とても悲しい物語。
アルビオール三号機の中に居た。
椅子に座って腕を組んで、目の前にはギンジの銀色も髪が見える。周囲には漆黒の翼のやつらがいて訳のわからねぇ雑談をしていた。いや、ノワールは居ないようだったが。
訳がわからねぇ。
窓から見える景色は瘴気で覆われて空気が紫色をしていやがるし、俺は教団の詠師服を着ている。とっくに脱ぎ捨てたはずなのにだ。
腰に吊っている剣がローレライの剣だという事にも驚いたが、何より驚いたのは――俺が若返っているらしい事だった。
一体なんて下手なジョークだ? これがあいつらの仕業、手の込んだ悪戯だというのなら、若返りであって女性化で無いだけまだいいほうと言えるのかもしれないが、いくら奴等だって瘴気まで演出しはしないだろう。
見下ろす景色一面に紫がけぶる。これが冗談でたまるか。
「アッシュさーん、突然黙っちゃいましたけど本当に行くんですか?」
ギンジが暢気さをよそおっているが不安の滲む声で俺に言葉を掛けた。
突然黙ったも何も俺にはまだ状況がつかめていない。
そもそもアルビオールは飛ばない筈だろう? さすがにこれを飛ばすだけの音素力はなくなっていたはずだ。違う形で飛行機械は生まれたが、それを飛ばすにはアルビオールの形はエネルギー効率が悪いから全く違う形状だったはずだ。
「アッシュのだんな。どうしなさったんで?」
「そうでゲス。眉間に皺が寄ってるでゲスよ」
俺の顔を除きこんでくるヨークとウルシーをなんでもないと適当に払って、ギンジには少し待てと伝えて俺は思考に入った。
そして思う。
何より驚いたのは自分が若返ったらしきことだったが、何より嫌だったのはこういう事態が起きてもさほど動揺しないほど奴等との騒動に馴れてしまったということだろう。
この事態に真っ先に疑ったのが奴等の言うところのイタズラだった。
そのせいか違うと分かってもその瞬間から時間が経ったせいかそれほど驚けない。
動揺を現さないための訓練は受けてきたしな。
今更だった。
胸を探る。
だがそこには、常に身につけるようになっていた奴等から預かった銀細工の飾りが、無かった。
紐をつけて首からかけていただけだったが、なにかあればそれを服の上から確かめるのが癖になっていた。それが無い。
途端にいままでなんでもないと思ってきたあらゆることが不安に感じられた。
駄目だ。これでは駄目だ。
大気に満ちる瘴気、空を飛ぶアルビオール。俺だけでなくどう見ても若いヨークとウルシーにギンジ。失ったはずのローレライの剣に教団の詠師服。
寄り集まる符号に、俺の思考は一つの結論を出した。
ここは違う場所だ――と。
奴等が時々語って聞かせた数ある可能性の一つ。それもおそらく、俺のこの状況から見て奴等の加護を得られなかった世界の末路だろう。
限りなく俺が居た世界に似た道筋を辿っている。だが、違う場所、違うときであるなら、俺が辿ったのと同じ結論を迎える証拠は無い。
俺は――俺たちは最後にあいつらに拾われた。
俺とルークは奴等に、ガーデンに救われた。
死にかけた体を癒されて、交じり合うはずだった記憶が混じる事無くをそれぞれが個を保ったまま目覚めることが出来た。
だが、この世界でもそれが成るとは限らない。むしろ、奴等もあの時はギリギリのタイミングだったと聞いた。俺たちが俺たちのままであれたのは、奇跡に近い確率だ。それがあることを前提に行動することは、出来ない。
「……ギンジ。今は、何時だった?」
尋ねた。
とりあえずいまが瘴気中和以前の世界だという事には確信がある。だが、瘴気が噴出してからどれだけの時間がたったのか。あるいは俺が何をしようとしていた時期なのか。それが重要だ。
「何時って……アッシュさん。大丈夫ですか? いまダアトから来たばっかりじゃないですか。セフィロトを調べてくるって。暑さにやられちゃったんですか?」
「いいからさっさと答えろ。――いや」
もう答えは得た。
ダアト、セフィロト。セフィロトを調べる。
今が瘴気中和前の時間軸であるなら確か当時はダアトに近づく事を嫌厭していたから、ザレッホ火山のセフィロトの調査は最後に回していたはずだ。記憶は既に遠いが、訪れたときにはもう一つ違う用事も携えていたはずだった。
違う、用事。
すぐに、思い出せた。
俺は、ここにレムの塔に集まったレプリカたちへの死の宣告をした帰りに来たんだ。
そして、多くのレプリカたちの死と引き換えに残ったレプリカたちの保護を求めた書を三国の代表に提出した。
瘴気中和の詳細な方法については書かなかったと思うが、どうせすぐに死霊使いの口からばれたのだろう。
そのままレムの塔に行くべきか、否か。
迷ったのは一瞬だった。
二度の奇跡は期待できない。奇跡を約束する物も無い。
奇跡を前提とした行動は、出来なかった。
決意して、立ち上がった。
「アッシュさん?」
ギンジが呼びかけてくる。
墜落した事が信じられないくらいに、ギンジの操縦はとても安定している。平時であれば内部での移動くらいなんと言うことも無い。
何をするにしても、まずはこの教団服を脱ぎ捨ててからだ。
目立つが、結構便利だったんだがな。今はもう違う。
「ヨーク、ウルシー」
「なんだい? 旦那」
「何でゲスか」
「この船に何か着る物は無かったか?」
本来ここに居るはずの俺だったら、知っていたのだろうが、さすがに積荷の細部までは覚えていない。
「服、でゲスか?」
「そうだ。この服を着替えたい。ギンジは、悪いがもう一度ダアトに向かってくれ」
「了解です!」
ぐん、と加速の負荷がかかる。
アルビオール独特のこの感覚も懐かしく感じる。
「漆黒の翼の公演衣装ならちょっと積ませてもらっちゃ居ますが……旦那がすぐに着れそうな服はないと思いやすがね」
「服を隠したいってういうんなら公演衣装にいいのがあるでゲス」
これから行くのが教団服で赴くのは拙い場所だと思ってのことだろう。
ある意味当たりでもある、だが公演衣装はどうだろうか。
下手なのを選ばなければそこそこいけそうな気もするが、過剰な期待は禁物だろう。
うしにんやねこにんの衣装を出されても困る。
「ちなみに、それは何だ?」
「ローブでゲス」
「恋人の下に忍ぶ主人公が。あるいは地下に潜む魔術師が。賢者でも老人でも何でも使えるオールマイティなかわいいやつさ」
……経費削減の使いまわしか。
まあ、いい。
「青は――あるか」
「きるんでゲスか?」
「青は似合わないと思いますぜ? 旦那」
そんなことは知っている。
濃紺ならともかく、蒼天の青は俺には似合わない。
ガーデンを示す文様が無いなら、せめて奴等が愛していた空と海の色を纏っていきたいと思っただけだ。
こと有る事に、奴等は誇らしげに俺たちに言った。
俺たちのことを、この世界に撒かれた可能性の種だ、と。
ガーデンである自分たちの土壌で育まれ、世界に出てゆく種であると。
守護の証として印を与えられて誇らしく、俺たちも既にSeedであると、やつらは言った。
あの瞬間を、今でも俺は覚えている。
その瞬間にはあいつも、ルークも隣にいた。ルークも同じ言葉を貰っていた。
同じ時間、同じ空間に居ても、同じように喜びを覚えても、この感情は俺だけの記憶だ。
それは、あいつも同じ事だ。
何時からかはわからない。だが、奴等と等しくある事――実力的にはともかく、等しい立場に立って話せる事に誇りすら覚えていた。
Seedと呼ばれることに喜びを感じていた。
運命の反逆児。それを誇る、奴等。
奇跡を期待してはならない。
ならば俺は俺の矜持に従って生きる。
「それを出してくれ。見てから考える」
いざ着替えて神託の盾騎士団の物を脱ぎ捨てよう、と思うとブーツも手袋も何もかも神託の盾騎士団の文様の入っている服が何かの嫌がらせのように見えてくる。
流用できねぇ。
こうなると使い回しのきくやつを“かわいいやつ”と言うのも判るような気がしてくる。
ほんとうに、めんどくさいったらないぜ。
ダアトの門前で下ろしてもらったときに、近くにアルビオール二号機が止まっているのが見えた。
まだあいつらはダアトにいるんだろう。
間に合った、のだと思う。あいつらが居なかったらここに来る意味がねぇ。
結局ローブは気に入らなかったから着て来なかった。
仕方ないので上の長衣だけ脱いでいる状態だ。
腰にローレライの剣を吊って、ダアトの市街を進む。
静かな市街は瘴気のせいか更に静まり返っていた。
俺がここに来る以前の様子じゃ宗教都市として静謐でありながらもそこそこ賑わっていたんだがな。
階段を登り、教団兵の立つ門を開いて中に入る。
ここにも奴等は居ない。まだ三国首脳会談は続いているんだろうか。だったらなおさら好都合だ。
一度顔は通してある。
警備はなされていたが、伝え忘れた事があるといえば再びそこに通された。
覚悟は決めてきた。だが、いざとなればやはり緊張する。
重厚な扉を僅かに開いたとき、その隙間から声が聞こえてきた。
「……俺。俺……やります。俺が命と引き替えに、……瘴気を中和します」
「……決心は変わらぬのか?」
おびえを隠せないルークの声と、苦々しさの滲む伯父上の声。
やはり、黙ってはいられないと思った。
俺が死んでも悲しんでくれる奴は居るだろう。ここにも、そしてここではない何処かにも。
それでも、そいつ等を悲しませても俺は進まなけりゃならない。
ここのアッシュはまだ若いが本来生きられる時から比べれば――俺自身はもう十分に生きた筈だ。すまない、ナタリア。
一度まぶたを閉じてから、重たい扉にかける手に力を入れる。
そして喉の奥に言葉を用意した。
「おまえには無理だ、ルーク」
「アッシュ!」
獣も入れて十対の眼が一斉に俺を見た。
誰一人懐かしくなんか無い。
俺がここに来る直前、この体に宿る直前まで、あいつらは生きていて、笑っていて、皮肉を言っていた。
だから俺は以前のように追い詰められた気持ちではなく死んでいけるだろう。
未来の選択は、あいつらに任せる。
同じ形ではなくても、結末は導けると俺は――信じる。
「伯父上、ピオニー陛下、テオドーロ殿。突然の事、どうぞご容赦を」
軽く三人に断りを入れてルークに向き直った。
「おまえには瘴気の中和は出来ない」
「ど、どういうことだよ!」
「おまえ、先に行ったんじゃなかったのか?」
「アッシュ、どういうことですの?」
「説明いただきたいですね」
聞き取れたのは大体こんなところか。
他にも何人か喋っていたが言葉が重なってききとれない。いっぺんに喋るな。だが言いたい事は大体このあたりだろう。
「瘴気に中和には、一万人の第七音素術師に値するだけの第七音素の集約が必要だ。だが、おまえにはローレライの剣があっても、それは出来ない」
「なんでだよ!」
憤るルークに向かって歩を進めながら腰に吊っていたローレライの剣を鞘ごと外した。
カチン、と留め金の金属が鳴る。
外した剣を、俺はあいつの前に突きつけた。
「触れてみろ」
「え、これ、ローレライの剣?」
ルークの顔が剣と俺の顔との間を何度も行き来する。俺は何も言わずにさっさと触れろとそれをあいつに押し付けた。
鞘から半身だけ引き抜いて触れさせると、ローレライの剣が淡く光る。
「これは、ローレライの剣が反応している? 宝珠が何処かに――まさか!」
死霊使いは気付いたようだった。
「え、え? どういうことなんだ?」
難しい顔をする死霊使いにルーク戸惑いの声を上げる。
死霊使いの奴も答えていい物か考えあぐねているんだろう。だが、答えを出さないわけには行かない。
こいつの中に宝珠があるのだとするなら、こいつには――
「ルーク……」
「な、なんだよジェイド」
「あなたには」
「なんなんだよ! さっさと言えってば」
「――瘴気の中和は、出来ません」
「どう……いう、どういうことだよジェイド!!」
ルークは剣を手放して死霊使いに掴みかかった。
「どういうことか、説明していただけませんかな」
テオドーロが一歩あゆみ出て言った。
その言葉に死霊使いは眼鏡に指を当てる。これは奴の癖だ。
奴が沈黙した時間は数秒だった。
黙ったままではいるが、答えを求めている奴等は他にも居るだろう。
ルークの奴がほれていた女は無意識にだろうが両手を組んでまるで祈るかのように死霊使いの様子を見ていた。
「ジェイド」
マルクト皇帝に促されて、やっと死霊使いは堅く結んだ口を――開いた。
「ローレライの宝珠は――ルークの中にあります。……そうですね? アッシュ」
「そうだ」
「ルークはあのとき、きちんとローレライから宝珠を預かっていた」
「嘘だろ、俺宝珠なんて持ってないぞ!」
「おそらく、コンタミネーション現象でしょう。レプリカは音素が乖離し易い。それは同時に音素が混入し易いということなのです。振動数が近い音素なら、安易に体内に取り込んでしまう」
「宝珠は第七音素で出来てる」
「ですからルークの第七音素と混じり合ってしまったのでしょう」
「そうだ」
ふう、と死霊使いは大きな溜息をついた。
「ローレライの剣には音素を集結させる力が、ローレライの宝珠には音素を拡散させる力があります。そして瘴気を中和させるには、ローレライの剣の音素を集結させる力が必要不可欠です。ですが……」
「ルークの中にあるローレライの宝珠はせっかく集まった音素も拡散させてしまう」
「そうです」
息を呑む音が、聞こえた。
喜んでいる奴も居るだろう。戸惑っている奴も居るだろう。
俺はそんな奴等の誰の顔も見たくなかった。だから少しだけ顔を俯けていた。
覚悟は決めていたとは言え、ナタリアの戸惑う顔は見たくない。
それ以上の意味なんて無い。
そんな中で、小さなルークの呟きだけが、確実な音として響いてきた。
「そん……な。……やっと、や………っと俺、は……」
死にたく無いって、言って居やがった筈なのに、いざ死ななくて良いと言われれば絶望したような表情をする。
わからねぇ奴だな。生きたくて生きる機会が与えられたならおとなしく生きればいい。
命の価値や存在の意味なんて、どうでもいいだろう。
……そういう俺も、昔は価値や意味ばかり、求めていたような気がするが。
「アッシュ……あなたは、あなたは……」
「ナタリア……」
思わず振り向いてしまって、後悔した。
ナタリアのこんな顔は、見たくなかった。
この場所を、ルーク以外の奴等も集まった場所でこの事を言う事を選んだのも俺だった。
「死霊使い」
「なんですかアッシュ」
「こいつをキュビ半島に近づけさせるな。――死ぬぞ」
「分かりました」
ルークをキュビ半島に近づけさせないための確実な手がほしかった。
「どうして、どうしてだよアッシュ!!」
「うるせぇ!」
背を向けて歩き出せば手首をつかまれる。
手首にあざが残りそうなほど強く握られている。痛みはあるが、すぐに振り払う気にはなれなかった。
いつかの真似事のようだな、と。ただそう思った。
「どうしてアッシュが死ななきゃならないんだよ! ほんとうに生き残る方法は無いのかよ!」
一瞬だけ、考えた。
「なにか、あるのですかアッシュ」
その隙を死霊使いに付け入られて俺は眉根を寄せた。
死霊使いは俺から目を逸らそうとしない。逆に俺が逸らせば、ここに居る奴全員が俺を見ていやがった。
言うまで逃がさない、という気迫が伝わってくるようだった。
「……瘴気中和を二人で生き残る術がないわけじゃない」
あの時のように二人で瘴気を消せば、二人で生き残る事も不可能ではないかもしれないと。
不可能ではないかもしれないが、逆に二人揃って死ぬ可能性もある。
「なら、どうしてそれを選ばないんだよ!」
「そうですわアッシュ。二人揃って生き残れるのなら、どうしてそれを選ばないのです」
「そうだぜアッシュ。ルークがレプリカだから協力しないって言うなら」
「違う」
「ちがう?」
あ、と導師守護役のガキが言った。
「そういえばアッシュ、ルークのことルークって呼んでる」
「あっ」
「そういや、そうだな」
「いままでずっとレプリカかおまえ……としか呼ばなかったのに」
ルークの惚れているユリアの末裔のあの女、いま言葉を選んだな。
自分の事ながら屑が抜けているぞ、といいたくなる。
「ルークのこともそうだけど、アッシュなんか、変じゃない? 変なキノコでも食べたの?」
「うるせぇ、誰が食うか!」
中身が変わってしまったのまでは気が付かれなかった様だが、やはり変わったのはばれたかと思う。
もう何年も前の話だ。俺もこのときの自分の事何て覚えちゃいねぇ。
ただ、今はもうレプリカに対する妄執は無い。
「とにかくだ。それは時間稼ぎにもならねぇ。死霊使い。お前なら知ってるんじゃないのか。大爆発」
「まさか、発生しているのですか」
「そうだ。……ルークをルークのままに。俺は俺のままに。拡散していける最後のチャンスだ。詳しく知りたければシェリダンに居るチーグルにでも聞くことだな」
俺がここで自分の死を選ぶ事で、あいつらは最終決戦でヴァンに負ける可能性だってあった。
誰にも言った覚えはないが、俺がエルドラントで死んでからヴァンを倒しローレライを倒すときまでの事を俺はルークの中から見ていたことがある。
交じり合う寸前だった。
死んだ俺の意識が俺の音素と共にあいつの中に入って、第二超振動を生み出していた。
それが失われれば、あるいはヴァンの野郎に負けることもありえるのではないかと思っている。
それは最初に考えた。
それでも俺はこれを選んだ。
俺があいつを喰らわずに俺のまま死ぬには拡散するしかすべがない。
今はもう既にあいつとの間の大爆発は始まっている。
ローレライがヴァンの野郎に閉じ込められる以前はおそらくローレライとの大爆発が進んでいたんだろうと思っている。
ただ死ぬだけでは、おそらく駄目だ。不完全な大爆発はおそらく俺でもあいつでもない第三の人格を生み出すだろう。
それはガーデンのやつらとも度々話し合ったことがある。
そしてまた、ローレライの解放をした後でなら、今度はローレライをも交えた大爆発の可能性まで考えなければならない。
ローレライの中の二千年に比べれば、俺たちの生きた時間なんて僅かな物だろう。
どの人格が上位に出るか。どの人格がでてきたところでそれはもう純粋に当人といえるのか。
ルークを生かす、と言う大義名分の下、俺は世界すら後にして自分のための死に場所を探している。
交じり合うのなんかごめん被る。一度は世界のために働いて、その命も使ったんだ。今度は好きにしてやる。
「アッシュ。先ほどであったときとは随分といっていることが違いますね。……何があったんですか」
俺はちっと舌打ちした。
これだから死霊使いは嫌いなんだ。見てみぬ振りをするくせに、こうしてきかれたくないところだけは鋭く勘付きやがる。
何があったのか。話せる訳がない。
アッシュの中身が入れ替わりました、なんて誰に言える。
あいつらになら言えたかもしれないが、今のこいつ等には無理だな。
ただ一つの巨大な存在によって得た俺の矜持に従って、俺は行くだけだ。
運命の反逆児を謳っていた奴等。ガーデン。
運命と言うのがシナリオどおりと言う意味であるのなら、シナリオの破壊もたぶんきっと、運命への反逆だ。
シナリオどおりに進んでも、俺もルークも死ぬだろう。
あるいは最悪、俺でもルークでもない存在が生まれるか、俺がルークの存在を奪うのか。
俺はあいつを喰らいたくない。俺はもうこれ以上ローレライに奪われたくない。
何にしても、俺の終わりには違いない。
その結末が死であるのなら死ぬ場所くらい選ばせろ。
「俺は、ガーデンの子だ。ガーデンのSeedだ。そしてガーデンの意思の代行者だ。ガーデンがお前を望んでいる。だから俺はお前を――ルークを死なせない」
例えそれが詭弁でも。
「ガーデン……聞いた覚えはありませんね」
「それがおそらくは正しい。……『我等運命の反逆児。あらゆる定めに牙を剥き、爪を以って引き裂くだろう』奴等は良くそう言った。俺も、そうありたいと思う」
伯父上とその他二名に軽く頭を下げて、俺は部屋を出た。
伯父上が何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。
今度は誰も追って来なかった。
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