し、師匠……大変です!!




 私が甘かった。とそう思い知る瞬間がここにあり。

 天空闘技場にたどり着き。

 長い長い列に忍耐強く並び。

 受付では格闘暦十年と誤魔化して記し(私自身の格闘暦はともかくクラピカそのものの格闘暦は知らないし)そうして戦った第一戦は、本で読んだ程度のあっけない闘いだった。

 だから、油断していたと思う。

 天空闘技場は甘くなかった……。




 師匠! 師匠! なぜ私を放り出したのですか!

 外の世界の厳しさを知っていたらもう少しぬくぬくとしていたかった。

 分ってはいたんだけどね。

 ぶっちゃけあからさまに才能の無かった二人の兄弟子と違って、私はクラピカボディに完全に依存しているとは言え、そこそこの才はあったと思う。

 あくまで私の才能ではなくて、クラピカの才能だけど。

 作中でもクラピカはクラピカの師匠に、何かそんなことを言われていたような気がする。

 ゴンやキルアのような本物の天才じゃなくても、みたいなやつ。

 それにエンペラータイムが付いたらその間だけは天才にも近づけ……るかな。

 まあそれは本物の天才に出会ってみないと差異がわからないところだけど、蜘蛛専用の能力にはしなかったから、そこそこ戦うための念も使える。

 ハリセンとか、ハリセンとか、ハリセンとか?

 ……ハリセン、どうにかならないかな。

 師匠のところ出ちゃったら、もうハリセンで突っ込みたくなるような対象も居ないし。

 まあ、とにかくだ。

 そこそこの才能があれば、二年も師匠の元に居れば念に関してはそうそう学ぶことも無くなる。

 格闘と違って、念は最終的にはかなり個人単位で分化するから。

 基礎と、出力の方法とその鍛錬の方法と、学んで、覚えて、念同士の戦い方と言う物も体に叩き込まれて、自分の能力も開花した。



 ハリセン、だけど。




 卒業は念に関してはもう教えることは無いから子弟の関係は解消ってことだろう。

 まだ格闘に関して学ぶなら残ってもいいし、外にでて学ぶのもいいっていう選択肢、だったと思う。




 後々になってから好意的に解釈したものだけど。

 そうだったらいいな〜〜、なんてね。





 そういえば、鎖が出来たのはクラピカの執念じゃないかと思っている。

 もしかしたら私が使っているこの体の意識の奥底には、まだクラピカが眠っているんじゃないかと思うとドキドキだ。

 もし蜘蛛に出会ったりしたら私の意識なく赤い目になっちゃうんじゃないかって思うと怖い。

 やだけど、カラコン付けるべきなのだろうか。

 どちらにせよ、というかなんにしても現状では表に表れない、そして私に感知できないならそれは死と代わらないと思う。

 まあとにかく、いろいろとぐだぐだ前置きが長かったけど、闘技場じゃ二百階に上がるまで武器は使えないのだ。

 そして私は特質交じりの武器具現化系。

 日々の鍛錬では武器を具現化できるようになってからはそれを使用することのほうが多かった。

 なんと言っても念使いとの戦闘が想定されている。

 天空闘技場と私の相性は――最悪といえた。




「レディース! エーンド! ジェントルメーン!!」

 興奮気味のアナウンサー。

 というか、これなんていうんだろう。

 自分の心臓の音で周囲の拍手喝采が消えそうですよ?

 純粋に格闘を学ぶために念は禁じ手――とか言ったの誰ですか?

 ごめんなさい過去の私です。

 相手の人はとても強そうだった。

 でも決めたからにはギリギリまで守ってみたいと思う。

 何も命の奪い合いするわけじゃない……筈だし?

 ファイ!

 とか聞こえて、多分始まったんだと思う。

 先手必勝!!

 と思って飛び出したらその勢いのままこけた。

 やばいよ私。

 緊張しすぎ。

 立て直した直後、頭上を掠める重たい雰囲気の風。

 とっさに手をかざしたら朱が散った。

 ……。

 ご、ごめんなさい! 爪が伸びていただけなんです! 事前に検査もされているから刃物は持ってないって!

 し、師匠!!

 怖い、怖い! めちゃめちゃ怖いじゃん!!

 そんなに睨まないでよ!

 逃げる。

 もう逃げるから!

 目標設定変更する!!

 念を使わずに勝つ、じゃ無くて念を使わずに逃げ切るに変更!!

 それから私は逃げまくった。

 でも逃げる余裕も無いほどの猛攻で追い詰められる。

 やっぱり最初に体制を崩したのが不味かったと思うんだよね。

 血を見て引いているうちに追い討ちかけられて、体勢立て直させてくれないし。

 どうしよう。

 もう念解禁してもいいかな。

 意志薄弱優柔不断? どれでもいいけど命には代えられないよね。

 当たったら死にそうだし。

 いつ? いつ? いま!! とおもったら、ふっと目の前に迫っていた豪腕が遠くなった。

「おまえ、なかなかやるな」

 えーっと……この場合は冗談は良子さん?

「最初の一撃といい……おれの攻撃をここまで避けるやつはそういないぜ」

 それはそれは大変よろしかったことです。

「それに、まだまだ余裕がありそうだな」

 ちょっ、それこそ冗談は良子さんだよ!!

 あらぶる呼吸を抑えるのですでに一苦労だって!!

 この精一杯の虚勢が見て分らんのか!(っていうか、見破られたらおしまいだけど!!)

「登録名は本名なのか?」

 ええ?

 本名といえば本名だけど世界人民ナンチャラに登録されている名前は多分別だろうしこうして聞かれた場合はどっちを本名として名乗ればいいんだ?

 沙玖夜を名乗ってあとで人民ナンチャラに居ないじゃないかとか言われてもやだし、けどクラピカなんて今更自分で名乗る物じゃないし――

「ほ……う。オレに名乗る名前はないと?」

 イエイエまさかとんでもない!!

 ちょっと考えていただけですって。

「面白い! 俺が勝ったら力ずくでも聞かせてもらうぜ!!」

 ちょ、まっ、いやーーーー!!









 結果だけを言うと私は勝った。

 いくぜー! とか気合を入れて飛び掛ってきた人には申し訳ない勝ち方で。

 徹底的に隠で隠した具現化したチェーンで足を引っ掛けて転ばせて。

 重い踏み込みを引く時に相手だけじゃなくて反動で自分も引き摺られて、具現化したチェーンを消しても勢いはなくならない。

 空中で体勢を立て直せずに居る相手の後頭部に、私の右かかとが綺麗にクリーンヒットした。

 すとん、とピクリともしなくなった対戦相手の上に降り立った。

 ごめん。ごめんね本当に。

 私もただ立ち上がりたかっただけなんだ。

 大丈夫かな。泡吹いてるけど……。

 頚椎は大丈夫だと思う。感触的に。

 けど、靴のエッジで頭皮を切ったみたいで第二の流血の惨事だ。

「なんと、なんと!! 小さな体の美少年が対戦相手を翻弄した挙句にノックアウト!!」

 とか何とか聞こえてくる。

 もう片っ端から勘弁してくれといいたくなるような言葉がよくも続々出てくるものだと思う。

 いかに私が相手を翻弄し弄んだ末に流血の決着を付けたのか、とか捏造しすぎ。

 私泣きたい。

 ああ、テンカウントが遠い……

 お願い。私を休ませて。




 この試合の後で分ったことだけど、どうやら私の対戦相手の人あの後記憶喪失になったらしい。

 打ち所が悪かったんだろう。

 そのせいで次の試合から私に変なリングネームが付いた。




 忘却劇場ヴァーミリオンミラージュ




 なんか、罰当たるようなことしたっけ?

 父さん、母さん、師匠でも兄弟子でもいいや。

 なんか、寂しいよ……。







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