ひと匙の幸福



 あの魔女戦争が終わってから数年たって、俺はリノアと結婚した。
 ガーデンは形を変えて行ってSeedがSeedで居られる期間も随分延長されたが俺は20歳でSeedをやめた。
 Seedとして最前線に立つこと。
 それよりも俺にはやることがあると思ったからだった。

 Seedを保護し、Seedの地位向上に努め、魔女を保護し、魔女の地位向上に努め。
 つまるところリノアと俺にとって暮らしやすい世界を目指した。
 毎日は充実していた。
 俺もリノアも忙しく立ち働いて、そして愛し合った。
 リノアはよく笑っていた。

 だがそれもある日突然終わりを告げた。
 まさかこんなに早く来るなんて。そんな気持ちだった。




 リノアは魔女の力のせいか老化に影響が出てきていて、そろそろ五十も後半だというのにまだ三十になるかならないかと言うくらいの年齢にしか見えなかった。
 少しずつ記憶と思い出が侵食されてきているのは本人も周囲も感じていた。
 ただ失われる記憶より多く、強く、新たな記憶を刻めばいい、そう言ってリノアは笑った。
 だから、俺も安心していた。
 違う。油断していた。

「リノア」

 呼びかけても返事が来ない。
 いぶかしんで振り返れば立ち尽くしたリノアが亡羊とした眼差しで俺を見ていた。
 不安そうに俺を見る。
 リノアのこんな目なんて、まるで見ず知らずの他人を見るような、こんな目は今まで見た事がなかった。

「リノア?」
「……あなた、誰?」

 覚悟はしていた、つもりだった。
 ショックだった。

「まさか、俺が分からないのか?」
「ご、ごめんなさいっ! スコール、何処?」

 語調が強くなった俺の言葉に怯えたように肩をすくめて謝って、リノアはスコールを探した。
 目の前に居るはずの人間のことを、不安そうに。
 その時、俺たちの生活は終わった。




 リノアはリノアの願いでパッキング処置を受けた。
 あの俺の事がわからなくなった後、俺がスコールであると言うことを仲間たちから知らされてショックを受けていた。
 もうこれ以上は、と。
 俺は止めた。だけどリノアの意思は固く俺にはもう止められなかった。

「もう平気だよスコール。暖かくて幸せな時間をた〜っくさん貰ったから。だから、平気だよ?」

 胸を張ってそういうリノアが痛々しかった。




 リノアはあのと時の仲間たちの目の前でパッキングされた。
 宇宙には飛ばさせなかった。そんな事、させるわけが無い。
 俺たちは皆そのために奔走した。

 ガーデンをまとめ、後継者を見つけ、育て上げて、ガーデンを委譲するまでにそれから数年掛かった。
 俺も、もう直ぐ60歳になる。まだ体は自由に動く。だが回復が遅くなったりなどの衰えは確かに感じていた。急がなければならなかった。
 ガーデンを後継者に預け、俺たちもまた冷凍睡眠の処置を受ける事でリノアを待つことにした。
 もし、リノアが目覚める事があったなら、一人にしないために。
 俺の仲間たちも付き合ってくれた。
 キスティスが、セルフィが、アーヴァインが、ゼルが。
 シュウやニーダ、サイファーは俺たちが眠りに付いたあとのガーデンをもうしばらく、多分その命が尽きる時まで見守ってくれると誓ってくれた。
 だから俺たちは安心して眠りにつけた。
 多分、今生の別れだろうとは分かっていた。









 およそ百年の時が経った。
 パッキング処置を受け冷たく眠れる魔女リノアの前に立つ人間達が居た。
 それは彼女の知らない人間達だった。
 百年、魔女の居ない世界に住んでいた魔女を知らない世代の者たち。
 その者たちは歴史の中に落ち込んだ魔女の力を、己のために求めていた。

 魔女派、と呼ばれる人間達の派閥だった。
 魔女を解放し、魔女の力により世界は統治されるべきだ。

 ハインの正統なる後継者魔女はパッキングなどで眠らされていていい存在ではない!

 だがそう訴える彼らの言葉の裏側には、他の誰よりも濃厚に魔女を利用した独裁への野望が溢れていた。
 彼らは眠るリノアの前に立ち、彼女のパッキング処置を解いた。

 眠れる魔女は彼らの前で目を覚ます。
 瞬き、彼らを見上げ呟いた。

「ここ、どこ? あなたたち、だれ?」

 不安そうに。
 そしてその次に呟いた言葉に彼女を解放した者たちは狂喜した。

「私……誰なの?」

 名前を覚えていない魔女。
 自分を覚えていない魔女。
 歴史に残る伝説のSeedのことも、彼女の愛した夫のことも、誰のことも覚えていない。
 そして不安げに自分たちの事を見る。
 使える、と彼らは思った。

「偉大なるハインの末裔、そんな事より久しぶりの外でございしょう。どうですか? まずは出てみませんか」

 そう言って彼女を解放した者の一人は微笑んで彼女の手を取った。
 その心のうちは表す事無く。
 何も分からない不安の中で微笑まれてぎこちなく微笑み返し、彼女はその男の手をとった。

 ガラス張りの回廊に出て彼女は空を見上げた。
 アーチ型のガラスの向こうでは星が燦然と輝いている。
 暗闇に沈むパッキング施設、魔女記念館。
 彼女の解放はもちろんこの施設の管理者やガーデンに許可を得たものではない。
 彼女を解放した者たちは魔女を手に入れるために実力行使に出ていた。襲撃は、夜。闇に潜んで行なわれていた。

「ああ、今日は月が綺麗ですね」

 彼女に手を差し出した男はそういった。
 その言葉に彼女は空を見上げて呟くように言う。

「私の名前、何ていうんだろう」

 とても不安そうに、心細そうに。
 その不安に男が答える。

「残念ながら私は存じませんが、いかがでしょう。一つ月にちなんで名前を付けてみる、と言うのは」
「つき……」

 本当の名前を知っている、と言うことはおくびにも出さず男は提案した。
 記憶を失っている魔女は彼らにとって都合が言い。
 抗いがたい力を持つ魔女も、今はただか弱い女だ。
 自分の名前を知ることでそこから記憶をよみがえらせて抗うことを思い出されては面倒くさい。

「月と言えばアルテミスでしょうか」

 彼女を解放した者の一人である女が言った。

「魔女の力の源は月にあるとも言いますね。月から来た我等の救世主、と言うことでアルティミシアなどいかがでしょうか」

 また違う男が提案した。

「アルティミシア、か」

 吟味するように彼女の手を取った男が呟き不安げにする彼女へと向き直る。

「よい響きです。アルティメット・メシア。究極の救世主、ともとることが出来ます。いかがでしょうか、アルティミシア様」

 恭しく男は言う。
 その黒ずんだ内心など欠片も見せずに彼女を安心させるため、その心を奪うために微笑む。
 月を見上げて男を見て、彼女はだんだんうきうきしてきた。
 目の前に居る人々はみんなこんなにも私を大事にしてくれる。
 何も分からない私を。
 なら何も不安なことなどないのではないだろうか。

「私の名前はアルティミシア……」

 そしてその時、彼女は伝説のSeedの妻魔女リノアから、彼女を目覚めさせた者たちの傀儡魔女アルティミシアとなったのだ。




 男に手を引かれて魔女記念館の階段を下り彼女は悲鳴を上げた。

「きゃぁ」
「どうされましたアルティミシア様」
「あ、あれ……!」

 彼女の指差す先には無残にも事切れた幾人もの人間達の姿があった。
 怯えるアルティミシアに安心させるように男は僅かな微笑を顔に浮かべ、だが彼女が怯えたそれに対してなんでもないことのように言う。

「あなた様に頭を垂れず、パッキングすることに賛同するような愚かな人間達などただのゴミに過ぎません。愚かな獣達、ならばこうするしかない。あなたが心を痛めることは何一つ無いのです」
「でも」
「さあ、参りましょうアルティミシア様」

 微笑む表情とは裏腹に有無を言わせぬ行動で男は彼女をつれて出た。
 まだ何も分からない彼女はそれが木になった者のほかに頼れる者も無く、何度も後ろを振り返りながらその場を後にすることとなった。

 その日から、魔女アルティミシアの名を掲げ世界に宣戦布告した一団があった。
 魔女の力で有無を言わせず世界を征服すると言う。
 魔女は何も言わない。ただ座っているだけだった。

 彼女はその男に気に入られようとがんばった。
 彼女にはその男しか居なかったからだ。
 誰を頼っていいのかも判らない。誰も頼れる者は居ない。その男のほかには。
 捨てられたら終わりだと、そう思い込まされていた。

 偉大なるハインの末裔としてふさわしくあるような威厳の有る言葉遣いを覚えた。
 あまり趣味ではない服も着た。
 彼らの望むようにあろうとした。
 その男の言う言葉なら、多少の不審があっても全て信じた。

 或る日、魔女が人を殺した。
「これは我等が宮中に入り込み暴虐を画策していた者です。こやつのせいで幾人かの貴方様の僕が犠牲となりました。どうか犠牲となった貴方様の僕のためにも貴方様の手で罰を与えていただきたい。どうかこの憎き罪人に死罰を」
 と、轡を咬まされた善良な人間を。

 或る日魔女が緑の野を焼き払った。
「この野にはあなた様を害そうとするやからが潜んでおります。どうしてそんな奴等を野放しにして置けましょうか。ですがこの野は広く、我々ではとても手が及びません。どうかアルティミシア様のお力で逃げる暇も無いほどに一息に燃やし尽くしては下さらないでしょうか」
 と動物達の憩う緑の野を。

 或る日魔女が村を凍らせた。
「あの村は数日以前より伝染病がはやっています。その病は恐ろしく、放っておけばやがて世界中に広まり甚大な被害を齎すことでしょう。対処は、村そのものを消してしまうしかありません。どうか、ご決断を」
 と、暖かな団欒の日の灯る村を。

 或る日魔女が。
 或る日魔女が。
 或る日魔女が。

 彼女は、恐怖の魔女アルティミシアと呼ばれるようになっていた彼女は、自分がなんと呼ばれているか、自分がなにをしているのか、何も――知らなかった。
 そんな彼女の耳に運命のように真実が転がり込む。

 彼女の住む屋敷の中がにわかに騒がしくなった。
 どうせまた侵入者だろう。
 彼女はそう判断した。
 自分が行かなくても誰かが、誰かに止められなくても自分の下にたどり着くなら自分が手を下す。
 そう暢気に構えて、なにかあれば部屋を出るなと言われていたのを好奇心と共に部屋を出てしまう。
 彼女はここの所何より退屈していたのだ。

 目に映ったのは、はじめてみるはずなのにどこか懐かしさを感じさせる制服のようなものを着た三人組だった。
 赤に染まった剣やナイフを持っていて、その周囲には既に何人かの犠牲者が出ているようだった。
 彼ら自身も満身創痍であり、白かったのだろうその制服は殆どが朱に染まっていた。

「騒がしい」

 不快に声を上げるアルティミシア。
 その声に彼女がここにいるのだとやっと気がついた者たちが驚愕に声を上げる。

「アルティミシア様!」

 と。
 その時、殆ど死に体だった制服の三人組の瞳に力が宿った。

「アルティミシア、覚悟!!」

 声を張り上げ己に活を入れ、最後の気力を振り絞って包囲を抜けると一目散に彼女のところへ走ってくる。
 彼女は腕を振り上げた。
 淡く青い光が灯る。
 それを振り下ろした時、その光は二つに分かれて二人の人間に襲い掛かった。
 苦しみの表情も無く倒れたのは制服のようなものを朱に染め上げた人間が二人。
 最後の一人は彼女の手の中に。
 殺さないように締め上げながら彼女は尋ねた。

「なぜ、執拗に私を狙う」

 彼女はずっと、それが疑問だった。
 あの男にも尋ねたことがある。
 上手い話術だった。だが答えをはぐらかされたのはなんとなく分かった。
 答えてはくれないのだろうと思っていた。
 だからなおさら気になった。
 今この場に、あの男は居ない。
 チャンスだ、と。彼女は思った。

「アルティミシア様!」
「黙れ。今私はこの男に尋ねているのだ」

 首を掴んでいた手を放すと男は無様に床に倒れた。
 荒い呼吸を繰り返しているその男に彼女は慈悲深く微笑みかける。

「どうした。答えないのか?」
「わから……ないのか」
「だからこそ聞いている」
「魔女め……」
「魔女だから、私の命を狙うのか?」
「違う。俺たちSeedはその昔は魔女を守ってきた」
「Seed……」
「聞いてはなりませんアルティミシア様!」
「黙れと言っている!!」

 彼女を制止しようとしたものにアルティミシアは声を張り上げた。
 何か分からないが痛いほど強い感情がアルティミシアの心を占拠した。
 もっと、もっと聞かなければならない。そう確信する。

「お前は罪もない一般人を殺した。お前は豊かな緑の野を焼き払った。お前は、お前はっ、俺の故郷を凍てつかせた!!」
「何を……」
「何故それを知らない! お前がやったことだろう! 全部、全部! 何でやつらは死ななければならなかった! 家族を愛し、誰に危害を加えることもなくただ暮らしていただけだったのに!」
「知らない」
「知らないで済むのか!」
「知らない」
「知らないでお前は何人の生贄を受け取った、何人の人間をその残酷な儀式で呪い殺した!」
「私は知らないっ!」

 いつの間にか偽ることの無い彼女が出てきていた。
 あの男の為に身につけた言葉遣いも行動も何もかもかなぐり捨てていた。

「何故知らない! 何故そんな顔をするっ! お前は、お前は残酷な魔女で居なければならないのに、そうでないなら俺たちは一体――」

 全てを言い切らぬうちに、彼女の視界が赤く染まった。
 振り上げられたナイフと撒き散らされる血しぶきに彼女の思考は停止する。
 呆然とする彼女に向かって既に瞳から焦点を失ったその男は最後の声を絞るようにただ彼女に向けて告げた。
 それが絶対の摂理だと確信したまま。

「いつか、Seedがお前を殺す……必ず、だ」

 血塗れのナイフがもう一度、その男に止めを刺すために振り下ろされた。

「アルティミシア様、大丈夫ですか」

 呆然と。
 呆然としたまま彼女は答えていた。

「なにもない。私は部屋へ戻る。当分邪魔はするな」

 と。




 部屋に戻って彼女は考えた。
 あの男が言っていた言葉の意味を。
 決して多い言葉ではなかったが、色々と今まで彼女の中にあった疑問に答えをくれた言葉達だった。
 何故なのか、と思っても答えが得られずに居た疑問、そして見ない振りをして来た疑問に一度に答えが与えられた彼女の心は渦巻いた。
 何が本当なのか。
 何もかも本当でももう自分はここを逃れられないのではないだろうか。
 恐怖の魔女。自分はこの屋敷の外の世界ではそう呼ばれているのか。

 とんとん、と部屋の扉がノックされた。
 だが部屋の主の了承を得ないうちに彼は入ってくる。
 それはいつものことだった。
 そして彼が運び込んだ風と一緒に柑橘系の香りが漂ってくる。
 いつも不思議に思っていた。
 いつも違う香水の香りを漂わせるこの男を。この男自身は自分で香水はつけないと、そう断言していたのに。

「襲撃にあわれたとか。あなた様直々に二人は手を下したと聞きました。お手を煩わせて申し訳ございません。警備の体制を見直さなければならないでしょう」

 とうとうと流れるように言葉を連ねる男に向かって彼女は精一杯強く、声を上げた。

「もう必要ない」

 ただそれだけを。
 だがそれから全てはそれから始まるだろう。

「必要ない、とはどういうことでしょうか」
「私はもう、あなたたちには従えない」

 告げた次の瞬間には、彼女は激しく殴打されて吹き飛んでいた。
 テーブルに背中を打ち付けて痛みに震えるように男を見上げる。
 痛い。
 例えようもなく痛い。
 目が覚めてから、あの男の手を取ってから、暴力を受けたのは初めてのことだった。

「魔女如きが人間に逆らおうってのか! 人間に負けたハインの末裔が? 今までこうして俺たちに取りすがって生きて来たお前が!!」

 部屋いっぱいにヒステリックなどなり声が響く。

「お前はただ座って俺たちの言うことを聞いていればいいんだ。俺の傀儡としてな」
「なに、を」
「あんたのおかげで色々とうまく行ったよ。邪魔な奴等は殺せたし、見せしめに焼き尽くすのを見るのは爽快だったなぁ? 女だって毎日とっかえひっかえ抱き放題だ!」
「そんな……」
「あんたはいい魔女になったよ。俺たちにとって都合のいい魔女にな。恐怖の魔女アルティミシア」
「そんな、そんな――」
「頭を冷やしてよく考えることだな。ここを出て行ってもあんたにはどこにも行くところは無いんだ。ここで、俺たちの傀儡として生きているのが一番いいに決まってるさ。なぁ?」

 嫌らしく笑い男は言う。

「俺は何もしていない。全部やったのはあんたで、あんたの意思さ。俺の手は綺麗なまま。憎むならSeedでも憎んでおけばいい。あんたをパッキングしたのもSeedさ。そういや、百年くらい前の魔女戦争でもアルティミシアって魔女がいたな。伝説のSeed様に倒されちまったけどな!」
「伝説の、Seed?」
「そういゃ、その伝説のSeed様が倒した魔女は未来の魔女だったっつー話もあるな。奴等の未来に居る魔女アルティミシア、案外あんたのことかもしれないぞ?」

 はははははは、あははははははは!!

「なん、で……」

 こんなはずじゃなかったのに、と。けたたましく笑う男の背中を彼女は見ていた。

「なん、で?」

 その時、何かが変わった。

「ん?」

 変化を感じ取った男が振り返るその目の前をヒュン、と風を切って何かが通り過ぎた。
 そしてその瞬間に絶頂を迎えていた男の人生はあっさりと幕を閉じたのだ。
 何もかもが上手く行き過ぎて男は油断していた。
 魔女を手の内に納めたと高を括って居た。
 その魔女が、自分を殺すものとも知らずに。

 血は出ていなかった。
 ただ男の額には半分ほど埋まりこんだ灰色の羽があった。

「優しくない。全く優しくない。ならば愚かな者、お前たち! こうするしかない」

 掠れるような声で彼女は、アルティミシアはそう呟き続けた。
 そしてこれが魔女を傀儡とした男と世界から、魔女と人類への対立へと争いの構造が移り変わった時だった。
 その夜に、この屋敷に生きて動く者は一人も居なくなる。




 彷徨うように野を歩く。
 歩いた後を焼き尽くし、出会った人間は残酷に殺し、通り過ぎた村を凍てつかせる。
 何処に向かっているのかも分からなかったのに、なぜかそこにたどり着いていた。

 荒れ果てた大地、肌が痛むような乾いた潮風。
 遠くの灯台はとっくの昔に火を失ってただそこにあるだけだ。
 古ぼけた石の建物に蔦が這い、一面の荒野には枯れ果てた植物の残骸が横たわる。
 なぜ、こんな場所に着たのか彼女には分からなかった。
 それでもなぜかその場所から離れられなかった。

 誰かを待っている気がした。
 誰も待っていない気がした。
 どうして自分は何も思い出せないのだろう。
 アルティミシアと、そう呼ばれる前の自分は何と言う名前だったのだろうか。
 もう誰も、答えてくれない。

 全て彼女が殺してしまった。
 暖かく彼女に近付いてくる人間などもういないだろう。
 彼女を見れば誰もが敵意を向け殺そうとするかあるいは逃げ出すだろう。
 彼女はもう、世界が知った恐怖の魔女アルティミシアなのだから。

 彼女は思い巡らせる。
 あの死んだ男が言った言葉、Seed。
 自分が殺した男が言った言葉、Seed。

 Seed、Seed、Seed!!

 なぜこの言葉がこうも心をかき乱すのか。
 このあふれ出る苦しいほどの強い感情はなんなのか。
 わからないわからないわからない。
 判らないのに、強い感情を抱く。
 わからないが故に、強すぎてその感情は身を焦がす。
 そのあまりの痛みに――彼女はその感情を憎悪と勘違いした。

「全ては幻想」

 自分が人に抱いたモノも。
 人が自分に見たモノも。
 幻想に幻想を重ねて人間よ、そこに逃げ込めばいい。
 幻想を押し付けて恐怖の魔女アルティミシアを作り出したのは、間違いなく人間なのだから。

「何もかも、滅ぼしてくれる」

 誰かが幻想に抱く恐ろしげな衣装を身に纏い、陰気で悪意に満ちた城を作る。
 てらてらと赤く光る月を見上げ、彼女はその月に呼びかけた。
 雫となって落ちて来い、と。
 それは世界に混乱を広げる。
 そしてジャンクションマシーン・エルオーネ。
 そう呼ばれる機械を、彼女は新たな怒りと恐怖を撒き散らした末に手に入れていた。




 過去の魔女の力を辿り彼女は過去へ行く。
 見つけたのは魔女イデア。
 進入しようとする者はすべて打ち据えて、彼女はひたすらに過去で踊った。
 時間圧縮を目指して。

 判らないなら、すべて呑み干してしまえばいい。
 恐ろしいなら、すべて自分にしてしまえばいい。

 そうすれば怖くない。
 彼女は着々と過去を動かす。
 彼女の知らない歴史通りに。









 目覚めた彼女から遅れて目覚めた者たちが居た。
 スコール・レオンハートを初めとする伝説のSeed達五人だった。
 彼らは魔女記念館が襲撃され魔女が連れ去られてから、魔女を連れ去った一味が大胆にも電波ジャックを行なって魔女による支配を宣言した後にもう自分たちだけでは手に負えないと判断したガーデンによって目覚めさせられていた。

 眠りについていた彼らとしては魔女になにか異変があれば何よりも真っ先に目覚めさせて欲しかっただろう。
 だが今のことは今に生きる自分たちで解決する。
 過去の亡霊を呼び起こす事は今の自分たちの矜持にかけてもすることは出来ないと彼らの目覚めを遅らせた者たちの気持ちも判らないわけではなかった。
 彼らは既に死んでいるはずの人間であり、過去の亡霊だ。
 コールドスリープという他者の意思によってしか目覚めることの出来ない環境に自分たちを置いた事が既に自分たち以外の者に命も時間を任せていることになる。
 彼らだとて目覚めずに済むなら、多分その方が平穏でいい。
 彼等が目覚めるのは過去の亡霊を呼び起こさなければならないほど切羽詰った自体が起こった時でもあった。

 彼等が目覚めさせられた時、事態は既に収束の方向へと向かっていた。
 魔女を奪った魔女派は魔女自身の手によって壊滅し、魔女当人は導かれるようにあの約束の孤児院に居城を打ち立てていた。
 ジャンクションマシン・エルオーネがエスタより奪われ、それ以来魔女は魔物たちに己の城を守らせてその城に引き篭もっているらしい。
 人の恐怖は魔女により凶暴化させられた魔物たちと、魔女により引き起こされた月の涙による魔物の異常増殖のみとなっていた。

 目覚めた彼らはアルティミシアの城を遠くに眺め、魔女に挑み打ち倒されて細り弱った現在の白いSeedたちの先頭に立ち、人間の救助活動をはじめた。
 一つでもリノアの罪を少なくするために。
 愛を知った優しい魔女だった彼女が、例え全てを忘れていても痛める心が少しでも少ないように。

 魔女アルティミシアを倒すのは自分達ではない。
 それを誰よりも強く身に染みて知っている。
 約束した。

『もし私が悪い魔女になったら、スコールの手で殺してね』

 と。
 その約束を果たすのならいまのスコールが彼女の居城に赴くのが筋なのだろう。
 だがその約束はもう果たせない。
 今でもスコールは、彼の仲間たちは、人並みはずれて強い力を持っていた。
 仲間達とも絆も強いつもりだ。それでも、違うのだ。
 およそ百年にも近いコールドスリープの果てに、やはり彼らは全盛期の力を失っていた。

 できない事は過去の自分たちに任せる。
 彼らならやり遂げるだろう。自分たちも辿った道だ。不可能だったなら改めて自分たちがはせ参じよう。
 例え負けるのだとしても。
 時間圧縮が始まっても、その時間の中で融けずに残れる自信はあった。
 あれから。
 あの若き日に時間圧縮に遭遇した時よりも、自分たちは遙に互いの絆を高めている。
 疑う事無く互いを思える。

 Seedたちは人間世界の保護と救助に駆け抜けた。
 だがやがて、残った白いSeedたちにも対立が表れる。
 伝説のSeedを過去から揺り起こしたのに何も、魔女に対して何も手を打たないことをもどかしく思い魔女を倒すべきだと言う強硬派。
 それと、スコールたちも含め時が来るまで一人でも多くの人々を守ろうとするる現状維持派だ。
 二つの仲は決裂し、白のSeedの一部隊は、アルティミシアの城へ向かった。
 そして誰も帰らなかった。

「そして誰も居なくなった、か……」

 呟いたアーヴァインの言葉に、誰もがあのたどり着いたアルティミシアの城の前で打ち倒されていた白いSeed達の姿を思い描いた。
 あれは過去だった。だが未来だった。そして今、現在になったのだ。
 結局止めることができなかった。巡る時間に抗うには、人の時間は短すぎた。

 やがてアルティミシアの手で行なわれた時間圧縮。
 消滅すら含むあらゆる障害を乗り越えて、彼女を知らないSeed達は彼女の下に辿り着くだろう。
 これから伝説となる、額に傷を持つ男。
 スコールは執拗に彼らを時間の狭間に溶かし込もうとする時間圧縮の世界の中でそっと己の眉間を撫でた。

 いつも眉間に皺を寄せているから、治らないんだよ?

 かつて愛した女性にそういわれた眉間の傷も、今ではもう大分薄くなっていた。




 身を焦がす愛情を憎しみと勘違いしたまま、彼女は――魔女アルティミシアは過去から飛来したSeedたちと対峙する。
 本能にも近い、心のどこかで彼らに手を差し伸べながら。
 彼女は覚えていない。
 愛しい彼女の夫、スコールとの最後の約束。

『スコールならいいかな。スコール以外ならやだな。ね、スコール。もし、そうなった時は……』

 その時はスコールが私を殺してね、と。

 過去のスコールはそこまで言わせなかった。
 言わせたくなかった。
 それでもその願いは今巡り巡って現実になる。

 それは、まだ約束の意味を知らない過去によって果たされる。
 散り散りにもとの時代を目指す過去のスコールたち。
 スコールが目指すのは、約束の場所。
 そして、アルティミシアとなった彼女の心、その深層に刷り込まれた場所も、あの、約束の場所だった。

 奇しくも――いや。当たり前の如く二人は同じ時代に辿り着いた。
 そこで過去のイデアにアルティミシアの魔力の継承は行われ、スコールは自らの場所に帰ってゆく。
 彷徨いながらもリノアに誘われて、本当の、約束の場所へ。

 そして魔力をイデアに継承したアルティミシアは過去も未来も無く、残された僅かな命の欠片で時間の狭間を漂う。
 彼女には、自らの帰るべき時間、場所が思いつかなかった。

 辿り着いた場所では拒絶され、本当の約束の場所では、過去のリノアとスコールが出会っている。
 それをアルティミシアが知っていたわけではないが、自らの場所を強く思い描けない彼女に、帰る場所はなかった。
 傷つき、命を保っていた魔力をも失った無力な体。
 終焉の時を待って、瞼を閉じる。
 その時。

「迎えに来た、リノア」

 声が聞こえた。
 自分の名前じゃない自分の名前を。
 知らなかったはずなのに確信できた。この声で呼ばれたら。

 現れたのは壮年となったスコールだった。
 時の狭間で。
 強く、リノアを思って。
 彼は漂うリノアの元までたどり着いたのだ。
 彼女には、彼が誰だかわからない。
 なぜ、迎えにきてくれるのかも。
 それでも不思議と涙が溢れる。
 恐る恐る手を伸ばすと、優しく掴まれ、抱き寄せられた。

 ただそれだけで心には例えようもない柔らかな安心感に満たされた。
 あの、パッキング装置から目覚めた時に自分の手を掴んだ男のものとは比べ物にならない。
 全てが包み込まれる心地よさに彼女の瞳からはとめどなく涙がこぼれ続けた。

「あ〜、やっと見つけたと思ったらこれだよ」

 雰囲気をぶち壊してアーヴァインが愚痴った。

「黙れアーヴィン。久々の二人っきりだ。邪魔をするな」

「酷い言い草だな〜」
「そやでハンチョ。ハンチョがそうなら、うちもアーヴィンとギューする!!」

 突如現れてアーヴァインに抱きつくセルフィー。
 年をとってもその可愛らしさは失われず嫌味となることもなかった。

「それにしてもスコール、成長の方向を間違ったかしら? 素直じゃないわね」
「素直じゃないのは昔からだろ」
「それもそうね」

 年を経ることでなお凄みを増した美貌でキスティスが優しく微笑み、ゼルは両手を頭の後ろで組んで笑う。
 まるで昔のように。
 時間で威厳を身にまとったスコールの腕に抱かれた彼女は困ったように周囲を見回す。

「久しぶりね、リノア」
「リノ、ア?」
「そう、あんたの名前だ、リノア。戦いは終わった。苦しい事はもう無い。俺たちといっしょ帰ろう」
「帰る……」
「そうだぜ? 久しぶりに六人集ったんだ。話す事ならいっぱいあるだろ!!」
「でも、私はあなた達を知らない」
「それは問題じゃないよリノア。君が知らなくても僕たちが知っているからね」
「帰る……一緒に」

 ぎゅっと、彼女はスコールを抱きしめた。
 対抗するようにセルフィーもアーヴァインを締め上げる。
 現実世界には、曾孫もヒ曾孫も既にいるゼルだが、ここでのカップリング比率の高さに居心地悪げに身を捩る。

「あらなに? ゼル。なんなら私と腕でも組みましょうか?」
「じょ、じょーだんじゃないぜ!! そんな事したらあんたの旦那に殺される!」

 大げさに飛びのいて見せるゼル。

「冗談よ、ゼル。まったく、融通が利かないんだから」

 ゼルの足を軽く踏んづけてキスティスは彼女に向き直る。

「さ、行きましょうリノア。もう家は用意してあるのよ」
「……うん」

 小さく頷くと、彼女は幸せそうに目を閉じた。
 彼女を真ん中に取り囲み、彼らは彼女の最後の鼓動と共に時の狭間から消えていった。
 それきり。
 現代に舞い戻った伝説のSeed達の足取りを知るものは、誰も居ない。




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もし異世界旅行をしなかったらどうなっていたか。
という考えから生まれた一つのストーリー。
下の奴の原本がこれです。これを元に上の奴が出来上がりました。 このままサイト上に上げようと思ったのを体裁整えてストーリーにしていたらとんでもなく時間が掛かったものです。
もともとはクロスオーバーの中で『もし異世界旅行をしなかったらどうなっていたか』というIFを書こうと思っていい他のですが、出来上がってみたら全くクロスオーバーは関わらないので一応こちらに。




 スコールたち。
 リノアと結婚し、子供を作り、けれど五十台の半ばにしてリノア、とうとうスコールの事がわからなくなる。
 リノア、魔女の力を持ったままパッキング処置。
 魔女の力による影響か、極端に老化の遅かったリノアは、その時まだ三十になるかならないかの容姿だった。

 リノアの願いをかなえるために、スコールもその後数年かけてガーデン組織の委譲をし、冷凍睡眠の処置を受ける。
 スコールの仲間達も共に。
 何年かに一度目覚めて、現在の情報を取り入れる事を繰り返し、およそ百年。
 魔女派によりリノア、パッキング処置をとかれる。
 けれどリノア、百年のパッキング処置の間にも魔女の力による記憶の侵食は進み、スコールの事はもちろん、自分の名前すらも覚えてはおらず。
 月を見上げ、自らに名を贈る。

 アルティミシア、と。

 スコールたち、遅れて目覚めるが、その時既にリノアは連れ去られた後。
 自分の名前は愚か、何ひとつの思い出すらもたないリノア。
 覚えていないのに、自分の中には何かある。
 つかめそうでつかめない、握り締めても、見てみようと掌を開いた瞬間に零れ落ちてゆくもどかしさ。
 揺らぐ感情の中で、魔女派による担ぎ上げをうけ、世間に姿をさらす。
 しばらく傀儡となるが、反魔女派による排除の動き、そしてSeedの活動を知る。

 Seed。

 聞いた事があるような、けど判らない。
 魔女派による担ぎ上げで、悪の魔女となってしまったリノアを、Seedは排除しようとする。
 リノアの願いを受けた、過去の伝説のSeedたちも。
 担ぎ上げる人間と、憎み排除しようとする人の間に挟まれて、リノア、憎しみを抱く。
 人か、あるいは理不尽に。
 魔女派の懐を出て、リノア、世界に恐怖をばら撒く。

 魔力を使い、魔物を統べ、GFを捕らえ。
 城を作り、拠点とする。その城、無意識のうちに孤児院に縛り付けられながら。
 そして、知る。
 過去、アルティミシアと言う未来の魔女を、額に傷を持つ今伝説のSeedが倒した事を。
 自らに付けた名と、過去にある伝説のSeedと。

 彼女は思い巡らせる。
 わからないわからないわからない。
 判らないのに、強い感情を抱く。
 わからないが故に、強すぎて身を焦がすその感情を、憎悪と勘違いした彼女。
 そこから過去の魔女の力を降り、ジャンクションマシーン・エルオーネでイデアにジャンクションし、乗っ取りをかける。
 進入しようとする者はすべて打ち据えて、彼女はひたすらに過去で踊った。
 時間圧縮を目指して。

 判らないなら、すべてのみ干してしまえばいい。
 恐ろしいなら、すべて自分にしてしまえばいい。

 そうすれば怖くない。
 着々と過去を動かす彼女。
 彼女の知らない歴史通りに。
 対して目覚めた伝説のSeed達は、魔女への対立を止める。
 やがて過去の自分達が彼女を倒す事を知っていたからだ。

 そして、現在白いSeedたちに混じり、人間の救助活動をはじめる。
 魔女アルティミシアを倒すのは自分達ではない。
 それを誰よりも強く身に染みて知っている。
 今時分たちは、過去よりも確かに力はあるだろう。
 仲間達とも絆も強いつもりだ。それでも、違うのだ。

 人間世界の保護と救助に駆けるSeedたち。
 やがて白いSeedたちにも対立が表れる。
 魔女を倒すべきだと言う強硬派、それと、スコールたちも含める現状維持派。
 二つの仲は決裂し、白のSeedの一部隊は、アルティミシアの城へ向かった。
 そして誰も帰らなかった。

 やがて行われた時間圧縮。
 あらゆる障害を乗り越えて、彼女の下に辿り着く、彼女を知らないSeedたち。
 これから伝説となる、額に傷を持つ男。
 身を焦がす愛情を憎しみと勘違いしたまま、彼女は過去から飛来したSeedたちと対峙する。
 本能にも近い、心のどこかでスコールたちに手を差し伸べながら。
 彼女は覚えていない。
 愛しい彼女の夫、スコールとの最後の約束。

『もし私が悪い魔女になったら、スコールの手で殺してね』
 それは、まだ約束を知らない過去によって果たされた。
 散り散りにもとの時代を目指すスコールたち。
 スコールが目指すのは、約束の場所。
 そして、アルティミシアとなった彼女の心、その深層に刷り込まれた場所も、あの、約束の場所。

 奇しくも同じ時代に辿り着く二人。
 そこで過去のイデアに魔力の継承は行われ、スコールは自らの場所に帰ってゆく。
 リノアに誘われて、本当の、約束の場所へ。
 魔力をイデアに継承したアルティミシア。
 過去も未来も無く、残された僅かな命の欠片で時間の狭間を漂う。
 彼女には、自らの帰るべき時間、場所が思いつかなかった。

 辿り着いた場所では拒絶され、本当の約束の場所では、過去のリノアとスコールが出会っている。
 それをアルティミシアが知っていたわけではないが、自らの場所を強く思い描けない彼女に、帰る場所はなかった。
 無力な体。
 終焉の時を待って、瞼を閉じる。
 その時。

「迎えに来た、リノア」

 壮年となったスコールが、やってきた。
 時の狭間まで。
 強く、リノアを思って。
 彼女には、彼が誰だかわからない。
 なぜ、迎えにきてくれるのかも。
 それでも不思議と涙が溢れる。
 恐る恐る手を伸ばすと、優しく掴まれ、抱き寄せられた。

「あ〜、やっと見つけたと思ったらこれだよ」

 雰囲気をぶち壊してアーヴァインが愚痴った。

「黙れアーヴィン。久々の二人っきりだ。邪魔をするな」

「酷い言い草だな〜」
「そやでハンチョ。ハンチョがそうなら、うちもアーヴィンとギューする!!」

 突如現れてアーヴァインに抱きつくセルフィー。

「それにしてもスコール、成長の方向を間違ったかしら? 素直じゃないわね」
「素直じゃないのは昔からだろ」
「それもそうね」

 キスティスが優しく微笑み、ゼルは両手を頭の後ろで組んで笑う。
 スコールに抱かれた彼女。
 困ったように周囲を見回す。

「久しぶりね、リノア」
「リノ、ア?」
「そう、あんたの名前だ、リノア。戦いは終わった。苦しい事はもう無い。俺たちといっしょ帰ろう」
「帰る……」
「そうだぜ? 久しぶりに六人集ったんだ。話す事ならいっぱいあるだろ!!」
「でも、私はあなた達を知らない」
「それは問題じゃないよリノア。君が知らなくても僕たちが知っているからね」
「帰る……一緒に」

 ぎゅっと、彼女はスコールを抱きしめた。
 対抗するようにセルフィーもアーヴァインを締め上げる。
 現実世界には、曾孫もヒ曾孫も既にいるゼルだが、ここでのカップリング比率の高さに居心地悪げに身を捩る。

「あらなに? ゼル。なんなら私と腕でも組みましょうか?」
「じょ、じょーだんじゃないぜ!! そんな事したらあんたの旦那に殺される!」

 大げさに飛びのいて見せるゼル。

「冗談よ、ゼル。まったく、融通が利かないんだから」

 ゼルの足を軽く踏んづけてキスティスは彼女に向き直る。

「さ、行きましょうリノア。もう家は用意してあるのよ」
「……うん」

 小さく頷くと、彼女は幸せそうに目を閉じた。
 彼女を真ん中に取り囲み、彼らは彼女の最後の鼓動と共に時の狭間から消えていった。










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