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初出陣
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フィールと再会を果たしたあと、適当に丸め込んでダアトを追い出すことに成功した。 追い出すというとちょっと人聞きが悪いけど、僕たちが二人しかいない状況で二人ともダアトに固まっていてもしょうがない。 預言と、アッシュとの関係を話し、レプリカのことも知らせた。 憤り、怒りを見せ、そして同意してくれた。 アッシュを、いや、今バチカルに居る聖なる焔の光を含めて、どちらも預言なんかに取り殺させやしない事を。 「キリエが居れば、きっとキリエもそういってくれますよ。ほら、そうすれば僕たちの意見は全会一致です。それに、子供を守るのは大人の役目です」 当たり前だと、そういって笑うから、僕はまた仲間というもののありがたさを身に染みて感じてしまうんだ。 昔々、ずっとむかし。 ガルバディアガーデンに居たころの自分とは似ても似つかない自分。 でもさ、僕は今の自分が大好きだから。 恥ずかしいから言ってやらないけどね。 とにかく、こっちは殊更に少人数なんだから、固まっていてもしょうがないということに結論した。 ヴァンが何か企んでいるようだから、それを監視することが出来ればそれも言いと思うこともあったけど、レプリカという存在に何かを見出していること以外は今のところたいした情報もつかめていない。 さすがというべきか当たり前というべきか、自室に計画についての書類を残しても居なかったし、ちょくちょく出張……遠征? あー、何だっけ。 僕自身割と今は、進めるなら進めてしまえと思っている節がある。 ND2018 ヴァンの計画はそのそのときを目標に進められるだろうし、こっちとしても預言もろともそれらを潰すならその時だろうと思っている。 それまではせいぜい目を光らせながら、魔物退治に出て金でもむしりとろうかと……いやいや、高い給金でもいただこうかな〜、って。 最近はアッシュが懐かないのに業を煮やしたのか、レプリカの方に剣の稽古の名目でよく顔を出している。 アッシュが誘拐されてもう三年。 生まれたばかりのレプリカも、走って回るし言葉もしゃべるし、何より周囲の雰囲気を敏感に感じ取って回りの知るルークという存在と今の自分の存在との狭間にゆれている。 そんなところに付け込むヴァンは見ていて気持ちのいいものじゃないけど。 それこそレプリカの方にまで僕らが手を出したら何をするか予想の付かない男だ。 きっとそのときが来れば、ヴァンの行動は世界に敵対することで世界を救うだろうと思っている。 それは警鐘だ。 この世界への造詣が深くなればなるほどに思う。 預言に縛られずにものを見ることが出来るからでもあるんだろう。 ダアトの図書館に忍び込んで見た禁書の数々は、僕にとってなかなか有意義だった。 とにかく、フィールとアッシュの顔合わせも終わった。 僕がいないときフィールがいたら、フィールを頼れとも伝えてある。 あといずれキリエという名前の女性が来たら、そいつのことも頼っていいと伝えておいた。 壊した壁については教団内部でちょっと睨まれたけど、どっちかって言うとこう、ね〜。恐怖八割、って感じだったかもしれない。 普段僕は温厚だからね〜。 噂はあっと言う間にダアトの内部に広まった。 修繕費については――上手い事教団負担に出来た。 アッシュにも口裏を合わせてもらって、模擬戦の最中不慮の事故、ってことでね。 我ながらうまくいったものだと思うよ? ついでにそれで怒られるのは直属の上司であるヴァン。 ヴァンから僕へは「やりすぎるな」の一言だけだった。 互いの関係を理解しているから、それ以上言うこともない。 ヴァンは僕という存在の無茶を承知で神託の盾の体系に飲み込むことを決めたんだから。 そして教団内に僕と対で妙な印象を植え付けることに成功したフィールは、ダアトを出てまたしばらく世界を放浪すると言っていた。 各地のセフィロトの場所を把握しておくとも。 確か本を読んだ限りじゃセフィロトは三つの封咒とか言うもので封印されていて、現在の僕たちじゃ入れないはずだったけど、場所を知っておけばいざというとき迷わずに行動できる。 僕がアッシュを探しているときに繋ぎをつけた漆黒の翼の彼らも紹介して、彼らを仲介して連絡を取り合うことにして、早速世界各地を駆け回っている。 携帯が使えないって不便だって事を改めて思い知った。 まだ魔女戦争をしていたころのガーデンだって、電波事情のせいで携帯電話なんて存在しなかったけど、一度便利なものに慣れてしまうと昔には戻れないとつくづく身に染みて実感した。 まだというか、あるいはもうというかは意見の分かれるところだけど、あと四年か、五年ほど時間はある。 世界を放浪してみると言っていたフィールだけど、どこかで定職を見つけるの悪くないんじゃないかと思っている。 僕より軽かったみたいだけど、多分音素のせいだと思う呼吸器の痛みをフィールも感じていたそうだから、彼も多分譜術が使えるはずだし、ちょっとぐらいはマルクト軍に在籍してみるのもいいんじゃないかと思っているけどどうだろうね。 僕はすっかり音素に体が馴染んだみたいで、もう体に異常は全然ないけど。 なんだかキリエのことが心配になるよ。 キリエって、なんだかいろいろなことに凄く微妙な人だからね〜。 戦うことに才能がないのはそれこそ目に見えるようだし、けれど念具作りにおいては妙な才能が有るし。 と〜ってもありがたい道具を作るんだけど、時々身にあまるものを作っては何ヶ月も昏睡状態になるし。 この音素の世界に来て、一番音素に対して何かしらの反応を見せるのはキリエじゃないかと思っている。 それこそ喀血するほど過剰反応するか、あるいは何の反応も見せずにもちろん譜術も使えないか。 どっちでもこの世界じゃ生きにくそうだけどね。 異物であるというう事を体現してしまうから。 まあ、なんにしたところで僕らは未来を知らない。 ここも、未来を知りえる可能性のある世界なのかもしれないけど、どうしたところで現状僕らはこの世界について、この世界に来る前に知ることはなかった。 だから結局は、油断せずにいろってことか。 今日はこれからマルクトの軍隊と共同で魔物退治の仕事が入っているんだよね。 特務師団の特務とは結構名ばかりな感じで、特務という割には正規任務ばかりが付いている。 教団が預言を遵守させるための裏工作とか、Seed流儀で育てているから結構そういうところにも使い勝手はいいはずなんだけど、あっちは知らない。 僕が強いということは知られているけど、僕が教官をやっていたことや、それこそどんなタイプの戦士なのか、ということは。 昔は譜銃も使ったけど、やっぱり銃は相棒じゃなきゃ落ち着かなくて、譜銃はサブウエポンになっている。 メインは剣。 だけど、僕の剣は技術のない力任せの剣だ。 だから実質僕の本当の戦い方を知る人間って言うのは、居ないのだ。 ヴァンから預かった部隊は、少人数のゲリラ戦を得意とする特殊部隊としてはなかなかいい感じに育ってきたなって思うんだけど、情報操作もこっちの手の内だしね〜。 認識阻害のメモ帳を使って、結構ダアト内部でもこそこそしているんだよね〜。 逆を言えば、それしか出来ないって言うか。 師団の教育もなってきて、頻繁に居なくなる僕をヴァンは何とか本部に留めておきたいんだろう。 神託の盾騎士団としての仕事の領分はともかく、秘密の事柄においては徹底してここから排除しているみたいだしね。 むしろ僕に外に出られる方がヴァンにとって危ないって事だ。 でも〜、僕ってとっくの昔に引く手数多だし〜? とにかく、なんだか余計なことばかり考えちゃうけど、今日は記念すべき魔物討伐の日なのだ。 今まで僕の補佐という名目で、真面目な階位を持っていなかったアッシュが神託の盾の響手として始めて魔物討伐に参加する。 もちろん、今は僕の部隊だ。 響手の階位は得ても、僕の助手ということは変わっていない。 ヴァンは僕と引き離したがっているけど、それをやるなら僕は何を犠牲にしても、例えば新しいレプリカが作られたりするのだとしても、アッシュを連れてダアトを出るだろう。 ヴァンにそれが分っていないはずがない。 レプリカにも超振動を持たせることが出来ても、それがアッシュの能力より劣化することも分っているだろうし、ましてもう完全同位体なんて任意で作れるものでもない。 ヴァンはなんとしても、オリジナルを手元においておきたがっている。 そこに付け込んでいるのが僕なんだけどね。 おっと、ほら。 噂をすれば影かな? ヴァンの方が来なくて良かったよ。特に出会っても収穫のない現在としては出会いたい顔じゃないからね。 「アーヴァイン師団長、準備が整いました」 「いつもどおりでいいよアッシュ。そんなに硬くならないでさ」 「ですが公私の混同は避けろと……」 「それが必要な場所なら。アッシュなら出来るだろう? でもまだ他に人も居ないしね。アッシュが強くなるのはうれしいけど、他人行儀にされるのは寂しいからね〜」 「ですが、やはりそれでは周囲に示しが付きません」 「う〜ん」 と僕は悩んだ。 こうしてきちんと区切りをつけるのは、昔学んだ帝王学の名残なのかな? 人の上にたつことを知っている少年だった。 権力の上に胡坐をかくような意味ではなく、本当の意味での貴族であることを求め、ナタリアの婚約者としていずれ王となる未来を見据えていた少年だった。 最近神託の盾の兵士達に触発されたのか、口が悪くなってきたのが悩みだけど、TPOは弁えた発言はするから、まあこれはいい。 父親があんなだったから、尚の事、接触による甘えることも甘やかされることも知らない子供。 病弱な母親ではスキンシップが足りない。 取引とか脅しとか……いけないな〜とわかっているけど、やっぱり、親のようでもあり、兄のような気持ちの僕としては寂しい限りだ。 それに、さ。 権力ってつかわなければ持ち腐れだよね? 「ア〜ッシュ。いつもどおりにしてくれないと、連れて行かないよ〜?」 「……」 「それに、権力は使うためにあるものでしょ? 僕が君を可愛がっていることはみ〜んな知っているし、問題ないよ」 それこそが問題なんだとアッシュの眼差しは語るようで。 けど僕が宣言を覆さないと態度で示していると、やがて小さな吐息が聞こえた。 「わかり……わかった」 「うん、上出来だね」 「何が上出来なんだアーヴァイン」 「アッシュの準備だよ。まあ僕の任務のときに勝手に連れて行った事はいっぱいあるけど、今回は初任務でしょ? あんまり緊張しすぎないようにね」 「大丈夫だ」 「ならいいんだよ。じゃあ、説明するから聞いててね」 アッシュが一緒の任務のときは、さすがにヴァンも警戒するのかキムラスカでの任務は入らない。 「今回はケテルブルクの雪山に現れるという、多分音素暴走を起こしたんだろう変異体の魔物退治がお仕事。結構強いらしいよ〜〜? まあ、だからこっちに仕事が回ってきたんだけどね〜〜」 覇者の名を、頼ってきたって訳さ。 ついでに特務師団長の実力拝見、って所かな? 以前から魔物退治ならちょくちょく出てはいたけど、僕が真面目に仕事を請け始めたのって、それこそここ最近だしね。 噂ばかりは世界に撒いた。 真実味溢れる脅威の噂を。 だから確かめずには居られない。 そしてヴァンも、断る事はできない。 「出発はこれから……丁度一時間後の午後、神託の盾専用の船が出る。さあ、任務の内容を復唱して」 「今回の任務は、マルクト軍との共同魔物討伐。対象はケテルブルク市街付近に現れるという突然変異体らしき魔物。これより一時間後の神託の盾専用の船で出発となる」 「じゃあもう一つ、目的を聞こう。これらの任務の真意、というか、最優先事項は?」 これは意外と大切なこと。 不慮の事故でリーダーが居なくなってしまったときとかの、行動理念だ。 さて、アッシュは何と答えるのか。 「生存を最優先に、魔物の討伐、あるいは魔物を市街から遠ざけること」 その答えに、僕はアッシュの髪の毛をかき回すことで答えた。 「上出来」 僕の手を押さえて、惜しみながらも外そうかどうか理性と感情の狭間で迷って、そうしながらも顔に浮かぶのははにかむような笑み。 めったに満面の笑みで笑うことのない不器用な子供の感情の現れ。 何をどうしたものか、あの一年間が原因か、そしてあとはもともとの資質か。 自分から生きることを投げ捨てるような人間じゃないことは確かだけど、アッシュはどっちかといえば死に近い。 守るために生きるか。 守るために死ぬか。 死ねば守れるか? 死ななければ守れないか? そういう状況に追い立てられれば、自分の命を差し出すほうを考える。 まるでリノアを見ているみたいだった。 スコールとずっと一緒に居たいって、思ったはずなの、自分から封印されることを選んだ時の、リノアみたいだった。 見てられなくってさ。 専門として学んだわけじゃないけど、心理学の知識も一応あった。 長く生きてきた時間は無駄じゃないって事かな。 他に任せられるような人も居なかったから、僕がカウンセリングまがいのことをしながら、少しずつ心をほぐして対話していった。 ここに一つの結果が、現れたといっていいのかもしれない。 根底に死への理想はまだあるだろう。 あの言葉もまだ表面を漂っているだけかもしれない。 けど、何をおいても魔物を倒すことを優先、と答えが返らなかったことは、僕にとってはうれしいことだった。 今回が駄目なら、生きて、次を窺う。 大事なのはその姿勢だ。 繰り返していくうちに、身に染みていくといい。 「さあ、アッシュ。初任務だ。ちょっと張り切っていこうか」 「さっき緊張しすぎるなと言ったのが居たと思ったがな」 「緊張と頑張りは別だよ〜。頑張り過ぎてから回らない程度には頑張った方がいいんだって。いっつも全力投球じゃ疲れるけど、頑張った後はご飯が美味しいからね〜」 「なんだそれは」 「生きてるって事さ〜」 本当に、本当に。 生きているって何てすばらしいんだろう。 眠って、目が覚めたときに、大切な人が全て居なくなっていたらどれだけ悲しいだろう。 リノア――アルティミシア。 全て知って、覚悟していても、ショックがないわけじゃない。 ねえリノア。 君が眠りに付いたことを僕たちは嘆いたけど、君の眠りがここでまた、一つ運命を変えようとする力になる。 キリエが言った。 『我等運命の反逆児。あらゆる定めに牙を剥く』 だからまっていてくれよ。 スコールと一緒に、運命を食いちぎって、いつか迎えに行くからさ。 だから、きっと―――― |