世界を存続させるために。

 バカ。
 バカ大嫌いよ。
 それはルークやアッシュの行動を侮辱する言葉だわ。
 彼らを英雄と言うくせに、自覚もなく侮辱する人たち。

 私にはローレライを連れ戻す気は無いし、その方法を探すつもりだってもちろん無い。
 その方法を示されたって全力で抵抗するわ。
 もし子どもを残したら、私の子どもがそういう奴等に利用されるかもしれない。
 そんなのごめんよ。

 ルーク以外とそんなリスクを背負う気にはなれなかったから。

 ユリアの血の役目はここでおしまい。
 それでいいのよ。

 世界に溢れたレプリカの問題を解決するために――レムの塔で消えていったレプリカ達との約束どおり、そしてルークの願いのとおり、彼らに安住の地を得るために奔走して、世界平和を謳い、預言の廃止を訴え、両国の間を取り持ち――。
 気が付けばユリアシティの市長候補にされていたわ。
 そんなものになりたかったわけじゃない。
 ただがむしゃらに何かをしていなければ、辛すぎただけだった。

 いっそ失踪してやろうかと思ったわ。
 そうすれば、ユリアの血筋だ末裔だって人々が動くことも無い。
 聖女呼ばわりされるのはもううんざり。

 そして、そんな時だった。

 気が付けば私は天空客車の中にいた。




 昇り続ける天空客車。
 なぜ、どうしてこんなところにいるのかしら。
 わからなかったわ。
 それとも失踪しようと思って眠ったら夜中のうちに夢遊病みたく本当に失踪しちゃったのかしら。

 いいえ、まさか。
 だったらなおのことバチカルに来る意味が分らないわ。

 着ている服は昔着ていたローレライ教団の教団服。
 無駄に聖女のイメージを膨らませるらしいから嫌になって切り落とした髪が長くなっていた。
 引っ張ってみたけど鬘じゃなかったわ。

 何より妙だったのは、たどり着いたバチカルの市街には生活のための活気があったことだった。
 音素の減少により譜業の活動に影響が出始めたためにキムラスカは遷都を計画していた。
 霞むほど高い場所にある都市はそのほとんどが音素によって動く譜業によって維持されていたから、音素が減少、衰退していく今遷都は自然な流れだった。

 マルクトだってあのグランコクマの滝を維持できなくなるって言う話が出ていたから。
 キムラスカと違ってあちらは水の壁を失うだけで遷都の必要性は薄いみたいだったけど、生活水の確保には苦労していると言っていた。
 大々的な工事になるし、もちろん活気もあったけど、それはこういう活気ではなかった。
 人々は惜しみながらも次々と引っ越して、活気付いているのに空気はどこかよそよそしかった。
 まるでその場所そのものが別れを理解しているような気がしたものだった。




 それがまるであの頃のような――




 商店街に立ち寄って日付を確かめた。
 あの日だった。
 私がヴァンを倒すためにバチカルに来た日。

 そんなバカな、って。
 思ったわ。

 通り過ぎた武器屋の前で、よく磨かれた剣の鋼に映った私はあの頃の、小娘の私だった。
 ファブレのお屋敷の第三位王位継承者について尋ねてみれば、屋敷からでたことを見たことが無い、姿を見たことが無いと答えが返って、王女であるナタリアについて尋ねれば、殿下はすばらしい人だと返って来る。

 わし等のために療養所を開いてくれた。
 職を追われた俺たち平民を、港の開拓事業に雇って下さった。

 今更ナタリアを称えるのにこれらの事柄が出てくるとは考え難かった。

 そこで私は理解した。
 ここでは私は私なんだって。

 今までここに居て、ヴァンを倒すことを決意して天空客車に乗り込んだのだろう私と、天空客車でいきなり目覚めた私とが、同一になったのだと。
 正確に言えば彼女の記憶は無いから、私が私になったわけではないのだろう。
 私が私を、私の意志を殺して私になったのだ。

 ふふっ。

 聖女が自分殺しなんてやったのだと知ったら、あの人たちはなんていうのかしらね。
 いまさら、どうでもいいことだけど。

 ここに居たはずのティアが考えたようにファブレのお屋敷を襲撃するか、それともやめて言葉に訴えるか迷ったけど、私は歴史をなぞることにした。
 いまルークが外にでなければ、何も知らないままアクゼリュスに送られることになる。
 どれほど真実を訴えても、恐らく私の言葉は聞き届けてもらえない。
 戯言をほざく小娘として牢に繋がれるのがオチだわ。
 きっと兄さんも、そこから私を救おうとはしないはず。

 一応アクゼリュスの崩落に巻き込まれないようにと考えたのだから、牢とは言え安全な場所であるキムラスカに居る事は、恐らく兄さんの思いにも適うはずだから。
 だから私はルークを連れ出すことを決意した。
 以前のように上手く超振動が起こせるのかどうかは分らないけど、少なくとも私は以前より第七音素を上手く扱える。
 何とかして見せるわ。

 これだけ決意をしてみせたのに、譜歌を歌いながら屋敷に侵入してルークを見た時には、うかつにも泣きそうになったわ。
 そして上手く飛ばされることが出来たタタル渓谷でルークが私のことを知っていると知ったとき、私の中で喜びが弾けた。

 強すぎる感情に、うれし涙すら出なかった。




 色々話すうちにルークも私と共に旅をしたルークではないと分ったのだけど……。
 ルークは私にくれた大切な言葉を、まだ持っていない場所から来たルークだった。

 それでも、大切なルークであることには変わらないわ。
 見れば分る。
 ルークはいつ、どこに居ても、その本質を変えない。

「いこう、ティア。早くしないと馬車に乗りそびれちまう」
「ええ、そうね」
「タルタロスが間近を走り抜けていくのって迫力だったよな〜。はは、なんか楽しみになって来たぜ」

 先陣を切って進むルークの背中を見る。
 彼はどういう経験をしてきたのかしら。
 私たちが互いに違う私たちだと分っても、彼の背中はもう寂しそうではなかった。









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