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真鯛を釣った日
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キッチンが壊れたから、当分は食堂の食事を取る事になり、料理と後片付けに使っていた時間に微妙な空きが出来た。 一食分ならたいした差ではなくても、三食分の時間となれば結構な余暇だ。 だから僕は今度こそ鯛を釣ろうとダアトの中を計測する。 カンタビレもあの翌日にはまた地方に飛ばされてしまったし。 二日酔いの頭痛を抱えて、これから馬車に乗って移動するのだと言ったときには悲壮感すら窺えた。 僕は信じても居ないのに十字を切った。 いや、ここはダアト流にしたほうが良かったのかな。 誰も使用していないはずの空室を、無造作に空けて、空けてから人の気配を探った。 これでも神託の盾騎士団特務師団長。 誰に与えられたわけでもなく自然と覇者の名をとったほど存在は売れている。 空室を開け放ったぐらいで咎められはしないのだ。 扉を開けて、人の気配を読んだ。 埃っぽい空室に、弱い気配が一つ。 必死に隠れているらしいのを暴くのもなんだと思ったけど、このままじゃメジャーを走らせることが出来ない。 知らない振りをして後の日に回すのもいいかもしれないけど、今日はこの部屋で最後にしようと思っていたから、これをやめるのはなんだか気分的に区切りが悪い。 それで結局、僕はその人の気配のところまで進んでいった。 埃を叩けばいつでも使えるだろう、ベッドと、クローゼットと、椅子と机。 ちょっとした家具だけが残されている部屋。 目指したのはクローゼットの中身だった。 金属製のつまみに指を伸ばし、なぜかこっちも息を詰めてしまう。 子供の必死なかくれんぼを思い出したからかもしれない。 自分はすぐに見つかるか、あるいはずっと、忘れられてしまったかのように最後まで見つからないか、とにかく両極端な子供だったな〜、と思い出す。 今では懐かしい思い出だ。 そんなことを思い出してしまったせいか、不思議なほど息を詰めてしまっていた。 そーっと、つまみを引っ張って、中を覗いて、そしてあまりつぶらとはいえない瞳とぶつかった。 どこかで、見た事があった。 多分見たのはキムラスカ。 そのときこの少年は今より幼かった気がする。 先代導師エベノスと言うのが崩御して、新しく少年が導師の御位に就いた。 ちょうどアッシュが誘拐された年だった。 遠目に見る碧の髪の、張り付いた笑顔がとても上手な少年。 普通は見えるはずのない距離だったけど、ちょ〜っと視界を念で強化すればしっかりバッチリ丸見えだ。 スナイパーだし、念で視界を強化する事は真っ先に取り組んだ事の一つだった。 「導師イオン?」 呟けばしっ、と唇に人差し指を当てて言葉を封じられる。 本当にかくれんぼをしているのかな? ああいや、その割には外が騒がしい。 いや、計測に夢中になって気にしていなかっただけで、そういえば今日は朝からダアトの内部がそこはかとなく浮き足立っていた。 巡礼者に悟らせるようなまねはしないけど。 もしかして、ここに導師がいることが原因かな? ああ、きっとフィールとかキリエだったら、こういうときにふさわしいコメントを残してくれるんだろうなぁ。 とにかく、導師の年齢は確か、十一か、二歳だったような。 まあ、探している人たちには悪いけど、僕には導師探索の報は入っていないし、ここは一つ子供の小さな我侭をかなえるのもいいかもしれない。 僕もさ、セフィとのデートの予定が入っているのに、仕事でなかなか抜け出せないとき、部下がこっそり逃がしてくれたときはほんとにうれしかったし。 それから三ヶ月こっそり給料十パーセントアップしてしまったくらいにね。 サボった分だけ決裁書類に忙殺されたけど、逃がしてくれた彼の出来る分には減らしておいてくれたという何と言う気の付くというか、ちょっとかわいそうな位の苦労性!! 指揮実戦部隊から、体力が衰えてきたのを期に教官へと回るまで、結構ありがたく事あるごとに使われてもらった。 死んだときは二児の孫に囲まれて自宅のベッドの上だったというから、なかなかの大往生だろう。 眉根を寄せた導師が何かを言い出すより先に僕は導師をクローゼットに押し込め扉をとじるとそのままそこをはなれて扉に向かう。 このタイミングならちょうど外をかけている足音と遭遇できるはずだ。 扉の前で一拍留まって、それから押し開ければ――ほら、ぴったり。 見事な顔面衝突だ。 神託の盾ではなく。教団員らしき青年が一人顔を抑えて蹲っている。 神託の盾と違って、まだ立ち直れずにいるいかにもインドア系の色の白い青年に、僕は手を差し伸べた。 「ごめんごめん、大丈夫だったかい?」 「うくっ……、え、は、はい。 はい?」 つるんと僕の姿を上から下まで一通り見て、それからあわてて立ち上がった。 「もしかして、神託の盾騎士団六神将、覇者アーヴァイン殿ではありませんか!」 「やれやれ、名前が売れるって言うのも考え物だね。……そうだよ。君はどうしたのさ。教団内部でそんなに走り回るなんて」 「いえ、私は――」 「導師が失踪した?」 何気なさを装って告げれば、教団員は沈黙した。 「まだまだ隠し事がヘタだね〜」 声を潜めずに何が内密の話しかと思うが、それはこっちにも都合がいいので突っ込まない。 「まあいいけどさ。ここに導師はいないよ。そして僕は導師を見ていない」 「はぁ」 「僕がここにいるのは、今更だけど地下じゃない場所にも部屋が欲しくてさ。どこか使える場所がないか物色していたんだ。いい感じに明るい部屋だし、誰にも使われていないようだからこれから掃除しようと思っていたんだけど、手伝ってくれる?」 「あ、いえ、私は――」 「知ってるよ。頑張ってね導師探索」 「は。ありがとうございます?」 「じゃあね」 どこか納得の行かない顔をしている教団員を笑顔で彼方に追いやって、僕は笑った。 まだまだ年若い教団員だ。 場馴れしていないのが良くわかる。 ああでも、とっさの嘘だったけど、改めて見ればこの部屋も割といいかもしれない。 何より太陽光がさんさんと降り注ぐ。 埃の厚さはそれこそ十年物の気合の入りようだし、誰も使っていないこと、そして当分使われることがないことは見ればわかる。 日差しの暖かい季節だというのに、この部屋だけは凍りついたように冷たい空気を持っている。 黴臭い。 それは、人の住まない証拠のようなものだった。 あの年若い教団員のおかげで、この部屋に対する愛着? いや、まだ執着かな。そういうのが沸いてきた僕は、結構本気で掃除をしてみようと思った。 でもその前に。 とりあえずこの少年を何とかしよう。 「へえ、あんた神託の盾の六神将だったんだ」 「他に六人そろったら、除名されるだろうけどね」 「でも覇者の二つ名は六神将になる前から持っていたんだろう?」 「知っていたなら意地の悪い質問だね」 可愛げのない子供に肩をすくめて見せる。 怯えて小さくなっている余裕もないのだと生き急ぐ瞳は、開き直った達観と、冷酷なまでの現実主義が年に見合わぬ輝きを持たせている。 一言で言えば可愛くないガキ。 まだ路地裏で物乞いしている子供の方が可愛らしい目つきをしている。 飢えた獣のようにぎらぎらしている目は、沢山のものを怨みながら生きることを諦めたわけじゃない。 ああ、そうか。 何か違和感があると思ったら、この子供の目は、重責に成長と言う変化を求められただけではない。 その先に自分の生きる世界が、見えていない――。 僕は導師に手を伸ばし、避ける仕草をする前に手首を取った。 「くっ……、六神将風情が許可もなく僕に触れていいと思っているの」 「僕の手を振り払う力も無いんだろう? せめて導師守護役の子ぐらい連れて歩きなよ。アリエッタ、だったけ。気に入っているんだろう? 心配かけちゃ駄目だよ〜〜」 十一二歳だとしても細すぎる腕をとって脈をみていると、不思議そうに見られた。 「そんなことを言う人間がいるとはね」 「そんなに不思議なことを言ったかな〜」 「いや、言ったことは不思議じゃない。が、その表情が不可解だ」 「表情? そんな変な顔してたかな〜」 脈を診た手を離して、もう一回首の動脈で鼓動を測り、瞳孔を覗いて、唇の色を見る。 導師はもう抵抗しなかった。 抵抗するだけの力がない、だけが理由ではなさそうだったけど、僕に相手の心理なんてわかるはずがない!! 「……僕の側にアリエッタがいることを、良しとしない人間は多い」 「魔物をつれているから、かな〜」 「口では良しと言っていても、その瞬間の表情を完全に隠せる人間はめったにいない。ましておまえのように――心底どうでもよさそうに言うものなど、初めてだ」 初めて、とそういわれて、可笑しくなった。 一人しかいないはずの部屋で大笑いが聞こえてはまずいと思って押し殺すけど、それでもクツクツと喉の奥から笑いの衝動がこぼれだす。 隈の色濃く刻まれた目で、じろりと睨みつけられた。 僕の前でたかだか十をちょっとすぎた程度の子供が空気をつくろうだなんて甘い甘い。 空間の支配権は僕にある。 そのせいでかまた睨まれてしまったけど。 「さてと。せっかくだから自己紹介でもしようかな」 「知っているから別にいらない」 「そう言わないでよ。僕はアーヴァイン。今のところ神託の盾六神将覇者アーヴァインって呼ばれている」 「……イオンだ」 「そうか。わかったイオン」 ぐったりしていて出会った時よりなおさら顔色が悪い。 無理してまで出てきて、何がしたいのか。 いや、死ぬ場所ぐらい自分で、とか言い出すようならむしろ尊敬しかねない。 時代劇の中の昔の少年武将みたいだ。 キリエには随分と見させられたけど、捕まって辱められるくらいなら自決する、ってすぐに言い出すのには閉口した覚えがある。 時代劇自体、あのオリエンタルな雰囲気が結構好きなんだけど、思想って恐ろしい、って改めて思ったこともあった。 「それでイオン。君はどうしてここにいるんだい? そんな体で」 「別に、ベッドの上でずっと横になっているのに飽きただけだ」 「それで、アリエッタを出し抜いてまで抜け出してきて、結局たいした距離もとれずにこんなところに隠れてみたわけだ」 「うるさい」 会話を絶つ言葉は、アッシュも良く口にする。 けど、イオンのその言葉には、アッシュのようなテレや憤慨が存在しない。 ただそうだから、と口にする。 うわぉ。 僕はもうどうコメントしていいのかわからないよ。 それでもまあ、僕が隠してしまったんだから、ちょっとだけ責任を持つことの、紛い事でもしてみようか。 僕はかさかさの皮膚をしたイオンの顎を掴む無理やり口を開けさせ、そこにタブレットタイプの念薬を放り込んで口を閉じさせる。 吐き出そうとするのを、口を押さえて許さない。 可愛げのない子供だから、これぐらいは文句も言わせない。 「噛んで、飲み込んで」 子供はもっと保護欲を掻き立てる顔をして、大人から色々なものを与えられて居ればいい。 そのうちに与えたいと思うようになって半人前。 その気持ちを行動に移して、だれかに何かを――物だけじゃなくて、恋人や妻、友達や子供に対する愛情とか――を与えられるようになって一人前。 口を押さえられたまま顔をしかめて凝固していたイオン。 口を押さえる手を睨みつけていた目はそのうちにぐるりと回って僕を睨み始めて、そのまま続く十数秒のにらみ合い。 そのうちにだんだんとイオンの表情が変わっていく。 きっと、今イオンの口の中では刺激に慣れない舌には辛すぎるほどの爽快感が広がっているだろう。 刺激に促されて唾液も出ているはずだ。 やがて観念したように、イオンは口中のタブレットを唾液とともに丸呑みした。 ゆっくりと、僕はイオンの口を押さえていた手を離す。 きらぎらに感情を篭めて睨まれた。 もしこれで導師が健康体だったら、僕は導師しか使えないと噂のダアト式譜術とやらで沈められていたかもしれない。 手を離して、少し距離をとった。 窓側に。 「何をするっ!」 「あんまり不健康だからさ、薬をね」 「薬?」 「どうだい? 体調は。少しはよくなってるんじゃないかな」 「そんなにすぐに効くわけ……が……?」 言葉を途切れさせた少年は、自分の体を確かめるかのように見下ろしている。 それを見て、僕は満足して頷いた。 自分を押し殺すことに長けてしまった可愛くない子供を、こんなに驚かせることが出来たのだ。 「どうだい? 効いてるだろう? その薬は心臓さえ動いていれば串刺しにされていても正常に癒す。とっときの一品だよ」 「だったら残念だったな。どうせ無駄だよ。僕は、どうせ……」 「もしかして君は、自分の死預言を知ってしまったのか」 細い血管、弱い鼓動。 幾らなんでも足りなすぎる筋肉、浅い呼吸。 触れたときの体温の高さ、なのに手足の冷たさ。 ゾンビのような血色の悪さ。 憶測だったんだけど、イオンの反応を見て確信した。 自失状態の精神の防壁が甘いところを付け込むようでなんだか悪い気もしたけど、この子供から素直な答えを聞くにはこれくらいしかないような気もしていた。 自分で詠んだのか、知らされたのか。 とにかく自分の死が預言に、しかも近いうちに詠まれたことを知ってしまった……。 しかも、恐らくは導師として幼い時から教育されてきた。 ローレライ教団の導師。 預言の絶対遵守をうたう教団の導師が、それを絶対とする教育を受けてきたのは目に見えるようで、自分の死の預言を知っても、預言を憎みこそすれ覆そうという意思もなければ、まして手段もない。 身の回りを固めていれば何とかなる話じゃない。 死の預言は体の中から自分の命を食い荒らしていく。 「それに、僕が死んでも導師はいる」 「……レプリカ、かな」 「そうだ」 「僕にそんな事言っちゃってよかったの?」 「レプリカの存在は知っているんだろう? 自分が大切にしている子供のレプリカを! はっ、信じられないな」 「そうかな〜、僕は兄弟が出来るみたいで良いと思うんだけど。姿かたちが一緒でも、中身は経験と時間が作るものだし、双子より近い最初の他人だろ〜?」 「頭の軽い奴の言うことはしれないな」 「うわ、酷い言われようだ。サイファーだってここまでは言わなかったような気がするよ」 「酷い? 当たり前のことじゃないか。自分じゃない生き物に名前も場所も存在も奪われて、あの赤毛の被験者もよく平気でいるもんだね」 「自分の名前と居場所を丸ごと奪われた、って形になるのかもしれないけど、それまでの十年のアッシュとは別人だ。身代わりにはなれても本人にはなれない」 「詭弁じゃないか」 「でも真実だよ。たとえあのレプリカが、十年分のアッシュの記憶を持っていても、アッシュにはなれない」 扱いにくい子供だと思った。 そして、ああだからレプリカかと納得もした。 扱いにくい子供だから、使い勝手のいい導師を欲したのかもしれない。 ヴァンにしたところで、モースにしたところで。 アッシュのレプリカを見た時に、体の大きな赤ん坊だと思った。 赤ん坊の笑いは筋肉の反射で、不快を鳴き声で表し、疲れるか満足すれば眠る。 そういう生き物が、外界からの刺激を得てだんだんと人間になっていく。 むかしダアト、というより、スピノサとかディストの研究内容を探って居たときに、レプリカに基本的な知識の刷り込みを行う研究もしていたような記憶がある。 それは形になったのだろうか。 そうじゃなければ幾らなんでもこの先の短そうな少年の代わりをレプリカに勤めさせるのは無理のような気がした。 そうか、もう完成しているのか。 ルークの時には、まるで赤子同然であることが誘拐後の言い訳になっていたけど、この場合使えないんじゃ意味がないからね〜。 恐らく完全同位体ではないはず。 しかもレプリカ情報を抜いた被験者は病弱。 どれほどのものが出来るものなのか。 あまり古い情報は使えないだろう。 年頃としては成長期だ。 一年前の情報でも見た目に随分と変化があるはず。 「イオン。レプリカ技術自体は、被験者にも悪影響を及ぼすし、やたらと生み出すのはどうかと思う。誰かの身代わりとして扱われるようじゃ、レプリカ自身も憐れだしね。悪魔の技術とも呼ばれているし、今じゃ発案者本人が封じている技術だ」 一時期上官となったジェイドと言う男。 彼の旧姓がバルフォアと言うことは調べればすぐにわかったが、軍内部ではその名はあまり知られていないようだった。 慇懃無礼を地でいく男、丁寧な言葉遣いと常に浮かべられる微笑の向こうにあるのは激情と無感動。 「けど、僕は生まれてきたレプリカに対して何か思うところは無いよ。命は生まれる場所を選べない。そして存在は自分のあり方を選べない。人は死ぬまで人だし、レプリカは死ぬまでレプリカだろうし。自分そっくりの存在が、ある日いきなり現れることを、すぐに受け入れられる人はそう居ないと思う。けど、レプリカは、人に最も近い人類の最初の友になれる可能性もあると、僕はそう思う」 「へえ、随分と異端に寛容なんだね」 自分も異端だから異端に寛容なのか、そうしていくうちに寛容になったのかな。 魔女と言う存在を守り、守りきれずに時が至れば殺すことを役目とするガーデン、そしてSeed。 魔女は、あの世界において究極の異端だった。 なら、その異端である魔女に育てられた僕たちは、異端である者たちを知らなければならないと思う。 世界から爪弾きにされた異端者たちを知り、守ることが出来るのも、異端者に育てられた者だけだと思うから。 僕の知る二人の魔女。 それを思うと、自然と表情に笑みが浮かぶ。 「あ、そうだ」 いい事思いついた。 「僕の仲間が言っていた言葉を君にも送るよ」 「へえ、君の仲間、ねぇ」 「『我等運命の反逆児、あらゆる定めに牙を剥く』ってね」 「運命って、預言のつもり? このダアトで預言を否定するなんて馬鹿じゃないの?」 「馬鹿でもいいよ。少しぐらい馬鹿じゃなきゃ、定めに逆らって噛み付き続けるのはなかなか大変だからね」 「……」 幾つもの世界を回って、幾つもの絶望を知った。 世界に望みがないから異世界にまで行って、それでも望みが見つからなくて肩を落とした。 あんまり頭がよろしくちゃやってられない。 ゼロの可能性を掴んでしまったら先に進めない。 僕はタブレットを取り出すと、五粒ほど手に取った。 結構貴重なんだけどね。 「この薬は、体を正常に戻すけど、病気の根本的な解決をするわけじゃない」 欠損は直らない。 失血は補われない。 寄生虫は居なくならないし、ウィルス性の感染症の場合は一時的に体力が回復するけど体内に居るウィルスの数は変わらない。 もう一度、元気な体で改めてウィルスと戦って勝たなければならないのだ。 「イオンが何の病気かわからない。けど、この薬でも延命ぐらいは出来る。生きたくなったら、それを飲めばいい。預言に反するからって暗殺されそうになるなら、僕のところにおいで。大体ダアトに居るしね。君一人ぐらい、どうとでも隠せるから」 返される顔は、あらゆる表情をなくし呆然としていた。 「僕の仲間が現れるまで。彼女なら、君の病気を完治させる事ができる薬を作れる。それまでの延命なら、僕にも出来る」 けれど少年は、僕のところに来なかった。 預言に掴まれた少年は、預言と共に死ぬ事を――選んだ。 |