原初の幻想



「ねえアッシュ」
「なんだ」

 要人を乗せてユリアシティに向かうアルビオールを崩落し魔界の海に浮かぶ大地の上から眺める二人。
 密度の濃い瘴気も体を侵すには至らない。
 それが体にとって毒である、とそう認識されるものである限り。

「会談、気にならない?」
「ならないといえば嘘になるが……気にしてもしょうがないだろう」
「まあそうなんだけど〜」
「それに、あそこにはキーマンが入っているんだろう? だったら、ヴァンたちの襲撃にあっても心配はないはずだ」
「そもそもさ〜、ヴァンの計画に和平とか関係ないし、そっちの方は心配していないんだけど」
「……そうだな。和平が結ばれようが破綻しようが、奴の計画で外郭の人間が全て滅びれば、そんなことは関係なくなる」
「うん。そうなんだけどね。アッシュ〜、気になるなら素直に気になるっていいなよ〜」

 どんなに己の中で整理をつけた気でいても、気になって仕方がないというのは見ていれば分る。
 むっ、と表情を厳しくしたアッシュに少し言い過ぎたかな、とアーヴァインは眉を跳ね上げた。

「だから、気にしてどうなると言っている」
「ええ? 覗き見?」




 反論するアッシュに有無を言わせずアリエッタの友達のフレスベルクの足につかまって空を飛ぶ。
 疲れてきたらケアルをかけて頑張ってもらう。
 そして辿り着いたユリアシティ。
 普通はそのまま内部に潜入するのだろうが――いまは両国の避難民と軍人とがひしめき合い、とてもではないが内密に潜入するのは難しい状況だった。
 アーヴァイン一人ならともかくとして、この状況においてアッシュは悪目立ちする要素を備えすぎている。

 ぶつくさ言っているアッシュと共に、アーヴァインが降り立ったのは屋根だった。

 二匹のフレスベルクと仲良く座る二人の人間。

 一見妙な構図だが、見ている人間などいやしない。
 それこそアルビオールを使って上空からでも見ない限り、見つけられやしないだろう。

 あくびをしながら仲良く羽づくろいするフレスベルクと眼差しを厳しくしながら押し黙るアッシュ。
 ちょっとは悪いことをしたかな〜、と思いつつもあまり反省していないアーヴァイン。

 屋根の上を歩き、時々立ち止まっては様子を窺うアーヴァイン。
 その様子を如何わしいとアッシュが見咎めた。

「さっきから何をしている」
「う〜ん、中の様子を、探っているんだけど……」

 本気になれば一粒の砂、降り積った埃の動きすら感知することの出来るアーヴァインの円。
 オーラを広げて建物を透かし、内部の様子を探ることで状況を掴もうとしている。

 やがて唸っていたのがうん、と頷くと、ある方向へ向かって歩き始めた。

「アッシュもこっちにおいでよ」
「何があるんだ」
「たぶん、この下辺りが和平会談をしている会議室、かな」
「わかるのか」
「なんとなく。建物の構造の特徴とか、人の動きとかでね〜」
「ほう……」

 感心したように足元を見るアッシュ。

「あ、フィールもいるね。間違いないよ」

 うろうろしながらうんうん頷くアーヴァイン。
 アッシュもアーヴァインのいる場所に近づいて様子を窺ってみたが、彼の感じているらしき違いなどさっぱり分らなかった。
 根本的な何かが違うのだと、あきれ返るしかない。

「だがこれでは結局中の様子はわからんだろう。何のためにここまで来たんだ」
「まあ、なんとなく?」
「そのなんとなくのために、俺はあの距離をフレスベルクの脚につかまり続けたのか」

 フレスベルクの足に掴まっての空中飛行。
 初めのころはともかくとして、長時間にわたればなかなかの苦行だ。
 思い出したアッシュの米神に青筋が浮かび上がる。

「いやいや、和平会談が終わったあとはちょっとフィールと合流しようと思ってさ」

 さすがになんとなく、のままでは悪いと思ったのかアーヴァインが付け足す。
 今思いついた理由じゃないのか? とアッシュが睨みつけたが、これは本当、と言われれば反論する言葉はない。

 ひとつ大きく溜息をついて気を落ち着かせると、まあいい、と呟いて適当にそこいらに腰をかけた。

「凄い建築物だね。もう整備するための技術も失われているのにこの建物はまだ生きてるよ」
「たしかに、な。どういう仕組みか知らないが、ここには瘴気も入ってこない」
「正常な空気を確保するための仕組みも創世暦時代のものかな。地殻の流動に研磨されることもなくそのままま。瘴気の侵食も有る程度自浄するのかな」
「ここの空気は瘴気に汚染されてはいないが――不味いな」

 言われて見て、アーヴァインははっと気がついた。
 彼自身は馴染みすぎていて違和感でもなかった空気。
 だがそれはこのオールドラントでは珍しい部類でもある。

 高層ビルとアスファルト。
 車の排気ガスや行き場のない人の呼吸に淀んだような、都市部の空気。

 規模も建築構造も、建材も何もかも違うのに、空気の匂いだけがまるで似ている。
 空気清浄機の限界なのか、もしかしたらフィルターの目詰まりかも、とそう思うとかすかな笑いがこみ上げてくるアーヴァイン。
 面白くなってきて、建物に対する念による探査精度を上げてみる。

 いちいち埃の動きや砂の動き、壁のヒビまで気にしてはいられないからと意識的に感度を落としていた部分を引き上げて、それを建物に向けてみる。
 そして明かされる、驚くほど単純な構成のユリアシティのつくり。

 特殊な建材を使用しているだけで、構造そのものはとても単純に出来ている。
 居住区まではわからないが、主要機関の集まっているこの場所は緩やかな曲線と直線により構成された一つの空間だ。
 長い時間をかけてそれを住む人間が区切って使ってきたんだろう。
 中にはどうやら、基本となる建築物を知識もなく削り取ったような痕跡も見られてひやひやする。
 もしあれが、建物を支える起点となる部分であったなら。
 ユリアシティは二千年を待たずに倒壊していたかもしれない。

「あ、でも」
「でもなんだ」
「この建物も、そろそろ限界かもしれないと思ってね」
「二千年、か」
「耐用年数自体はパッセージリンクとそう変わらないみたいだね。二千年は保障します。けどその後は知りませ〜ん、って感じかな」

 二千年、もたせることの出来る建築物、と言うのがそもそも人間の思考の範疇外だろう。
 長く、強く、とは常々思われているだろうが、実際作った人間がその果てを見ることはない。
 後にその技術を見て後世の人間がそれを千年単位で持つものだと認めても、初めてその規模での建築物を作った人間には、実際に二千年後までその建築物が存在しているのか、見届ける術は無い。

「空気の浄化システムもよく出来たものだけど、もう全てが初期値のままっていうのはありえないしね。二千年かけて、ユリアシティも少しずつ瘴気に侵食されているんじゃないかな」

 一見すると完璧に見えるシステムも、誰も知らないところにバグがある。
 システムとバグとは一緒に発表されるものだ。
 そして人はそのバグ潰しに必死になる。
 それでも、バグは絶対になくなることは無い、とまで言われるほどだ。
 どれほど完全を期しても完全なものなどありはしない。
 だが、完全に近づく努力を怠ってもならない。

「なんとな〜く、まだ会議終わりそうに無いし。なにかあるとは思えないけど、様子見も兼ねてもう一巡りしてくるよ。アッシュはどうする?」

 既にフレスベルクの足につかまり尋ねるアーヴァイン。
 それをしばし見つめ、アッシュは小さくと息をついた。

「やめておく」
「そうかい。じゃ、ちょっといってくるね〜」

 ばさり、と羽音が響き、空へ舞い上がる魔鳥。
 その足につかまって共に空に上って行くアーヴァイン。
 魔鳥飛行に少しうんざりした気分になっていたアッシュは、どんどん高みへ上って行くアーヴァインを半分眇めた瞳で見送っていた。

 順調にのぼり続け、ユリアシティの空気と瘴気の空気との境目に入ったとき。
 それは起こった。
 予想はして然るべきだったかもしれないが、まったくの不慮の事態でもあった。

 ふっ、と瞬間体を硬直させたフレスベルク。
 そして次の瞬間。

 ふぁ、と口をあけたかと思うと。
 クシャン!!
 と盛大に体を揺すってくしゃみをした。

「あ」
「ああ!」

 地上と上空とで同時に声が上がる。

 魔鳥の足に生えていた羽毛を一掴み道連れに放り出されるアーヴァイン。
 放射線を描いて落ちてくるアーヴァイン。
 それでも、頭から離れた帽子を引っつかむ根性を見せるアーヴァイン。

 自身も軌道を乱しながらも体制を取り戻した魔鳥とアッシュが、驚愕の表情のまま声もなく落ちてゆくアーヴァインを見つめていた。




 バヂン、と響いたありえない崩壊の音。
 まるでビデオのスローモーションのように、アッシュは見開かれたアーヴァインの目を見ていた。
 そう思った次の瞬間には彼の姿はなく、数秒遅れて響く落下音。

 潰れたトマト。

 そんな言葉を思い出してぞっとしたアッシュはアーヴァインの消えた穴を一睨みして駆け出した。

 落ちた場所は、ついさっきまでアーヴァインが様子見をしていた場所。
 位置的には恐らく会議室のはずだった。

 大丈夫だ。
 あいつは普通じゃないんだ。
 だからきっと生きているはずだ。
 そう言い聞かせて走る。

「フレスベルク!」

 呼びつけた魔物の足に走りながら飛び乗ってユリアシティの正面に下りる。
 そして一心に、アーヴァインが落ちただろう会議室目指して走り続けた。





「おい、会議室は何処だ!!」

 胸倉を掴みあげる勢いで問いただすと、目を回したユリアシティの住人が混乱したままに答えた。

「あ、あっちです」
「ちっ」

 舌打ちして駆け出すアッシュ。


 ユリアシティの警備の甘さが気に食わなかった。
 これが二千年、外敵に曝されることのなかった都市の実体なのか。
 敵を知らないから身を守る術も知らない。

 各地からの人が集まっている現在、何処から不審人物が入ってくるかも分らないのだ。
 警戒はなおさら強めるべきだと言うのに。

 今は両国の軍人も出入りしているから多少難しいかもしれないが、平時であればたった五十人しかいない己の師団だけでもユリアシティを制圧できるだろう。
 そう確信させるだけのことはある緩んだ空気。

 それがとても気に障った。
 挙句アーヴァインが落ちた音に反応してだろう。
 何人の人間が会議室になだれ込んだのか、扉は開けられたままだった。

「アーヴァイン!!」

 すわテロかヴァンの一味の襲撃か、と剣呑な雰囲気に包まれた会議室に飛び込んだアッシュ。
 出席者達は破壊された会議用のデスクから離れ壁により、要人達の前には守護たる人間が立ちはだかっていた。

 キムラスカ国王の前にはファブレ公爵が、マルクト皇帝の前にはジェイドが身を挺して立ちはだかる。
 そして次は何処から来るものかと辺りに気を配りながらも、一様に瓦礫の山に目線を送っていたところ、その視線が叫びと共に飛び込んできたアッシュに移る。

「――アッシュ」

 ナタリアが震える声で、彼の名前を呼んだ。
 その一言に、キムラスカ側で目の色を変えた男達が数人いたのだが、今のアッシュにはそれを気にしている余裕が無い。


「アッシュ……アッシュ!」

 声を上げ駆け寄ろうとするルークと、持ち上げて伸ばしかけた手をそのまま握りこむファブレ公爵。
 アッシュはその全てに一瞥だけ向けて、憎らしげに瓦礫の山を睨むつける。
 一体何枚の天板を抜いて落ちてきたのか、と言いたくなるほどの瓦礫を巻き込んで落ちているだろうアーヴァインの事以外を意識して意識から追い出す。

 ナタリア、ルーク、キムラスカ国王にファブレ公爵。
 まだ出会いたくなかった人間ばかりだった。

 その眼差しをわずらわしいと思うのに、見た時に飛び散った瓦礫の破片で怪我をしていないかと思ってしまう。
 そして怪我らしい怪我が無い様子を見て、安堵もしていた。
 そして彼は捨てきれないのだと言うことを改めて実感する。

「くそっ、おい、無事か!」

 瓦礫の山に突進していこうとした矢先、パラリ、とその瓦礫の山が下から震えた。

「ちっ」

 舌打ち一つ。
 そして駆け寄る。

 その下にいるものを引き出そうと瓦礫に手を伸ばしたとき。

 そしてファブレ公爵が口を開こうとしたその時。

 それを制するように空間に声が響き渡った。
 今まで存在していないものの声。
 隠されていた存在の言葉。

「アーッシュ」

 赤毛の青年に呼びかけたのは、杯の名を持つ男。
 そしてまた、鍵を持つものとも呼ばれる男だった。

「どけます。危ないですよアッシュ」

 呼びかけられて、とっさにアッシュは背後に飛び退った。
 キュルリ、と奇異な音が耳に届き、

「トルネド」

 渦を巻く風が、重たい瓦礫の山を散々に打ちのめし四方に吹き飛ばした。




 反射的に頭を庇い腕を顔の前に持ってくるが、飛び散った瓦礫は体にぶつかる前に六角形が幾つも繋がったような壁に阻まれて地に落ちた。
 アッシュはそれを見たことがあった。
 アーヴァインが、あるいはフィールが使っていたのを、見たことがあるような気がした。

 それが、この会場にいる全ての人間の前に展開されている。

「プロテスの無駄使いですね。ですが皆さん、怪我など無いようで何よりです」
「おまえに言えた台詞かフィール」
「あなたに言われる云われは無いと思いますよ、アッシュ。どうしてこんなことになったのか知りませんけど、きちんと二次災害を防いだ手腕はほめてもらいたいところですがね」
「俺にほめられて喜ぶのか」
「まさか! そりゃ貶されたい訳じゃないですけど。褒められてもねぇ」
「ふん。だったら黙ってろってんだ」
「嫌です。役立たずのアッシュに指図されるいわれは無いですよ」
「ふん」

 何処からかアッシュの背後に降り立ったフィール。
 場違いな言葉を幾度か交わして最後には互いににやりと笑う。

 場の雰囲気を壊す彼らの言葉に、この場にいる己の立場を思い出したファブレ公爵。
 息子を死地にやることを決めた人間が、今更何を言うのかと。
 かける言葉も無いのに、どう呼べばいいのかも分らないのに、声を掛けようとしていた己に嫌悪する。

「これは、貴殿が?」

 消えていく守護の光を指してファブレ公爵が言った。

「ええ、そうです。一昼夜もたてば効果も消えますよ」
「ああ、ビックリした。フィール、助かったよ。この会場の人たちに怪我がなくてよかった」

 僅かな残骸だけとなった瓦礫の中から立ち上がったアーヴァインが、まとわりつく埃を払った。
 そして落ちていた帽子を、これも埃を払うと頭に載せる。

「無事だったか」
「もっちろん〜?」
「先輩はわざわざ騒動を起こしにきたんですか?」
「予定外の事態って奴だよ。正直勘弁して欲しいね。くしゃみだよ? くしゃみ。上空百メートル付近からノーロープバンジー。あ〜やだやだ」

 骨折っちゃうしさ〜。
 と呟いて、ケアルラ、と唱えた。
 癒しの光が収まるのを待って、その場で肩をすくめる。

 何があったのか、詳しい事情はわからないが、それだけのことがあってケアルラで済む程度の怪我しかないことに安堵したフィール。
 くるりと周囲を見回して、すぅ、と目を細めると、表情を変える。
 知り合いと戯れるときの表情から、正Seedとして任務に赴くときの顔へ。

 何時までも戯れている訳にはいかない。

「聡明なるオールドラントを代表する方々に、まずはお騒がせしたことをお詫びします」

 深々と腰を折り曲げるフィール。

「皆さん、我々は不慮の事態によりこの場に集いましたが、何一つ貴方達に害を与える意思はありません。それは、あなたたちを散乱する瓦礫片から守った光が私たちの行動によるものである、と言うことから理解していただきたい」

 アーヴァインがここに落ちたときになだれ込んでいた兵士達が、遠巻きに武器を向けているのを牽制する。
 ここは重要な会議の場だ。
 敵対していた両国の兵たちが間にアーヴァインたちを挟んで互いに刃を突きつけている形にもなっている。
 下手な興奮が続けば、どうなるかわからない。

「アーヴァイン。覇者アーヴァインでしたね。確か神託の盾騎士団に所属していたと思いましたが、これは教団の意思と見ても?」

 周囲に彼が誰であるのか知らしめる様に、分る者には分るわざとらしさでジェイドは言った。

「あんたは確か、ジェイド、だったっけ」
「おや、覇者に名前を覚えてもらえるとは光栄ですね」
「あんたみたいな人間、早々忘れられるわけないよ」

 ジェイドに眼差しを固定して肩をすくめるアーヴァイン。
 ちらりとその隣を見れば、皇帝が面白そうに事態の成り行きを見ていた。

「今回の騒動については、教団ではなくガーデンの意思と見て欲しい。僕はバラムガーデン所属正Seed、内サウザンドを冠するアーヴァイン・キニアス。今回この時期にユリアシティに来たのは、教団とはまったく関係ない。騒動を起こしてしまったのは申し訳ないと思うけど、前述のとおりまったくの不慮の事態って奴でね」
「さて、ガーデンもSeedも、聞いたことが無いのですが」

 公の前でガーデンとSeed、彼らの言うその言葉の真意を引き出そうとするジェイド。
 彼等が自らの行動でマイナスの立場を作り出した今、弁解のためでも多少の情報はさらさなければならないだろう。
 絶好の機会といえた。

「十五年前はマルクト軍人。七年前までファブレ邸で使用人。アッシュ誘拐一年後から六神将として活動中。さらすつもりもなかったけど、どこかでは聞いたことがあるはずだ」
「ならばやはり――」

 声を上げたファブレ公爵にアーヴァインは向き直る。
 得意の仕草すらせずに、アーヴァインはまっすぐに公爵を見た。

「お久しぶりです、ファブレ公爵。クリムゾン・へツァーク・フォン・ファブレ殿。その節はお世話になりました」

 慇懃な響きには、僅かな嘲笑が篭められていた。

「あなたが捨てた息子達は、ほら。二人ともこんなに立派に育ってますよ?」




 ああ、自分やなやつだなぁ〜、と思いつつも、この言葉をあえて留めなかったアーヴァイン。
 当時、自分が何のためにファブレ邸にいたのか、アーヴァインは知っている。
 たいした仕事もなく、ただぶらぶらとアッシュを構い倒していた日々の意味を。

 はじめはただ本当に公爵を助けた実力を買って雇ったのだろう。
 だが、すぐにアーヴァインはアッシュをかわいがり、そしてアッシュも――当時のルークもアーヴァインを認め、懐いた。
 そして曖昧になるアーヴァインの立場。
 それは、自分の代わりにルークを愛し、導く人間を置くことで、子どもを捨てる罪悪感から公爵が逃げるための理由。
 自分の代わりをあてがうことで、自分の罪悪感と葛藤を少しでも軽くするための免罪符だった。

 悪いとは言わない。
 責める気持ちも確かにあるが、免罪符を持つことの全てを否定するつもりはないアーヴァインだ。
 それでも、やるなら最後まで、せめて気がつかせるな、とは言いたい。

 親を知らないアーヴァインだ。
 知らないからこそ、理想を抱いているのかもしれない。
 そう思っている。
 自分の理想から外れたら、声高に責めるのか?
 とそう自分に問いかけ、怒りを納めたこともあった。

 それでも、何度も自分に問いかけた結果として、いまはこれは怒りを持ってもいいことだ、と思っている。
 声高に叫ばなくても、こうやって少し責めるくらいいいじゃないかと。

 その言葉に、アッシュと、そしてルークが微かならず顔をしかめるのを目にする。

 あの子達にとって、あんたはまだ親なのに。
 親であることを放棄したことに罪悪感すら感じているのに、まだ親になろうとはしないのかと、今度こそ声高く攻めたくなるのを、アーヴァインは今度こそ飲み込んだ。

「やれやれ。質問を続けてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」

 凍りついた雰囲気に、ジェイドが水を差す。
 それに公爵が安堵の息をついたのをアーヴァインは聞き逃さない。

「では。まず何を目的としてユリアシティに来たのです?」
「バラムガーデン所属正Seed、内サウザンドを冠するフィール・エヴァーグリーン、つまり彼に会うため」
「ではその彼は、何のためにユリアシティに?」
「各国要人の集まるユリアシティにヴァンの一味の襲撃を警戒して極秘警護に」
「頼んだ憶えはありませんがね」
「頼まれた覚えも無いけどね。和平会談を警護し、その締結を見届けることはガーデンとしての上位命令だから」

 まったくの嘘っぱち、口からでたでまかせ。
 真っ赤な嘘。

 とっさに思いついたことだった。
 いい理由じゃないかと思い立って口にするまで,数秒。
 後これで代表責任者の名前を出せと言われたらスコールの名前でも出すつもりでいるアーヴァイン。

 堅苦しい喋りの口調を放り投げたアーヴァイン。
 投げかけた言葉は消して多くはなかったが、その一つすら正面から受け取る気概の無い公爵に、既に嫌味を言う気さえなくしていた。

 要人達の前だから、と口調には少し気を使っていたが、それすらもうどうでもいい。
 いざとなれば、無責任だろうがなんだろうがドロンと表からも裏からも、跡形もなく消えてやろうじゃないかとすら思う。

 どうやってはぐらかそうか、とっとと逃走しようかと考えをめぐらせるアーヴァイン。
 とりあえず目の前の瓦礫のことについては当分忘れることにしようと思う。

 いざとなれば消えてなくなる決意はしたが、ならばなおの事教団との関係は綺麗に否定しておかなければならない。
 立つ鳥跡を濁さずはは信条だ。

「ではアッシュも、そのガーデンのSeedなるものに所属しているのですか」
「いや。アッシュが所属しているのは教団だけだよ。まあ、Seedに育てられたんだし、Seedになる資格は十分あるけど。こればっかりは本人の意思だしね。というか、どうなんだろ。対外的には僕もアッシュもまだ六神将って呼ばれているけど、ヴァンに離反したときに人事で弾かれているかもしれないし」

 う〜ん、と唸り、居心地悪げに立っているアッシュを一目見る。
 顔を上げると、まっすぐにイオンを探す。

「悪いね。こればっかりは今の常態じゃ確認の仕様が無いや。君が決めてよ、導師イオン。ガーデン所属サウザンド・Seed。この肩書きに誇りを持つ人間を、まだ神託の盾の将として認めるかどうか」
「……認めない、と言ったら、どうするのですか?」
「どうもしないかな。神託の盾騎士団特務師団長の肩書きがなくなるだけで、別に困らないし。でもまあ、見ても分ると思うけど、僕たちはヴァンの一味じゃないし、神託の盾騎士団にいたときも与えられた肩書き以上の功績は挙げている。」

 そもそもがヴァンの動向を探るための所属だったしね。
 とアーヴァインは肩をすくめた。

 育て上げてきた兵たちも、神託の盾騎士団に残るならそれでよし。
 付いて来るというのなら、彼らを率いて今度こそガーデンを名乗ってみてもいいかもしれない。
 その時は、とりあえずケセドニア砂漠付近で商人の護衛をすることからはじめようかと思う。
 初期費用に関しては問題ない。
 あれやこれやと実績を上げているうちに無視できない存在になっていくだろう。
 いや、そうしてみせる。

 ガーデンを名乗るなら、教育機関としての側面を持たせるのもいいかもしれない。
 いや、やはりそれがなければガーデンでは無いような気がする。

 子ども達、という育ってみなければどういう花を咲かせるかもわからない存在は、まさに種そのものだ。
 庭で育つ――種。

 ふむ、と唸るジェイド。
 その眼差しは、アッシュ、アーヴァイン、フィール、その三人を順に見つめる。
 名を売らずに怠惰な軍人生活を送っていたフィールは、マルクト軍の人間に顔を見られても気が付かれていないことに安堵した。

 ついさっき、アーヴァインがこちらの世界に来てからの経歴を明かしたとおり、ばれてもまずいことは無いが。
 暇を見てはケセドニアやキムラスカでも合法非合法問わず、良心に従った活動にいそしんでいたフィールだ。
 今更所属を問われて恐れるものなどありはしない。
 確固とした一線――Seedであることさえ失わずに済むなら、恐れるものなどありはしない。

「さて」

 呟いたアーヴァインの目は面白そうに周囲を見ていた。
 予想外の出来事だった。
 けど、悪くは無い。
 だってほら、あのファブレ公爵を見てごらんよ、とそう思う。

 もっと悩んで、苦しんで。
 決断はその後でなければならない。
 声を掛けるタイミングを阻んでくれたフィールにも感謝する。
 中途半端な気持ちのままで捨てた息子に触れさせない。
 捨てたくなかったなんて、伝わらなければ言い訳にもならない。

 中途半端はどちらにとっても苦しい。
 今こうやって、捨てられないことを自覚してしまったアッシュにも、かける言葉を持たないままに声を掛けようとしていたファブレ公爵にも。
 アッシュが、ルークが、父親としてのファブレ公爵を求めているなら、過去のことは不問にしよう。
 どれだけの憤りが内心にあろうとも、問いただすようなまねはしない。


 ただし。


 次に彼らに触れようとするときには、自分がどうあるか必ず決めてもらう。
 父親であろうとするか、それともまったく親であることを放棄するのか。

「誤解を解けたかどうか知らないけど、とりあえず宣言だけしていくよ。こんな形での表明になったことは不本意だけど、和平の成立をガーデンとしても嬉しく思う。末永く続くことを祈っているよ」
「ガーデンはあらゆる国家、あらゆる機関、あらゆる宗教に対して、ガーデンに対し敵対しない限り中立を示します。ガーデンはその活動を、子どもの保護、育成、難民支援、災害被害者の支援などを主とし、要人警護、護衛などもします。敵として立ちはだかるなら、その時は全力を持ってガーデンは立ち上がるでしょう」

 滑らかに口上を言い切るフィール。
 正式にガーデン、と言った場合はそこに庸兵活動なども含まれるのだが――こちらに来てからは有名無実、開店休業状態だ。
 言い出す必要も無いだろう。

 何とか言いくるめ、反論を聞かないうちに逃走できそうだとアーヴァインは目を細めた。

「賢明なる君主の方々が、愚かな決断を下さないことを祈るよ。僕らは敵に容赦しない」
「今回の被害については、明細を纏めた上でアーヴァイン・キニアス名義でガーデンに請求してくださればきちんと補填します。申し訳ありませんが繋ぎのつけ方は探ってください」

 やっぱり壊して逃げるのは駄目だったかな、とアーヴァインは内心で肩をすくめた。
 うん、これが大人の対処だよね〜、と。

 ポケットから名刺サイズの紙を二枚取り出す。
 青で染められたガーデンの紋章が白い紙に浮かび上がっている。
 ピッ、とそれを弾くアーヴァイン。
 その紙は、狙い違わずファブレ公爵とジェイドの前で勢いをなくし落ちた。

「行くところに行けばこれで通じるから」

 すわりの悪い帽子の位置を直して、長い足で悠然と二人の基へ歩いていくアーヴァイン。
 アッシュが明らかに不機嫌に見えるのが気になるが、とりあえずこの場から退散することを考える。
 さっさと退散しないと、フィールの微妙に悪寒を感じる微笑の理由を知る事になるだろう。
 何を企んでいるのかは知らないが、あれは何かを企んでいる笑みだと直感したアーヴァインは、敵対行動ととられない程度に足を速めた。

 だが案の定、辿り着く前にコートの前に手をかけたフィールを見て予感が的中したことを悟るアーヴァイン。

 この場に着てきているコートはもとの世界に居るときから着ている特注品だ。
 コート自体に幾つもの特殊効果がかけてあり、防御の手段として着込むほかに、コート単品で使用することもある。
 場合によってはいちいちボタンやベルトを外している余裕も無いため、外観は凝ったつくりをしているがじつは肩のボタンを一つ外すだけですぐに脱げるような仕組みが出来ている。

 キリエなどはよく『ばりっと開けばすっぽんぽん。だったら変態さん仕様だねぇ』と言っていたが、まったく冗談では無い話だ。

 そして仲間内での俗称が『変態さんボタン』になってしまったボタンに手をかけたフィール。
 素早くそれを引き剥がすと、有無を言わせずそれでアッシュを包み込んだ。

 驚愕の表情を浮かべ抵抗しようとしたアッシュの驚愕の表情。

「テメ――」

 と声をあげたところでフィールが人目につかないようにこっそりとコートにけりを入れた。
 正確には、コートの中に居るアッシュに。

 声を詰まらせる暇もなく、するりとコートの中の膨らみが消える。
 ゆさゆさと空になったコートを揺すってわざとらしいほどゆっくりと、再びまとうフィール。
 消えたのはアッシュのみ。

 種も仕掛けもありまくりの消失マジック。
 誰かの声にならない悲鳴が聞こえる。
 呆然とした雰囲気が剣呑とした雰囲気に変わる前に、フィールが言った。

「ファブレ公爵」

 至極楽しそうに、仲間内から見れば悪鬼のような笑顔を浮かべて名指しする。

「そしてインゴベルド陛下」

 至ればそれは、いっそ穏やかにすら見える。

「為政者としての貴方達に僕たちが言うべき言葉はありません」

 その苦労がまったく分らない、とは言わない。
 ガーデンだって自治を得ている、小さな政府だ。
 だが、結局のところ彼らは根本的なところで治める者ではない。
 裏方に下がってから既に歳月は長く、ガーデンを統括している人間はきちんと他に存在している。

「ですが、親としてのあなたたちは大変気に食わない」

 それは確かにアーヴァインも同意するところではあるが、自分がわざわざ飲み込んだことをわざわざ言い出さなくてもいいじゃないかと思う。
 だが、これはアーヴァインが飲み込んだから、フィールが切れた、という展開だった。
 それを分っているから、アーヴァインもあまり攻め立てる気がしない。
 なによりやはり、それは彼が言いたかったことでもあったからか。

「特にファブレ公爵。父親となるか、それとも完全に捨てるか。早く決めたほうがいいですよ。でなければ、あなたは息子を二人とも失うことになるでしょう。ガーデンは魔女の庭。そこで育つSeedは守護者にして破壊者。そして魔女は殊更に愛情と言うものを大切にします。今消えていったアッシュのように、あなたの行動次第では、あなたはルークも目の前で失うことになる。失ってから気づいても、我々は嘲笑を送りはしても愚者に差し出す手はありません」

 そしてコートの裾を払うと淡い光に包まれて、その場から姿を消したフィール。
 アーヴァインにはそれが移動用の念、【開門の審判者】の通路である黒い穴を、裾を払うことで風をはらませたコートと光の視覚的効果で隠して移動したことがわかっているが、念を知らないものにしてみれば全く未知の事が起こったにも等しい。
 素早さと演出と、また一段と腕を上げたその特殊効果の使い方に小さく口笛を吹いて、どうせなら、とアーヴァインもまた特殊な演出をつけることにした。

 どうせアッシュは見ていない。
 何をやっても、ばれやしないさ、と。

 知らせてしまった事を知らせたら、アッシュは絶対に嫌がるだろうけど。
 いないんだから止めようが無いよね〜、と都合のいいように解釈して口を開いた。
 まあ結局のところ、大人の振りをして飲み込んだつもりになっていた感情を違う形で表に出したに過ぎなかった。
 フィールがあれだけ啖呵をきったのだ。
 それがとても楽しそうにしていたから、自分もやりたくなっただなんてそんなそんな。

「実験はベルケントで。誘拐には甘い水を。監禁は暗がりと閉所に。食物には心を狂わせる薬を入れて。憎しみと虚偽を囁いて、偽りを教え込む。あんたもヴァンも変わらないよ。あんたの意思だから、そういってアッシュはベルケントに向かった。フラフラになって、死にそうな顔色で帰ってきたアッシュを、あんたは見ようともしなかったよね。あんたもヴァンも変わらないよ。子ども達を道具だと思っているならさっさとあの子達に言ってやってよ。アッシュも、ルークも、あんたみたいな不甲斐ない親をまだ慕ってる。受け入れないならせめて切り捨ててやってよ。だったら遠慮なく僕たちが連れ去れる」

 魔法を使う準備をし、待機状態にする。
 すると、音素の流れを伴わない属性が僅かにアーヴァインの周りを覆う。
 譜術の天才、ジェイド・カーティスとしても、音素を伴わずに音素の起こす現象を再現するアーヴァインに謎を深めるばかりだった。

 ただそこにあるのは、当たり前と認識するものの違いが有るだけなのだが。
 知らない者には分らない。
 認識の溝を利用するアーヴァイン。

「僕らの仲間の言葉を送るよ。『我等運命の反逆児。あらゆる定めに牙を剥き、爪を以って引き裂くだろう』ってね。これさ。キリエにばかり言わせておくのは勿体無いよね」

 キュルリ、と異音がなって、突然に吹き荒れた暴風に反射的に目を眇めた次の瞬間、アーヴァインの姿は会場から跡形もなく消え去っていた。

 だから彼は見逃した。
 マルクト帝国皇帝、ピオニー・ウパラ・マルクト9世と、マルクト軍第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐が、アーヴァインの呟いたキリエ、という呼称に古い記憶を刺激された瞬間を。















 レビテトを唱えた直後にエアロを唱えて地面をけり、自分が落ちてきた穴に一直線にのぼっていったアーヴァイン。
 人の視界は上下の動きには弱く、案の定会場の人間は上へ登ったアーヴァインの姿を見失った。

 我ながらせこい演出だね〜、とは思っているものの、あの密室ででこれ以上の演出は思い至らなかったアーヴァインだ。
 トルネドを使えばなおの事会議室を破壊しただろうし、ファイアを放てば燃える物は燃えるだろう。
 サンダーを落として落雷の瞬光が光る合間に消え去ろうかと思ったが、強力な電力でユリアシティの生命線を破壊してしまう可能性も捨てきれない。
 ブリザドなどはそれこそ使ってどうするといったものだし、ステータス変化系を除けば後つかえそうな魔法は貴重なものが多かった。
 ここは一つGFでも召還すれば、いいパフォーマンスにとも思いもしたが、それこそこの密室で、と言う話になる。

 上昇の勢いをなくした辺りで、壁にすがりつき、壁をけって三角跳びの要領で次々と上に上にと登っていく。

 墜落した屋根の上まで辿り着いて一息つけば、そこにはとり頭の名の如く彼を落としたことなど忘れてつがいで仲良く羽づくろいしているフレスベルクと、明らかに満足した表情を浮かべているフィールがいた。

「ずいぶん時間がかかったようですけど、何かしていたんですか?」
「まあね〜。なんかすっきりしちゃったよ。出来もしないのに理解のある大人のふりなんかするもんじゃないね。必要なときもあるけど今思えばあの時は必要だったと思えないしさ〜」

 すっきりした、と言いつつ次の瞬間には肩を落として溜息をつく。

「な〜んかさ。結局何しに行ったかって、ごちゃごちゃにかき回してきただけじゃないの〜、て気がするよ」
「もうなんだっていいです。とりあえずファブレ公爵には言いたいことを言ってすっきりできました。それに、アッシュが消えたときのあの顔、見ましたか?」
「……見てたけど」
「ざまあみろ、ってなもんですよ」

 こちらもこちらで煮え切らないファブレ公爵の態度に鬱憤を溜めていたらしいフィール。
 口も悪ければガラも悪いが弱いものいじめは良しとせず、懐に入れた者には外見からは想像もつかないほど、そう、意外なほど愛情深く一途で、律儀に真面目な性格をしており、どちらかと言えば弄られやすい性格をしているアッシュ。
 フィールも触れ合っているうちに気付いたのだろう。
 その根底にある渇望に。
 だからこそ、残酷な言葉を聞かせる前にアッシュを隠した。

「僕も人の親になったけどさ、まだ親ってなんなのか、分らないんだ」

 フレスベルクのたくましい首筋を撫でるアーヴァインの背中を、フィールはただ静かに見つめていた。
 そして次の言葉を待つ。

「……子どもができたとき、僕は嬉しかったんだ。親になれることが、本当にうれしかったんだよ、僕は――。どうして、どうして……!」

 歯を食いしばり、拳を握るアーヴァイン。
 強く握り締められた拳は、己の力に軋みを上げていた。

「絶対に味方になろうって思ったんだ。何があっても、最後まで味方でいてやれる人間なんて、親くらいじゃないか。だから、僕は、味方になりたかったんだ。子どもの頃の僕が感じたような寂しさは絶対に感じさせたくなかったんだ。……せめて、自分の子には」

 器用に喉を鳴らすフレスベルクの肩を優しくたたいて空を仰いだ。
 魔界の空に、太陽は無い。

「どうして実の親ってだけで、あんなにも子供の心を縛れるんだろう。実の親だからっていってさ、何か有るわけでも無いのにねぇ〜」

 知らないからこそ、幻想を抱いたこともある。
 はじめて我が子を抱いてから、その幻想を抱く暇も無いほどに忙しかった日々は、真実彼にとって幸せだった。

「僕は、一体何の幻想を抱いてるんだろう――」

 その呟きを聞かせたい相手は既にこの世にいないだろう。
 それはなんと言う皮肉だろうかと、フィールはかける言葉も無いままずっとその背を見守っていた。






「僕は、何の幻想を見ているんだろうね」









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