アルティミシア




 スコールが死んだ。
 不慮の事故だった。
 誰も責められない。
 誰も悪くない。
 けどスコールは死んだ。
 もう帰って来ない。
 もう、抱きしめてくれない――。

 もう好きだって、すっごく恥しがりながら言ってくれたりしない。
 寂しいって言ったらハグもしてくれない。
 そっと触れ合ってぬくもりを分け合う事もできない。

 もう、私を見てくれない。

 スコールはどうして死んだのか分らないくらい綺麗に死んでいた。
 スコールのお葬式にはたくさんの人が参列してくれた。
 いっぱい、いっぱい人が来たよ。
 私のパパも、ラグナさんも、エルオーネさんも来ていた。
 スコール、逝くの早すぎるよ。

 フィッシャーマンズ・ホライズンの駅長さんも奥さんも、シュミ族のお付の人も、ムンバまで来ていたんだよ?
 ゾーンとワッツも来たし、釣りをしているお爺さんも来てくれたんだよ。
 サイファー寂しそうだった。
 シドさんが拳を握り締めてずっと何かを堪えていた。
 イデアさんはスコールの事辛そうにずっと見ていた。

 スコール……スコールぅ……。
 こんなにたくさんの人に慕われて、こんなにたくさんの人が悲しんでくれるくらいスコールは魅力的な人だったんだよ?
 なのにスコール、あんまり自分の事わかってなかったよね。
 それがおかしくて、わたしセルフィやキスティスといっぱい話したんだよ? スコールの事。

 どうして――どうして……スコール、先に行っちゃったの?
 早すぎるよ……。
 私と、キスティスとセルフィと、ゼルとアーヴァインとでスコールの棺を運んだんだよ。
 晴れた日は、ピクニックいこうねって言っていたのに、ピクニックにいけないのにそらはとっても晴れていたの。
 でも、雨降ってたらスコール、濡れちゃうから、これで、よかったんだよね。

 スコール……。
 スコールがいないと、とっても心が冷たいの。
 寂しくて、怖くて、どうしようもないの。
 わたし、寂しいよ……! スコール。














 キスティスやセルフィが居た頃は、まだ何とか笑っていられた。
 けど、みんな人間なんだよ。
 私は魔女の力を誰かに継承しない限り、死ねない。
 イデアさんを見た時にも思ったけど、年も取れないんだね。
 他の人に力を継承しないって、魔女の悲劇を私でとめるって決意した私を、みんなとても心残りのある目で見ながら逝っちゃった。

 イデアさんが昔魔女との闘いに行くスコールに言った言葉がある。

『行きなさい、スコール。それが誰かの悲劇の幕開けだったとしても』

 戦う、ってことは、魔女を倒すってことは、その力を誰かが継承するって言う事で、やっぱりそれって悲劇なんだと思う。
 もちろん騎士ゼファーを従えた魔女みたいに、いい魔女で幸せになれた魔女も居たんだろうけど、やっぱりほとんどは悲劇なんだと思う。
 悪い魔女になっちゃったり、魔女である事に負い目を感じてひっそりと人から隠れるように生きたり。

 スコール、死ぬの早すぎだよ。
 歴史に名前を残すような事はしなかったけど、私みたいにスコールや仲間達にいっぱい愛された魔女はやっぱり少ないんだと思う。
 じゃなきゃ継承を悲劇なんて、言わないもの。

 みんな居なくなったら、私ガーデンにいる理由がなくなっちゃった。
 だから、イデアさんが居た孤児院に、スコールとの約束の場所に行ったんだよ。
 蔦が這う廃墟をちょっと整理して、そこに住みはじめたの。

 約束した花畑が何度も咲いて、枯れて、また咲いて、繰り返したんだよ。
 幾つもの季節を私はそこに居たわ。
 スコールを思いながら。
 胸に手を当てれば指輪が触れて、私に思い出させてくれる。
 スコールの事を。

 指輪、返しそびれちゃったね。
 ライオン、グリーヴァ。
 カッコイイよね。
 わたし、ライオンみたいになりたいってスコールに言ったよね。
 誇り高い生き物。

 なれるかな、グリーヴァみたいに。

 スコールは死んだ。
 スコールは来ない。
 もうハグしてくれない。
 キスしてくれない。
 好きだよって言ってくれない。
 触れ合って、体温を分け合う事もできない。

 分っている。
 分っていた。
 それでも、私は約束の場所を離れられなかった。
 スコールを待つことを、止められなかった。

 毎日、毎日、寝ても覚めても。
 目なんて覚めなければいいと思った。
 スコールは来ない。
 私も、永遠の眠りに付いてしまいたかった。

 いっかい起きる度に、一時間ぼーっとするたびに、一回食事をするたびに、スコールと過ごした時間が遠くなるの。
 スコールの事を思い出して喋る人たちも居なくて、だんだんスコールが薄くなっていくの。

 ねえ、スコールは私より何センチ身長が高かったのかな。
 アイスブルーの瞳、って言葉は分るの。
 けど、言葉じゃない本当の目の色はどんな色をしていたかな。
 額の傷は、何処まで治っていた?
 どっち向きの傷だった?
 抱きしめたときの感触は?
 キスしてくれたときの唇は?
 照れたときはどんな顔をしていたの?
 私に好きだって、言ってくれたときの顔は――声は、眼差しは、どんなだったかな。

 思い――だせないの。
 思い出せないの!!

 わからないよ。
 スコールが遠くなっていくんだよ。

 魔女の力を継承しない。
 そのためには生きなきゃならない。
 けど、もう目覚めたくなんて無かった。




















 重たい瞼を開いた。
 もうなんだかずっと長い間眠っていたような気がした。
 体がとても重く感じる。

 ここは、何処なんだろうか。
 廃屋のような石の家。
 葉の落ちた蔦が壁面を覆っていた。
 庭に出てみれば、一面の荒野が広がっている。
 一つの花も、咲いていなかった。
 春が来ても花は咲かないだろう。
 廃屋を覆う蔦同様、大地は枯れ果てているようだった。

 そもそも私は誰なのだろう。
 私は魔女。
 それは分る。

 胸元に触れれば何かが触った。
 持ち上げてみれば、それは鎖に通された指輪だった。
 私の指にはサイズがおおきすぎる。
 その指輪を見た時、私の心は掻き立てられた。

 指輪を。
 この指輪を、誰かに――誰に?
 ライオン。
 強い、生き物。
 グリーヴァ……。

 どうして私は、この指輪の生き物の名前を知っているんだろう。

 なにか、誰かと約束をした気もする。
 とても大切な約束だ。
 そんな気がする。

 何処かで会おうと、約束した。
 大切な――人。

 だが、私は何処で約束をしたのだろう。
 思い出せない。
 何処が、約束の場所だったのだろう。

 思い出せない。
 とても大切な約束なのに!!

 探さなきゃ。
 私、約束の場所を見つけなきゃ。
 会いたい。
 会いたい、会いたい!
 名前も分らないのに、何処で会うのかも忘れてしまったのに、思いだけが募ってゆく。
 私の胸を締め付ける。

 私は約束の場所を探して廃屋を、石の家を飛び出した。




 幾つもの山を越えた。
 川も越えた。
 砂漠にもいった。
 草原を越えた。

 ティンバーやバラム、ガルバディアと言う街にも行った。
 聞くたびに懐かしい響きのように感じる。
 けれど私にはそこが分らなかった。
 一つ確信が持てることは、そこが約束した場所ではないという事だけ。
 約束の地でなければ、私は会えない。

 私は約束の地を求めて各地を彷徨っていた。

 そんな折だった。
 一つの都市を訪れたとき、私は人に囲まれた。
 敵意を持つ眼差しで私を見てくる人々。

 怖い。
 助けて。
 怖いよ――!
 呼べば、助けてくれるって、自分の側を離れるなって、守るって、言ってくれたのに!
 名前が思い出せない……。

 ただ周囲を取り囲んでいた人間達は、だんだんと兵士らしき人たちに入れ替わっていって、でも聞こえてくる言葉は変わらなかった。

『魔女だ』
『魔女が現れた』
『アルティミシアか?』
『そうに違いない』
『伝説のSeedの時代から魔女は現れていない』

 魔女は私のこと。
 私の名前はアルティミシア?
 伝説のSeed?
 分らない。
 こわいよ。
 もっと分るように言ってよっ!

『彼等が倒したのは、未来の魔女らしいからな』

 しー……ど?

『おい、Seedを呼べ!』
『Seedは魔女を倒すために居るんだ。いま呼ばなくて何時呼ぶんだよ』

 Seedは、魔女を、倒す?

『魔女を倒せば伝説のSeedだぜ?』

 ひゅう、と誰かが口笛を吹いた。




 私は怖くなって逃げ出した。




 初めに目がさめた石の家に引きこもった。
 理由は分らないけど、とても安心できる場所だった。
 ここ以外に行ってはいけない。
 ここで待たなきゃならない。
 そんな気がした。
 違う。
 きっと違う。
 だってここには花が無い。
 だけど世界中探しても分らなかったんだよ。
 私はここにいるしかなかった。

 けど、世界中で私が探されているのが分る。
 人の気配が近づいてくる。
 世界に恐怖がわきあがる。

 どうして?
 私は何もしてないよ。
 ただ約束の場所を探しているだけなのに。
 花が咲いていたような気がする。
 そこで約束した誰かと会いたいだけなのに。

 誰にも危害なんて加えてないよ。
 どうしてそんなに追い立てるの?
 魔女はそんなにいけないの?
 魔女でもいいって言ってくれたのに。

 声が、聞こえる。
 Seedは魔女を倒す。
 私を倒しにやってくる。

 嫌だ。
 こないで。
 静かにしておいて。
 放っておいてよ!

 私はただ探しているだけなんだから。
 誰も傷つけようと何てしていないんだから!
 探さないで、追わないで、武器を向けないで!!
 私は恐怖の魔女じゃない!!

 優しくない。
 優しくないよ。
 Seedって言葉はとても優しく胸に響くのに。
 それは幻想だとでも言うの?
 だって、現実じゃSeedが私を殺しに来る!!

 嫌だ。
 死にたくないよ。
 だって、私約束を果たしていない。
 約束――約束って、何だっけ?
 分らない。
 けど、果たさないで死にたくない!!

 やめて。
 やめて。
 やめて、やめて!
 やめてやめて、やめてよ!!




 SEEDなんか大っ嫌い!!




 そんなに私を恐れるのなら、お前たちの望むように恐怖の魔女になってやろう。
 私は魔女・アルティミシア。
 お前たちがそう呼んだ。
 私を恐怖にした。
 私はアルティミシア。
 怒りの魔女。

 お前たちが望むように恐ろしげな衣装を身にまとい、残酷な儀式で善良な人間を呪い殺していこう。
 幻想に幻想を重ねて私に恐怖を重ねて行け。
 私はそのとおりに踊ってやろう。
 恐怖をもたらす魔女として、未来永劫、舞い続けよう。

 お前たちが望んだのだ。
 幻想を。
 おまえたちと私。
 ともに作り出す究極のファンタジーだ。
 その中では生も死も甘美な夢。
 そうだろう?
 お前達が望んだのだから。

 Seed、Seed、Seed!!
 忌々しい雑草が、根絶やしにしてくれる!
 私を脅かす物ども。

 倒せども倒せども本当に雑草のように沸いて出る忌々しいSeed。
 私を、アルティミシアを殺せば伝説のSeedになれる?

 愚か。
 愚か!!

 そちらがその気なら、私も全力で滅ぼしてやろう!
 過去も未来も!
 アルティミシアは伝説のSeedに倒される?
 過去から来る額に傷をもつ伝説のSeed?
 ならば、過去すら変えてやろう。
 Seedのすべてを滅ぼせば、そもそも関係の無い話だ。

 Seedの母体たるガーデンも、全て、滅ぼしてくれる!!
 失敗したところで構うものか。

 私は魔女だ。
 恐怖の魔女だ。
 怒りの魔女だ。
 人など全て滅びてしまえ。
 優しくない現実など無くなってしまえ。

 全て、時間圧縮で飲み込んでしまえば事足りる。

 ――約束の場所も、約束した人も。




 






「私はアルティミシア。全ての時間を圧縮し、全ての存在を否定しましょう」

 疲れた。
 私は疲れていた。
 ことごとく私の邪魔をするSeed。
 過去、伝説となった男。
 その男は側に魔女を連れて、恐れるでもなく愛していた。

 なぜ、こうも違うのか。

 Seed。
 Seed、Seed!

 ああ、なるほど。
 私はここで殺されるのか。
 ここで、アルティミシアとして。
 そして奴が伝説になる。

 これが運命か。
 過去を変えようとして、結局は過去をなぞるだけ。

 そうか。
 私は死ぬのか。
 だが、何故だろうか。
 こうも心が静まるのは。
 この運命に抗いたくて、過去にまでさかのぼり、時間圧縮までもしたというのに。
 なぜ私は安堵を感じているのだろう。

 疲れすぎた錯覚だ。
 そう違いない。
 Seedたちとの戦いは長かった。
 疲れた。

 おそらく私は負けるだろう。
 どれほど足掻いて見せたところで、これが定められた事ならば、伝説のSeedは私を倒す。

 ああ、ほら。
 伝説のSeedのガンブレードが――私の胸を貫いた。




 崩れてゆく時間圧縮の世界。
 だが私はまだ死ねない。
 魔女の力を継承していない。

 死にかけた体が酷く痛む。
 ああ、早く、新しい器を見つけて、死んでしまいたい。

 崩壊し、交じり合う時間と世界の中で声が聞こえる。
 魔女となった娘の声が。

『スコール! 一緒に帰ろうよ! どこにいるの!?』

 スコール……。
 スコール!!

 ああ、そうだ。
 思い出した。




 スコール。




 会いたい。
 会いたいよ……。
 私、ずっと待っていたんだよ? 約束の場所で。

 ねえ、褒めてよスコール。
 わたし、世界中探したんだよ?
 見つからなかったけどさ。
 でもね、花が咲いてないのに、記憶、忘れちゃっていたのに、ちゃんとここに、約束の場所に居たんだよ?
 えらいでしょ?

 だから、ちゃんと会えたでしょ。

 ありがとう、スコール。
 約束を果たしてくれて。
 スコールだったら、いいな。
 スコール以外だったら、嫌だな。

 スコール、約束。守ってくれて、ありがとう。
 私も、スコールに指輪、返さなきゃ。
 ずっとあずかっていたけど、私、もう持っていられないし。

 会いたいよ、スコール。
 会いたいよ。




 そうしてスコールの事を思っていたら、急に視界が明るくなった。
 そこには、スコールとイデアさんが居た。
 瑞々しい蔦の這う孤児院。
 きっと、過去ね。

 私に剣を向けてくるスコール。
 とても会いたかった人。
 迷子になったの?
 ばかだね。こんなところに居るなんて。
 ここは貴方の時間じゃないよ。

 私はまだ敵なんだね。
 寂しいけど、それでいいんだよね。
 私は最後まで敵で居なきゃならない。

 気付いているん……だろうなぁ。
 私がアルティミシアだって。
 けど、私が記憶、取り戻した事、知らなくてもいいよね。
 だってスコールが倒したのはリノアじゃなくて恐怖と怒りの魔女アルティミシアだもん。

 力が出て行きたがっている。
 ここで、イデアさんに継承されるんだ。
 でもこれで、未来に魔女は居なくなるよね?
 私の役目も、もうおしまい。
 後はスコールたちに任せるよ。
 ああ、でも

「まだ……消えるわけには……いかぬ」

 迷子のスコールを、リノアのところに連れて行かなきゃ。
 イデアさんに魔女の力が継承されて、ゾンビみたいだった身体が本当の骸になる。
 力が抜ける。
 握っていた指輪が地面に落ちた。
 拾ってくれるの、スコールだといいな。
 だったらわたし、約束果たせた事になるじゃない?

 スコール。
 ちゃんとリノアのところに、帰るんだよ?

 リノアも、ちゃんとスコールの事、見つけるんだよ?
 私みたいに。
 たいしたこと出来ないけど、少しだけ手伝ってあげるから。

 私たちには――羽が有る。




 ほら、大丈夫。
 ちゃんとあえるよ。







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