|
獣王無尽
|
|
正直な話、僕は六神将と人括りにされている中ではかなりのあぶれ者だ。 古参であるのは間違いないんだけど、この地位はヴァンが僕を自分の手元に置くために与えたもので、あいつの同士としてのものじゃない。 対してほかの六神将は、多かれ少なかれヴァンに賛同し、協賛し、まあ場合によっては心酔している。 僕の力と、まあ人格? が周囲に与える影響をヴァンはかなり気にしているようでさ。 僕なんかたいした事無いのにね〜。 何よりも大切な誓約の子供を、奪われたまま一年も見つけ出せないくらいには、さ。 まあ、そんなあぶれものの僕でも、他の同僚、って言うんだろうね。 六神将と顔を合わせる事は結構ある。 ヴァンにとって僕は厄介な種だろうけど、排除できないならせいぜい使ってやろうって魂胆も見え見えだしね〜。 六神将は、他の六神将の過去を知らなくていい、って言うのが、了解としてあるみたいだけど――これが無かったら、アッシュとか、まあヴァンとか? 結構大変だよね。 アッシュはキムラスカ貴族の一人だし、ヴァンに至っては剣の指南役として入り浸っている家が仇の家って事になるし。 それでも、気が付く人は気が付いているし、見ない振りをしている人は見ない振りをしている。 僕も、六神将の経歴は一応知っているし。 例えば、リグレットとラルゴの本名とか、まあディストについても。 その目的とかもね。 大体執務室は隅から隅まで調べたし、機会があれば行動を追跡したし。 リグレットにせよラルゴにせよ、ああいう人たちって、周囲に人が居ないと思うと不意に独り言とか洩らしたりするんだよね。 決意を硬めなおすため、とか、まあ色々理由はあるんだろうけど。 戦士として熟練してしまったのも仇になっているんだろうね〜。 普通の感知範囲には僕は居ないし、遠くからでも音は拾える。 特にリグレットとラルゴがであったときには、結構有意義な情報が聞けたし。 ディストは駄目だね。 先生馬鹿だから。 ジェイド馬鹿、ともいえるけど、その結果を求めるための過程として現在は先生馬鹿。 レプリカに、影武者ではなく本物である事を求めると言うのなら、彼のレプリカが作られたらどうするんだろう。 自分の代わりにレプリカが自分の名で呼ばれて、心酔、しているのかな? 嘗て上司になり損ねたジェイド・カーティスに。 それでさ、「私にはサフィールが居ますから、こっちのサフィールはいりませんね」とか。 あの人はそういうことも言いかねないような気がするな〜。 ディストと言えばフォミニンが取れるっていう鉱石を採取できる洞窟であるワイヨン鏡窟。 ワイヨン。 サフィール・ワイヨン・ネイス。 短絡的で、悪趣味なネーミングセンスだ。 彼、自分で作った譜業にも自分お名前つけているしね。 絶対に遊ばれる気質だと思ったね〜。 さすが、個人の名前をつけているだけあってそれなりに研究設備はあったけど、どっちかって言うとフォミニンの採取がメインなんだろうね。 たいした設備はなかった。 現在のところメインで使っている、って感じじゃないなぁ。 最近、預言の時が近くなったせいか、彼らの活動は結構活発だ。 もし今行ったら、前とは違うかもしれない。 それにワイヨン鏡窟と言えば、フォミニンを採取できる鉱物――名前忘れたけど、それはリノアを解放するための力の器、あるいはそれに加工できる何かの候補にならないかと考えている。 可能性、を見つけ出せただけでも有意義だったとは思うけど。 キリエが居ないとほんとに不便だ。 ポーチも使えない。 その中身も使えない。 空飛ぶ絨毯も使えない。 小回りが利く凄く便利な移動手段だったのにね〜。 バハムートはあんまり長時間顕現できないし、さすがに乗り物なしじゃ大海原は渡れない。 GF乗り物に出来るのなんてスコールぐらいのものだよ。 まあ、そのスコールにしたところで大陸はめったに渡らないけど。 移動の範囲が限られるのって、今までが開放的過ぎた反動かな、凄いストレスだよ。 この世界、自転車ないし、スクーターもないし、バイクもないし車も無い。 Tボードもない。 さすがにガーデン内部じゃ禁止されているけど、バラム近郊を探索するときにはあれは結構便利だった。 国境を跨いで作れ、とは言わないけど、鉄道くらい作ったらどうなんだろう。 そうすればもう少し安全に旅が出来るのにね〜。 輸送が簡単になれば、遠方でも今よりは新鮮な野菜が手に入るようになるし。 飛行系の乗り物が無いのは、まあ諦めるけど。 結構とんでもない感じの陸艦とかは製造されているのに、技術の民間へ転化のないというか少ないと言うか。 それに僕、フォミクリーに関してはホンットウに何時までたっても詳しくなれないんだよね。 譜術だって理論じゃなくて体感で使っているし。 僕の理解力は悪くない方だと思っていたんだけどね〜。 馴染みがないって以上に音素は謎だよ。 調べれば調べるほど判らなくなっていく。 理屈は一通り頭に叩き込んだけど、音素って元の世界に帰ったら使えないよね〜、って思うと真剣実も減るというかなんと言うか……。 判らないことは、心にとどめておいてもその場で悩んだってしょうがない。 ずっとずっと関わっていくうちに、あるときハッと気が付くんだよ。 今まで読めなかった異国の文字が読めたり、解けなかった数学の問題が解けたりとか。 きっとそんな風に判るときにはわかると思っている。 ディストの事はもういいや。 ラルゴにリグレットにディスト。僕とアッシュで六神将が五人。 そして最後の一人は、ピンク色の髪をした魔物と心を通わせる少女だった。 今問題にしたいのは、この子かな。 有名無実に等しい六神将の会議で、いきなり新しい六神将だって言って引き合わされた子どもだった。 まあ、ダアトでの一般的な活動については話題にもなるけど、そんなものほんのちょびっとだ。 後は僕には聞かせられない秘密の話、って奴だろうし。 さすがにこれだけの手錬が揃ったところには忍び込めないんだよね〜。 盗聴器も無いしね。 そういえば、イオンの導師守護役に魔物を従える子が居たな、って思い出す。 イオンの一番のお気に入り。 以前イオンに会った時に、その名前を引き合いに出した事がある。 きっとこの子と同一人物のはずだ。 確か、八歳か九歳か、その辺りまではライガと言う魔物に育てられた子供、らしい。 僕が昔読んだ本にも、魔物――じゃなくて、狼に育てられた少女の話があった。 その子供が狼の元で育っていたのも、この少女と変らない年齢くらいだったような気がする。 結局、その少女はあまり長生きできなかった筈だった。 しかも、立って、歩く事を覚えはしたけど、生涯淑やかに歩くことも、闊達に走る事もできなかったって言う。 人としての情緒面の発達も遅く、言葉だって彼女ほどには喋れなかったはずだ。 この彼女も、移動のほとんどは魔物に乗っての移動だし、自分の足で歩いているところを見た事が無いなぁ、って思うけど、ちょっと悪いかな〜、と思いつつもじっくり観察させてもらえば、足の筋肉の付き方や重心バランスは二足歩行の人間のものに限りなく近い。 リハビリ、頑張ったんだろうね〜。 本の中の少女と比較すれば、彼女はすばらしい成長を遂げた、のかな〜? イオンを思うが故の愛だったりしたら、凄いよね〜。 イオンの導師守護役だった少女。 解任されて六陣将に来たと言うことは――。 つまり、やっぱりイオンは死んだんだろう。 あるいは死に近づきすぎたために、既に身代わりを立てられたか。 そしてその事実に気が付きそうな人達は解雇された、と。 いや、まあ他の人たちも他の師団に組み込まれているんだろうけど、導師に近いところからは遠ざけられた、ってことか。 火山で捨てられそうになっていた導師のレプリカは五人。 少なくともあともう一人はいるだろう。 導師になるレプリカが。 これで作られたのは六人。 あと一人くらいは予備として、殺さずにどこかに監禁している可能性もあるけど。 僕が火山で拾えたのは三人。 一人は手の中で燃え尽きて、一人はもともと体力が少ない上に導師候補から外された時点からの環境により更に体力を減らして居ただろう。 そこに火山の熱が祟った。 念薬を含ませるのも間に合わなかった。 導師守護役が一度全て解任されたのは一月くらい前だった気がするけどまだ辛うじて息はつないでいるのか、それとももう逝ってしまったのか。 僕にはわからなかった。 今日が顔合わせになる第三師団師団長。 と言っても第三師団は20人。 僕たちの特務師団一つより少ないけど。 この辺になんか、権力者のオーボーが窺えるような……。 ヴァンとしては魔物と意思を疎通する能力を買ったというところだろう。 いちいち深く引き入れるつもりなら、身辺調査から思想調査まで面倒くさい人間と違って、魔物ならアリエッタさえ引き入れる事ができればいくらでも使える。 アリエッタの事を拾ってきたのはヴァンだと言うし、イオンについて何かしら言って置けば、いいように使うのは簡単だろう。 生まれは確か、フェレス島? 師団員である人間の二十人は、ほとんどアリエッタの監視か世話係りに等しいだろう。 人の師団ではなく魔物の師団。 言葉は喋れるようだけど、イコールで文字もかけるかといえば多分無理だろうし、書類製作なんかは恐らく彼女には出来ないだろう。 というか、何でだろうね。 彼女、さっきからなんだか怯えている風に人形を抱きしめて震えているんだけど、その対象が僕のような気がするんだよね〜。 集まっているほかの六神将たちも首を傾げるしかないみたいだった。 アッシュもヴァンもリグレットも。 どうした、としか聞けないよね。 本当に何がなんだかわからないし。 僕だって初対面の人間にいきなりこんなに怯えられたのは初めてだから。 子どもはずっとうつむいて震えている。 近づこうとすればビクッと震えるものだから、近づくのも躊躇われる。 なんでだろう? と思って、ハッと気が付いた。 頭の中で何かが笑っている。 あんまり密やかで、いつもGF達をジャンクションしているときと変わらない程度だったから気にしてなかったけど、そういえばなんか変だった。 気がついてみれば溜息をつくしかなかった。 その子どもは、人の中に帰ってきて誰よりも獣に近いのだ。 僕のことを迂闊だったとはあまり思わないけど。 野生の獣ですら気が付かないことを、この子どもは気が付いたのだ。 「バハムートかな、それともリヴァイアサンかな」 尋ねれば涙の浮かんだ上目遣いで見上げられた。 ……なんていうか、ちょっとセルフィに罪悪感を抱いてしまった僕。 あんまりこういった風に涙は浮かべないけど、この上目遣い具合がセルフィに似ているような……。 あー……、ゴメン。 GFたちにたしなめられると、なんだか人間として情けなくなってくるような気がした。 普通どんな魔物でも自然に存在するGFに喧嘩を売る馬鹿は居ない。 けど、一度人の力となったら話は別だ。 獣は特殊なことをしない限り人の中のGFの気配を感じられない。 それを、この子どもが感じているのだとすれば、それは凄いことだ。 人では尚更感じられず、獣ですら見逃す気配を感じ取る子ども。 本来ならありえないことだから僕は僕を迂闊だったとは思わないし、知っていても避けられないことだっただろう。 さて、獣の子を脅せるGFと言えば、さっき呟いた二つのどちらか。 あるいは両方かな。 どちらも獣達の王の名を冠するGFで、その名による存在に偽りの無い力を持っている。 人の中にあってなお、自分たちの存在を感じ取る娘を見つけて面白がってからかった、そんなところかな。 彼女は人のところに帰ってきたけど、まだ獣と心を通わせている少女だ。 執着を置く人間なんてほんの僅かで、心の大半は獣たちのところにおいてきている。 なら、獣達の王と言う存在を象った者たちに恐怖や畏怖を覚えるのも、当たり前なのかもしれない。 結局僕はどこまで行っても人だから、推測しか出来ないけどね。 でも人と一緒に居ることで人の感情を学びつつあるGFってけっこう性質が悪いかも。 何時までも怯えられていても仕方が無いので近づいてみた。 一歩進めば二歩下がる。 ま、足の長さが違うし、アリエッタの二歩で大体僕の一歩分? アリエッタは歩きなれていないし、室内も異様に広いら歩幅を狭める必要性を感じないし。 いや、でも後ろに退くのは尚更やりにくいのか転びかけてライガに支えられて、僕が脅されてるし。 ライガって家族思いだねぇ。 そのライガをアリエッタが怖がってたしなめている。 いやさ〜、べつにちょっと唸られたぐらいで片っ端から倒したりしないよ? アリエッタの家族なんだしさ。 どうしようかと思って途方にくれて額に手を押し当てたら、アッシュに笑われた。 アッシュはGFの存在を知っているから、なんとなく理由がわかったんだろう。 初めて見せたのは誘拐された後だったかな。 見上げてぽかんと口を開けたアッシュの顔! そういう珍しい表情を見れただけでも召還した甲斐があったって思ったね。 とりあえず、今はアリエッタのことをどうにかしなきゃいけない。 人間なら人間らしい方法で。 人間らしい……説得、かな。 近づかせてくれないし、近づいてもこれ以上怯えさせるのはかわいそうだからそのままの位置で言ってみた。 なんていうか、本当に小動物だしね。 小動物といえばセルフィを思い出すんだよ〜。 「あ〜、ん〜」 何を言えばいいんだろう。 いや、それより先にGF達をたしなめるべき? 小さな子ども脅かして遊んでるんじゃないよ、って。 うん、そう。 なんていうか、心持寂しいどころかこうまで怯えられるとむしろ僕が泣きそうだった。 僕が自分の頭の中身と無言の会話をしていると、ふとアリエッタが顔を上げた。 タイミング的には僕がGFたちと喧々囂々と一通り繰り広げた脳内喧嘩が終わったタイミングとバッチリ合う。 これは効果ありだったかと期待して小さく一歩近づくと、緊張にごくりと喉を鳴らしたけど、人形を持つ手は尚更力を篭めたけど! とりあえず引かれる事は無かった。 「とりあえずさ、危害を加えないなら攻撃しないから、そんなに怯えないでよ〜」 二秒待ってようやく小さくうなづいてくれた。 「え〜っと、敵じゃないなら、敵にならないから、ね?」 言葉を砕いて判りやすくしたつもりだったけど実際どうなんだろうかって言ってから思った。 二秒待って五秒待って、もう一度言い方を変えようかな、って思ったところ、十秒後にやっとまた頷いてくれた。 ああ、もうどうにでもなれ! って僕は思った。 少し席を離して会議は終えて、会議室を出ればライガに乗ったアリエッタが何故だか知らないけど付いてきた。 まあ、アリエッタの歩く速度じゃ僕に追いつけないだろうけど、ほら、ここ教団の一般通路だし、参拝者が怯えてるしさ。 そこで立ち止まっても迷惑だから、ちょっと道を変えて教団の奥、普通は一般人の入ってこない通路に入って振り返った。 「どうしたんだい?」 と声を掛けても、もう震えては居ないけど返事も返ってこない。 「えと……あの……」 やっと返ってきた言葉も要領は得ない。 ライガが何かいっているけど、僕には獣と心を通わせるスキルは無い。 いや、GFたち辺りなら理解できるかもしれないけど、どうだろう? だから少し考えてみた。 ライガに育てられた子ども。 ライガの生態系。 強大なメスを中心に群れを作って行動する。 つまり基本的に集団で生きる生物。 ……僕、子ども産めないけど。 ああ、でも僕自身じゃなくて僕の中に居る存在に対してなら間違いでもないかも。 人の心は導師に。 獣の心は野生の従うままに力持つものに。 ライガはメス中心社会だけど、時々新しい血を招くために外部の放浪ライガを招き入れる。 そして群のライガが群のリーダーであるメスに従うのは、それが力を持つものだからだ。 ライガは、オスはもちろん遺伝的に体のサイズの限界が決まっているし、雌だって群のリーダーとならないとあそこまで大きく偉大にはならない。 それは庇護を与えるものの事だ。 「とりあえず、裏庭にいかないかい?」 ここではライガが目立ちすぎる。 それが僕の妥協点。 そして今度は会議中と違って、すぐに返事を貰うことができた。 あとがき ライガライガーのライガ。 獣と心を通わせる少女アリエッタ! やっぱり野生児なら、ボスを見極めるような気がする……。 |