う、うわぁぁぁあああん!!!!




 ゴンとかレオリオとか、良くこの臭いの中大丈夫だよな、と思ったけど一人だけ臭いがだめだ〜とか言ってるとだんだん自分のほうが過敏症? って気分になってくる。

 自分が敏感なわけじゃなくて全く平気そうな顔してるゴンやレオリオのほうが図太いんだと思う。

 ゴンはゲロなんかで涙目になるような神経していないのはマンガを読んでいればわかるし、レオリオに関しては医者目指しているならげろていど、なのかなぁ。

 船室の外に出たいが、出たら出たではねとばされて一巻の終わりのような気もする。

 すんごい嵐が来ていた。




 自前で衝撃吸収性の良いハンモックを吊るしていたから今のところ無事だけど、一度この嵐に巻き込まれたらその最中にはハンモックを吊るす余裕も無い揺れだ。

 私もクラピカボディの三半規管を持ってなかったら吐いていたと思う。

 必死で眠ろう眠ろうと努力しているうちに気が付けば嵐がやんでいた。

 こまごまと船上を走り回り小さいことながらも乗船者達のケアをする黒い頭を見ていると、自分がとんでもない薄情者に思えて心が痛む。

 だがここはハンター志望者達の来るところ!

 ここでダウンしていては明日は無いのだ! と心を鬼にして見ない振りをする。




 ちらりと同室にでやっぱりハンモックに乗っているレオリオを見れば、何食わぬ顔で本を読んでいた。

 見るからにチンピラだ。

 本気で見事なまでにチンピラだ。

 ついでに年通りに見えない。かなり老けて見える。

 ああレオリオだな〜、って見ていたらなぜか睨みつけられた。

 なのですごすごと視線を撤退させる。

 やはり不躾だっただろう。




 そのうちに船長から放送が入って蜘蛛の子を散らすようにハンター試験受験者達が逃げていく。

 この船に乗っていても辛いだろうけど、救命ボートやイカダじゃ陸までたどり着く前に強烈な嵐に遭遇してそれこそ一巻の終わりだと思うんだがどうだろうか。

 藁にもすがる者に正論は通じないか。

 というかさ、あれだけの逃げ足で逃げられる元気があるならここでもう日と踏ん張りも出来たんじゃなかろうかと心底思う。


「結局客で残ったのはこの三人か。名を聞こう」


 とまあ、こうなるわけだ。




「俺はレオリオという者だ」

「私の名はサクヤ」

「俺はゴン!」

 たしか自己紹介のシーンのクラピカはこんな感じだったよね、と言うのをなんとなく思い出しながら言ってみる。

 あのシーンはどどん、としていてけっこうカッコよかったと思う。

 自己紹介をしたら、じーっと二人に見つめられた。

 いやん、恥しいわぁ、じゃなくて、こう、目を見開くって言うか、驚くっていうか、凝視? 何があったんだろう。

 なにさ〜、と睨み返していたら船長が叫んだ。



「あんたまさか忘却劇場ヴァーミリオンミラージュか!?」



 え、はぁ?

 なんでこんなところに来てまでその名前を聞かなくちゃならないのよ。

忘却劇場ヴァーミリオンミラージュ? なんのことだ」

 しらばっくれるに限るよねぇ〜。

 というか黙ってくださいバトルマニア。

 ハンター試験の試験官? の一人であるからして全く興味が無い人だとは思わないけどまさかたかが個人の名前で思い当たる事ができるほど知っているのは以外だった。

 天空闘技場での珍事をこんなところにまで持ち出さないでほしい。

 私にとって忘れたい過去の一つだ。

 今日だって天空闘技場にいたのがばれないようにかる〜く変装してきたのに。

 といっても名乗った時点で知る人は知るだけど。

 偽名でも使っておけば良かったと思うけど後の祭り。

 そもそも天空闘技場って訪れる人の多くは名前を売り出すことを目的にしているから私のほうが異端だ。

「しらばっくれるなって。俺も録画だけど見たことあるしよ。あの渾名が付いた時の試合、凄かったな〜、お前」

 見たのか!!




 あれは、偶然だ!!!!!




 といいたいが白を切った手前言い出せず思わずカッ! とレオリオを睨んでしまう。

 そうしたらレオリオがビク、と震えて怯えたように後退ったので私は慌てて表情を緩めた。

 だめだ、忘れるなサクヤ!

 クラピカは美形だ。

 美形に睨まれると――かなり怖い!!

「す、すまねぇな。なんか気に障ったみたいでよ」

「いや、何のことだろうか」

 とあくまでしらばっくれる私。

 事情の掴めないゴン。

 事情がわかっていないんだろうにごく素直な表情で言った。

「なんか良くわからないけど、忘却劇場ヴァーミリオンミラージュって名前、カッコイイね」

 がーん。

 なんか、何か無いだろうか。話題の転換を図れるものが。

 きょろきょろと首を動かしたその時、バキィ! と木の割れる音が響き渡った。

「カッツォ!」

 ええ? ちょっと早くない?

 マンガで決闘騒動まで発展する時間を考えればもちょっと掛かるよね?

 そう思いながらも私は駆け出していた。




チャンスだ!!!




 待ってろカツオ! 今一本釣りにしてやるからな!!!




 駆け出す私に並走し、通り過ぎてゆくゴンと遅れてくるレオリオ。

 タイミングと位置が悪かったのだろう海に投げ出されたカツオを掴んだゴンは既に遠く飛び出ても手が届かない。

 これで救助対象は二人だ。

 おかしくない? 私にはゴンとクラピカトレオリオのミラクルプレーは再現できないと思って随分以前から気にかけて、頑張って走って、結局ゴンに抜かれるの?

 って、ちょっとまて。

 海に投げ出されている人物が二人。

 二人?

「二人!!」

 私は叫んだ。

 ちょっと無理だって!!

 とそう思いながらもレオリオが後ろに着たのでもう一度叫ぶ。

「二人を助ける。私を支えていろ!!」

 泣き言は、やれるだけのことをやってからだ。




 突き出した手から鎖が伸びていき放り出された二人を絡め取った。

 二人分のの重量は揺れる船の上でさえなければまったく問題ないのだがここでは非常に大きな問題になる。

 投げ出された一人目のカツオで一次災害、助けに飛び込んだゴンで二次災害、それを掴んだ私まで投げ出されてしまえば三次災害になる。

 くっ、と歯を食いしばった時、もう一人私を支える手があった。

 船長だった。

 これなら! と私は全身に力を籠める。

 操作が危うかったクラピカの怨念のように出来上がった鎖も無事に二人を吊るしているのは分る。



 ――肝心の二人は既に海中だけど。



「いっ」

 ぽん釣りぃぃぃいい!!



 とは心の中で。

 二人の人間は吊り上げられたカツオの如く空高く舞っていた。




















 必死になって唸る心臓を宥めていたらばしばし肩や背中を叩かれた。

 船長にレオリオに船員達に片っ端から私を叩く。

 痛い、痛いって!!

 片っ端からよくやった、とかありがとう、とか言ってくれるけど、それならもうちょっと穏かに、穏かに、ね? ね?

「さすがはあの忘却劇場ヴァーミリオンミラージュだ。本当に感謝している」

「だから、何のことなのだ」

「謙遜するな。あんたの試合はいつも面白いからな、贔屓にしてみていたぜ」

「だからなんの」

「おーい野郎共!! 我等が英雄忘却劇場ヴァーミリオンミラージュを迎えて宴会だ!!」

「だから、私は違うと!」

 誰か私の話を聞いて!

 だってほら、先に知っていたから行動できただけで普段の私の反応速度じゃ無理だったような気がしないでもないし、ああ、ゴン、そんな目で見ないで!!

「ありがとうサクヤ」

「当たり前の事だ」

 罪悪か〜ん、罪悪か〜ん。



 ああ、なおさら風向きが悪い気がする。

 おかしい。

 風向きを変えようとしていたんじゃなかったのか? 私は。

 しかもなんだこれ。

 昔読んだ勘違い系の小説のような……あれ、大概誤解を解こうとした挙句さらに誤解を深めるという……。



 う、うわぁぁぁあああん!!!!






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