アイボリー



 僕とルークの、始めは一方的に始まった共同生活もどきは、なかなか友好的に進んでいると思う。
 少なくとも、ただの空気、じゃなくなったし、でかい置物、でもなくなったと思う。

 これって進歩だよね?

 結構色々聞いてくれるようになったし。
 最近の日課は地図を開いてはあそこはどうだった、ここはどうだったってここに来る前の各地の様子を説明すること、かな。
 結構気に入ってくれていると思う。
 相変わらず、なんと言うか、親子仲はいいとは言えないけど。
 親子の絆は大きいけど、絶対じゃないって僕は知っている。

「なあ、アーヴァイン。ここはどういうところなんだ?」
「ああ、ベルケントか。う〜ん、なんていうのかなぁ」
「……そんなに説明するのが難しいのか?」
「ファブレ公爵の直轄地だよね。音機関都市で名を売ってるけど、僕は音素には造詣が深くないからね〜。行って見たけど実はあんまり楽しくなかったからさ。よく憶えてないって言うか……」
「楽しくないって……」
「イメージとしては……グルグル?」
「ぐるぐる? なんだそれは」
「何か回ってるな〜、って。ああ、でもそういえば」
「なんだ。何かあるのか」

 呆れたような溜息をつきかけたルーク。
 まあ、我ながら酷い感想だとは思ったけど、正直な話いい印象のない町だったし。

「ホド戦争があっただろう?」
「……そうだな」

 返事の前に沈黙を置いた子供の頭をかき回す。
 最近はあまり嫌がらなくなってくれた。
 実は諦めだったりするのかもしれないけど、構わない。
 小さい頃は一杯撫でられて大きくなりなよ。人からいーっぱい優しさを貰えば、きっと優しくなれる。
 悲しみを知って人にやさしくなれるより、優しさを受ける喜びを知って、人にやさしくなれる方がいい。

「戦争は譜業とか、いっぱい使うだろう? その受注で活気づいていたな〜って」
「だがホド戦争は一応の終結を迎えただろう?」
「シェリダンもそうだけどさ、戦争って色々なものを壊すじゃないか。人を殺す譜業だけじゃない。積み上げてきた文化も命も殺す。だからまあ、当分は復興期で戦争経済って言うか、あー……」
「どうした」
「いや、だから嫌だったのかなぁって、思った」
「はぁ?」

 訳がわからないぞと首をかしげるルーク。
 でもそれでいい。
 僕たちは力を持ちすぎたから、自分たちに魔女の関わらない戦争への介入を封じた。
 僕たちの力はどちらか一方に勝利をもたらすか、分散すればただの泥沼を呼ぶ。
 魔物に襲われている一般人は助けるし、戦争の被害を受けた一般人も助ける事ができる。
 けど、その人間が軍服を着ていたら、ただ命が損なわれるのを見ているしかない。
 悲しいような切ないような、自己嫌悪のような感情にやっと気が付いたことで少しすっきりした。
 まったく知人なんていない異世界に跳んで来たけど、気が付けばもう人間関係を作っているんだって、思い知った。
 僕は一時期マルクトの軍にいた。
 シェリダン、ベルケントで作られる譜業が、あの日の同僚を殺すのかもしれないって、そう思って嫌だったんだ。

 気が付けば簡単なことで、こんな思いは元の世界ででも感じていた。
 世界を超えてまで見たくないって思いが僕の目をくらませたんだろう。

 僕は苦笑を浮かべてると、ルークの肩に手を置いて机に促した。

「気にしな〜い。それよりルーク。昨日の家庭教師からの宿題、判らない所があるって言っていただろう? あれをさっさと終わらせちゃおうよ。そしたら、終わる頃にはおやつの時間だ」
「……誤魔化されてやる。今日はなんだ?」

 子供とは思えない発言だけど、子供が精一杯背伸びをしているのがわかるからもうかわいいよね〜。
 でもせめてそういう台詞は15才を過ぎた辺りからの方が似合うと思うよ?と言う言葉は言わずに置いた。
 だってかわいいし。言った本人が後から照れるって言うのはねぇ〜?

「アーヴァイン特製、カスタードプディングだよ。今日の卵は新鮮だったからね〜」

 わかった、と頷いた子供が座る椅子の横に立ち、宿題を広げるのを後ろから見る。
 ゆっくりとした日常とかわいい子供。



 世界は荒れているけど、日々はこんなにもいとおしい。









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