とても悲しい物語。




 死んだな、と思ったんだがまた目が覚めた。
 嫌なループに入り込んでいる気がする。本気で何とかしなけりゃならないだろう。
 何とかなるかは別の話だが、せっかく自分が自分のまま終わる事ができたのにこの調子だといずれ混ざるかもしれない。
 死よりも俺はそっちの方が恐ろしかった。

 慣れたような気分で自分の体を確認する。
 とりあえず眠気は無い。眠った実感が無いから精神的な爽快感は無いが肉体的には十分な休養が取れているようだった。
 あの時が十歳前後、か。
 それなら今の体は12、3才程度だろうか。
 多少は成長しているようだがまだまだ薄っぺらい体だった。

 ぐるりと見回した部屋には見覚えがあるような気がする。
 記憶が古くて曖昧だが、この窓の無い部屋は神託の盾騎士団本部の地下のあの部屋に似ていた。

 あのままコーラル城で死んだのではなく眠っただけで、殺し損ねたヴァンの野郎に連れてこられたという可能性も無きにしも非ずだが、その可能性は低いだろうとみる。
 単純に体の成長を見て2、3年分の時間がたっていることが一つ。
 もう一つはあれだけの反抗を示した後に牢屋以外の個室など与えられるわけが無い、と言うことだった。

 ベッドから起き上がって音素灯をつける。
 照らされた室内の様子に俺は確信を深めた。
 クローゼットを開けば神託の盾騎士団の制服がある。
 嘗て来ていた詠師服ではない。俺が六神将となるにはまだ一、二年時間があるはずだった。

 とりあえず教団内部をうろついても平気なように着替えだけ済ませる。
 デスクの上に置いてあった書類の日付を確認し、今が何年か確かめた。
 ND2014。
 ……たしか、あのブウサギ好きの皇帝が即位した年、だったか。
 こんどマルクトに行くことがあれば寄ってみようかと思う。
 あの死霊使いにこの現象について話してみるかどうかは、その時に決めよう。
 あんまり乗り気じゃねぇが。

 確かイオンの入れ替わりが来年で、その頃にイオンレプリカ達が作られるはずだった。
 俺自身のレプリカは何事も無けりゃもうファブレの屋敷にいるだろう。
 どうこうするつもりは今は無い。
 まあ、顔を出しても面白いかとは思うがな。

 特に変わったことは無いだろう、そう思いつつ俺は情報を集めるために部屋を出た。
 俺自身が持つ記憶とは違うどんなイレギュラーがあるとも分からない。
 確認しておくに越した事は無いと思った。

 まず確認したのは――やはり奴等の存在だった。
 もしいたなら、この死んだと思ってはまた違う俺自身の中で目が覚めると言う現象についても心強い相談者となっただろう。
 相手が俺のことを知らない可能性が高いが、まず居ないのならそんな可能性を考えることなどただの杞憂だ。
 あれだけぶっ飛んだ奴等なら、今更俺程度のイレギュラー物ともしないだろう。

 廊下の角に差し掛かったときに足音が聞こえた。
 二人分の足音だ。喋る声が聞こえる。一人は分かる。ヴァンだ。
 もう一人は誰だろうか。
 聞き覚えはあるような気がした。だが、それはここには居ないはずの声だった。

 立ち止った俺の前に、そいつは姿を現した。

「ん? どうしたのだアッシュ」

 尋ねるヴァンなんて、どうでもよかった。

「どうしておまえがここにいる――ガイ」

 見上げた先にあるのはあの夜見たと思った金の髪。
 そしてより冷たく、鋭く光る青い目だった。
 つい、と方眉を跳ね上がるガイ。

「どうして、とは又妙な質問だな」

 鋭い嫌悪の滲む声だ。
 ガイは教団の詠師服を着て、腰には剣を吊るしていた。

「俺はヴァン謡将配下の六神将なんだから、居るのは当たり前じゃないか」

 どうしたその年でもうボケたか? とでも言っているように聞こえた。
 そうか。
 ヴァン配下六神将の一人か。
 別におかしなこと、では無いか。
 ヴァンの主だった家の人間だ。ヴァンの元に居てもおかしなことは無い。

 世界を入れ替えてしまおうとする事の是非はともかくとして、アルバートとシグムントとしての形は、これが正しいのかもしれないとふと思う。
 主従を入れ替えてユリアの血を守る事を選んだためにガルディオス家が主となっているが、そもそもシグムント流はアルバートとユリアを守る意思の元に生み出された剣術のはずだった。
 いや。アルバートとシグムントを語るのなら、そもそも主従と言う関係こそが間違いとも言えるかもしれない。
 彼等が正しくアルバートとシグムントの使い手ならば、二人は遠い兄弟とも言える。

「寝ぼけてお屋敷に居る夢でも見たのか? おめでたい奴だな」

 皮肉気に奴の唇が吊りあがる。
 屋敷に居る夢、か。あれが夢なら見たかもしれないな。
 だがとりあえず、俺の誘拐以前にはこいつがファブレの屋敷に居たらしいことは窺えた。
 俺が屋敷に居る夢を見てその中にガイが居るという発想がでてくるなら、そういうことなんだろう。
 だがレプリカの側にこいつは居ない。

 これまた厄介な世界に来た物だ。
 思わずこいつ等の前に居る事も忘れて溜息をついた。




 面倒でもやれるだけのことはしようとおもった。

 ガイの奴があんなふうだから詳しい話は聞けなかったがバチカルに居たころの俺は記憶に残る俺とそう大差なかったらしい。
 良いとはいえないが、入れ替わり、あるいは憑依と言えるだろうこの状態の不信感を軽減する役には立つだろう。

 ピオニー皇帝即位の知らせは俺がここに来てから入った。
 すぐには接触できないなと思いながら俺は時を待った。
 常にガイラルディアから放たれる殺気にもなれた。

 ヴァンの計画に組するという事は、今は俺を殺す事をヴァンにより止められているんだろう。
 どうでもいいといえばどうでもいいが。
 こんな事になってまでいつまでも幻想を抱いていられるほど俺は甘ちゃんじゃない。
 ここのガイは、別物だ。
 氷刃のガイラルディア。それがここでの奴の名前らしい。
 氷のような目、そして氷のような刃を持つ奴には良く似合うとは思ったが、それは皮肉に近かった。

 通常任務をこなしながら時を待って、やがて即位の騒動が静まった頃にブウサギ馬鹿と接触するための行動を開始した。
 ここでもあの皇帝がブウサギ馬鹿であることは噂で流れていた。
 皇帝のブウサギを賜る事が最高の名誉……?
 生物なんぞ下賜されても迷惑なだけだろうに。
 どうせ寄越すならもっと役に立つ物を寄越せってんだ。

 皇帝と接触するまでに俺は六神将入りを果たしていた。
 本意ではなかったが、仕方ないだろう。
 これでシンクが入った場合六神将補佐となるのか七神将となるのか。

 七神将も、本来はヴァンが最も望んだ形だろう。
 かつて決して配下に下る事の無かったカンタビレの部隊も含めて、奴の理想は七神将だったのだと思う。
 カンタビレは形式上ヴァン配下でありながらその意思を重ねる事はなかったようだったが、ここではガイが居る。
 これでシンクが神将入りを果たしたら、ヴァンはなおの事カンタビレの力をそぎ落とすことに成功するだろう。
 頭が痛い。

 シンクがヴァンの元へやって来た頃はわかるが、正確に生まれそして捨てられた時期は不明だった。
 だがそれ以前の時間を警戒していればなんとかならないこともないだろう。
 いや、シンクを何とかしないと面倒ごとが増える。
 齢二歳で参謀総長となったオリジナルイオン譲りの頭脳は侮れない物がある。
 味方にならなくてもなんとか敵にしないだけのことはしたかった。

 レプリカにはまだ会いに行けていない。
 俺の様子が何処かおかしいのは感じ取ったのか、ヴァンの野郎がキムラスカ方面への任務を入れようとしない。
 以前なら六神将入りする頃にはバチカルへの任務すら入っていたことを思うと、これもやはり異常なことだった。
 ケセドニアならともかく、マルクト方面へ任務に行った後ではいくら仕事を早く片付けてもキムラスカまで行く時間は無い。
 そして何より俺は、副官の名目で付けられている監視のごまかしに苦心していた。

 事故で引退してもらう、と言うのが妥当な線か。
 俺の監視に当たっていると言う事は、そこそこヴァンの信任もあるんだろう。
 俺の意思が関わっているようには見えない、明らかなる事故であったと証言してもらわねばならない。

 とりあえず人間が変われば監視に対する態度はどうとでもできる。
 俺が不審と思われ始めた時期からまだ近い事もあったから万全とは言いがたかったが、マルクトへの任務が入った時にいい機会だからと実行した。
 戦闘中の事故など良くある事だ。

 俺は第七音素は使えても回復術までは習得していないからな。
 監視者が入れ替わるまでの隙に、新しいマルクト皇帝に接触を図った。
 というか。普通に街中うろついてんじゃねぇよ。侵入経路まで調べた俺の苦労をどうしてくれる。

 赤い髪、三年前の誘拐騒ぎ、フォミクリーの話、惑星預言に詠まれたマルクトの滅び。
 こっちの手札はいくらでもある。

 俺が繰り返していることは――話さなかった。
 いずれは話すかもしれないが今これだけの事を突きつけた後じゃ不審を煽る材料にしかならないだろう。
 俺の手札が惑星預言に関してしかなかったのなら逆に信用を深める材料となったかもしれないが、今ならダアトには譜石とユリアの血筋を守ってきたガルディオスの遺児とユリアの末裔そのものが居る。
 誘拐された直後ならともかくそれから二年ほど経ている今なら誘拐されダアトに行くことでそれらの知識に触れた、と言うほうがまだ信憑性があるだろう。

 帰還の日に再び会う約束をして出向いたら、今度は死霊使いの野郎も居やがった。
 相変わらずの食えない薄笑いを浮かべて――他人なんてどうでもいいって面で現れた。
 その後ろにはフリングス少将もいた。まだ少将じゃなかったが。
 多少知っている身としてはその淡い微笑が苦労性の笑みに見えてしょうがなかった。

 協力を取り付けるのはそう苦労する事じゃなかった。
 ピオニー陛下は以前に話をした後にはもう意志を固めていたらしい。
 今回は顔合わせだそうだ。
 死霊使いとなんぞ顔なんてあわせたくはなかったがな。
 だが、顔を合わせておいて有利なことには違いなかった。
 否定しきれないから嫌いなんだよ。

 マルクト側の力を借りてディストに監視を付けることに成功した。
 導師のレプリカを作るのは、おそらくディストだろう。
 それが一番確実な手段だからだ。
 どうにもヒエラルキーの低い性格をしているが実力は確かだ。
 だからこそ厄介なのだが、死霊使いは断固として懐柔に赴こうとしないし、ピオニー陛下は自分じゃ反発するだけだろうと言う。
 どっちもどっちだバカやろう瀬戸際で意地張ってんじゃねぇよクズが。

 内部工作が要と言えたが、どんなもんか。とりあえず最低限自分の部下たちだけでも監督できるようにしとかなけりゃならねぇ。
 あたらしい監視役はヴァンの奴にしては下手を打っただろう。仕事はしているんだから文句は無いだろう。これで大体が決まる。
 やる事が決まったら、時間なんてあっという間に過ぎた。

 ディストの野郎が不審な動きを始めた頃にヴァンの奴も良く消えるようになった。
 導師イオンがあまり表に出てこなくなり、病気療養中と発表された。
 導師の病は快癒に向かっている、と発表されたが……どんなものやら。
 病気なんかにかかっていないレプリカで代用するつもりなんだろう。

 導師の死は死預言に従おうとするモースの暗躍かなにかではないかと疑った事もあるが確証は持てなかった。
 死預言のある導師を殺した上でレプリカを導師に立てようとするのは別に不自然な事ではない。
 導師の死の預言はなるし、奴にとっては所詮偽者と言う意識なのだろう。
 浅はかな事だとは思うが本当に導師の死が避け得ない死であるなら、そのあとにレプリカをすえつけてくれることは都合が良かった。
 レプリカの導師の権力は特にモースやヴァン配下の神託の盾騎士団にあって導師とは名ばかりの紙切れほどの役にもたたなかったが、国家の協力を取り付けるのには丁度いい。
 導師イオンの要請で、と言う事実があれば、体面としては神託の盾騎士団もモースも無碍には出来ない。
 なんといってもレプリカをその位置に据えたのは自分たちだ。
 教団内部でならどうとでもなることでも、世界各地に散らばる信者たちにまではそうもいかない。
 教団の内部事情に詳しくない信者たちにとっては、イオンがトップで当たり前だからな。

 ある日ヴァンに行動を咎められて腐していたら、導師イオンに出会った。
 顔色が悪いこれは本物だろう。
 特務師団員とヴァン配下の神将以外ろくに接触の無い俺は、導師イオンともさして接触があるわけではなかった。
 その出会いはある意味で新鮮だった。

 導師は、誰も使っていない部屋のクローゼットの中に隠れていた。

 ……外が騒がしいのはこのせいか。
 発見した俺も気まずいが導師もずいぶん気まずいだろう。

「……かくれんぼか?」
「………なにがいいたいのさ」
「いや、べつに」

 困った。苦手なタイプの人間だ。
 立場さえなければどうとでもするが、ここでは一応上司と部下だ。直接の命令系統ではないとは言え有り余る差があった。

「何故導師イオンがここにいる」
「ここはダアトだ。僕が居ちゃ拙いことでもあったの、鮮血のアッシュ」
「……自分の死を知って逃げ出してきたのか?」
「馬鹿な事言うね。僕が、何から逃げ出してきたって?」

 鋭く細まる眼差しは、ガイの物とも違う殺気を孕む。

「アリエッタに告げなくてもいいのか」
「何をさ」

 あくまでも空っとぼけるつもりかと、俺もだんだんむきになってきていた。
 ここまで内密に進めてきたのに、ヴァンに他言されるリスクを承知で言ってしまう。

「自分が死ぬことをだ」

 導師イオンの表情が歪んだ。
 殺気はなおさら強くなり、細められていた眼差しは激しく俺を睨む。

「レプリカに名を奪われ、地位を奪われ、存在を奪われ――お気に入りのアリエッタまで奪われるのか?」
「アッシュ……あんた、何を知ってるの」
「さあな。……自分のレプリカに八つ当たりするより、アリエッタの心一つくらい持っていったらどうだ」

 そう言えば、今まではただ睨むだけだった目に僅かに悲しみが浮かぶ。

「……駄目だ。僕が死んだと知ったら、きっとアリエッタは後を追ってきてしまう」
「あんたが命じればいい。死ぬな、ってな。そうすりゃあいつは死なないだろう。……墓すら作られないだろうお前の、あいつが生きた墓碑になる。最後まで、あいつの心を縛って行け。それまでレプリカに重ねさせるのか」

 お前はそれを許せるのか。




 数日後、六神将が集められて新しい仲間だと少年を紹介された。
 これで七神将だな、といったヴァンの隣で金色の仮面をつけて顔を隠した新しい神将の名前はシンクと言った。
 顔合わせが終わって引き上げた時、シンクに話しかけられた。

「へえ、あんたがアッシュね」

 口元だけをゆがめた独特の表情をしている。

「話には聞いていたけど……」
「どんな話をしていたのかなんて知りたくもないな」

 どうせろくでもないことに決まってる。

「一応、あんたを助けてやってくれって言われてる」
「そうか。そりゃありがたいな」

 知らせも無くいきなり来たのは、あのブウサギ皇帝のイタズラ心だろう。
 驚き以前の問題だ。
 あのブウサギバカいい加減にしやがれ。

 シンクがきた約一月後、導師イオンの病は快癒したと発表された。

 火山の事は完全にマルクト側に任せていた。
 シンクと対面した数日後に届いた知らせで3名のレプリカの保護に成功したとあった。
 上出来だろう。
 導師イオンになるレプリカのほかに三名。
 ここに一人、そのほかに二人。
 あわせてレプリカは四人、生きている事になる。

 本来なら祖国であるキムラスカを頼めないなんて情けない気持ちもするが――そもそももうそれほど祖国として懐かしむ気持ちもない。
 俺は確かにキムラスカを愛していたが、それは今のキムラスカではなくこれからのキムラスカだろう。
 過去、こんなことに巻き込まれる前、最も始めの人生でナタリアと共に育んだ国だ。




 初めのころはブウサギ皇帝に接触をもったら、あるいはシンクを仲間に引き込めたら六神将を抜けてヴァンの元から居なくなろうかと思っていたが、その場合ヴァンの俺を使ったローレライの消滅と言う計画が変更される恐れもある。
 ヴァンを生かしておくなら、それは大きなデメリットだろう。
 俺がここで、ヴァンの元に居るからこそのあの計画だった。
 途中で離反したわけだが、それでもあの野郎は途中までは俺を引き込めると思っていただろう。
 もし俺の超振動が利用できないとなったらどんな計画を立てるのか分からないところがある。
 大体想像つく部分もあるが、そうなると余計に猶予はなくなるだろう。
 俺を使えると思っているうちが付け込む隙だった。
 使える情報は使いたいところだ。
 おりおりしっかり決着を付けておけば同じ結末は辿らないだろう。
 そう願いたいところだ。

 そこそこ順調だと思っていた。
 気がつけばレプリカに会いに行くのを忘れていた。
 俺に付けられた副官と言う名の監視役がなにか変な使命感に目覚めたらしく酷く面倒な奴になっていた。
 特務師団の把握ぐらいは出来たと思う。
 いざ預言廃止が宣言された時には、ヴァンやモースに付き従って離反するのもいるだろうが、それはそれでいい選別だろう。

 今はまだいい。
 だが、そのときが来たなら、使えない奴は要らない。
 預言に対する忠誠よりも、組織、ひいては俺に対する忠誠を求めていた。
 シンクが俺の監視に付くようになってからはむしろ行動もしやすくなっていた。

 タルタロス襲撃も予告していたからたいした被害を出さずにすんだようだし、俺はそこで初めて自分のレプリカを見た。
 まあ、相変わらずの間抜け面だったがな。
 オリジナルの導師イオンが最終的にどうしたのかは知らないが、レプリカたちの一行とアリエッタの間に親の仇という確執は生まれなかったようだった。
 ライガの住む北の森はアリエッタと接するうちになんとなく位置を把握していた。
 そうとなれば何とでもなる。
 あのチーグルの子供はどうやら結局どこかを火事にしたらしくアリエッタが逃げてきた魔物の愚痴を聞いていたが、肝心のチーグルの子供は旅についてきている様子は無かった。
 面倒だからカイツールでの襲撃は無い。
 レプリカの導師イオンの誘拐はしたが、レプリカと死霊使いの一行と接触はしないままザオ遺跡で解放した。
 ザオ遺跡が支える外殻大地は殆ど人が住まない砂漠地帯とはいえ一応キムラスカ領だ。
 いざとなったらキムラスカの危機感を煽るために先に落とそうとすら計画していた。
 レプリカとはアクゼリュスでのことがほぼ初顔合わせに近い。

 アクゼリュスも、俺が知る過去と比べれば随分人口が減っているように見えた。
 これが限界なのだろう。
 これだけ瘴気が噴出しているアクゼリュスはもはや崩落を止められない。
 ユリアシティで否定をするあいつに、俺はやはり剣を突きつけた。




 戦争が起きたりセントビナーが崩落したりケセドニア近辺も含めて降下させたりといろいろしていたのは知っているが、結局俺は今回もあいつらと一緒に旅をすることは無かった。
 出先で頻繁に顔をあわせはしていたが。
 一回目の知識がある程度通用したから知りたいことを知るということに関しては殆ど手間もかからなかったし、それがここでも通用するかどうかを確かめて回る程度ですんだ。

 歴史はなぞる、が変わったところもある。
 レプリカと死霊使いの一行に見たことのない顔が混じっていた。
 ガイの代わり、なのだろう。
 年はガイより随分上のようだったが、レプリカはなついているようだった。
 ヴァン以外の父性の対象なんだろう。

 スピノザの立ち聞きは阻止したと思ったがやはりシェリダンは襲撃された。
 こっちは俺の部隊が介入して被害の軽減に成功した。
 ワイヨン鏡窟では以前はヴァンに切られたのが今回はガイだった。

 ここではガイが六神将――いや、七神将であるならそれは予測できたはずなのに、以前は無かったことだからと油断した。
 未来を過去として持つことは、存外に恐ろしいことだと再認識する。

 そして、色々あったが俺は今ラジエイトゲートに居た。
 シンクにはアリエッタと共に各地のフォミクリー装置の破壊に努めてもらっている。
 だから俺はやはり一人だった。
 奴等がアブソーブゲートに向かったのを確認してから発ったから、ヴァンと戦闘していたとしてもそろそろ大丈夫だろうと見積もってレプリカに回線を繋げようとした、そのときだった。

 大地と第七音素に大きな揺れを感じた。
 俺は今回も出遅れたらしい。
 レプリカたちの居るゲートの真逆であるここから、レプリカの超振動に力を貸した。

 大地がゆっくりと降下してゆく。
 内臓が持ち上げられるような感覚は、昇降機に乗っている時にも近いがそれより強烈だった。

「ルーク」
『アッシュか』

 外殻大地の降下が終わって、呼びかければ向こうから返事が帰って来る。

「ヴァンは倒したか」
『……ああ。ヴァン師匠』
「骸はそこにあるのか」
『骸? ……ああ、ある。ジェイドの奴が絶対に師匠を地殻に落とすなって言ったから』
「そうか……」

 譜歌を知るだろうユリアの血筋を地殻へ落とすことの危険性は説明してあった。
 それが功を奏したようで、ほっと息をつく。
 一息ついたときだった。
 俺の腹から鋭い鋼が突き出したのは。

『サンキュ、アッシュ。俺一人じゃ無理だった。手伝ってくれて――』

 はにかむ笑みすら見えるような近い通信を、せめてもの悪あがきにぶち切った。
 腹から鋼が引き抜かれて、あたりに血の匂いが充満した。

「ヴァンは、倒れたらしいな」
「そう……だな」

 振り返った先には金の髪。

「外殻大地も降下した。これから生きる大地について憂える必要は無くなったわけだ。そして、もう止める人間もいない」
「ふっ……それで、念願の復讐か?」
「……死にかけても可愛げの無いガキだね。だいっきらいさ」
「奇遇だな。……俺もだ」

 痛みと出血に朦朧とする。
 これなら前回の最後の方がはるかに穏やかだっただろう。
 さよならだ、と言ってガイが剣を振り上げるのを見た。

 外殻降下も終わった。ヴァンも倒した。
 あとはあいつらがうまくやれば、過ぎたる力はもう必要ない。
 せいぜいうまくやれ。
 そう思って俺はブラックアウトした。









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