深淵ボート 4



 封印術が無かったからか、ジェイドの独擅場だ。
 ルークの出番も、ティアの出番も無い。
 もちろん私も。
 背中のリュックの子ライガたちを、キュウキュ言わせながら走っているだけだ。
 ブリッジに行くまでの道ははしごだらけだったが、音素障害の無くなった体なら楽々登れた。
 体格的な問題で引きずりそうな予感がビシバシするが、体力的にはジェイドの一人や二人背負っても走れるだろう。
 オーラの満ちる体は軽い軽い。
 おかげで私は気をそらしがちなルークに付きっ切りになれる。
 しかも、飛行型の魔物はともかく、ライガはこの背負っている子供達のせいか襲ってこない。

「こういう時にムダに広い艦隊って嫌ね」
「まあ乗員600名ですから。丈夫ですし、マルクトでも大型の艦隊になりますよ」
「大型が仇になるって言うか、そもそも少人数で行動するのにこれだけの大型艦を引っ張り出す意味は? 小回りもきかないじゃないの」
「集団の魔物に襲われる事態は想定していませんでしたから。対人だけなら、なかなかのものですよ?」
「それにしても。間者がいるわね。タルタロスの動向、もれてるわよ?」
「やはり、そうおもいますか? 信じたくは無いのですが」
「死霊使いも人の情に惑わされる、か。でも、間者がいることは否定しないのね」
「ええ、まあ」
「なあ」

 問いかける声は間抜けそのものだったけど、興味を持ったことに質問する姿勢は大変好ましい。

「カンジャって、なんだ?」
「いい質問ねルーク。カンジャ、これは病人のことじゃないわ。間者、間諜、スパイ。まあ、端的に言えば、裏切り者、かしら。仲間の振りをして、敵方に情報を洩らす人のことね」
「そんなのがいるのかよ」
「あぶりだせなかったことはこちらの責任です」
「んあ、そーだよ! あんたのせいでこんな目に!!」
「はい! 気持ちは分るけど今は矛を収めてくれないかなルーク。緊急時に連携を欠く事はそのまま命を欠く事にもつながるの。言ったでしょ? 私はあなたの命と存在を惜しむ、って」
「あ、ああ」

 本気言葉と表情は、何時だって力を持つものだと、そう思う。
 オブラートは何もいらないのだ。
 だってほら、通じてる。
 ほうけたようなルークの顔がその証拠。

「あ、そうだルーク、剣見せてよ」
「剣?」
「そう。どんなの使ってるのかな、って」
「あ、てめ勝手なことしてんじゃねーよ!!」

 そこまで言って、許可を得ないうちに腰から引き抜いた。
 抜き身を移動しながら観察し。

「カトラス?」
「ああ? そうらしいな。良くしらねぇけど」
「けど、もう結構ぼろぼろだねぇ。何を切ったか知らないけど。あ、そういえばライガクイーンとも戦っていたっけ」
「ああ、そうだな」
「これ、大切? どうしても必要?」
「別に」

 つまらなそうに答えるルークに、私はにやりとチシャ猫の笑みをする。

「そんなルークにこれをあげよう!!」
「はぁ!?」

 ポイッ、とカトラスを外に放り投げ、ポーチから何ちゃって剣を取り出す。

「何だよこれ、刃が無いじゃなねーかよ!!」
「そんなこと無いよ。ほら、ここのポッチを押すと」
「うぉあ!!」
「ほらでた。光の剣。レーザーブレード」

 何ちゃってただのスタンロッド。非殺傷モードだから。
 ただし、電気ネズミの十万ボルトも真っ青だ。
 とりあえず人間なら一撃で気絶するし、雷の譜術程度の威力はある。防具の上からでもバッチリ。
 光る刀身に魅入られたかのようにそーっと手を伸ばすルーク。
 ふと感じ取れば、見入っているのはルークだけではなかったが。

「触っちゃ駄目よ。危ないからね」
「さ、さわらねーよ!!」
「うん、じゃ、いこうか」

 思わず立ち止まってしまったのを促すと、あからさまなため息が聞こえた。

「まったく、なんなんでしょうね」
「さて、なんでしょうか」

 ふっと笑って意識を拡散させる。
 そして気がついた。
 ティアが静かだったわけを。
 その眼差しは、リュックから顔を出すライガに釘付けだった。

 将来はあれでも、確かに今は全力で可愛い!!








< 「さて、平和的解決に一役買うのは薬orティアの譜歌。どっち? ルークのレーザーブレードも有りね」
「なんていう選択肢ですか、まったく」
「ちなみに元手ゼロなのはティアとルークの奴ね」
「なーなー、おれ、これ試してみてー」
「じゃ、いいわねジェイド」
「ええ、いいですよ」
「私もそれで構わないわ」
「じゃ、それ行けルーク!」
「うぉぉぉーー!!」

 パコン

「……」

 どさり。
 と、倒れてなおびくびくと痙攣している。

「な、なあ、これ、大丈夫なのか?」
「死んではいないわよ」

 ちょっと鼓膜ぐらい破れたかもしれないが。

「そ、そうか」
「ご主人様、すごいですの!!」
「あ、でも結局ブリッジの中まではこれじゃむりか」
「……ティア、譜歌を」
「はい、大佐」

 史実、といか、本編のように、火を吹きかけても蹴り飛ばしても目覚めることはないだろうけど――というか、例え意識が覚醒しても体を動かせないと思うし。
 とにかく、この兵士、第七音譜術師の回復術でも受けなければ当分立ち上がれないあろう。
 そして結局譜歌を歌うのだ。
 好きだからいいけど。

「タルタロスを取り返しましょう。ティア、手伝ってください」
「はい」
「行ってらっしゃい」
「おや、キリエは来て下さらないので?」
「呼ばなかったでしょう? 私はルークと留守番」
「嫉妬ですか?」
「バカ野郎。どうせブリッジの中じゃ大立ち廻りはできないでしょう?」
「あまり壊されても困りますし」
「そして、ルークのレーザーブレードは、譜業の天敵」
「わかりました」
「じゃあるーく、一緒にこの兵士の見張りでもしていましょうか」

 目覚めないだろうけど
 にっこり笑いかけるもルークは不満そうで。

「……俺も行く」
「あなたはそこで見張りをしていて」

 ティア。その言い方は感情のオブラートなんだろうけど、逆効果だよ。
 まったく持ってどいつもこいつも不器用だ。

「邪魔だってか」
「ルーク、あなたの肩書きは?」
「……」

 問いかけると黙り込む。
 深い自覚も生まれていないのだろう。

「キムラスカ・ランバルティア王国、第三位王位継承権保持者。玉座に最も近い赤毛ね」
「だから、なんなんだよ」
「いやさ、そのあなたを前衛に立たせた、ってしれたら、普通ならそれだけでティアの首が飛ぶ」
「え」

 この世界じゃ飛びそうに無いけど。

「そういうものなの。知らないことはこれから覚えればいいわ」
「……わかった」
「では行って来ます」
「いってらっしゃい」

 二人が立ち去るのを見届けて、ルークに向き直った。

「退屈は、させないわ」

 この手には、油性インクとカラーペンが。
 このいたずらはきっと、基本だよね?






 懇親の力とセンスで持って落書きをした。
 フェイスメットを外して、全身全霊をかけて書いた。

 額に文字は初歩の初歩。
 肉か聖、あるいは星と書きたかったところだけど、ルークにも分るようにここはこちらの言葉で。
 焔、と。

 目蓋の上に目を書いて、睫毛は大サービス。
 頬には渦巻きと髭とどっちを書こうか迷って結局両方を。
 渦巻きから生えるように見える髭が笑いを誘う。

 眉毛を濃くして、尻を三本に分けて鼻にラインをかく。
 もみ上げを伸ばして、鼻の下にはカイゼル髭。
 そしてそれにルークがカラーペンで着色していく。

 書いているそばから顔がゆるんできて、笑い出す。
 ああ哀れ神託の盾騎士団兵士よ!!
 ひそひそと漏れる笑いはもう止められない。
 笑いながらも手は止めない。

「くっ、くくくっくく」
「ふっは、ふはは」
「テメェら何やってやがる!!」

 だ、だめだ!!

「くははははははははっ!!」
「ぶわっははははははっ!!」
「な、テメェら笑うんじゃねぇ!」

 切っ掛けは君だよ? 赤毛の君はアッシュかな?
 頭上に現れる紋。
 降り注ぐ氷の譜術。
 とっさに笑い転げるルークを抱えて避ける。

「おや、アッシュか? 君も見てみろ。ほら、傑作だ!!」
「一体何の騒ぎですか!? ティアの譜歌の効果が切れてしまう」
「ちっ、死霊使いか」
「封印術喰らってないから結構強いよ?」

 譜術を唱え始めるジェイド。
 飛び掛ろうとしたアッシュの機先を制した者がいた。
 私ではない。
 それは――

「はい、そこまでだよ」

 突然ジェイドの背後に現れて銃身で後頭部を殴り譜術の詠唱を阻むと、足を取って転ばせ、受身を取る前に背中を踏みつけた。
 そしてその頭部に銃口を。

「げっ」
「え?」

 ティアの声はかき消され、おそらくリグレットらしき女性に意識を刈り取られていた。
 ルークも同様だ。
 残るは私とジェイドのみ。
 リグレットとアッシュくらいなら、何とかして逃走できないわけでもなさそうだったが。

「ええ!?」
「貴殿か。助かった。礼を言う」


「アーヴァイン!?」
「やっ、キリエ。久しぶりだね〜〜」
「アーヴァイン? ……覇者アーヴァインですか」

 その見知った顔は、見慣れない神託の盾騎士団独特の紋様の入ったコートを着ていた。
 踏みつけられてなおいつもどおりの態度を貫くジェイドを少し尊敬しそうになってしまった。
 やばい、まずい。
 こいつは陰険鬼畜眼鏡だぞ!! 腹黒なんだ!!
 それよりも問題はアーヴァイン!! 今ジェイドなんて呟いた!?

「覇者アーヴァイン!! 何その二つ名!! 魔弾の射手はどうしたのよ!?」
「うるさいよ〜キリエ。僕だって好きでこんな風に呼ばれているわけじゃないんだよ? キリエがこっちに来ないから僕はずっとエグゼターを使えなかったんだからさ〜〜」
「それで魔弾の名はリグレットに譲ったの?」

 笑った。げらげら笑った。
 場違いにも腹を抱えて笑っていた。
 いやぁ視線が突き刺さること。
 でもおっかしくておかしくてしょうがない!!

「何時までも臆病者のロマンチストではないってことか?」
「ああもう、だから嫌だったんだよ!! あんた何時からスコールの同類になったんだよ、複製の錬金術師!!」
「君と違って私は聞いて恥じ入るような二つ名は持っていない」
「贋作者、器用貧乏」
「まだまだ。安心したまえ、君の新たな二つ名は私がしっかりと眠れる獅子と君の恋人、魔女のレプリカの耳に届けよう。たしか“覇者アーヴァイン”だったっけ?」

 声に隠し切れない笑いが滲む。
 嘲笑ではないが、まあ近いだろうか。

「二人とも少し物悲しげな顔をして君の背中をを叩いてくれるだろうさ。焔の拳と金色蠍にもきちんと伝えるから安心したまえ」
「ああ、も〜〜!!」

 あははと笑えばアーヴァインは残された片手で頭を抱えた。

 私としては、覇者と言うのも別に悪くないと思っている。
 とくに私が来たせいでだろう、遠慮なくエグゼターが使える今のアーヴァインなら。
 銃を持って近接戦闘もこなすと言う化け物ぶり。
 そもそも本気を出されれば、私は近づくこともさせてもらえない。
 勝てないことは歴史が証明してしまっている。

「ジェイド、とりあえず、今私こいつに勝てない。いい勝負ならこいつ一人押さえることは出来ると思うけど、そうしたらジェイドには残りの六神将全員一人で相手してもらわなきゃならないし。人質とられたまま」
「従うのなら、命は助けよう」

 いつの間にか私の後頭部にもリグレットの譜銃が。
 ま、至近距離で打たれても死ぬとは思っていないが。

「しかたが、ありませんね。従いましょう。キリエもよろしいですね」

 私はアーヴァインを見た。

「ガーデンと魔女の名にかけよう」
「従うわ」
「適当な船室にでも放り込んでおけ!」

 そうして私達は連行された。
 ジェイドがティアを、私がルークを抱えて。
 何か間違ってない?
 多少の不満も篭めてアーヴァインをにらむと、親指と小指を突き出した手を耳に当てていた。

……あ、携帯。






 でも、四人一まとめの船室の中じゃ使えないよね。
 私にとっては大して久しぶりでもないけど、アーヴァインには本気で久しぶりだった見たいだし、事態の把握のためにも連絡を取りたいんだけど。
 アーヴァインは会えたからいいとして、フィールの行方も知れないし。
 あ、ルークが魘されている。
 ティアが起こしに行ったからいいか。

 つーか、葛藤とか、いいとこも悪いこともみんなぶっ潰したよね? イベント。
 お笑いにまで仕立てちゃったし。
 アッシュの“人を殺すことが嫌なら剣なんか捨てちまいな”ってせりふだったかな。
 これは結構好きだったんだけど。
 ルークにも聞かせたい台詞の一つではあった。
 剣を取るなら、一度は悩んだ方がいい。

 きゃんきゃん騒ぐライガに肉を銜えさせて黙らせる。
 今回は何の夢を見たのか、置きぬけのルークはぬぼーっとどこか焦点の合わない目をしていた。

「それにしても、キリエがあの覇者アーヴァインと知り合いだったとは思いませんでしたよ」
「覇者? ……覇者アーヴァインって、あの……?」
「はぁ? なんだよ、覇者アーヴァインって」
「それ私も知りたい。アーヴァインの事は知っているけど、今までどんな活動していたのかは知らないから」

 言えばため息一つジェイドの口から。
 こいつは相手が誰だろうとこういう反応をしなきゃならない人間なんだろうが――いちいちこれでは好感度が低いぞ。

「……六神将が一人、覇者アーヴァイン。何時のころからか神託の盾騎士団で聞かれるようになった名前ですね。現在の階位は響士、神託の盾騎士団においては第二特務師団師団長の任に有るはずです。戦争にはほとんど姿を現さず、その任務のメインは魔物退治が主ですが、剣を主要武器と常に譜銃を携帯し、譜術ではない不審な能力も有するとのことです」

 ああアーヴァイン、あんた不審者に不審とか言われちゃってるよ。
 ついでに私も不審、のところでちろりと残り火のような目で睨まれてしまった。

「状況によっては銃も使い、そちらのほうもなかなかの腕前らしいですが。そして覇者の名のいわれは一度戦いの場に出たならば決して負けを知らない、らしいですよ? 事実、彼が出れば魔物退治においても極端に負傷者が減るそうですし、各国と組まれた演習においても、彼は勝ちを譲る事無くたいていは剣だけで勝利を収めていました」

「そんなに睨むなジェイド。私に言わせれば覇者なんて物笑いの種なんだから。私はあいつが絶対に勝てない人物を暫定的に三人、しっている」
「まさかあなたじゃないですよね」
「それこそまさか。私だって今更物理的に弱いなんていわないけど、あいつに比べればまだ弱いよ」

 実際とっくの昔に笑ったしね。
 どちらかと言うとその二つ名を聞いたときの仲間の反応を想像して笑ったんだけど。
 アーヴァインが勝てない人間としての三人は、とりあえずセルフィとスコール、かな。
 実力的には伯仲の中だと思うんだけど、アーヴァインの精神的な部分で彼は勝てない。

 セフィーに関してはもちろん色恋沙汰で。
 好きな女性に手を上げるなんてー、ってところか。
 そしてスコールに関しては適わないと思っているし、適わなくもありたいと思っているせいだろう。

 三人目は……秘密だ。



 思い出して笑ったら、ジェイドが気持ち悪いものでも見るような目をして、またため息。
 そしてやれやれ、仕方が無いな、ってかんじで肩をすくめる。

「さて、そろそろ脱出してイオン様を助けなければ」
「さて、イオンは何処に連れて行かれたんだろうね」
「神託の盾騎士団たちの話を漏れ聞くと、タルタロスへ戻ってくるようですね」

 ああー、戻ってくるって事は、どこかへ行った?
 ……パッセージリンクか? この付近なら何処だろう。

「そこを待ち伏せて救出しましょう」

 待ち伏せロマンを感じるようではもうやばいか?
 でも、待ち伏せのときのドキドキって、時々病みつき。

「くくく」

 笑うと不審者を見る目で見られた。

「ここが我等の戦場か」
「戦場?」
「そう、ルーク。ここで戦いを放棄して、逃げること、負けることは、将来に置けるもっと大きな大規模な戦い、戦争へ発展する可能性を高く秘める。求めるのは勝利のみ。戦場に正義も悪も無く、あるのは生か死か。神託の盾騎士団もマルクトも、兵士として戦場に立つからには命がけよ」

 オーラで迫力をかもし出して近づくと、黙って後ずさる。

「ルーク……覚えておいて。この剣は、人を殺せるの。ほらここ、ここをこうやると、殺傷モード」

 手元に残されていたのは、武器としての認識がされなかったからか。
 フォニムでもって動くものでもないし、知らなければただのガラクタに等しい。
 そして現れる刃の色はスタンモードよりもなお白い。

「この世界は、普通にしていても魔物や盗賊に襲われることもある。だから、力の無い人々は寄り集まって、庸兵を雇ったり、移動に辻馬車を使うわ」

 見たとこ明らかに私の知る馬って言う生き物じゃなかったけど。
 この世界ではきっとあれがスタンダードに馬、かな。

「一人旅なんて出来るのはよほどの実力者か馬鹿よ。戦う力のあるものは、子供でも戦うことがある。悲しいことだけど、そうしなければ生きていけないから。あなたはこれからきっと迷うことになる。殺すことが嫌なら、剣を捨ててしまいなさい。捨てても生きていける立場に、あなたはあるわ。まだあなたは関係ないと言える。望んでここに来たわけじゃないといえる。言ったなら、あなたがあなたの箱庭に帰るまで、あなたの代わりに私が戦う」
「キリエは、どうなんだよ。あんただって、ライガにだって助けようとしたじゃないか」

 まあ、そっちはストーリーに対する下心ありだったけど。
 クイーンはともかく、普通のライガはいいなぁ、って思っていたし。
 まさか本当に卵を与るなんて思わなかったけど。
 でもまあ、聞かれたからには答えましょう!!

「私はとっくの昔に散々迷ったわ。二十歳近くなるまで、録に喧嘩すら知らずに過ごしたし、戦うことを本当に知ったのは二十歳を過ぎてから」

 始めて世界を移動してH×Hの世界に行ったのは十台の終わりのころだけど、修行を終えて実践に出たのは二十代に入ってからだったし。

「最初のころはね、頑張って頑張って頑張って、私は不殺を貫く一般人!! って言っていたんだけど、仲間達と過ごすうちにどうにもそういうわけにも行かなくなって。まあ、随分融通利かせてくれたけど、人と戦うこともあったから。基本的に、私達庸兵なのよ。ガーデン、という場所に所属する、Seedと呼ばれる一騎当千の力を誇る特別な庸兵。これでも私、上から数えた方が早いくらい強いのよ? でも三日や四日や一週間眠れなくなったし、吐いたし、躁鬱になったし、幻覚見たし。凄かったのよ?」

 それこそハンターの世界に行くまで、虫も殺せない人間だった。殺せなくても掃除機で吸っていたけど。
 ハンター世界に行ってはじめて狩りを知った。
 野の獣を初めて自分で捕まえて、捌いて食べたときは泣きながら食べた。
 泣いてでも食べた。
 能力が戦えないものだった上にビンボーだったから、それからはあんまり表にも裏にも登場しないように細々と生きて、彼等とであって。
 そして本当の戦いを知った。
 命を懸けた、戦いを。
 あるいは命を奪う戦いを。

「私は、多分、まだ直接的に誰かの心臓を止めたことはない。そういう余裕をぶちかましていられるだけの、強さがあったから。けど、もしかしたらもっと残酷な殺しをしているのかもしれない。戦士の四肢の腱を断った事がある。これで、彼は二度と戦えない。自分の描き出す手こそが我が命といった人間から両手を奪った。走ることこそ命題と言う人間から足を奪った。ある男からは、永久に意識を奪った。自家呼吸するだけの肉の塊ね。魔物の出る森で、その後どうなったか、知らないわ。ある人間からは、意識を持たせまま、五感を奪った。音が聞こえず、目が見えず、匂いを感じられず、肌の感覚も失って、味も無い。熱い寒いも分らない、目を閉じているのか開いているのかも分らない。上下の感覚も無い。真っ暗闇に放り出されるの。発狂したわ。直接的に命を奪っていなくても、私は人格を殺した。人生を殺した」

 やりたくてやるわけではない。と、今でも私は私に言う。

「名前が売れるとね、襲われたりもまあするのよ。命狙われたりとか。そういう時に、見せしめとして襲撃者をそういう風にしたこともある。結局、私は、選んだだけだった。その世界から身を引けば、そういうの何にも悩まなくてもいいんだけど、私は悩んで吐いて、不眠になって、それでも仲間達をえらんだの。仲間達と同じ世界にあることを選んだの。命のやり取りがある世界を。奪ったものを、私は負うわ。けど、迷って死ぬぐらいなら私は戦う。殺すのは嫌 。でも、死ぬのはもっといや。それが私の、答えかな」

 驚くほどぺらぺらと口から言葉はこぼれでた。
 一度は改めて誰かに聞かれたかったのかもしれない。
 あるいは、これが懺悔だったのかもしれない。
 七歳児相手に、なにやってんだか。

 くるりと振り返って、わざとらしく一礼。

「ご清聴ありがとうございました」
「あなたの過去の一端が明かされたんです。聞く価値はありましたよ」
「何でも知りたがり個人情報も蓄えようとするその姿勢はぜひとも情報部にスカウトしたいね。うちの情報部は勤務過多で死にそうなんだ。使える人員は大歓迎さ」
「いえ、すでに私を酷使してくださる方はいますから、遠慮しておきますよ」
「そりゃ残念だ」

 いやほんと。
 世界が違ってもジェイドの脳なら何処ででも使えるだろう。

「ルーク、ここに壁は無いわ。ま、今は捉えられているけど、逃げようと算段しているわけだし。今のうちにいっぱい世界を知りなさい。世界情勢も、魔物のことも、本当の戦いのことも。あなたを世界のあらゆることから秘匿した籠は、ここには無いのよ」
「お、おう」

 やれやれ、と肩をすくめるジェイド。
 彼にしたところで人事じゃないんだけどね。

「ジェイド。ルークはマルクトに誘拐されてから、身の安全のためといって屋敷に軟禁されていた。そうよね、ルーク」
「ああ」
「ついでにあらゆる知識を遮断されてきた」
「この世界のことを知らなくて当然、と言うことですか」
「しかたないだろ。餓鬼のころの記憶もねぇんだ。俺は何も……知らないんだ」

 すごい。
 反発するわけでも叫ぶわけでもなく、この我侭放題のルークが、ずんずん沈んでいく……。

「そんな人間に、今のあんたの言葉は毒だ。身を蝕みこそすれ、身に成ることは無い。 そもそもジェイドの言葉って昔から揚げ足と嫌味ばかりじゃない。もうすこし、舌鋒を緩めてくれないかな」
「まあ、いいでしょう」
「ルークも、私はバチカルに戻るまで、あなたを王族として扱わないから。ぶっちゃけ拾われただけであんまり関係者じゃないし。それにいつか国を治めるものとして、民の暮らしって奴を知ってみるのもいいんじゃない?」
「そ、そうだな」
「ティアは? 何か言いたいことある?」

 ずっと台詞を奪ってましたし。

「ルーク……あなたは私が必ず家まで送り届けるわ」
「じゃあ、話がまとまったところで、脱出でもしますか」





あとがき

私の中のスコール像は、 「何時までも臆病者のロマンチストではないってことか?」 って言う台詞をアーヴァインに言うような人間です。 以上。





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