華麗なる……日々?
無事に船を降りられたが疲れまくっていた私は、ゴンとレオリオに一本杉に行かずに試験会場まで行かないかと提案した。
キラキラと輝くゴンの目。
「凄いねサクヤ! 試験会場の場所まで知っているなんてさすがだよ!」
うわぁぁぁぁああ!!!!
なに! このフラグ!!!!
一通り悶絶した私はとりあえずゴンたちとは別口でザバン市を目指す事にした。
あの狐もどきの魔物……っぽい生き物達の芝居に付き合えるとは正直思えなかったからだ。
芝居をしているって分かっているのにのりのりで付き合うのはなかなか難しい。
幼いころの学芸会の記憶がトラウマとなって私に演技をさせてくれない。
大根役者は根っからだ。
無理だな、と思った私はゴンに試験会場知ってるから言っちゃわなぁい? とお誘いしたわけだがあえなく陥落。
そんでもってあの謎のフラグを立てちゃったりしてきたんだけど、
「でも、俺行って見たいんだ!」
そういわれればそれ以上返す言葉もない。
レオリオどうするかなー、と思っていたら案の定やっぱりゴンと一緒にいった。
これが主人公の吸引力か。
いいけど。
そんなわけで時間的にも余裕が出来て一人先にザバン市にたどり着いた私はふらりふらりと市内を彷徨っていた。
先に試験会場に入っちゃってもよかったんだけど、遅れるのはもってのほかとしても早くたどり着いてもあのいや〜な空気の中でトンパに絡まれながら過ごすのか、と思うと早めにいく気にもならない。
そんな私の目に映る、一見の店。
……年齢的にもこれが最後だな、と思うと気の引かれるものがある。
どうする。
考え悩みその挙句。と言うのはちょっと大げさかもしれないけど、これから人間関係が広がっていくとなおさら無理だよなぁ、と思うと!
私はふらりとその店に入っていった。
気が付けば二時間半。
「これが――私?」
と思わず恍惚と呟いて自己嫌悪した。
こっちに来て、クラピカになってから初めて全身全霊でお洒落をしたのだよ。
しかも女物で!
女装だ!!
それがまたクラピカには似合うの何の。
確かクラピカはそろそろ十七歳のはずだった。
ヨークシン編では女装をしていたと思うけど、私にはそんな旅団とやりあうイベントなんて起こすつもりは無いからしてそのときに女装をするつもりはない。
というか知人の前じゃいやだよなぁって。
クラピカの体は適度な栄養と適度な……まあ、適度な運動と遺伝的要素とが相まって順調に成長している。
そのうちもっと肩幅が広くなってきて、胸板に厚みが出てきて、特に大仰な誤魔化し無く女物の服が着られるのって今のうちだけだと思う。
年代的にこの年頃が最後だなぁとおもうと、男クラピカではなくその中身である私、女サクヤが疼くというか。
そんなわけでブティックに入って、もう二度とザバン市には立ち寄らない覚悟で恥を忍んで女物の服を買ってその場で試着していたら似合うものだから店員さんも調子に乗ってあれもこれもと進めてくる。
実は店長さんだったらしいその人は「ちょっとまってて」と真剣な顔で言ったかと思うと奥に引っ込んで、戻ってきた時には大きなメイクパレットを抱えていた。
……期せずしてフルメイクバージョン。
かんっぺきに外見は美少女になった。
鏡に映るのはいい汗かいた! といった風に額を手の甲でぬぐいながら満足げな笑みを浮かべる店長と、なれないお洒落に気恥ずかしげな美少女だった。
仕上げにシュシュッと吹きかけられた柑橘系の香水の香りが心地よい。
見た目が美少年から美少女に変化していくにつれてだんだんと鏡を気にする回数が多くなって見たり、ちょっとの移動でも内股気味にスカートの足元を気にしてみたりするようになった。
これが女の子だよね! とやっている最中はむしろノリが良かったのだが。
一旦落ち着いてしまうとなんだか虚しい。
目の前の鏡の中に居るのは中身が私でさえなければ存分に鑑賞するのに、と思う美少女だ。
さすがクラピー。
そのままの姿で外に出て、喫茶店に入ってコーヒーを頼む。
その間にもナンパが五件。
サテンでコーヒーを飲んでいる間にも視線が刺さる。
てめえらが見ほれてるのは実は男なんだぜ? といいたい衝動がむくむくとわきあがる。
しかし、なんだろう。
着替えている最中は女の子の自分がとても喜んでいたのに、こうなってしまうと満ちてくる倦怠感は。
あれだなぁ。
どんなに見た目が美少女でも股の間に余計な物が付いているんだ。
これでまた「男供の視線が釘付け! ぞくぞくしちゃうわ!」とか思えたらもっと楽しいんだろうな。
倦怠感に包まれて物憂げに窓の外を眺めていた。
広場の時計が時間を刻む。
そしてハッと気が付いた。
やば。
幾らなんでも時間が無い。
がたん、と立ち上がり急いで会計を済ませると外に出て走り出す。
そして気が付いた。
私はまだスカートのままだ!!
どうする。
逝くしかないじゃぁないか!!
着替えている時間など無いのだよ。
女装姿でゴンたちと出会うだろうという悲壮な決意をもって私は立ちあがった。
思考の隅で僅かに気が付かれなければ良いな、という希望を抱いて。
飯屋に行く途中の十字路で勢いよく誰かにぶつかった。
どん、と尻餅をついた相手は――
「てめーこの野郎気をつけろよな!」
「あの、お名前を教えてもらえませんか」
「サ(クヤじゃ拙いし)クラ(ピカでも拙すぎるし)」
「サクラさん、ですか」
「……ええ、そうです」
サクヤは済し崩し的にサクラの偽名を手に入れた!!(FFっぽく)
……なんで、こんな事になってるんだろう。
ゴンとあの狐っぽい魔物? の人たちは私とこの相手、レオリオのことを遠目に見ている。
ベタな展開で曲がり角でぶつかって怒鳴られたと思った次の瞬間には私を見上げるレオリオの頬がぽっと桜色に染まった。
私の背中にはぞっと怖気が走った。
誰よこいつ! というくらいレオリオが別人だ。
私は思わずきょろきょろしてしまう。
今この状況、あの鼻の利くゴンもサクラと沙玖夜が同一だとは気が付いていない。
気持ち悪くもじもじとしているレオリオが決意したように顔を上げた。
「さ、サクラさん。あの、一目ぼれなんです。僕とお付き合いしてくれませんか!」
カカッ! と私の中に衝撃が走った。
そんな決意いらない!!
なんとしても逃げ出そうと決意した私の頭に天啓が下る。
「レオリオさん、私……」
跡形も無く吹っ飛ばせ!!
「ごめんなさい! 好きな人が居るの!!」
ガガーン! という擬音が聞こえてきそうなようすでレオリオが硬直した。
発動した完全無欠に振ってしまえ大作戦!
そのうちにギギギギギギギギギ、と油の切れたなんとやら、と言うか本当に骨が軋んでいるような音を立ててレオリオが再稼動する。
「い、いま、なんと?」
「私、好きな人が居るの」
「好きな人ぉーー!! それは、それはどんな奴です! 教えてくださいサクラさん! 俺は、俺は必ずそいつよりいい男になって見せます!」
「無理よ、絶対に……。私は、あの人しか愛せない」
鼻息の荒いレオリオを見ていられなくて目を逸らしながら聞こえる程度に呟く。
「そんなことを言わずに、教えてくれ! 俺は、俺はー!!」
熱血の入りだしたようなレオリオを前に私は内心で頭を抱える。
どうして食いついてくる。
これ以上の言い訳なんて考えてない。
あとはもうサイコさんになるしか道はないのか!!
悲壮感に苛まされたそのときに、ふと私の脳裏に天啓が下った。
そもそも何故! 曲がり角でぶつかるなどと言うベタな事態を引き起こすほど注意力を欠如していたのか!
それは時間が無いからじゃ〜ん?
イエス・サー
「ごめんなさい! 私、もういかなきゃ! 私の好きな人がハンター試験を受けるの。見送りにいきたいから」
そう一方的に告げて走り出した。
後ろから『待って下さい!』とか『いかないで!』とか聞こえたけどオールオアナッシン。
私は何も聞いていない。
とりあえず私は試験会場に駆け込む前に何とか服を着替えて女装バージョンは処分した。
数万のジェニーがトンだのが虚しい。
エレベーターの中で途中の薬局で購入したメイク落としコットンとウェットティッシュでメイクオフも完璧だ。
すました顔で試験会場に入りこみ何も知らないふりをしてゴンたちを待つ。
「あ、サクヤ!!」
「ゴンか。無事にたどり着けたようだな」
ギリギリ間に合った達成感で自然と顔に笑みが浮かんだ。
向こうに居る燃え尽き症候群については気にしない方向で行こう。
にぱぁ! と笑みを浮かべたゴンが次の瞬間には少し驚いたような表情をしてくん、と鼻を鳴らした。
「どうしたのだ?」
尋ねたらくんくんとしながらゴンは言う。
「ねえサクヤ。サクラさんって知ってる?」
「サクラ?」
「うん、なんかねぇ、ここに来る前にあったサクラって人と同じ香水のにおいがするんだ」
「さ、サクラさん!」
と、ゴンの言葉にバーンアウト症候群がキュピーン! と再起動する。
侮りがたしは野生児か。
香水か。
香水が仇となったか!!
だがこの野生児の嗅覚からすると、香水をつけていなかった場合にはそのままサクラからサクヤのにおいを感じ取っていた可能性は高い。
白を切るべきか否か。
だがこの野生児の鼻は誤魔化せないと私は判断した。
ぎらぎらと私を見つめてくるレオリオが怖かったのでゴンをつれて距離をとる。
「ああ、幼馴染にそういう名前の子は居るが」
女装の自分、というなにか後ろめたさも感じながらも実際にサクラって幼馴染はいたしなぁとも思う。
クラピカにはありえないだろうけど、沙玖夜だった私の周囲には桜、小菊、桃、桔梗、蓮華、葵。
幼馴染じゃなくても花の名前を持つ女性は自分の周囲にこれだけ居た。
花子ちゃんも。
可愛い子だったなぁ、花ちゃん。男の子だったけど。
七歳になったら改名して花男になってた。
どんな家だったんだよと今なら思う。
その時、
「ぎゃーっ!!」
とこの地下空間に野太い悲鳴が響き渡った。
ぎゃーっ! と私の心臓もすくみあがり反射的に身をかがめた。
床に手を着いて息を整えながらふと思い出す、もしかヒソカの嗜虐心がうごめき出した時か!
ひらり、と髪の毛が数本床に落ちて私の背後からもう一つ悲鳴が聞こえた。
……ヒソカ怖いヒソカ怖いヒソカ怖い……。
ふと恐怖に耐え切れなくなって顔を上げるとヒソカがニンマリと笑っていた。
ぽ、ポーカーフェイス、出来てる? オーケー? 私。
てゆーかー。
原作じゃ一人だったよねここでの被害者。
二人に増えてない? ヒソカ密かにパワーアップしてない?
そ、それとも私のせい?
二人目の被害者の位置関係がすっごく気になるんだ。
ヒソカと私の直線上……。
も、もしかして狙われたのは私!!
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