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不器用な子供たちに、独善的な愛の手を
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今日も平穏な一日の始まりだ!! って、むなしいね〜、こういうのって。 実は昨日の日記の一文だけど。 平穏すぎるのがいけないんだよ。 もしかすると嵐の前の静けさっていうのかも知れないけど。 あの小生意気な少年にあったのももう遠い昔のようだ。 気分的にね。 アッシュが居ないから考える余裕って奴が生まれちゃったんだよね。 子育てが終わった直後の主婦みたいだな〜、って思うけど、あながち間違いじゃないような気もする。 ダアトのマッピングも終わっちゃったし。 しかし、ダアトって改めてみるとよくよく不思議な建築物だ。 僕の念の応用技、気配を掴むための円は、ちょっと特殊で、オーラを這わせればあらゆるものの輪郭を事細かに掴み取る。 それも駆使してダアトを読み取り続けて、謎が増えたのは一度や二度じゃない。 モースもヴァンも、イオンも知らないだろう場所がたくさんあった。 建築当初のマップと、このダアトの基礎部分を比較してみても、差異があった。 それは間違っている、訳じゃなくて最初から知らされない部屋としてマップ上からも隠されていたんだろう。 何のために作ったんだろう? 全然訳がわからないけど、その一部は便利に使わせてもらっている。 アッシュが十五歳になった。 そして、一つの師団を与えられた。 といっても、僕が使っていた特務師団をそのまま引き継いだだけ何だけどね。 引き継いだ師団が特務師団だから、自動的にアッシュも特務師団。 まあ、ヴァンもアッシュに数千人単位の師団を与える気は無い様に見えたから、自分が育てた師団を与えられただけでも御の字かな。 まあ実際脅したけどね。 脅しはしたけど、これは自分でも驚くほど上手く行った事のひとつだった。 アッシュに、アッシュのために育てたアッシュの盾となり剣となる――兵士にして騎士の心を持つ者たち。 僕は――僕たちは一つの未来を求める過程でとてもとても強くなった。 けど、神様じゃないんだから何でも出来るわけじゃない。 肝心の目的は、望む未来は、これだけ強くなってもまだ手に入らない。 覇者と呼ばれ、化け物と呼ばれ、異能を忌まれ、時にはこっちの人間性を無視して奉られて。 アッシュはダアトでも陽だまりを、安らげる居場所を見つける事ができたと言った。 世界を超えて人と関わっても、いつもこういういい結果が得られるわけじゃない。 だから、アッシュのその言葉は僕にとっては殊更に、うれしいものだった。 努力が報われる、行動が受け入れられる。 それは、何時までたってもうれしいし、拒絶されれば、報われなければ、それは何時までたったって悲しい。 実際、イオンに向けた僕の心、つまり行動は、切り捨てられたんだろう。 二兎を追うもの一兎も得ず、とは言うから、今深追いはしないけど、誰よりも未来が与えられるべき存在が未来を拒むというのは、切ない。 傍から見れば、多分報われない努力って奴を続けているから、尚更なんだろうね。 アッシュは特務師団長就任と同時に六神将に名を連ねた。 もともと二つ名は持っていたけど。 二つ名は、仲間内にとっては名誉なものだけど、敵からすれば忌み名に等しい。 そんなもの持たずに居られればそれに越した事はないと思いこそすれ、この場所で生きる事にそれを持つことの利を思えば。 否定も出来ない。 それを切っ掛けに、僕はアッシュを放任主義で育てる事にした。 たいしてなにが違うわけでもないけど。 稽古をねだられれば稽古をつけるし、食事だって一緒にとってる。 まあ、責任ある立場について、一緒に居る時間が減ったこともあるけど。 もう、ただの幼い子供じゃない。 教えられる剣を自分流に変えて行き、今ではいっぱしの、いや、一流の剣士だ。 アルバート流の流れを汲む新しい流派を作り出したと言ってもいいだろう。 毒無効化のピアスをつけたアッシュにはそもそも毒物は効かないし、身体的にもそこそこ、とは言わない。 何かあってもやすやす言う事を聞かせられない程度には力をつけた。 周囲というものと比べればずっと強い。 とんでもなく強い。 だから、きっと可笑しいのは僕の価値基準だろう。 それでもやっぱりそこそこなのだ。 はっきり言って、もうアッシュが王位を継ぐかどうかはわからない。 たびたび様子を見に行く限りじゃ、レプリカとナタリアの関係はまったく以って深まる様子は見受けられない。 けどまあ、婚約者、と言う事は、将来何事もなければ嫌でも結婚する事になるんだろう。 何事も、無ければ。 良き為政者であれば有るほど、清廉潔白ではいられない。 民にそういう所を見せてもならない。 清濁併せ呑む。 いや、アッシュがこの先、王位を継がずとも、政治に関わるのなら、清よりより多くの泥を飲まなければならないだろう。 レプリカを憂う心は大切なものだけど、確かにアッシュの進退をややこしくしているのもレプリカだった。 一般的に、僕が知る他の世界での話しだ。 そういう世界にアッシュの状況を当てはめれば、鮮血のアッシュであることはアッシュの政治生命にとって決定的な汚点となる。 この先ヴァンが何かやらかせば、ヴァン子飼いの六神将として活動した事は事実として残り、アッシュの進退を狭めるだろう。 今はいい。 ダアトにおいても、一般兵からの将としての人気は高く、キムラスカはともかくとして、マルクトがアッシュに対する印象は一般兵から順にとてもいい。 それはマルクトに就職――いやいや、潜入しているフィールからの話で恐らく確かだ。 ガーデンで習った戦術と指揮を叩き込んだアッシュは、指揮官としての才も発揮している。 ロニール雪山での合同魔物討伐に出て、本命の魔物と盗賊がダブった時は、アッシュにはまだ早いかとも思ったけど師団を預ければ見事盗賊を退けて見せた。 貴族の別荘地であるケテルブルク近郊。 ロニール雪山の魔物にもめげずにそっちの方にアジトを持ち、緊迫した状況でも懲りもせずにケテルブルクに豪遊しにくる貴族の荷物を狙う。 戦時中にならず者が増えるのは何処でもそうだけど、こんなところで貴族相手に盗賊行為を仕掛けるだけあってなかなかの実力者ぞろいの盗賊団だった。 それを退けた事はアッシュの自信につながった。 まだまだ僕に用意された場所だけでの事だけど、これから独自に師団を持てば、その機会も増えるだろう。 マルクト軍との合同演習でもそれは発揮していて、自身も戦う者としての実力をめきめきと伸ばしているアッシュは部下を大切にする将としても人気が高い。 究極的に兵士とは、駒であり数字でしかなくなる。 特務師団、というごく少人数の師団を持つ僕やアッシュならともかく、普通に千人単位の師団を率いる将なら、特にその傾向は顕著だろう。 報告を上げてくる直属の部下の顔は覚えても、その下で戦場に立つ人間の生死など、報告として手元に上がってくるまでに数字に成り下がる。 究極的に消耗品、であることは否定しきれないけど、人の命の数を消耗品としてみてしまった将校の未来ははっきり言って暗い。 いずれ特務の名前が抜けた師団を率いる事があるのだとすれば――なおさら今、いずれは数になってしまう人々がどうして生きているのかを知るのは、いい経験だとは思う。 まあ、そんなことどうでもいいんだけど、今は。 一時期、剣の流派の改造でどうしようもなくなっていたアッシュだけど、持ち直してからは鬼神の如く! ってかんじだよね。 キリエとは違う、一流の高みを目指せる人間だ。 しかも、ここの時間は二倍ある。 教育と過ごし方のせいで、この世界の人々は日々が鈍い。 けど、僕たちにいわせれば、ここの一年で向こうの二年分、色々仕込める。 長生きってお徳だよね、使い方さえわかっているなら。 やたらな少年兵たちに稀に実力者が混じっているのも、時間の使い方を知る人間なのかもしれないと思う。 そもそも六神将とはヴァンが自分のために作ったものだ。 二つ名を得るほどの功績を持つ者か、いや、この場合は二つ名を持つほどの功績を持たせた者を師団長に挿げる事によって、軍部の実権を握る。 人事権は奴にある。 カンタビレがその上でまだ師団長についているのは、教団内部の一般の――つまりはヴァンの思惑に関わらない者たちに対する緩衝材だ。 こっちで六神将抜けたいって言っても、そうも行かないし。 だってさ、普通に考えれば名誉な事、なんだもん、いまはね〜。 意のままに動かない手駒でも、ヴァンにはアッシュを六神将としておく必要がある。 アッシュもアッシュで、もうルークには戻らないって言うし。 意地を張っているわけじゃないみたいだしね。 まあいいか、って思う僕も僕だけど。 道は一つじゃない。 心理的にも肉体的にも安定したアッシュが手を離れて、自由時間を満喫して、ダアト探訪をしている僕には最近お気に入りの場所がある。 ザレッホ火山。 内部に入ればと〜っても熱い。 サウナもかくや。 女性陣ならむしろ喜ぶんじゃないかなって思う。 少しぐらいふっくらしている方がいいって言うのに何時でも体重計を気にしているんだよね。 今は体脂肪計つき体重計だけど。 だけどそこは、キリエ作の特性念具に守られている僕だから。 熱さ寒さも何のその。 雪国ケテルブルクから日差しの強いケセドニア砂漠、そしてこの滾るような暑さのザレッホ火山の内部でも、何時でも同じコートを一枚上にはおれば問題ない。 ほんと、キリエの念具様様だよね。 火山の、流れる溶岩を見ていると、バラムを思い出す。 気候のいい島だった。 軍組織を持たず、それをガーデンに依存、と言うかガーデンとバラムは共依存していた。 その島にあった、島自体の穏やかさとはかけ離れているような猛々しい気性を持つGF。 それが居た洞窟を思い出させる。 僕自体はあの場所にさほど縁があったわけではないけど、長くバラムで暮らしていれば行く事も多くあった。 私用で行く事もあれば、ガーデンの授業の一環として赴くことも。 ボムやブエルと身近に戦える場所として、訓練施設の外でガーデン生を教育するのにはなかなか有用な場所だったからね。 しかも、バラム自体が孤島として完結していたから、アルケオダイノスを除けばそれほど脅威になる魔物も居ない。 子育てを終わらせた主婦が寂しさ襲われるようなものだろうかと思えば苦笑するしかないね。 あはは。 ここに来て、こちらの時間でそろそろ十二、三年。 今頃ホームシックかと思えば。 この世界はやっぱりとても広いけど、バラムを思い出させるような景色はなかなかない。 出身はどこか、と尋ねられればやっぱりセントラかな、って気はするけど、時間的にはガルバディア、かな〜と言える程度には、僕はガルバディアで成長した。 けれど、今懐かしむ景色はそこではなくて、孤児院の仲間と再会してから入り浸ったバラムの景色。 ここはあの穏やかな青を思い出させる場所ではなかったけど、それでもバラムの一つの姿には、よく似ていた。 空も海も碧く、どこまでも穏やかな観光地としての顔が有名ではあったが、それだけが全てではない場所―― 大体さ、ここの空って見上げると何か浮いているし。 なんと言っても、この世界――外郭大地は活火山がここしかない。 フロートアースと化しているこの場所では、構造上火山活動が見られるはずもない。 それが見られるという事は、この大地を浮かせているセフィロトの活発な活動のせいであるのだろうと僕は思っている。 実際、ザレッホ火山の深部まで降りた際に、僕はパッセージリングの存在を確認している。 いわゆるところの三つの封咒が健在であり、手出しは適わなかったが、あるいは強力な召還獣でも呼べば破壊できなくも無いのでは、と思うところだ。 それこそ破壊に意味はないけど。 僕はは暇があればここに出入りするようになっていた。 時々は黒曜石を採取してもいる。 ここの溶岩はガラス質らしくて、その上溶岩の質も一定しないようで、火山帯としての活動域は狭いのに場所によって多少質の違う溶岩石を採取できた。 そして時々持ち込んだ巨大な金タライにウォータの魔法で水を満たして人工的な黒曜石も作り出している。 黒曜石は、キリエが好む鉱物だ。 好み、と言うのも念具製作に反映されるところがあるらしく、感覚的に微妙なほどだが黒曜石を使用した場合念具の効果の向上が見られるような気がしないでもないと言っていた。 それはもう微妙なほどだが、感覚は嘘をつかない。 作った黒曜石は、業者に買い取らせたり、宝飾品や装飾品として加工するようにした上で漆黒の翼やケセドニアのアスターを通して市場に流している。 アスターはきちんと商売しているけど、漆黒の翼は手数料二割。 こっちもしっかり商売するなら漆黒の翼より全部アスターに流した方がいいんだけど、漆黒の翼は情報代込みだし仕方が無いと割り切っている。 情報を買うだけではなく、ある程度の情報操作も頼んでいるしね。 文句は言えない。 ここは活火山が少ないせいか、黒曜石の火山性の鉱物としての認識も低くて、そのせいでなかなかいい値段がつく。 だから、割合的には低くても、すずめの涙と言うわけではないし、アスターの方も含めれば副収入としてはまずまずだ。 あまり一度に市場に流しても価格崩壊する。 それは悩みどころかな。 以前とは違う、初期投資さえきちんとなされればほぼ無尽蔵の収入源の無い今としては、自由な活動のためにも神託の盾騎士団からの手当てだけでなく、副収入源を持つことも大切だ。 感傷に浸るだけでなく、収入源としても大いに活用している僕だったけど、その日は特別何かがあってきたわけではなかった。 熱気みなぎる場所だけあるし、イフリートの存在した力場に似ている環境のせいか、ここに来るとジャンクションしたイフリートが意識の中で抑え切れない喜びを表す。 その頭の中がこそばゆいような感覚も僕は好きで、だから取り立てて意味などないのだろうと思う。 他人と喜びの感情を共有するのは、悪くないと思っている。 僕自身、そう感じる時は末期症状だと思っているけど、時々人間と関わるのがわずらわしくなる。 もちろんアッシュの事も子供のように、弟のように愛しているし、セルフィへの愛は絶対だとそんな時でも断言できる自信はある。 だが、それとこれとは別の問題で、どうしようもなく無く感じてしまうときもある。 いつも頭の中に住み着いている精神により作られる生命体。 時々、そんな彼らと感情を分かち合うのがとても、心地いいんだ。 「手間隙掛かる子育てに一段落ついたし、ついでに向こうから仕掛けられてくる陰謀もいい加減一段落着いたし? やる事は終わってないはずなのにさ〜、なんか脱力しちゃうよね〜」 はたから見れば立派な独り言だが、対話とまでは行かずとも話しかける相手はいる。 周囲に人が居るような状況では口に出しはしないが、今なら問題ない。 パッセージリングがあるためにか、意外なほど整備されている道をたどりながら、僕は自分精神の中に住まう者共に話しかける。 やる事は沢山ある。 ヴァンに悟られないように秘密裏の交友を続けているカンタビレとの打ち合わせ。 師団の監督。 ヴァンの動向の探索。 漆黒の翼と情報交換して、何気なく金をむしられて、新しいデザインの黒曜石を使った品々のサンプルを見る。 スコアに読まれている戦争に備えた蓄えも監督しなくちゃならない。 戦争は止められるものなら止めたいし、起こしていいものじゃないけど、時として国の面子のために起こさなきゃならないときもある。 まあ、この世界のスコアに読まれた戦争がそうかといえばかな〜り、怪しいけどね〜。 僕たちには国家規模の戦いを止めるための力はない。 そもそも僕らは、個人の力が増大する事に危機を感じて“魔女の関わらない”戦争に対して戦力として介入する事を自らに禁じた。 知謀策謀を廻らせる分には構わないけど。 頭の回転や戦況を覆す発想力なんて、何年生きていてもたかが知れてるし、そもそも知識としてならともかく、僕ら自身はゲリラ戦に慣れ過ぎている。 だから、戦争による物価の高騰に備えて今から蓄えをしている、って言うわけだね。 いつも一番被害をこうむるのは社会の下層にいる人たちだ。 食料の高騰は中でもダメージが大きい。 戦災孤児も増える。 最初は馬鹿みたいに頭を抱えていた、カードに封入されていた冷蔵庫。 あれに入っていた野菜のうちで種の取れるものはエンゲーブで栽培と品種改良を行なっている。 特にジャガイモとか人参とかラディッシュとか。 暦の違いのせいだと思うんだけど、栽培期間がこっちの野菜と比べるととても短いし、人参なんかも原種に近いこっちの人参と違って、僕が持ち込んだニンジンは甘くて癖が少ない。 それを、こっちの品種と掛け合わせる事で、こっちの気候に有ったものを作ろう、と頑張ってもらっているんだ。 収穫できたものは優先的に僕に売ってもらう事になっている。 定期的に、エンゲーブの倉庫一杯の収穫物をカードに封入するんだ。 空カードは貴重だけど、勿体無い! って溜め込んでいるのも宝の持ち腐れだしね〜。 いつか戦争が起こったとき、あるいは天候不順で飢饉が起きたときとかに、解放する予定のカード。 物価の高騰に何処まで対抗出来るかわからないけど、各地で炊き出しくらいなら余裕で出来る。 この前退役を偽らせて散らせた元僕の部隊――現アッシュの部隊から出した五人のスパイとの連絡もつけなきゃいけないし、新しく補充された人員も見極めなくちゃならない。 スパイは、やっとの思いで教育したんだよね。 僕の代わりに目となり耳となり、情報を集め工作をする。 情報の方面は、漆黒の翼が強くてそのネットワークを代価を払って使わせてもらっているから、スパイはどっちかって言うと連絡係、って言う色が強い。 そして、新人たちはヴァンの息が掛かっていないか、慎重に見極める必要がある。 まあ、ヴァンの息が掛かっているのはある程度当たり前として、どれほど深くヴァンとつながっているか、と言うところが問題だ。 アッシュにしごかれている彼らを慎重に観察する。 初めに僕に与えられたときには、時間が無かったからだろう。 外見上も見るからに寄せ集め、と言った感じの部隊だった。 ヴァンの息もあまり深くなくて、僕にも都合が良かったんだけど、今度の五人はどうやら駄目っぽいしね〜。 まあ、今度も僕の、自分の部隊の教育に勤めるさ。 こっちは、あからさまに新人ぞろいで使い物にならないけどね。 アッシュといっしょに食事を取って、会話を交わす。 剣と譜銃の稽古もつける。 譜術と超振動の訓練も続けていかなきゃだし、今度時間が有ればいっしょに譜業についての造詣を深めようと約束している。 昔、屋敷にいた頃側にいた、金髪の復讐者の趣味だったんだけど、アッシュ、屋敷にいたときには言い出せなかったけど気にはなっていたみたいなんだよね。 構うだけが愛じゃないけど、これが最も簡単で確実な愛情の示し方なのは確実だ。 初めはわかりやすい愛情を。 見放す愛情、遠くから見守る愛は、しっかりと愛されている実感を得られるようになってから。 でなければ誤解を生むことも多い。 愛情に絡む誤解ほど、悲惨なものは無いと僕は思っているから。 沈黙の愛情を示すのはスコールだよ。 僕にはスキンシップの方が似合っている。 あの夫婦はとてもバランスがいいんだよね。 沈黙の愛情のスコールとスキンシップのリノア。 ダアトには居ないけど、フィールが此方の世界にやってきてからは格段に行動しやすくなったんだけどね。 自分が遠出するときには場合によってフィールにアッシュの事を任せておく事もできるようになったし、フィールと言う自分以外のある意味で超人の域に達した人間と出会うことでアッシュの認識の偏りも防げたように思う。 ある程度は、だけど。 フィール一人増えても、アッシュが独り立ちの様子を見せても、それでも一向にやる事自体の量は変わらないのだけど。 いやいや、むしろ増えてるんじゃないかな。 リノアを解放するための力の器も探さなければならいし、そもそもキリエがやってこなければ帰る事ができないと言う問題にもそろそろ着手した方がいいのかもしれない。 まあ、当分は此方の世界に留まるつもりの僕ではあるけど、向こうの時間の流れがどうなって居るのかわかりかねるところは時々心痛にもなる。 その通りやる事はいっぱいあるはずなのだけど、暇を見つけた、と言ってはザレッホ火山に足を向ける僕。 誰かの喜びの感情を分け与えてもらっているだけの現状に、時に自己嫌悪にもなる。けどなかなか抜け出す事ができない。 「ああ〜、重症だね〜」 呟いて天井を見る。 溶岩の灼熱の光に照らされた岩天井。 もういい加減に終わりにするべきだろう。 終わってしまった子育てに脱力することも、バラムを懐かしみホームシックに浸ることも。 僕には大切な誓約がある。 ここで感傷に浸っていても、それは守られる事は無く、危険に曝されるのみだ。 まして僕は異邦人。 いつか必ず僕は居なくなる。それを知っている。 いつか居なくなってしまったときに、大切な者たちが傷付かぬようにとの手配はまだまだ終わっていないどころか始まってすらいない。 アッシュがしっかりと育てば、必然的にルークも救われるだろう。 あの子供は、やはりアッシュのレプリカなだけ有って敏い。 自分が自分ではない感覚を覚えて反発している。 我侭なお坊ちゃんで居るのは何も、無知であれとされただけではない。 ルークになるのを、ルークにされてしまうことを恐れている。 名前を言うなら、彼にはルーク以外の名は与えられていないのに。 右を見ても左を見ても不器用な子供達。 そんな彼らに僕は独善的な愛の手を差し出したくなる。 相手の気持ちなんてどうでもいいんだ。 だって差し出してみなければ判らない。 叩き落とされるならそのときはそのとき。 わざとらしく傷心を抱えて、隙を見てまた手を差し出そう。 ああ、だから、こんなところで傷心に浸っている暇は無いのはずなのだ。 いつの間にか僕の精神に感化されたのかイフリートの喜びも静まっていて、僕は苦笑した。 戦って勝って、初めは従属を引き出した。 彼らは人ではない。 肉体を持たず、そしてまた人と同じような形での死の概念も理解できないだろう。 それでも長年連れ添ってきた、力を貸してくれた大切な友たちだ。 人の心を理解しきれなくても、今のように僕が落ち込めば、火山のこの環境を楽しむのも放り出してどこか慰めるような気配がする。 そして僕は、イフリートがあのガタイと強面で自分を慰めようとする姿を想像してふっと、笑った。 GFに慰められている場合ではない。 フィールにばれたら笑われる。 キリエにばれたら指差して笑われる。 それも、彼らなりの不器用な慰め方なのは別っているけど、何もそんな所ばかり似ていなくてもいいだろうと思う。 少し情けない気分になって力ない微笑を浮かべ、僕は踵を返した。 やる事は沢山ある。 感傷に浸るのはその後でいい。 その時だった。 |