カーマイン



「うっ……くぅ」
「ルーク? ……ルーク! どうしたんだい、大丈夫かい」

 本を読んでいた不器用な賢さを見せる子供が、突然頭を抱えてうずくまった。
 突然の頭痛の原因は脳内出血だっけ? ああ、でも急性緑内障でも酷い頭痛がするって……。
 薬、薬何処だったっけ?

 とりあえずの手段で子供の背中を撫で付けていると、しばらくしてそっとその手が押しやられた。

「大丈夫……だ」
「僕にはとてもそうは見えないけど?」
「……時々あるんだ。軽い頭痛と共に幻聴が聞こえる」
「軽いだって!? 頭を抱えてうずくまるほど痛んでるんじゃないか!」
「いつもはこうじゃない! 蹲るほど痛むのは……初めてだ」

 強い口調には、あせりも混じっていた。

「いつもって、いつもこんなものを我慢していたのかい?」
「普段は本当に痛みといってもたいした事はないんだ。……父上には、黙っていてくれないか」
「しょうがないね。本当にさっきみたいに我慢できなかったっら、言うんだよ?」
「……わかった」

 しぶしぶでも頷かせることが出来たからよしとしようと思う。
 頑固だけど根は律儀な子供だから。

「それで、幻聴は君になんていうんだい?」
「……信じるのか? おまえは……変な目で見ないん、だな」

 それで納得いった。
 昔、まだ理解していなかった頃には幻聴があることを誰かに言った事が有るんだろう。
 多分父親に。
 その時に、ありえる筈の無いものを聞く息子に対して、それを否定する言葉か何か辛らつな物言いでもしたんじゃないかな。
 で、敏い子供はそれ以来それを隠すようになった、と。

「ルークと一緒にいればよくわかるよ。君は、虚言をするような子供じゃない。それに、幻聴は聞いているかもしれないけど、それが心因性の病から来るようなほど心身を患っているようには見えない。だったら、本当に聞こえているんだろう?」

 慢性的にどこか狂っているといえばそうだけど、幻聴や幻視に救いを求めては居ない。
 頭痛との関連性からも、恐らく本当に何かを聞いているんだと思う。
 自分の体の中に居るものか、外から電波を受信しているのかはわからないけど。
 自分以外の存在を感じて、意思に介入してくる、といえば、エルお姉ちゃんのジャンクションだって同じようなものだ。
 僕たちがラグナたちにジャンクションしていた時、ラクナ達はジャンクションしていた僕たちを妖精さん、って呼んで捕らえて存在を認識していたし、強く思ったことには返事まで返してくれたりした。
 ラグナは無意識の産物だろうけど、傍から見れば独り言、十分に何かを受信している人で、実際受信していた人だ。

「……声が、聞こえるんだ」
「なんて言ってるんだい?」
「我が、半身よ、答えよ、って」

 ふむ、と僕は唸った。
 ルークを半身と呼ぶ存在。
 双子なんて居ないし、とすれば、あれかな、と思うものはある。

「答えたこと、あるのかい?」
「ある」
「それで?」
「……通じない」

 答えよ、なんて言っている割に、通信は一方的って事か。
 まったく、不備が目立つね〜。

「ルークは、それが何だか知ってるかい?」
「いや」
「多分、ローレライ、って奴だと思う」
「ローレライ?」
「未確認の第七音素意識集合体、って言われているね」
「そんな物がか?」
「……いい、ルーク。これは、秘密だよ?」

 顔を近づけて唇に指を当てて秘密だと示せば、子どもは好奇心を隠したつもりでうんと頷く。
 やっぱり子どもなんだな、と安心させてくれるその動作の一つは、僕を安心させるものでもあった。
 この年頃の子どもは、二人だけの秘密、とかそういう秘密の共有をとても大事にする。
 まるで宝物のようにこころの中に抱きこもうとする。
 時には裏切られたり、何かの拍子に自分が喋ってしまって後ろめたい気持ちを味わったり、それがばれて咎められて友達を失ったり。
 まあ、色々するはずなんだろうけど、この子どもにこの環境ではそれは望めない。
 律儀な子どもだし、僕はもういい年だし分別なく喋ったりしないし、この子どもと交わした秘密はひっそりと抱かれていくんだろう。

「ND2000ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。そは、王族に連なる赤い髪の男児なり、だったかな。多分、君の事を詠んだ預言だと思う」
「……俺は知らないぞ」
「そうだねぇ。伏せられてるんだと思う、まだ。確か、ユリアの読んだ譜石の六番目、だったような気がするよ」
「……秘預言」
「だろうね。時が来れば明かされる、と思う。でさ、これに読まれていたローレライの力を継ぐ、って所がポイントかな。多分、君に話しかけているのはローレライだと思うよ」
「はあ? 未確認の音素……意識集合体がか」
「たぶんね〜」
「はっきりしないな」
「なんと言っても未確認だし。よし。じゃあこれから、その声をローレライ通信って呼ぶことにしよう」

 言った僕には呆れた眼差しが返された。

 結局、その名前じゃ対外的には口に出せないと言うことでローレライとチャネリング(Loreleyとchanneling)(と言うには一方的だけど)と言うことで、頭文字をとってLCと呼ぶことにした。僕はN通が良かったんだけど。

 実は結構な頻度で起きているらしいLC。
 ルークは見事に隠し通していた。
 実際、あのときほどの頭痛と言うのはないらしい。
 あの時が稀と言えば稀だったんだろう。

 LCに対して僕と言う理解者が出来て、その上かなり一方的に押し付けられる電波であるせいか、苛立ったルークは時々通信に対して聞こえていないとわかった上でも悪態を付くようになった。
 その、まあ貴族のお坊ちゃまが使うにはふさわしくない言葉の発信源は――まあ、僕かな?


 もう少し言葉には気を付けよ〜っと。









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