アイ・ラブ・チキンハート!




 それでまあ、しゃきっと念を起こしてもらいました。

 結局無理やり。

 努力とか忍耐とか、根性とか。

 私に求めないで欲しい。

 乗移った肉体であるクラピカの才能に期待した、というよりは、私のもつ知識に期待した。

 一時期クリスタルヒーリングとチャクラにはまっていたのだ。

 瞑想が嫌いで長続きしなかったが、まあ、きっと、何とかなるさ!!





 そんなノリダッタケド。





 結局なんとかなる辺り、私も少しは自惚れていいかな。

 一日寝込んだけど。




 あれって疲れたなんてもんじゃないね。

 生命力をバカバカ消費してるって言うの?

 止められるまでは焦ったし、止められてもその日は疲労困憊。

 こういう時にゴンやキルアの才能ってやつを感じるね。

 信じられんよあれ。

 精孔開けてからものの数十秒で纏をしたあげく、何の後遺症もないし、バリバリ動いてヒソカと対抗して二百階に登録しに行っている。



 あれこそまさに主人公補正!!



 別に欲しくないけどさ。

 一応翌日には目が覚めて、薪割とか、兎追いとか、普通の生活+αになったけど、師匠も酷い。

 復帰直後のあれは、生半じゃなく疲れた。

 いや、全てが終わった時には、念を起こしたときより死ぬかと思った。



 まあ、とにかくその日から、私に対する念の守秘の意味もなくなって、私もときどき師匠や兄弟子が念を使っているところを見るようになった。

 師匠以外は発も出来てないようだけど。




 纏、錬、絶。




 一週間で一通り習って、一週間は念については殆ど遊んでいた。

 まずは感覚に慣れろって。

 二次小説を読みすぎた私にはどんな教育方針だよ、とか思ったんだけど。



 そんな折だった。






「なぁ、サクヤ」と。

 いつもは陽気でのんきで、鉄のハリセンか鉛の入ったピコハンが欲しくなるようなくだらない下ネタギャグを十二歳の子供の前で飛ばすこともある師匠が、妙に言いずらそうに切り出してきた。

 こ憎たらしい兎を追いかけていた直後で、呼吸が苦しくて、でも必死にそれを押し殺して顔を上げた。

 苦しすぎて返事は出来なかった。




 ふふ、若輩とはいえ念使いの足を振り切るとはなかなかやるではないかあの兎!!

 いつか必ず兎ソーセージにしてやるからな!!




 乱れた息を押し殺し、平然を装う顔の下で、私は固く決意を固めていた。

 何を意地になって息の乱れを隠すのか言えば、何となくシリアスの雰囲気を感じたからだ。

 シリアスに、ハァハァ息を切らせていては締まりがない。

 師匠、もう少し時を考えてきてください。







「お前もしかして、クルタ族か?」

 おおー、と内心で拍手をおくる。

 だがシリアスだから、表には出さない。

 でもちょっと舌打ちしたい気分。

 クルタ族であるとばれるのは、あまり好ましくない。

 クルタ族が滅ぶ事で、ある意味でクラピカの緋の眼は希少価値を上げてしまったのだ。

 形あるものはいずれ滅ぶ。

 緋の眼は、一時的に流通を増やしても、これから増える事はない。

 さて、どうしようかな?

「そうだとしたら、どうしますか」

 尋ねておいてなんだけど、どうするのかはむしろ私よね。

 普通に生活していると、すぐに自分がクラピカだって事が意識から跳んでしまう。

 クラピカだということを忘れるということは、今使っている体がクルタの血を引くということも同時に忘れているということだ。

 クラピカを名乗らないのも原因なんだろうけど、これは譲れないライン。

 私の人格は、サクヤの名前に護られる。

 この世界にいるとなおさらそう思う。



 だって見た目はどう頑張ってもクラピカでしかないのだから。



 すでに私はクラピカでも、まして沙玖夜でもないのだろう。

 この身は歪な存在。

 クラピカを殺し、沙玖夜の名を名乗っても、だんだんと心は体のあり方に引きずられている。

 クラピカでもなければ、すでに沙玖夜ですら、無い。

 生きたまま自分殺しを成しえたような物だが、それがクラピカに対して何の免罪符になるのか。

「どうもしねぇよ。お前は俺の弟子だからな」

 う〜ん、よくわかんないけど、この人いい人!!  根が善人だ。

 よし、決めた。

 この人にも一緒にクラピカを弔ってもらおう。

 いつか忘れられても、世界にクラピカと言う人間がいたことを、知ってもらいたい。

 なんとなく思う。





 クラピカを知ってくれることは、沙玖夜の存在を知らせることだ、と。





「滅んだクルタの生き残った一人。国際人民データ機構にその人物はクラピカと言う名で登録されているはずです」

 師匠が怪訝そうな顔をする。

 確かに私の言い回しは変だろう。

 でも口を挟まずに聞いてもらう。

「ですが、クラピカは、殺しました。サクヤと言う名が」

 師匠の目が険しい。

 なんだか勘違いを引き起こしそうな言い回し。

 でもねぇ、なんだか難しい事考えられないのよ。

 感情が高ぶっている。

 誰かを殺してしまった恐怖に。

 目の色が変わっているのをオーラで体感する。

 これが噂のエンペラータイムかぁ、とか思うことで、何とか目の色を戻そうとした。

 努力はあまり上手くいっているようではなかったけど。

「一族の滅びを見届けて。その亡骸を地に返し。その時クラピカも死にました」

 ちゃきちゃき事情を話すわけには行かないから、何とかクラピカと沙玖夜と言う二つの名を認めてもらいながら、抽象的にも受け取って欲しい。

 私は我侭だ。

「この先どこかでクルタ族の血が発現し、誰かが緋の眼を得る事があっても、それが一族となる事はないでしょう。クルタのクラピカは、一族と共に死んだんです」

 

 自ら作った墓の前で、瞼を腫らしていたこの体。



「クラピカの死を悼み、私がサクヤである事を――師匠には認めてもらいたい」

 殺したのは私だけど、クラピカを悼む気持ちも本物。

 でも誰かを押しのけてでも、自分の存在を認めてもらいたい気持ちも本物。

 私は不安定な存在だから。

 サクヤでありながら、肉体に関わる全てをクラピカに依存しなければならない。

「サクヤ」

 名前を呼ばれた。

 師匠の人の良さに、つい苦笑が漏れる。

 本当にいい人だ。

 愛すべきチキンハートだ。







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