特務師団な日々

かくれんぼ 鬼ごっこ   





かくれんぼ



 特務師団長、と言う位階を与えられたために、僕には仕事が出来た。
 めんどくさい事この上ない。
 けど、与えられた人員を見ていると、少しは鍛えてみようかと言う気にもなった。

 反骨精神いっぱいの骨がありそうな感じで、鍛え甲斐がありそうだった。
 ターゲットロックオン!
 狙いをつけたからには一人も逃がさないよ?
 なにより将来はアッシュのためにも使える人材になってもらわないとね。

 そして今日は僕の師団になる人たちと対面する初めての日、のはずなんだけど。

「……」
「アーヴァイン?」

 心配そうにアッシュが僕を覗き込んでくる。
 僕はそれに心配ないよ、と言う意味もこめてできるだけ不敵に笑い返した。
 無い死んでもそれほどの事は思っていない。
 やっぱりね、って言う気はするけど。

「二人、三人、五人。意外と少ない方だよ。僕はもっとふけるかと思っていたし」

 思ったより集まったと言えるだろう。
 与えられたのは五十人。
 その十分の一が居なくなった事を多いととるか少ないと取るかはそれぞれだろうけど、話に聞いていた各隊のあぶれ者たちが集まったと言う割にはよく集まったほうだと思う。
 ガーデンにだってこういう大事なときに居なくなっちゃう生徒とかはいたけど、そういうのって結局評定に響くし、Seedにはならなくても卒業できなければ放校だから、結局行いは本人に返ってくるだけだ。
 だけど、ここに集まったのは上に登る道を断たれたり、上司と意見が合わなくて冷遇されたり、些細な不正も許せなかった気質の人間が弾かれてしまったりとまあ他にもいろいろあるだろうけど、結局のところその部隊内において腐っていた人たちも多い。
 真面目になんかやってられるか、って。
 まあ気持ちも分らなくは無いけど。

 予想できた事態だからといって看過するわけには行かない。
 今日は全員集まるまで挨拶一つもしないつもりだ。
 始まりがなければ終わりも無い。
 全員揃わない限りこの顔見せは、終わらない。

 まず集まった隊員に一時間は待ちぼうけさせた。
 早く始めないかとの声も上がったけど、全員が揃うまでははじめないと伝える。
 病欠じゃないことだけは確認済みなんだよ。
 上司を侮っちゃいけない。

 その一時間の間に僕は彼らの行動を観察した。
 生真面目なのから不真面目なのまで一通り居る。
 人間の見本市みたいだ。
 有り余る個性で弾かれてここに来たようなものだったしね。
 軍人には向いていないかもしれないけど、Seedにならそこそこ向いているかもしれない。

 で、一時間もすればさすがにあちこちで不満が上がってくる。
 よくここまで堪えたものだと思うけど。
 そこで僕は5人の人間を指名した。

 一時間も見ていればそこそこわかるようになる。
 一応手元には簡易の経歴表もあったから。

 一人は理不尽な命令に上司に反駁したもの。

「アスク・リディラ」

 一人は不正が許せずに行動して、まあ力及ばなかったもの。

「カイエン・リリエール」

 一人は出世街道を順調に登りつつあったところをねたまれて引き摺り落とされたもの。

「ボーント・ボーント」

 一人は詳しくはらないけどこれ多分濡れ衣だ。

「シャール・リスタス」

 最後の一人は、篤い忠義心が仇になった者。

「ジャック・アイハッド」

 大体みんな、いわく真っ当な道に裏切られてここに来ているわけだ。
 初めから従順なんて期待しない。
 ただ、僕は彼らに期待する。
 一度か挫折を経験した彼らは、育つ。

 前に進む意思を見つけられたら、その時はきっと以前なんて目じゃないくらいにょきにょき育つ。
 きっと。
 枯れてしまおうとしている芽を立ち直らせたら、後は僕は適宜水をやって肥料をやって光に浴びせていればいい。
 まあ、枯れかけを立ち直らせるのが一番大変なところだけど、やってやろうじゃないか。
 僕は負けない。

 それに、複雑な事情や心情を抱えているのはやっぱり一部で、多くは力を示すか屈服させるか心酔させるか、どれかできれば何とかなる。
 それで何とかならない一部こそが手間が掛かる。
 でも立ち直らない人間はいないはずだ。
 それだけは僕は信じているよ。

 その問題のある一部だってわかっているだろう。
 自分たちを押し付けられた僕が上にあまりよく思われていないって言うのが。
 同病相憐れむような気持ちだってこのさいだ。利用しちゃうよ。

「よく聞くこと! 今指名された五人を暫定的に分隊長に指名する。協力して僕が居ない間にこの場を収めること。各分隊は後ほど編成する。アッシュは僕が居ない間のことを報告するように」
「わかった」
「僕は過去はどうあれ能力を示した者は登用する。拗ねて腐ってないで、どんどん僕に有能な自分をアピールしなよ。まだ上は目指せる」
「それで、師団長殿は何処に行かれるんです」

 不正経理の罪を着せられてここに飛ばされてきたボーント・ボーントが僕に尋ねた。
 うん、いい質問だ。

「決まってる。かくれんぼは得意なんだ。僕が鬼で見つけられない人なんて居ないよ」

 サボり魔たちを引き戻す。
 全員が集まらなきゃ、ここは始まらないんだ。











鬼ごっこ



 顔合わせがかくれんぼだったなら、訓練は鬼ごっこだった。
 煽って叩いて扱き下ろして挑発して、どんな手段を駆使してでも僕を捕まえる事ができたら認めよう、って言ったんだ。
 五十人でたった一人をしかも限られた範囲で捕まえられもしないならその程度、僕に従ってもらうよ、って。

 部下となる彼等がたとえどんな人間達であろうと、僕は彼らの命を預かっているんだ。
 疎かにはできない。

 普段になく口を辛くして挑発しただけあって、彼らの大半は乗ってくれた。
 ごく一部の乗らない人たちにも、捕まえたら休暇と給料アップって付けたらそこそこ乗り気になってくれたし、あとの反応は後の反応で観察の対象になる。
 その人がどんな物に執着し、どんな言葉に反応するのか。

 単純にお金や物や休日に執着示してくれたらわかりやすいよね。
 挑発に乗ってくるのもどちらかといえば分りやすいほうかな。
 なんかゼル見たいにノリノリになっている金髪君も居るし、なんか懐かしい気分になっちゃうなぁ〜。
 ガーデンで教鞭握っていたときみたいだね。

 まあ彼らはもう少しおとなしかったけど。
 おとなしいって言うのとは違うかもしれないけど、新入生は新しい環境に緊張しているし、慣れてくると割りと反応は二分する。
 Seedを目指すか、とりあえず卒業資格手に入れてそこそこの道を探すか。
 Seedになれなくても、ガーデンを卒業できれば並みの教育機関以上の知識は手に入れている。
 放校さえ免れればそれなりに就職先もあるし。
 全く諦めるのはそれこそ数年たってからの方が多いしね。

 追いかけてくる未来の部下達を適当にあしらいつつ観察をする。

 単純に全力で追いかけてくる人。
 やっぱり何処と無くゼルを思い出させる性質の人だよね。
 成長は見込めるけどすぐに隊の上につけることは出来ないかな。
 でもそのうち仲間内から頼りにされそう。

 そうやって単純に追いかける人の先を呼んで回り込んでくる人。
 少し頭を使ってくれて僕は嬉しい。
 たぶん見つかっていないつもりなんだろう。
 そして普通なら見つかっていないはずだとそういえるくらい巧妙に罠を張り始めた人。
 あとはこれに連帯感を持ってくれれば最高なんだけど、今はまだ高望みかな。

 でも、一人二人と連携し始めるのも出てくる。
 ああ、やっぱり期待度高いなぁ。
 顔合わせで名前を挙げたのも四人入っていた。
 ちょうど下士官だしそのうち最小単位のスリーマンセルを組ませるにしても訓練初期の分隊長としてはいいと思う。
 各隊の連携もとれそうだし、それぞれがそこそこ頭が回るから無駄死にはしないだろう。
 そもそも妙な思想の影響もそれほど強くなさそうだ。
 やさぐれているからかな。
 意味の無い突撃や教団に殉じる死とか、選びそうに無い感じが凄くいい。

 不正経理の濡れ衣をかぶせられて来たボーント・ボーントがこの競争に参加せずに観察している。
 ひねくれている感じがする。
 けど全体を俯瞰する眼差しを持っているなら、使えそうだ。

 はははははは!
 この競争に参加しなかった事を後で後悔するといいよ!
 扱き使っちゃうよ〜〜?
 しかも捕まえられなければやっぱり休暇も給料アップもないしね。

 いい人材み〜つけた。




「いい加減捕まれこのやろうーー!」
「あっちに行ったぞ! 回りこんで捕まえろ!」
「倉庫から網もってこい!」
「俺の給料俺の休暇〜〜! 何処だ!!」

 かくれんぼのときにも思ったけど、どんなところに隠れるのかで多少性格が分るのと同じような感じで、これもどんな風に追いかけてくるかで多少性格はわかる。
 あいつは当面分隊長、あいつは将来的には師団の参謀になりそう、あそこのあいつは絶対に闘いに向いていない。死ぬ前に事務に回そうか、とか。
 僕を捕まえるという一つの目的の中に生まれてくる連帯感。
 いいね〜。

 追っ手をあしらいつつ観察する中でふと目に付いたのが一人の中では割と若い方の兵士だった。
 多分20代前半かな。
 なんというか、普通だった。
 とにかく普通だった。
 この何処かしら妙なのばかり集まった師団の中では効して目に付いたけど、そうじゃなかったらこの存在感の薄さはむしろ奇跡だね。
 ニーダ並だと思う。

 わざわざ見ようとおもうことなどめったに無い自分の影のような存在感の薄さから“ヒトカゲ”って呼ばれていたニーダ。
 特殊工作と潜入任務のプロだった。
 まるで彼並みの存在感の薄さだ。

 なんだか、面白くなってきた。

 僕は一度完全に気配を絶って、ボーント・ボーントの背後に立った。
 この鬼ごっこに終止符を打つ。
 だいたいの事は見終わった。
 あとは時間をかけて適正を見極めていくしかないしね。

「はーい、おしまいだよ〜〜」
「なっ! 師団長……何時の間に俺の背後に立ったんで?」
「ん〜? ついさっき、かな」

 全然気がつかなかった、と小さく呟くボーント・ボーント。
 息を切らせた部下達が、一斉に僕を見た。

「残念だけど、勝者はなし、かな。で〜、ここで重大発表〜!!」

 不満の声が上がる前に封じてしまう。

「まずはボーント・ボーント、君を僕の副官に指名する」
「拒否権は?」
「有るわけ無いって」

 上官命令は絶対であるのが軍の基本だ。
 基本的にね。

「次にBBの下に付く分隊長は」
「BBって俺の事ですか?」
「ボーント・ボーントって長いじゃん? ダメかな〜〜」

 副官になることに拒否権は無くても愛称についてまでは拒否権無しって言うわけには行かないし。

「……かまいませんよ」
「サンキュ〜〜!」

 折れてくれてよかった。
 それにBBってなんだかかっこいいような気がしない?

「じゃあ続きだけど、BBの下に付く分隊長は以前に指名した残りの四人とあと二人、君と、君。明日僕の執務室に来るように。今日の訓練はこれでおしまいで、ここで解散、って事になるわけだけど……」

 とちょっと間を持たせる。
 BBはもうちょっとふてくされたような表情で膝についた手に顎を乗せて僕を見ている。
 人生の主人公にはなれても物語の主人公にはなれなさそうな感じがすっごく気に入った。
 いつかアッシュの事も認めてくれるといいよね〜〜。

 そんなことを考えながら僕は僕を見つめてくる、と言うか睨んでくる多くの視線をぐるりと見回した。
 運動して、汗をかいた。
 こういうときはきっとあれがいい。

「ダアトの市街に店を予約してある。軍資金は全て僕が出そう。食べ飲み放題! 参加は自由! だけど、汗をかいた後のいっぱいは最高だと思わない?」

 ウインクを決めるとBBには呆れられたけど、他の兵士達、おもに直情径行な気配の強い層にはうけた。
 僕を追いかけるという中で生まれた連帯感がそうさせたんだろう。
 乗り気になった層が迷っているのやかえる気になりかけていたのを強引にでも誘って、結局全員で店に入った。
 店は借り切りだったからよかったけど。

 どこに居ても大勢で食べるご飯は美味しい。
 ソフトドリンクを飲ませていたアッシュも、酔っ払った彼らに随分とかわいがられていたし、この調子なら受け入れられるだろう。

 僕の隣に座ったBBがウィスキーをボトルで一本そろそろ空にしようとしている。
 一人で。
 と思ったら足元にもワインやシードルのビンが転がっていた。
 甘いのもいけるらしい。
 ジンのボトルも口をつけている。
 でもまだまだ素面だ。
 すごい、ざるだよ彼。
 むしろわくかもしれない。
 自分用のボトルを周囲にキープしている。
 まだまだ飲む気だよ。大丈夫かな。

「団長……」
「ん? なんだいBB」

 僕を見ないまま、騒ぐ部下達の方に眼差しを置いて彼は僕に話しかけた。

「ありがとうございます」
「さて、何のことかな」

 はぐらかしたわけでもなくて、僕には彼が何の感謝を示しているのかわからなかった。
 でも彼はそれで満足したみたいで、続きを語ることは無かった。

 まあ、いいかと思う。
 満足しているのなら、ね。











特務師団な日々――1















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