インディコブルー



「そう、そう……よく出来たね」

 僕はファブレ家の庭で銃の分解を追えたルークを褒めた。

「そうか」

 てれてそれだけ言うルークはかわいい。
 やっぱり子どもはかわいいのがいいね。
 シリアスな子供って見ててイライラしてくるし。
 理由は分っているけど。
 ある種自己嫌悪の一種だし。

 かわいい子どもっていうのは遠慮なくかわいがれる。
 頭をなでたり抱きしめたりしたときに幸せそうな表情をしてくれると僕だって嬉しいし幸せになれる。
 だから僕はてれるルークの頭を少し力強くなでた。
 乱れた髪もすぐに元に戻る。
 すごいスーパーストレートだ。

 ルークが嬉しそうにする顔を見て、僕も満足した。

 僕はルークに剣を教えない。
 代わりといっちゃなんだけど、ルークには銃を教えている。
 何処に移動するのにも周囲に護衛をいっぱいつけていられる身分だから、護身とかもあまり関係ないような気もするけど、何があるのか分らないのが人生、ってね。
 しかもとても物騒なこの世界なんだ。
 戦う手段の一つや二つ、持っていても悪くない。

 ルークは意欲が高いせいかとても飲み込みがはやった。
 これは教えるほうも教え甲斐がある生徒だね。

 さらさらの神髪から手を放すと、ルークは僕と分解した銃とを見比べていった。

「……まだ、だめか? アーヴァイン」
「だーめだよ。分解整備が完全に出来るようになってから、だからね。射撃訓練は」

 テレビやクーラー、冷蔵庫の仕組みなんて知らなくてもいいけど、武器ならそうはいかない。
 仕組みを知らずに使うのは自分自身を傷つける事もある。
 整備不良の銃は暴発を招く事もあるし、剣だってナイフだってそうだ。
 持ち方、構え方、振り回し方一つで傷付くのは自分自身だ。

 本格的に銃を教える前に銃がどんな武器なのか教えるために一度僕の監督の下射撃をさせたことがある。
 ルークが銃を打ったのはそれきりだ。
 ルークは早く使ってみたくてしょうがないらしい。

 分解、整備、まではほぼ完璧だけど、あとは組み立てがルークのネックになっている。
 これが出来なきゃ撃たせない、って言っているし、住は僕の監督か出なきゃまだ触れる事も許されていない。

「見てろ。もう一回やる」

 宣言すると、猛然とばらばらになった銃に組みかかるルーク。
 時間制限付だ。
 ダメだといわれて早や四度。
 けど彼は諦めずにそれを続けて体に仕組みを覚えこませる。

 いざと言うときに無意識に行動できるほど身に染み付いたなら、僕も多少は安心できるという物だった。
 しかもルークが使うのは実弾銃じゃなくて譜銃だ。
 僕は実弾銃ほど譜銃には精通していない。
 だからその不審もあわせて、より基準が厳しくなっているんだろう。

 僕はカウントをしながらルークの様子を見守る。
 その口調に多少からかいの響きがあるのは――致し方ない、と。
 だってルーク可愛いんだもん。

「残り十秒〜〜!」

 とか言って煽ると、くっ、って歯を噛み締めてさ、あせる自分を自制しようと努力したり。
 がんばれ〜〜って、応援したくなる。
 その様子を見てニヤニヤといかにも楽しいです、っていう顔で居る僕もどうかと思うけど。

「きゅう〜〜、は〜〜ち、なな〜〜」
「くっ、……数えるのが早くないか!」
「サービスしてるよ〜 これでも。ほら、無駄話してるし? 続き〜ろく!」

 ごー、よん、さん、にー、いち。

「ぜろ〜〜!」
「終わった!!」

 僕がカウントを終わるのとルークが組み立てを終わるのとはほぼ同時だった。
 僕とルークは見詰め合う。
 果たしてカウントが終了したという合図であるゼロ、はまだOKだよんな? とルークの目は聞いている。
 でもゼロって無いってことだよね?
 何もないからゼロだよね?
 ならゼロはもうだめだよね?

 僕とルークは見詰め合う。
 だめか?
 としたから見つめてくる眼差しには、期待が溢れていた。
 ああ、なんてキラキラした期待だろう。
 何て純粋な期待だろう。
 僕はこれを裏切るのか――。

「まだだめか? アーヴァイン……」

 僕が何時までも答えを出さないからだろう。
 諦めを悟ったルークが切なさと落胆を乗せた声で僕に確認を取る。
 うわー……。
 いいよね? ゼロカウントぐらいサービスしても。
 い、いいよね?
 僕がルークに示した基準って、ガーデンで銃器を教えるときの物より随分厳しいし……。

「う〜ん……、OK! 実弾訓練に入ってみようか」

 ああ、そうか。
 僕は負けたんだ、ルークに。

 ルークの純真さに――

 なんて。
 ルークじゃなくても覚えがありすぎるけどね〜。
 セフィにねだられるとだめだって決意していてもOKって言っちゃうし、自分の子供たちにもガーデンの子供たちにも弱かったな〜。
 孤児としてガーデンで引き取った子供たちっていうのは、いつでもある程度居るもんだけど、集団でわらわらとよってきてあそんで〜アーヴィン!って舌っ足らずに言われると、忙しくてもついふらふら〜っと……。

「本当か!」
「ほんとほんと」

 幸せに笑ってくれると、僕も幸せになれるんだ。




 譜銃の実弾訓練は順調に終わった。
 ルークのドキドキした緊張感が伝わってくる実にいい訓練だったよ。
 さすがに隅々まで構造を把握させただけあって、トラブルもなし。
 まあ、トラブルが起きるなら実戦のときよりも監督者が居る今のうちのほうがいいんだけどね。
 起きてみなきゃ対処を教えられないトラブルって言う物もあるし。
 マニュアルないしねぇ〜〜。

 無事に譜銃の訓練も終えて、これからは定期的に譜銃の訓練が生活に組み込まれることになった。
 今までとは違う、撃つ、発砲するという対象を傷つけることを目的とした訓練だ。
 僕も自分の銃の弾丸を節約するために譜銃を利用しているけど、あれを打ち出して鉄の弾丸が飛び出ないというのは僕に言わせれば何年経っても心もとない。
 念弾を飛ばすキリエの作る念具の銃もそうなんだけどさ。

 やっぱり銃器のプロとしては実弾射撃訓練もさせたいところだ。
 こっちでも面倒な事をすれば手に入らない事もないけど、どうせ実戦なら譜銃だろう。
 ということで、新しい実弾銃を手に入れるのはやめて、僕は久しぶりにエグゼターを人前に引っ張り出した。
 こういうものも世の中にはあるんだって知らせるためのデモンストレーションみたいな物だし。

 弾丸を抜いてまずは好きに触らせる。
 好奇心にキラキラと輝くルークの目。
 その後で一発だけ弾丸をこめて、撃たせて見る。

 僕の銃は衝撃の殺し方も知らない射撃の素人がが使うには向いていないけど、速射弾程度なら何とかなるだろうと装填する。
 速射性能を重視した弾丸は、反動は通常弾より低い。
 破壊弾や徹甲弾を撃たせたら、今のルークなら確実に両腕が使い物にならなくなるだろう。
 波動弾なら言わずもがな。
 命が無い。

 とりあえずいつものように試射をして確かめた。
 ルークに危ない物は持たせられないからね。
 エグゼターは何の問題もなく、的の真ん中を射抜いていった。

「さあルーク。的はあっちだよ。持ち上げて、撃ってごらん」

 と、僕は促した。

 無言で頷いて、テーブルの上に置かれている銃に手を伸ばすルーク。
 きちんと落とさないように両手を添えて――動かなくなった。
 なんで?

「どーしたの?」
「……重い」
「ああ!」

 納得した僕にルークはとても悔しそうにエグゼターをにらみつけた。
 これは誤算だった。
 というかもっとよく考えれば分っただろうに僕のバカ。
 まだ小さなルークには、エグゼターは重過ぎる。

 どうしよう。
 そう考えて、僕はエグゼターを持ち上げてルークの後ろに回った。
 ルークを前に抱き込むようにして、彼の前にエグゼターを差し出す。

「僕が手を添えているから、ほら」
「わかった」

 僕の大きな手にルークの小さな手が重ねられる。
 そして僕は銃身を支えながらその小さな手に居場所を譲った。

「的は、あっち。いいね? 当たっても外れてもいいから、今は実感してごごらん」
「ああ」

 言葉少ななのは興奮しているからだろう。
 近づくとよく分る。
 ルークの鼓動が早くなっているのが。

 的を狙い――
 姿勢を正し――
 神経を集中し――
 今は、周囲の音は要らない――

 発砲音は意外と静かな物だった。
 だからこそ、驚いた。

 僕じゃなくて、ルークが。

 横顔でも分る驚愕に大きく開いた翡翠の目。
 ああ、凄くビックリしてる。
 言葉もないってこういうのを言うのかな。
 まさに唖然、って感じだ。
 開いたままの口がパクパクしている。

 うわ……やっちゃたよ。
 どーしよ、これ。

「あ、アーヴァイン?」

 ルークがやっと言葉を取り戻したみたいだったけど、今言葉をなくしているのは僕だった。
 問われているのは分る。
 けど何て答えればいいのさ。

 目の前で、からりとまた一つ瓦礫が散った。

「あー……どーしよ。誤魔化すのは幾らなんでも無理だよね〜」
「俺も無理、だと思うぞ」
「やっぱり?」

 やっぱり無理か。
 分っていたけど。

 目の前には大きく崩れた庭の壁。
 と言うか塀。
 人の四・五人横に並んでもまだ余裕がありそうって言うか……。
 地面も抉っちゃったし〜〜。

「凄いな。アーヴァインはいつもこんな銃を使っていたのか。……譜銃がまるでおもちゃだな。大型の譜業え攻撃したみたいだ」
「いや、むしろ今日が特別って言うか〜〜」

 集中しすぎて忘れただけだよルーク。
 そんなに尊敬の目で見ないでくれってば。心苦しすぎるからさ。
 ほんと、失態中の失態だよ? これ。
 無意識に弾丸にオーラをのせていたのに気が付かなかったなんて。

「ごまかせ、ないよね〜」
「無理だな」

 塀の向こうは崖だった。
 人が居ないのは幸いだっただろう。そう思うことにする。
 欠片は粉みじんの粉塵だ。
 下の事は問題ではない。

「しかたないな〜」

 あ〜あ、と肩を落とす僕を、ルークが申し訳なさそうに見ていた。
 助けになれない自分が悔しい、ってさ。目で語っている。
 ファブレ公爵が自分の言う事を聞いてくれるとは思っていないようだった。
 無力を噛み締める子供――ダメだよ、そんなの。
 キミはもっと、天真爛漫に笑っていていいんだからさ。

 気持ちだけでいいよ。
 ありがとう。

「さ〜て。仕方ないから給料から差っ引かれにいってくるよ〜〜」

 僕はせいぜい明るく取り繕って屋敷の中に入っていった。
 ルークにあの目をやめさせられない自分も、悔しかった。









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