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平穏な一日
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俺が再会した俺の陽だまり。 そいつは、結構頻繁に、だが何の脈絡もなく俺の前に現れる。 現金なものだ。 あれほど嫌ってたアッシュの名も、あいつにほめられると悪い気がしない。 あいつはあまり見ないデザインのイエローオーカーの外套を着て、時々帽子をかぶっていて、もっと稀にいつもは一括りにしている琥珀色の髪を不器用に後ろで三つ編みにして、腰にはいつも譜銃と剣がつるされている。 譜銃の腕前も、剣の腕前も、とんでもないと言うことを俺は知っていた。 屋敷にいたときから俺はこいつから剣を習いたいと言っているのに、こいつは自分じゃ教えることは出来ないって拒む。 初歩の初歩。基本の型を身につけたところで自分は剣を扱うことをやめたから、と言って。 基礎の型を覚えただけであんなに化け物じみて強い剣ってなんなんだって、俺は逆に興味を引かれたが、誰かに教えられるような剣ではないからと言って、どれほど粘っても結局剣について教えてもらうことは出来なかった。 それでなぜか俺は、攫われた先で攫った本人、ヴァンから剣をならっている。 あいつはヴァンの前に姿を現さないけど、ヴァンと剣を打ち合わせていても、どこか遠くから見ていることはわかっていた。 鍛錬が終わった後は、必ず今日の鍛錬についてコメントを残していく。 だから俺は、俺に教えられないって言うんならせめて俺の相手をしろっていったんだ。 そうしたら、あいつはヴァンとの稽古のあとに剣の相手をしてくれるようになった。 ……いいように転がされているだけだったがな。 昔は分らなかったが、流派は違えども剣というものについて少しずつ分ってくるにつれて、確かにあいつの剣は初歩の初歩、基本の型を覚えたところで止まっているのだと理解できた。 基礎しか知らないからと言ってパターン通りになるようなアホではないが、剣についてはあまり自分で高めるきもないようだった。 そんな剣に負けているのかと思うと悔しかった。悔しいはずなのに、うれしかった。 あいつが、俺の上に居ることが。 合間を見て譜銃も教えてもらったが、此方にしたところでアーヴァインには遠く及ばなかったし、銃よりは剣の方が才能があるといわれた。 それでも俺は、変わらずに譜銃の教えも受けている。 それは俺にとってアーヴァインと言う偉大な人物から直接何かを得られる貴重な時間でもあり、生きるための力を模索する一つの時間でもあった。 割と小型の遠・中距離武器。 身につけて置いて損はないだろう。 使う機会があるかどうかは、別の話だがな。 あいつは神出鬼没で気まぐれで、けど決して俺に害なすことを許そうとはしなかった。 俺が神託の盾騎士団の兵に生意気そうだと言われて暴行されそうになったときには、その相手が気が付かないうちに全員が床に臥していた。 人の居ない時間帯の食堂で一人で食事を取っていたら突然現れて、楽しそうに「味見味見♪」って言いながら俺の食事を奪ったかと思うと、一口食べてそれを全部廃棄したうえで、俺の腕を引っつかんで後片付けもしないで部屋まで戻された。 ……薬物が混入されていたらしい。 うんうん唸っていたかと思ったら、いきなりぱっと顔を上げて、「いいこと思いついた!」と来た。 そして渡されたピアスは、あらゆる毒物――この場合麻薬なども該当するそうだ――を無効化する効果があるらしい。 不思議な物を持っている男だ。 だがありがたい。でなければ俺は満足に飯も食えなくなる。 男は言った。 俺の精神を奪えなくて、あせっているのだろう、と。 にやりと寒い笑みを浮かべて。 「良くころころ表情の変わる奴だな」と言えば、 「昔は違ったんだけどね〜」だそうだ。 「初恋の人に再会してから、気が付けば似てきたって言われるようになっていたかな〜」 と言いながら、とても幸せそうに笑うのは、その女性のことを愛しているから、なのだろうか。 好きな女とはそうまでも人を変えるのかと、俺もナタリアのことを考えてみた。 ……分らなかったがな。 だが、悪い気はしなかった。 そのナタリアも、今はレプリカのことをルークと呼んで、あの花冠を送っているのかと思うと忸怩たる思いもあったが、ここに居ることを選んだのは、俺だ。 あいつは俺をあの場所に戻せると言った。 そして俺は拒んだ。 もういい訳はできねぇ。 俺の陽だまりが俺のところにやってきて、一時的にレプリカへの憎しみが薄れたとはいえ、俺はきっとその憎しみを無くすことはできないだろうと思っていた。 のだが、あいつが時々持ってくる、デジタルビデオカメラ、とかいうもので撮影された鮮明な映像の中に居るあいつを見ていると、どうにも憎みきれない。 自分から生まれた、自分そっくりの――違う生き物。 あの姿を見て自分と同じだとは言いたくない。 双子、ぐらいには認めてもいいだろう。 外観的には。 だが中身は何だ!! 今でも指しゃぶりをしながら眠っている映像を見せられたときには憎しみもわいて来なかった。 俺が攫われたから作られ、俺が攫われたからあの屋敷から一歩も出ることが適わずに閉じ込められる。 安全に、命を生かすことにキムラスカは腐心するだろう。 でもいつか、預言の歳が終わればあいつは箱庭から出られるだろう。 そして俺もここから出て行く。 あいつは俺の味方であるとあいつのもっとも大切なものにかけて誓った。 今では俺を取り殺そうとする預言を知って、俺をそんなものに殺させやしないとまた誓った。 「僕たちは運命の反逆児だ。目に見えるほどに示され、人間が絶対という預言ほど、噛み付きやすいものは無いだろう?」 実に楽しそうに預言――世界そのものへの反逆を口にした男。 レプリカの姿を撮影した映像を見せられたときには、何をしたいんだ! と叫んだ。 そうすればあいつは、めったに見せない真剣な面持ちで俺に言う。 「天然だろうが人造だろうが命は生まれる場所を選べないんだ。あの子供、レプリカは君に最も近い、君の兄弟みたいなものだろう?」 「ばかな」と反射的に怒鳴ってしまう。 知っている、筈なのに――理解に感情が追いつかない。 俺の激高をものともせずに、奴は何か微笑ましいものでも見るかのようにゆるく口角を吊り上げる。 そして、言った。 「そしてたった一人の同胞だ」 「どう、ほう?」 人ではないといわれた。 人の皮をかぶった何かだといわれた。 戦争になれば駆り出される都合のいい兵器だと。 十七歳で死ぬ定め、だからそれまでに成果を得ようと無理な実験を行われていた。 そんな俺の――同胞? 言われて、はっと思い出した。 初めてレプリカを見た時の感情を。 だが今は喜びなんて沸かなかった。 一見人のように、大切な物の様に扱われながら屋敷の塀の中に囲われて、死を詠まれた年までせいぜい成果を搾り取ろうと過酷な実験を繰り返される、実験動物。 そんな物がもう一体生まれる事を。 今更ヴァンの言葉に乗るつもりは無いが、あいつは俺の変わりにルークを名乗り、聖なる焔の光としてアグゼリュスで死ぬために、作られた。 世界の預言を歪ませ、無効にするために、だ。 生きるなら勝手に生きればいい。 だがそれを、俺が兄弟などと、まして同胞などと思うのは。 辛かった。 それから、思いついた。 こいつは、俺の大切な者になる可能性のある者も守ろうとしているのだと。 この男はたった一人で、どんなに力強くても腕は二本しかない。 俺一人で片腕一つ、人間を抱えるなら、腕はもう一本しかない。 それでもこの男は、俺を守り、俺が大切にするからナタリアを、俺の大切な者になる可能性のあるものだからレプリカ――ルークを守ろうとするのだろう。 この男に認められたいと思った。 可能な限りの知識と力を身につけて、ナタリアの隣へ。 俺はあの約束を、覚えている―――― そんな生活を送りながら一月ほど立ったころだろうか。 俺がヴァンから予定外の呼び出しを受けたのは。 それは、背の高い男の幽霊の話だたった。 あとがき アッシュ、ゲームとは別人になるかも。 たしかに精神が抑圧され続けたストレスであんなに柄が悪くなっていたところもあると思うけど、ルークに対してはどう頑張っても短気で怒りっぽいと思う。 兄弟っていうのは、勉強を教えるのには向いていない関係だと聞いたことがあるような気がする。 兄弟だから、近すぎる関係だから、何でわかんないんだよこのヤロー! ああ、まだわかんないの? 見たいな感情になると。 無意識にでも自己と同一視してしまうというか。 私も、母や妹に勉強やパソコンを教えるとき、そういう感じになります。 身内への甘えですね。 だから、どんなに真っ当に育っても、常に罵詈雑言を吐き続けることは無くなるにしても、短気で怒りっぽいはあるんじゃないかなぁって。 多少もともとの資質っぽいし。 |