ドクトルマンボを引き剥がせ!!





ドクトルマンボを引き剥がせ!!




 アッシュは携帯から連絡を受け、ルークたちがベルケント入りした事を知らされていた。
 そして、何故だか理由は知らないが、会いに行けとも。

 言いだしたのはキリエらしいが、電話口にいるのはアーヴァイン。
 アーヴァイン相手にアッシュが強く出られるはずも無く。
 ルークたちが帰る前にとアッシュは絨毯を飛ばしたのだった。







 ベルケントに辿り着いて少し周囲に話を聞けば、あの取り止めの無くまとまりの無い良く判らない集団は研究施設に入っていったと聞く事ができた。
 会えと言われたのなら、会うこと自体に恐らく意味があるのだろうと、アッシュは突き進む。

 妄信しているわけではないが、信ずるに値するだけの確証も無い指示ではあった。
 それでも特に何も言う事無く従うのは、やはり信じているからだろう。
 信用しているし、信頼している。
 そして信頼を寄せて欲しいし、信頼して欲しいと願っている。
 少なくともヴァンなどとは違い、アーヴァインは確実に行動と誠意で以って示していた。
 そしてアーヴァインの仲間だから、とキリエの言う事も今のところ信用している。

 あのジェイド・カーティス――陰険眼鏡にかつてなにを誓約したのか、それが凄く気になるところではあるが。






 ベルケンドの研究施設の中を突っ切った。
 ろくな思いではないが。身に纏う色のせいで問題なく奥までいけた。
 それすらもムカつくアッシュ。

 何か自分の感情に末期的なものを感じつつ、此方もやはり新調されたブーツを高らかに鳴らしてアッシュは歩く。




 そこに入って言ったと知らせられた扉に向かって一直線。
 何が目的か知らないが、何かが有るならさっさと終わらせるに限る。
 別に暇だと言うわけじゃない。

「おい、ここにメガネは…」
「うわっ!?」

 扉が開き、踏み込んだ途端に、誰かに衝突するアッシュ。
 己はとっさに踏み堪えたが、そうも行かないものもあった。

 尻餅をつく研究員、そしてこぼれる楽品。
 何の化学反応を起こしたのか、あたりが真っ白になるほどの煙が発生する。

「うわっ!? なんだ!?」
「今の煙は……」

 叫ぶルークと呟くジェイド。
 司会を取り戻した部屋の中で、ジェイド一人がちゃっかり口もとを覆っていた。
 いや、もう一人。
 かつてSeed流の教育を受けた頃の名残を持って、とっさに煙を吸うことを防いだアッシュ。

「吸いましたね! 吸っちゃいましたね! 大変です!」

 立ち上がりぐるぐると全員を見回すと、何が大変なのか告げないまま、おどろしく脅すように言う研究員が一人。

「大変って…」
「何が大変なんだ! 今の煙はなんだ!?」

 赤毛の二人が研究員に詰め寄るが、その態度は百八十度違う。

「片方がフォニミンの粉末だったことは分かるんですが、もう一つの薬品が何だったのかわかりません!」

 その台詞にその場にいた人間に驚愕が走る。

「わからないと言うことは、今の煙が有害か無害かもわかりません!」

 言い切った研究者の言葉に、煙を吸った数人が顔色を青くした。

「ちょっと!どーゆーこと!?」
「……気のせいでしょうか。何だか胸が苦しくなってきましたわ」
「脈が速くなっている…異変があることは確かね」
「……シャレにならないな」

 アニス、ナタリア、ティア、ガイと、体の様子を観察して順に呟いた。

「す、すいません!まさか扉が開くとは思わなくて…」
「俺のせいだと言うのか!」
「誰のせいでもいいよ!ジェイド、どうしよう」

 ルークの台詞に少し居た堪れなくなるアッシュ。
 今必要なのは責任のありかの探求では無い。
 分っているはずなのに、分っているだけでは駄目なのだ。

「どうしようと言われても……薬品が何だったのか特定しないと、どうしようもないですね」
「薬品は全部揮発してしまいました!」
「では医者に症状を診てもらいましょう。ここには確かシュウがいましたよね」
「は、はい!自分はこのことをみんなに知らせてきます!」

 罪悪感のなせる業か、それとも地なのか。
 それとも薬を吸った影響か。
 始終妙なテンションになっていた研究員は、そういって部屋を駆け出していった。




「彼を行かせてよかったのですか?」
「感染性のものではなさそうですし 平気でしょう。それより、薬品が何だったのか特定しないといけません。最悪の場合、この研究施設の全員が死んでしまうかもしれません」

 感染拡大を危ぶむティアに、ジェイドが危機感の無い口調で答えた。

「とにかくシュウのところへ急ごう」

 場を纏めるガイの言葉に、皆もその部屋を出て医務室へと足を進めた。









円満に解決する?

する?   しない?






















する



 その時。




「まて」

 アッシュが一声、呼び止めた。

「何ですか? 急いでいるのですが」
「医務室に行く必要は無い」
「はぁ?」

 飄々とした態度のジェイドに答えれば、ルークが声を上げる。
 間抜けな疑問符の前に、アッシュは腕を突き出した。

「これを飲め。解毒の効果はあるはずだ」

 と差し出したのは、人数分のタブレット。
 白い錠剤だった。

「これは?」

 と、知的好奇心を刺激されたジェイドが尋ねる。

「これなら解毒も出来るはずだ」
「誰の作です」
「キリエだ。あいつが作ったなら、お前も信用しているんだろう」
「彼女のものだ、と言って持ってくるあなたに対しては別ですがね」
「ふん」

 何時までも嫌味を忘れないジェイド。
 その態度にも今は鼻を鳴らすだけに留めるアッシュ。

「いいから飲め」

 ずい、と差し出せば、やはりまずはルークが手にとって口に含んだ。

「噛むな。不味いぞ」

 言われるまでもなく、噛む前から感じる刺激に唾液が溢れる。
 それと共にごくりとそれを飲み込んだ。

 そのままそっと、自分の体の様子を窺うルークを、さらに窺うルークの仲間たち。

「あ、れ?」

 呟いたルークに、幾人かがごくりと唾を飲んだ。

「体が楽になった?」

 その呟きに、おお、と歓声が上がった。
 ぎゃくにふるふると震えだしたのはアッシュだ。

「テメェらなんでもいいからさっさと飲みやがれ!」

 叫んだアッシュをジェイドが生暖かく見守っていた。













「あああああああ」

 ベルケントは騒動の壁の向こうで、キリエが不気味に嘆いていた。
 その側に立つアーヴァインは片目をつぶって渋い顔だ。

「ものすごくノーマルに事が終わってしまった」
「って、あの薬持たせたのキリエじゃないか!」
「保険として持たせてはいたけど、実はもっと違う解決方法が欲しかった、っていうか〜」
「キ〜リ〜エ〜?」
「ああ〜、つまらない」

 電波で飛ばされて来た映像を受信していたビデオカメラのデータをリセットする。
 ドッキリの悪戯を仕込んだのにただの円満解決では価値は無い。

 とうとうアーヴァインは肩をすくめて、両手を空に投げ出した。



























しない



 その道中、ジェイドが尋ねる。

「ところでアッシュ。あなたは平気なのですか?」
「何がだ」
「先ほどの、口を押さえていましたが、吸い込むのを阻止するのには失敗していたでしょう」

 ちっ、と舌打ちするアッシュ。

「俺は毒は効かねぇ」
「毒が効かない? それはどういうことですか」
「体に害をなすあらゆる物質を無効化する、ってやつらしい。現実に今俺はここの空気を吸っていても平気だったしな。そういうもんだと納得するしかないだろう」

 ポイズンボトルも解毒の効果を持っているが、それは長い時間の中で魔物の毒の傾向を調べてその上で、魔物の毒を中和、あるいは緩和できるように造られている。
 ポイズンボトルは体に作用するあらゆる毒を分解するわけではない。

 そもそも人間が使う毒の中には、毒物と言うよりは劇薬と言った方がしっくり来るものもある。
 それらが体に害をなすからといって、ポイズンボトルでは解毒できないのだ。

 それらをすべからく平等に、体にとって害為す物質、と言う観点から無効化する装備。
 それを、ダアトに来たときからアーヴァインに与えられていたアッシュ。

 それでも慢心せずに、身につけるものは何時失うか分らない、と毒に対する知識や防ぎ方も身につけさせられたのだが。
 アーヴァインがいなくなって数年、ほとんどやけっぱちにも近い状態で、装備を身につける以外のそれら全ての対策を放棄していたアッシュ。
 今更行動を取り戻そうとしたところで、とっさの判断は数瞬遅れる。
 毒ガスなどは、たった数瞬の遅れが致命的になることも多い。

 指摘されただけでも耐え難い慢心だ。

 丁度医務室が見えてきたこともあって、アッシュは答えずに飛び込んだ。




「おい! 医者がいないぞ!」
「なんだよ、シュウさんこんな時にどこ行ったんだよ!」
「何か体がだるい……」

 二人の赤毛が室内を見渡して叫び、アニスが頭を抱えて蹲る。

「吐き気がしてきた……」

 と片手で頭を抑えるガイ。

「それにめまいも……」

 と両手を口元に当てるナタリア。

「困りましたねぇ。私はほとんど煙を吸いませんでしたから……」

 と呟くジェイドの台詞がものすごく気に障る瞬間だ。
 何も出来ないのもわかるが、苦しんでいる身としてはささくれ立った精神にヤスリをかけられるような心地になる。

「おい、メガネ!」

 アッシュが標的を定めた。

「あんたなら医者の代わりに何とかできるんじゃないか?」
「私がですか?」
「ディストに聞いたことがある。あんた、医者の勉強をしていたらしいな」
「はあ……。まあ、一応は。もっぱら死体専門ですが」
「何でもいいよ! 監察医だって医者だろ。何とかしてくれよ!」

 不穏な台詞に対しても、ルークはわらにもすがる気持ちで言った。

「――わかりました。ではどなたか実験台になっていただきましょう。誰が協力して下さいますか?」




 ルークに協力してもらう。
 ナタリアに協力してもらう。



















ルークに協力してもらう。



「俺がやる」
「あなたの場合は……まあ、いいですか。せっかく立候補して下さったんですし、では診察させてもらいましょうか」

 ルークの言葉に妙な含みを持って答えたジェイド。
 それでも最終的にはその言葉を呑んだ。




 医務室に備え付けられた診察台に横たわるルーク。
 傍に立つ白衣のジェイドと、その隣には研究員。
 それをさらに遠巻きに仲間たちが囲んでいた。

「ざっと調べてみたところ、目立った異変がないようでしたので血液検査と音素検査 それに超音波検査を行いました」
「そ、それで?」
「そうですね」

 尋ねた研究員に、したり、とジェイドは返す。

「フォニミンと混ざってしまった薬品が何かは おおむね見当がつきました。試験的に解毒薬を調合してみましたが、試してくれますか?」
「……本当に実験台だなぁ」

 実感を篭めてつぶやくと、ルークはジェイドが調合した薬を飲んだ。
 暫く言葉もなくそこにあると、いきなり引きつるように体を震わせがくがくと震えだし、すぐに憔悴したようにぐったりとなる。

 驚くルークの仲間たち。
 研究員がルークの腕を取り、脈を取った。

「た、大変です、脈がありません!!」
「おい! メガネ!?」
「……しまった。薬の量が多すぎましたか。尊い犠牲でしたが、とても参考になりました」

 声もなく悲鳴を上げるルークの仲間たち。

「……大佐っ! あんまりですっ!」

 ティアがやっとのことで喉を震わせる。

「ですが、これで解毒のための適正量が分かりましたよ」
「そんな言い方……」

 とティアが呟いたときだった。

 ずん、と歩幅も広く進み出たアッシュ。

「冗談じゃねぇ。死なせるか」

 彼は腰に下げられた小さなポーチから、これまた小さなボトルを取り出して、キャップを外し中身を口に含んだ。
 ボトルを投げ捨てルークの所に行くと、鼓動の無い己の半身の顎を持ち上げて、深く唇を合わせた。

 舌を使って口腔をこじ開けると、そこに自分が含んでいた薬を流し込む。

 もし、何かを手に持っていたら確実に取り落としただろう様子を見せるガイ。
 手で目を覆いながらも指の隙間からしっかりこの様子を見ているティア、そして口元を押さえながら「まぁ」と呟いたナタリア。
「うわぁ〜」と言いながらも堂々と様子を見守る――いや、観察するアニスと、不気味な笑いを浮かべるジェイド。

「ぷはっ……」

 薬風味の名残の糸をひいて離れる二人の唇。
 ゆっくりと目を開いたルークが、やがて状況を理解し、何がなされたのかをその目を驚愕に見開いた。

「目が、覚めたか……クズが」

 安心したように呟いたアッシュ。
 その顔に浮かぶ僅かな微笑み。
 間違いの無い確かな安堵。


「うわ―――っ!?」


 叫んで飛び起きたルークは狭い医務室中を走り回り、やがてがくりと膝を突いた。
 わなわなと震えながら何かを呟き続けている。
 生死の境をさまよったことよりも精神の境を問いただしたくなるような有様だ。

「おやおやおや〜?」
「ルーク、アッシュ……」

 不気味な微笑と共に楽しげに茶々を入れようとするジェイドに、こちらもルークとは違うが多少体に震えの走っているガイラルディア。

「まあ、アッシュ。そんなにルークの事を」と呟いているナタリアの続きの台詞は聞きたくない。
 面白そうにニヤニヤとしているアニス。
 そして状況に対してコメントも出ないティア。

「下手な深読みなんてすんじゃねぇ、クズ共が! あれはただの救命行為だ!」
「まあ、仮死状態ですから、放っておいても目が覚めたんですがね」
「それをとっとと――」
「なんです?」
「言いやがれ―――っ!!」

 爆発したアッシュにジェイドは、

「少々強い薬でしたので 投薬量が多いと音素の拒絶反応で仮死状態になるんす。……と、説明する前に薬を飲まれてしまいましたので。はっはっはっ」

 と全く悪気なく、笑い倒していた。

 















『薬の無駄遣いじゃねぇか!』

 と叫ぶ電波を受信する、受信装置をもてあそびつつ、

「うふふふふふ」

 とベルケントは騒動の壁の向こうで、キリエが不気味に笑っていた。
 その側に立つアーヴァインは片目をつぶって渋い顔だ。

「お宝映像ゲット?」
「なんに使うのさ〜」

 一部始終映像として納められたデジタルカメラでお手玉をしながら振り返る。

「脅迫?」
「キ〜リ〜エ〜?」
「ナタリアにちゅ〜する前にルークとチュ〜しちゃったねー」
「キリエさ、人の不幸を楽しんでない? 彼らは青春真っ盛りだよ? たった一度の口付けの価値が」
「ただの救命行為、でしょ?」

 たとえ兄弟でも。
 兄弟より近いレプリカでも。
 キスをした、と思うよりはそのほうが精神衛生上いいだろう。
 非常にいいだろう。

「まあそれはともかく、実際面白いじゃない?」
「このためだけに手回しした君には感嘆するよ」
「どうも有り難う」
「……どういたしまして」

 とうとうアーヴァインは肩をすくめて、両手を空に投げ出した。




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ナタリアに協力してもらう。



「わたくしがやりますわ。王女として当然の務めです」
「これでうっかり失敗すればキムラスカ王女殺人罪ですかねえ、ははははは」
「笑い事ではありませんわ!」
「だがナタリア。時には誰かを犠牲にしても守られる事も王族の勤めだ。引いておけ」
「まあアッシュ。あなたがそんな事を仰いますの?」
「王族一人で解決するならいい。だがその一人の先に万の犠牲が有るなら、命の価値は違ってくる」

 悲しみでもなければ諦めでもない。
 それでも複雑な表情を浮かべざるを得ないナタリア。
 彼女自身が民を愛するからこそ、いつか、もしかしたら、その民を犠牲にして生き残る日が来るのかもしれないと思うと心が締め付けられる思いだった。

 あの日、あの時のバチカルで、アッシュが割り込んでこなければ、目の前で血の惨劇が起きたかもしれないことを思う。
 それでも死ねないと思った自分がいたことも、また確かだった。

 そしてまた、シェリダンでは多くの民の犠牲の上に生き延びたこともまた事実だった。

「では診察させてもらいましょうか」

 にこやかにジェイドが二人の間に割り行った。

 それこそまさに、こんな惚気これ以上聞いていられるか、と。




 医務室に備え付けられた診察台に横たわるナタリア。
 傍に立つ白衣のジェイドと、その隣には研究員。
 それをさらに遠巻きに仲間たちが囲んでいた。

「ざっと調べてみたところ、目立った異変がないようでしたので血液検査と音素検査 それに超音波検査を行いました」
「そ、それで?」
「そうですね」

 尋ねた研究員に、したり、とジェイドは返す。

「フォニミンと混ざってしまった薬品が何かは おおむね見当がつきました。試験的に解毒薬を調合してみましたが、試してくれますか?」
「信じていますわよ、大佐」

 実感を篭めてつぶやくと、ナタリアはジェイドが調合した薬を飲んだ。
 暫く言葉もなくそこにあると、いきなり引きつるように体を震わせがくがくと震えだし、すぐに憔悴したようにぐったりとなる。

 驚くルークの仲間たち。
 研究員がナタリアの腕を取り、脈を取った。

「た、大変です、脈がありません!!」
「メガネ! テメェ!?」
「……しまった。薬の量が多すぎましたか。尊い犠牲でしたが、とても参考になりました」

 声もなく悲鳴を上げるナタリアの仲間たち。

「……大佐っ! あんまりですっ!」

 ティアがやっとのことで喉を震わせる。

「ですが、これで解毒のための適正量が分かりましたよ」
「そんなこと……」

 とルークが呟いたときだった。

 ずん、と歩幅も広く進み出たアッシュ。

「冗談じゃねぇ。死なせるか」

 彼は腰に下げられた小さなポーチから、これまた小さなボトルを取り出して、キャップを外し中身を口に含んだ。
 ボトルを投げ捨てナタリアの前に赴くと、鼓動の無い彼女の顎を持ち上げて、深く唇を合わせた。

 舌を使って口腔をこじ開けると、そこに自分が含んでいた薬を流し込む。

 もし、何かを手に持っていたら確実に取り落としただろう様子を見せるガイ。
 手で目を覆いながらも指の隙間からしっかりこの様子を見ているティア、そして口元を押さえながら「わぁ」と呟いたルーク。
 まだ七歳児にはこの熱い口付けは目の毒だったようだった。
「うわぁ〜」と言いながらも堂々と様子を見守る――いや、観察するアニスと、不気味な笑いを浮かべるジェイド。

「ぷはっ……」

 薬風味の名残の糸をひいて離れる二人の唇。
 ゆっくりと目を開いたナタリアが、やがて状況を理解し、何がなされたのかをその目を驚愕に見開いた。

「目が、覚めたか……ナタリア」

 安心したように呟いたアッシュ。
 その顔に浮かぶ僅かな微笑み。
 間違いの無い確かな安堵。


「アッシュ……」


 恍惚と、アッシュの名を口にしたナタリア。

「アッシュ……」
「ナタリア……」

 もはや互いの目には互いしか映らない。

「おやおやおや〜?」
「ナタリア、アッシュ……」

 不気味な微笑と共に楽しげに茶々を入れようとするジェイドに、こちらは熱い空気に当てられたガイ。
 人様がいちゃつく様など見せ付けられても面白くない。
 ましてや自分は女性好きの女性恐怖症だ。

「アッシュ……。やっぱりナタリアのの事を」

 と呟いたルークの台詞に正気に返る。

 面白そうにニヤニヤとしているアニス。
 そして状況に対してコメントも出ないティア。

「下手な深読みなんてすんじゃねぇ、クズ共が! あれはただの救命行為だ!」
「まあ、仮死状態ですから、放っておいても目が覚めたんですがね」
「それをとっとと――」
「なんです?」
「先に言え―――っ!!」

 爆発したアッシュにジェイドは、

「少々強い薬でしたので 投薬量が多いと音素の拒絶反応で仮死状態になるんす。……と、説明する前に薬を飲まれてしまいましたので。はっはっはっ」

 と、これ以上目の前でいちゃつくんじゃねぇぞ、と笑い倒していた。












『薬の無駄遣いじゃねぇか!』

 と叫ぶ電波を受信する受信装置をもてあそびつつ、

「うふふふふふ」

 とベルケントは騒動の壁の向こうで、キリエが不気味に笑っていた。
 その側に立つアーヴァインは片目をつぶって渋い顔だ。

「青春してるね〜」
「趣味悪いよ〜? キリエ〜」

 一部始終映像として納められたデジタルカメラでお手玉をしながら振り返る。

「分っちゃいるけど、やめられない?」
「キ〜リ〜エ〜?」
「それはともかく、実際面白いじゃない」
「このためだけに手回しした君には感嘆するよ」
「どうも有り難う」
「……どういたしまして」

 とうとうアーヴァインは肩をすくめて、両手を空に投げ出した。




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